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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第3章 好きだから
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第29話〜知りたい。

 リュウスケにどうしても二人っきりで会いたい、と言われ、サヨは嬉しいけれど戸惑っていた。

 少し畏まったような声で、話があるから、と言った彼。余裕のない様子が電話越しにも伝わってきて、サヨは不安に駆られていた。


 「急に呼び出してごめん。迷惑だった?」

「そんなことないよ」

 いつものように微笑み合って言葉を交わすが、サヨはどこか違和感を感じていた。

 駅で待ち合わせ、ショッピングモール内のファストフード店に向かって歩いている間中、リュウスケは一言も発しなかった。

 彼の背中には緊張感が漂っている。背後からそれを見詰めることしか出来ないサヨは、不安がどんどん膨らんでいく。


 店に入り、窓際の小さなテーブルに向かいあって席を取ると、リュウスケはサヨに声をかけた。

「来てくれてありがとう」

 いつものやわらかな微笑み。だが、サヨはいつもと何かが違うと感じている。膨らむ不安にいたたまれなくなったサヨは、思わず口を開いてしまった。

「どうしたの?」

 リュウスケに真剣な眼差しを向けるサヨ。彼女の表情を見て、リュウスケの顔から微笑みが消えた。

 サヨから少し目線を逸らして、リュウスケは暫く考え込むような表情をしていた。やがて思い切ったようにサヨに向き直り、言った。

「大事な話があるんだ」


 何だろう?


サヨの不安は増幅されるばかりだ。

「まだ先でもいいかな、って思ってたけど、サヨちゃんにちゃんと話しておかなきゃ、ってね」

 リュウスケの口ぶりから、言いにくい内容なんだとサヨは感じる。

 だけど、彼に隠し事なんかして欲しくない。

「何を聞いても驚かないから、話して、ね?」

 サヨは胸の内を押し殺して、精一杯の笑顔をリュウスケに向けた。


 リュウスケは切り出す。

「ウチの『家』のことなんだけど」

 そう言えば、あの時アキラ君がそんなこと言ってたような、とサヨは思いを巡らす。

「うん、どうしたの?」

 内心の不安をリュウスケに悟られないように、笑顔を浮かべたまま、サヨは先を促す。

「橘グループって知ってるよね?」

「うん」

 世界的な企業の名前を耳にして、サヨは少し驚いた表情を見せる。

 だが、次に発せられたリュウスケの言葉は、サヨの表情をさらに驚愕のものに変えた。

「ウチは橘家の親戚なんだ」

 サヨはリュウスケを見詰めたまま、何も言えなくなってしまった。

 「あまり口外はしないように、とは言われてるんだけどさ」

 リュウスケは真剣な顔でサヨの瞳を見つめる。

「サヨちゃんには、ちゃんと話しておきたかったから」

 リュウスケは少し笑った。

 

 その後リュウスケは、話の内容をわかりやすく説明していった。

 彼の母親が、橘の娘だということ。

 結婚を認められず、父の故郷の田舎町に、駆け落ち同然にやってきたこと。

 周りの迷惑を考えて、母が自分の出自を広言していないこと。

など。

 

 静かなリュウスケの話し振りに、サヨの気持ちも落ち着いて来る。サヨの表情が和らいできたのを見たリュウスケは、ホッと小さくため息をつき、もう一つの事実を話す。

「僕の母さんとアキラのお母さん、姉妹なんだ」

「え?」

 虚をつかれたような顔をしているサヨ。

「つまり、僕らは橘家繋がりの、母方の従兄弟なんだ」

 サヨは驚きつつも、二人の絆の深さの理由がわかったような気がして嬉しかった。


 でも、どうして?

 

そんな大切なこと、私に話してくれても良かったの? その疑問をサヨはリュウスケに投げかける。

「どうして私にちゃんと話しておきたい、って思ってくれたの?」


 リュウスケは少し恥ずかしそうな表情をして俯いていたが、あの「笑顔」をサヨに向ける。

「サヨちゃんに隠し事はしたくないから」

 サヨは大好きなリュウスケの「笑顔」にドギマギしながらも、彼の表情を見つめ続ける。

「それとね、まだちゃんと言ってないことに気づいたんだ」

 再び真剣な表情に戻ったリュウスケに、サヨは不思議な重苦しさを感じながら次の言葉を待った。


 「サヨちゃんが、好きだ」


 サヨが一番知りたかったリュウスケの気持ち。

 彼が言葉にしてくれたことで、サヨの不安は消し飛んで、嬉しさが溢れ出し、サヨの頬を輝く涙が伝う。

 突然涙を見せたサヨにリュウスケは驚くが、彼女の両手を自分の両手で包み込み、慈しむような表情を彼女に向ける。

「二人の間に隠し事は無しだよ? わかった?」

 わざとおどけたような口調は、自分を労るものだと感じる。リュウスケのその優しさに、サヨはますます幸せな気持ちに包まれた。


 あなたをもっと知りたい。

 私をもっと知って欲しい。


 だから、私も。


 「私もリュウスケ君が、好き」


 募る想いを言葉に出来れば、何も不安に思うことはなくなった。


 これからゆっくり知り合っていけばいい。

 ゆっくり「好き」を育てていけばいい。


綺麗な微笑みを浮かべて、二人はずっと見つめ合っていた。


9月23日 今後のストーリーの関係上、「三友」→「橘」に変更しました。


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