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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第3章 好きだから
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第25話〜「坊ちゃん」の誤算。

 自分でも意外だった。

相手の繰り出す攻撃が全く自分に当たらないことに、リュウスケは感心している。

 小学生の頃から中学を卒業するまで習い続けた剣道が、自分の知らない間に、反射神経と動体視力を研ぎ澄ましてくれたらしい。

 このまま躱し続けていられるなら、自分が手を出すことなく、相手が疲れるのを待つ作戦もアリか?と、考える余裕もリュウスケには生まれ始めている。


 何やってんだっ!


「坊ちゃん」はイライラを露にしつつ、コトの成り行きを少し離れた物陰から見守っている。それもそのはず、彼の目算は大きく狂い始めているのだ。

 邪魔な男がボコボコにされて、哀願の表情を浮かべ許しを乞うた時に、勝ち誇ったように颯爽とヤツの前に登場するのが彼のシナリオだったからだ。

 使えない5人の男達は、疲れて足がもつれ始めている。思い通りにいかない現況に、「坊ちゃん」は、親指の爪を噛み始める。イライラが募る時の彼の癖だ。


 お前は絶対僕の前にひれ伏すことになるんだ! ウチの「力」を使ってでも、絶対屈服させてやる!


 一人納得して小さく黒い微笑みを浮かべていると、突然背後から肩を叩かれた。

 「ハローぅ?」

 思わず振り返ると、イヤな笑いを顔に貼付けたチャラそうな男が、自分の顔を覗き込んできたではないか。

 だが視線が交わるや否や、その男の表情が憤怒の色に変わった。

「お前さ、俺の『ダチ』にナニしてくれてんの?」


「ぼ、僕は何があったのかここで見てただけ、だけど?」

あまりの強い彼の表情に気圧され気味だが、まあまあうまい言い訳が出来たことに気を良くして、「坊ちゃん」は反撃に出た。

「だいたい君は誰だ! 失敬な!」

その男は再びニヤリと笑みを浮かべて低い声で言った。

「知らない、とは言わせねぇよ? 高島秀一サン?」

もちろんコイツは知ってる。排除対象の男にいつもくっついているヤツだ。「無害」と判断して、無視することにしたのだが……

 アキラの声と冷たい笑い顔に悪寒を感じて、秀一はゾクッと身震いをしてしまった。


 「お前さ、ずいぶん『ダチ』の周りを嗅ぎ回ってたらしいな。『彼女』のことも含めてさ」

「何を証拠にそんなこと言うんだい?」

そう、証拠なんて何もない。なるべく平然を装って秀一は答える。

「証拠ねぇ… あり過ぎるくらいなんだけど?」

冷たく言い放つアキラの言葉に驚愕の表情を浮かべる秀一。


 何だって?


ありえない! 完璧な僕が何か失敗したというのか?

 心底びっくりした様子の秀一を見て、アキラは意地悪な笑みを浮かべて言葉を繋ぐ。

「リュウスケは昔から人の視線に敏感でさ」

 それが何なんだ、とばかりに、秀一は顎をしゃくって次を促す。

「最近イヤな視線が自分に注がれてるのに気づいて様子がおかしくてな、俺が調べ始めたワケ」

 確かに強い憎悪をこめてヤツを睨みつけていたかもしれない。いつも冷静な僕らしからぬ失敗だと、秀一は心の中で舌打ちする。

「俺のところにも話しにきた馬鹿なヤツがいてさ、ちょっと脅してやったらお前の名前を白状したんだよ」


 まさか… そんな…… !


「その男と僕と何の関係が?」

 ここで感情を露にしたら負けだ。秀一はさらに冷静を装って答える。

「もう無駄だよ? 何を言っても」

 アキラは勝ち誇ったように笑う。

「そいつが何もかもしゃべってくれたからね。ちなみに録音済みだから」

 さらに続くアキラの一言が、秀一のプライドを傷つけた。

「情報収集には、もっと賢い人間を使わないとダメだよ。俺が面白くないから」


 許せない


 何もかも自分より先回りして言葉を発する男。

 自分より上をいく存在は絶対に認められない!

 秀一は切り札の言葉を使うことに決めた。その「力」の前には、誰もが沈黙せざるを得ないから。

 「君は誰に向かって口をきいているかわかっているのかい?」

 絶対的な自信を顔に宿して、秀一は言い放つ。

 だが、アキラはこともなげに言葉を返す。

「1年7組、高島秀一クン、だろ?」

 そうじゃないだろう!? コイツわざと言ってんのか?

「高島水産のお坊ちゃん、だよな?」

 それをわかっててこの態度。秀一が意図を図りかねていると、アキラがまたあのイヤな笑みを浮かべて意外なことを言い出した。


 「お前こそ、誰に手ぇ出してんのかわかってる?」

 僕の、ウチの「力」の前には、敵うヤツなんていないだろう? そう思えば秀一は怪訝な表情を浮かべざるを得ない。

 

 「橘グループ、知ってるよな?」

 突然目の前の男から発せられた世界的企業の名前。意味不明な言葉に、秀一は思わず声を荒げる。

「それがどうした!」

 焦りを見せ始めた秀一に、アキラは満足そうに口角を上げて言った。

「リュウスケはその関係者だ」

 嘘をつくにも程がある、と思えば、秀一はいらつきを抑えられなくなる。

「そんなわけがないだろう!?」

 強い口調と目線を向けても、目の前の男は全く動じる様子がない。

 焦りと動揺を隠し切れなくなった秀一に、アキラは悠然とした態度を見せる。

「本人に確認してみたらいいだろ?」


 まさか… ありえない! けど、もし本当だったら…… !


「やめろ! やめるんだ!」

 堪え切れず飛び出した秀一を見たアキラは、その滑稽さにおかしさを我慢出来なくなって、ずっと肩を震わせクツクツと笑い続けていた。


9月23日 今後のストーリーとの関係上、「三友」→「橘」に変更しました。

もちろん、実在の人物、団体等には全く関係がございません。

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