第21話〜小さな幸せ。
「リュウスケ君、お疲れ様っ!」
明日から2学期を迎えるという日の昼下がりの体育館で、彼の名前を呼ぶ可憐な声。笑みをたたえて振り返れば、同じように微笑みを浮かべた彼女がタオルを差し出してくれる。
サヨはひと月程前から、バレー部のマネージャーをしている。ユウコに頼み込んで実現したのだが、ユウコは心配でならない。
ただでさえ目立つ容姿をしているのに、それが特定の相手と親しくしている様子を公衆の面前にさらすのは、二人がやっかみの対象にしかならないだろうと危惧しているのだ。
だがそれも、サヨの「少しでも彼と一緒にいたい」という乙女心に押し切られ、今まさに目前で繰り広げられている光景を目の当たりにすれば、ユウコは「何を言っても無駄かしら?」と苦笑してしまう。
リュウスケとサヨは見つめ合い、微笑み合っているのだ。本当に幸せそうな表情を浮かべて。見ている方が照れくさくなってしまうじゃないの!
「はいはい、いつも仲良しさんでよろしゅうございますねぇ?」
少々、いやかなりからかいの口調でユウコは二人に声をかけた。その声に現実世界に戻された二人は、満面を朱に染めてユウコを見据える。
「「ユウコさん!?」」
見事にシンクロした声に思わずまた見つめ合うが、ユウコが曰くありげな視線を向けてきたので、サヨはツイと視線を逸らし、下を向いてしまった。
「いいよなぁ… 羨ましいよなぁ……」
口を挟んできたのはアキラである。厄介なヤツがイヤなタイミングで来やがった、とリュウスケは心の中で舌打ちする。
「何がだよ?」
少し険のある声で答えると、アキラはニタリと口角を上げてとんでもない一言を吐いた。
「こんな美人にいろんな世話を焼いてもらえるなんてな。男冥利に尽きるよなぁ? リュウスケ君?」
ニヤニヤを隠そうともしないアキラを見やると、その顔で言われれば別の意味に聞こえるから勘弁して欲しいと、リュウスケは困惑した。
「アキラっ、変なこと言わないのっ!」
ユウコが助け舟を出すが、アキラの悪ふざけは止まらない。
「だって本当に羨ましいから、仕方がないっすよぉ? 僕もシテほしいなぁ?」
困りきってモジモジしているサヨを見て、リュウスケが抗議しようと息を吸った瞬間、鋭く遮るユウコの声が飛ぶ。
「いい加減にしなさいよ?」
その強い口調に全員が息を飲んだ。
その口調はアキラにだけ向けられていた。冗談とはいえ『彼』がサヨを傷つける言葉を吐いていることに彼女は耐えられなかった。
「サヨが困ってるでしょ? リュウスケ君だっていい気がしないわよ? わかるでしょ?」
悪ふざけが過ぎたことを指摘されて、アキラは居心地が悪くなり、素直に謝罪の言葉を二人にかけた。
「ごめん……」
そんなアキラの姿に、ユウコはかわいらしさを覚えて、厳しい表情を解きアキラに微笑みかける。
「あなたには私がいるじゃ……」
ユウコは思わず自分の口を両手で塞いでしまった。気が緩んでとんでもない発言をしてしまうところだった。
気づかれたかな?
アキラはアチャーっていう表情だし、二人はえ? という顔でこっちを見ている。
バレちゃったよねぇ……
「ユウコさん……」
口を開いたのはアキラだった。
「ユウコさん、言ってくれてありがとう」
苦笑いを浮かべながら、言葉を継ぐアキラ。
「俺、黙ってるの辛くってさ……」
驚きの表情をするユウコに優しい微笑みを向けてから、きっぱりと言い放つ。
「俺ね、ユウコさんが大好きだから、隠してるのが嫌だったんだ」
男らしい彼の告白に、見開かれたユウコの瞳に涙が光る。
「俺さ、ユウコさんとお付き合いしてるんだ」
アキラは宣言するように二人に伝えた。
嬉しい。
幸せな想いがユウコの心を満たし、嬉し涙が彼女の頬を伝う。
ユウコは思わずアキラの側に寄り添って、自分の右手で彼の左手を握り締めた。
ユウコの幸せな想いは、リュウスケとサヨにも伝染している。
自分の一番大切にしている人同士が、引かれ合い、想い合っていることがわかったのだから。
二人はまた微笑み合って、左手と右手をキュッと握り合った。
アキラとユウコの
リュウスケとサヨの
小さな幸せの瞬間。