第20話〜寄り添って。
港の防波堤で、肩を寄せ合う二人。
花火を見上げるリュウスケの左手とサヨの右手は、しっかりと繋がれたままだ。
漆黒の夜空に轟音とともに描かれる大輪の華。それを見上げてかわいい嬌声を上げているサヨ。花火の光に時折浮かび上がる彼女の横顔を、リュウスケはずっと見詰めていた。
「どうしたの?」
その視線に気づいたサヨが、小首を傾げたかわいらしい仕草でリュウスケの顔を覗き込む。
キュン。
かわい過ぎる! リュウスケは狼狽を隠し切れず、サヨから視線を逸らしてしまう。
それを見たサヨは少し不安になって、今度は遠慮がちにリュウスケに訊ねる。
「……どうしたの? 秋葉君」
繋がれた手をキュッと握りながら。
「かわいいな、って思って……」
暫くの沈黙ののちにリュウスケが発したのは、自分でも意外な言葉。リュウスケは、ここ数日でどんどん大胆で素直になっていく自分を感じていた。
「池内さんが綺麗だな、って思って」
ちょっと驚いたような顔をしたサヨだったが、すぐに綺麗な笑顔を浮かべて、真っすぐにリュウスケを見詰めた。
次の瞬間、サヨはリュウスケの左腕を自分の両手で抱き締めてしまった。彼の左肩に自分の頭を寄せて。
…!
いきなりの密着に、リュウスケは焦りに焦る。が、同時に今まで感じたことのない幸福感が彼の心に広がった。
暫くの間、二人はそのまま花火を見上げながら、恥ずかしさと嬉しさとで上気した顔を時折見詰め合っている。
「あのね、秋葉君。お願いがあるの」
サヨが少しはにかんで、リュウスケを上目遣いで見上げて来る。そんな顔したら、何でも言うこと聞いてあげたくなっちゃうよなぁ、と思いつつ、リュウスケは笑顔でサヨに答える。
「何かな?」
少しおどけた口調で自分のドキドキ感を隠し、サヨの次の言葉を待った。
「リュウスケ君、って呼んでいい?」
「秋葉君」から「リュウスケ君」へ。そう呼ばれることを彼も望んでいたのだ。
「もちろん」
嬉しくて嬉しくて仕方がない。リュウスケは今後彼女にしか見せることのない笑顔で答えた。
「ありがとう」
サヨも今後彼以外に向けることのない可憐な笑顔でリュウスケを見詰めた。
「それでね、私のことも名前で呼んで欲しいの」
リュウスケはそれに異存があるはずもない。
「わかった。サヨちゃん、って呼ばせてもらうね?」
サヨの笑顔が輝く。それを見たリュウスケの笑顔も輝いた。
「私、リュウスケ君に会えてよかった」
サヨは、はにかみながらもリュウスケの瞳を真っすぐに見詰める。可憐な笑顔で。
「僕もだよ」
リュウスケは、サヨの体の温かさと柔らかさを左半身に感じながらサヨに答えた。