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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第2章 好きなのに
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第19話〜重なる想い。

 「30分も早くついちゃったな」

 リュウスケは苦笑いを浮かべる。呆れ顔をしたアキラは、またリュウスケをからかい始める。

「いくら張り切ってるからって。俺は早過ぎって言ったと思うけど?」

 ニヤニヤの止まらないアキラを一瞥して、ひとつ咳払いをするリュウスケ。

「まあ、遅れるよりはいいよね?」


 「おまたせー!」

 聞き慣れた元気な声が後ろからして、振り向いた二人は息を飲んだ。

「どうしたの?」

 呆然とする二人の顔を交互に覗き込みながら、ユウコは怪訝そうな顔をしている。

「まさか、浴衣とは……」

 二人の姿に見とれながらアキラが答える。


 本当に綺麗だ……


リュウスケはサヨに釘付けだった。


 彼女が着ているのは、白い生地に濃淡のある藍色で描かれた鉄線クレマチスの柄の浴衣。それに紫のグラデーションのついた上品な帯を締めている。

 彼女らしい、とても清楚で綺麗な浴衣だと、疎いリュウスケでも感じる着物だ。

 髪をアップにしていて、白いうなじと襟足のほつれ毛が色っぽくて、リュウスケは目を逸らしてしまう。


 「リュウスケ君ってば、照れてるの? カワイイっ!」

 からかい気味の声を発したユウコは、サヨとは対照的な浴衣を纏っている。

 黒い生地にピンクや白で牡丹をあしらったかわいらしくも大人っぽいもので、それに紅の帯をきりっと締めている。彼女もアップにしていて、うなじの辺りから大人っぽい色香を漂わせている。

 「今日はお祭りだし、思い切って、ね? たまにはいいでしょ? こういうのも」


 今日はこの街の夏祭りの日。ダンスカーニバルや海上花火大会などがある一大イベントで、10万人の観客が訪れるというこの地方最大の祭礼だ。

 「さあ、行こう? 楽しまなきゃ、ね?」

 そう言ってユウコは、アキラを促して歩き始める。つられて歩き出すリュウスケに、後ろから声がかかった……

 あの「かわいい」声が。

 「秋葉君……」

 振り向いたリュウスケの前に、はにかんで俯いている美少女がいた。

 「似合ってる?」

 囁くようなか細い声だった。

 いきなりの問いに答えがすぐに見つからず、リュウスケは焦る。そして自分でも意外な言葉を口から発していた。


 「綺麗だ……」

 素直な気持ちだった。

「綺麗だよ、池内さん」

 俯いたままのサヨを見て、いかにもキザっぽい台詞だったかなと、言ってしまってからリュウスケ後悔した。 

 気まずい沈黙が流れる二人。次の瞬間、リュウスケの目が驚きで見開かれる。

 サヨが俯いたまま、リュウスケの手を自分の両手で握りしめたのだ!

 

 「嬉しい」

 今度はっきりと聞こえる声。満面の笑みを浮かべて、サヨが顔を上げる。

「かわいい浴衣だからね、着てるとこ早く誰かに見せたかったんだけど……」

 サヨは手を握りしめたまま、リュウスケの瞳を見詰める。


 「一番見て欲しかったのは、秋葉君、なの」


 僕に見せたかった浴衣を着て、僕に会いにきてくれた『彼女』。少し照れくさいけど、リュウスケの心は幸せな想いで満たされていく。


 「僕達も行こうか?」

 リュウスケは左手でサヨの右手を取って、彼女に眩しい笑顔を向ける。

 躊躇いのない自分の行動に驚きを覚えながらも、重なる手と手のぬくもりの幸せにひたりながら、リュウスケはサヨの手を引き歩き始めた。


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