第18話〜温かい親友。
寝れなかったなぁ……
明くる日の朝、寝不足の頭を傾げながら、リュウスケは昨日の出来事を思い返してみる。
この寝不足の原因をつくった昨日の電話でのやり取り。夢ではないのか、という不安を振り払うように声に出してみた。
「夢なんかじゃない… よね?」
その言葉で甦る『彼女』の声。「会いたい」と言ってくれた、甘くかわいい声。
やっと、「会える」んだね……
鏡の中の顔がほころんだ。
ベッドサイドに置いたままの携帯が着信を知らせる。通話ボタンを押した途端、大声が届いた。
「お、お前さっ!」
アキラだ。少し慌ててる様子。何を言われるかは、だいたい分かる気がする。
「お前『彼女』に告ったんだって?」
え? 「告った」ってのはちょっとニュアンスが違う気が……
「会いたい、って言ったんだろ?」
「言ったけど?」
それは間違いない。
「向こうも会いたい、って言ってくれたんだって?」
「うん」
確信を持ってリュウスケは答える。
少し間が空いて、寂しそうなアキラの声が届いた。
「何で俺に言ってくれないの?」
コトの内容が内容だけに、からかわれるのもつまらない、と思ってアキラには特に報告してなかった。
「これでも俺さ、お前のこと心配してたんだぞ……」
そうだった。
いつでもリュウスケのことを気に掛けて心配してくれるのは、幼馴染みのアキラ。今回も人づてに話を聞いて、やきもきしてくれていたに違いない。
「すまん、ありがとう」
「あんな高嶺の花に惚れてさ、絶対うまくいく訳ないと思ってたからな」
サラッと失礼なこというな、コイツ。
「でも… 良かったな、うまくいってさ」
電波の向こうでそう言って笑う、アキラの顔が脳裏に浮かぶ。
いいヤツだなぁ。
改めて思い直すと、リュウスケは心が温かくなった。
リュウスケを良く理解し、叱咤し励まし、いつも勇気づけてくれるアキラ。かけがえのない存在であることを思い知らされる。
「でさ、ユウコさんから伝言」
「何?」
ふふっ、と含み笑い。これはリュウスケをからかう時のアキラの癖だ。
「待ち合わせは駅でいいか? ってさ」
そういえば… 場所決めてなかった?
「相変わらず詰めが甘い! どうやって会うつもりだったんだ?」
リュウスケの額には冷や汗が浮かぶ。
「い、今から電話して…」
「心配ご無用。もうユウコさんと段取りしたからさ」
「え?」
「夕方5時に駅で。ユウコさんになぁ、心配だからアキラ君連れてきて、って言われちゃったぞ」
アキラのニヤニヤが目に浮かぶようだ。
「申し訳ないです。何から何まで」
恥ずかしさと申し訳なさで、リュウスケはついつい丁寧な口調になる。
「何だそれ? まあいいや、何かお前らしくて」
アキラのからかい口調はますます調子づく。
「ユウコさんに、確実にお届けします、って伝えたからな」
「そんな言い方しなくたっていいじゃんか」
ヘタレな自分をからかわれっぱなしのリュウスケは、少し気色ばんだ。
「まあまあ。でも俺が一緒の方が気は楽だろ?」
悔しいがそれは間違いない。でも『彼女』は……
「むこうはユウコさんが連れて来るってさ。ダブルデートってヤツ? その方がお互い気楽にいられるだろうから、って」
みんな、優しいんだなぁ。
友達の温かい思いやりに、思わず目頭が熱くなる。
リュウスケは感謝の気持ちでいっぱいだった。