第12話〜ズルい。
僕は自室で夜空を見上げながら、ため息をついている。その数は、見上げている星の数に迫りそうだと、少し荒んだ気持ちになる。
疲れた。
今日一日いろんなことがあり過ぎて、深い疲労感に包まれている。
突然の『彼女』の来訪。
うまく話、出来なかったな。多分がっかりしてるよなぁ……
おそらく『彼女』を怒らせてしまった。取り返しがつかない想いが、僕の頭の中を渦巻く。
自分の優柔不断さを後になって後悔するのが、僕の悪い癖だ。
「後悔」の理由がもう一つ。『彼女』を見送った直後の出来事で、大事な友達をずっと傷つけていたことがわかったからだ。
「リュウスケ君」
席に戻って声をかけて来たのは、エリカだった。
席に戻ろうと振り返った時に、僕を見つめる二つの視線には気がついていたんだ。
悲しそうに見つめるハルミ。
怒ったように見つめるエリカ。
何となく気まずくなって、僕は二人から目を逸らしてしまった。
席に戻るなり、いつになく怒気を含んだ声を投げて来たエリカに、僕は驚いて顔を上げる。
「あのコ、7組の池内さんでしょ?」
「う、うん。傘を返しに来てくれて…」
「傘を貸してあげるくらい、仲良くしてるんだ? へぇー?」
いつもおとなしいエリカが、今日は妙にからんでくる。
そもそもこのコはなんで怒ってるんだ?理不尽さを感じて、僕も不機嫌になる。
「濡れながら歩いてたら、傘を貸してあげなくっちゃ、って思うのが普通じゃない?」
わざとぶっきらぼうに答える。
「優しーいんだねぇ、リュウスケ君は」
嘲りと怒りが含まれた口調。何が何だかわからないまま、エリカの次の言葉を待つ。
「でさ……」
思わせぶりに間を置いて、チラッとハルミに目をやって……
「あのコとリュウスケ君、つきあってるの?」
俯くハルミの肩が、ピクリと揺れる。
「随分仲良さそうに話してたから」
畳み掛けてくるエリカ。でもどうしてそんな結論になるのか、僕には訳がわからない。
「そ、そんなワケないじゃん…!」
お付き合いしてないのは事実。それをムキになって反論している僕が悲しかった。
「でも、好きなんだよね? 『彼女』のこと」
どうして?
誰にも話したことなんてないのに。
その気持ちを気づかれないように、ずっと隠してきたつもりだった。
エリカはそれに気づいてる。
もしかして、ハルミも?
呆然として、反論出来ない僕。
「リュウスケ君が誰を好きになろうと構わないけどさ……」
今度は何を言い出すんだ?
「ズルいよ、リュウスケ君!」
何だって? そんなことを君に言われる筋合いはないよ?
「ハルミの気持ちは置いてけぼり?」
…!
エリカの言いたいことがやっとわかった。
確かに僕は、ハルミの「気になる」に未だ答えを出せてない。
「ハルミはね、ずっとリュウスケ君を見てるんだよ!」
今までにない激しい口調でエリカは僕を責める。
「ハルミを待たせたまんま他のコを好きになるなんて、リュウスケ君、最低だよっ!」
「……もう、いいよ」
ハルミが囁くように言って、顔を上げる。
その瞳には大粒の涙が光っていた。
「ありがとう、エリカ。そんなに想ってくれて本当にありがとう……」
ふわっと微笑みを浮かべて、ハルミは僕を見つめた。
「私が勝手に想ってただけだから。それをリュウスケに押し付ける気はないよ。だから気にしないで、ね?」
笑顔のハルミの頬を一筋の涙が伝う。
僕はその時、ハルミの涙を見つめることしか出来なかったんだ。




