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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第2章 好きなのに
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第11話〜歓喜と恐怖。


 梅雨も明けて日差しが輝きを増して来た、ある夏の昼下がり。


 「また、ボーッとしてんな」

 声がした方を見ると、トシクニがにやにやしている。ハルミとエリカも笑っている。

「リュウスケはボーッとするのが得意技だから、仕方ないよね?」

 からかうように微笑みかけてくるハルミ。

「相変わらず仲がよろしいようで、ようござんしたねぇ?」

 トシクニがにやにやを2倍にしてほざく。

「すぐそんなこと言う!怒るよっ!!」

 顔を真っ赤にして反論するハルミだが、強く否定している様子はない。

 「あの日」以来、ハルミの態度は変わってないように思える。僕はハルミに「答え」をあげられてないにも関わらず。

 そんなハルミの優しさに、僕は戸惑いながらも居心地の良さを感じ始めている。


 僕は、ズルい。


 その居心地の良さの中で考えていたのは、そう『彼女』のこと。

 あの日の出会いから、君の残像が僕の中から消えない。

 

 本当に綺麗な人だったなぁ……


 栗色で少しカールした柔らかそうな髪。

 あくまでも白く透き通った肌。

 清らかな桜色の唇。

 そして、澄み切った茶褐色の瞳。


 僕はあの日、その瞳に吸い寄せられるように行動を起こしていた。そんな経験は初めてだったんだ。


 また、会いたいな……


 「秋葉君?」

 クラスメートの女子に声をかけられて、我にかえる。

「秋葉君を訪ねて、女の人が来てるよ」

 少し上気した様子なんだけど、どうしたのかな?

「何だかとっても綺麗な人」

 え? 誰だろう? 美人と言えば、ユウコ先輩でも来たんだろうか?

 とりあえず教室の入り口に向かう。そこに小さなざわめきが起こっていることを感じた。

「待たせてごめんなさい」


 …!

 

 そこにいたのは『彼女』だった。


 今の今まで心の中で恋い焦がれていた人を目の前にして、やっぱり周りの視界が狭まる。

 でも嬉しさと焦りのあまり、僕はどうしたらいいか分からず、無言で立ち尽くしてしまう。


 「傘を返しに来たの」

 何も言わない僕を上目遣いに見ながら、あのかわいい声で『彼女』は告げる。僕はまだ言葉を発することが出来ずにいる。

「あの日、本当に助かったの。もうビショビショに濡れて帰るのを覚悟してたから」

『彼女』は少しはにかんで、

「どうしてもお礼を言いたくって。本当にありがとう」

 天使の笑顔で僕を見つめてくれたんだ。


 嬉しかった。

 心の底から嬉しかった。でも…

「別に、いいのに……」

 無愛想に答える僕。

 刹那、『彼女』の笑顔が翳る。

 

 僕は怖かった。

 僕の気持ちが知れるのを。

 みんなや『彼女』に感づかれるのを。

 恥ずかしいとかそんなんじゃなくって、今はそれを知られるのが嫌だったんだ。

 『彼女』を想う僕の気持ちを、誰にも壊されたくなかったんだ。


 「じゃあまたね、秋葉君」

 踵を返し去っていく『彼女』の後ろ姿を、黙って見送るしかなかった不器用な僕は、その時『彼女』を傷つけてしまったことを、気づくはずもなかった。





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