第10話〜ある雨の午後。
あの日見つけたあなたの笑顔
忘れられない眩しい笑顔
私はあなたを見つめていたの
「私に気づいて」と願いながら
私はあなたに伝えたい
あなたのその眩しい笑顔で
私をずっと見つめて欲しい
そう、
「わたしはあなたが好き」
その日は朝から雨模様。
台風接近のため警報が出たとかで、午後からの授業と部活動が中止、全校へ速やかに下校の指示が出る。
窓の外を見ると、なるほど強い風が吹き抜けていて、塀際のイチョウが大きくざわめいている。
「電車が止まる前に帰るとするか。」
しばらく一緒に帰るべき友達を捜していたが、生憎誰も見当たらず、僕は一人で学校を出た。
時折吹き付けるつむじ風に、傘ごと体をもっていかれそうになるが、かろうじて踏みとどまり黙々と歩を進める。
その時、道路の反対側で途方に暮れたように俯いて歩いている女生徒を見かける。壊れた傘を左手に下げて、小さな肩は既に濡れはじめていた。
「傘が壊れちゃったんだ、かわいそうに…」
僕は心が痛んだ。
声かけて、傘貸してあげるべきだよな…。
でも、知らない男にいきなり声かけられたら引くよな。
どうしよう…… 迷いが心臓の鼓動を早くする。
その時ふいにそのコが振り返って、立ち尽くして考え込んでる僕に気づいた。
その視線が、まっすぐに僕を捉える。
『彼女』だ!
鼓動のボルテージが急速に上がる。
また『彼女』の周りの景色が融けていく。
その瞳に吸い寄せられるように、気が付けば君の側に立っていたんだ……
「傘、使って」
声、震えてないかな?『彼女』は驚いた様子で僕を見てる。
「でも…」
初めて聞いた『彼女』の声。
かわいい声……
「秋葉君が困っちゃうでしょ?」
「大丈夫! 僕は男の子だからっ、ね?」
警戒心を解くつもりでちょっとおどけた調子で言ってみた。『彼女』は困ったように微笑んで、
「じゃあ… お借りします」
と僕の申し出を承知してくれたんだ。
「返すのはいつでもいいから」
壊れた傘を半ば強引に受け取って、僕は駅に向かって駆け出した。
何だか恥ずかしくって、少しホッとして、何よりも嬉しくってさ、僕は振り返ることが出来なかったんだ。
秋葉君。
『彼』がここに現れるなんて、考えもしなかった。
今日は何てツイてないんだろう、なんてがっかりしながら歩いていたのに。
傘を壊した風にも感謝しなきゃね。あれ?私、少しウキウキしてる?
嬉しくて嬉しくてたまらない。
そう、
『彼』が私に気づいてくれたから。
あの笑顔で私を見てくれたから。
私のドキドキは止まらない。とても幸せな気分。でもね、私はとっても欲張りだから……
「あなたの気持ち」が知りたいの……