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水難の相

 三つ年下の従兄弟のK君は水難の相がある。


 ……と、思う。


 子供の頃から、K君は水場でよく危険な目にあっていた。


 昔、海水浴に行った時にこんなことがあった。


「ちょ、兄ちゃん! やばいやばいッ。足がつった!」

 と、焦った声を発しながら、片足で必死にジャンプを繰り返し、海面に顔が浮き出たり沈んでいたりするK君を見て、自分は急いで肩を貸して、砂浜まで誘導したことがある。

もう少し深いところで足がつっていたらヤバいことになっていたかもしれない。


 また、海への放水路である、大きな川の河川敷の広場で遊んでいた時はこんな事があった。


 広場でローラースケートやドッジボールなどをして、大勢で遊んでいた時、ふと気がつくと、K君がいない。

「おーい、K」

 辺りを探すと、広場から離れた川の水際で助けを呼んでいる女の人がいる。


 行ってみると、水際のブロック斜面で、腰まで川の水に浸かっているK君と、彼を助けようとして、自身も身動きが取れなくなったのか、女の人の彼氏らしき男性がいた。

「何してんだよK。早く上がってこい」

「無理。兄ちゃん、スッゴイ滑るんだって」

 ……どうやら、水に濡れたブロック斜面は表面がヘドロに覆われていてヌメヌメとしており、非常に滑りやすいようなのだ。

 結局、友達や周囲にいた大人達の手を借りて二人を何とか助け出した。


 その後、

「なんであんなとこ行ったんだよ」

 と聞いても、

「いや、大きな魚とかいるかなぁ~って思って……なんとなく」

 と、曖昧な返事をするだけで、どうにも要領を得なかった。


 極めつけは田舎のお祖母ちゃんの家に遊びに行った時のことだ。

 台風のせいで外は豪雨。

 自分は家の中でおとなしく携帯ゲームで遊んでいたら、玄関の戸がガラガラと開き、興奮気味のK君の笑い声が聞こえてきたので、玄関口に行ってみると――。


 ずぶ濡れのK君がちょっと異常なくらいのハイテンションではしゃいでいた。

 

「何してきたの!?」

「いや、近所の子と川でちょっとね!」

 と、熱に浮かれたような返事が返ってきた。

 

 詳しく聞くと、近所の歳の近い子供達と一緒に、川のほとりに生い茂っている草をつかみながら、増水した激しい川の流れに身をまかせて、遊んできたというのだ……。

 

「お前アホだろっ」

 当時の僕は笑いながら、そうツッコミを入れただけだったが、当然お祖母ちゃんや、おばさんおじさんには滅茶苦茶叱られていた。

 K君本人は、人口の波や流れを生み出すプールで遊ぶのと同じ感覚のつもりだったのだろうが、田舎の川とはいえ、川幅は10メートルくらいはある。

 増水している時の水の深さはかなりのもので、豪雨時などは時折、流木などが流れていくのもみたことがある。


 ……正直、その時、K君が掴んでいた草が引っこ抜けたりでもしていたら、濁流にのみこまれて、K君は死んでいただろう。


 とにかく、細かい事例をあげればきりがないが、K君は川や海でよくそういう目に遭う……そういう目に遭いにいく。

 水に惹かれている、とでもいうのだろうか……。


 

 それから時が経ち、僕がアパートで一人暮らしを始めた頃、K君が部屋に遊びに来たことがある。

 会うのが久しぶりだったこともあり、酒を飲みながら僕らは昔話に花を咲かせていた。

 自然と話の内容が、K君の水難経験になる。

 K君は「あったあった! そんなこともあったね」などといいながら、嬉しそうに笑う。

 本人自身は気にもしていないようだ。



 正直、僕はK君の水難気質はかなり危険だと思っていたので、彼の身を案じて、「お前には水難の相があるから気をつけろよ」的なことをその時言ってみた。

 だが――。

「んなわけないじゃん。気にしすぎだって」

 と、K君は気にも止めない。


 その日はK君は泊まっていき、明日帰る予定だった。

 しかし、明くる日、予想外の出来事が起こった。


 天気予報の予想が外れ、天気は豪雨。しかも、アパート2階から外に出ると、道路がちょっとして池のようになってしまっていたのだ。

 どうやら、水道管が破裂してしまったらしく、遠くで水しぶきの音が聞こえていた。

 冠水した道路を見下ろして、僕は猛烈に「嫌な予感」がした。


 その日僕は仕事を休んだ。

 K君には、水が引けるまで部屋から一歩も外に出るなと言い渡した。

 K君は滅茶苦茶抗議してきたが、僕は聞き入れなかった。

 後から聞いた話では、「あの時の兄ちゃんは変に迫力があって、言うことに逆らえなかった」と、K君は言っている。


 電気は通っていたのでゲームしたり、昼間から酒を飲んだりして、その日は時間を潰した。

 次の日の午前中に水道管の修理は終わり、道路の水も引けたので、K君を帰した。

 

 K君はその時の僕の行動にもピンと来ていないようで、お盆や正月に会った時によくからかわれる。

 家族や他の親戚連中にもだ。

 不思議なことに、K君自身もだが、家族や親戚連中は、みんなK君の水難の相に全く気づいていない。


 ――そんなK君の趣味は釣りだったりする。


 たまに、シーバス釣りに海へ行こうとかメールで誘われるが、僕は毎回丁重にお断りするようにしている。

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