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哀れな殺人鬼  作者: ノア
3/3

始まりの鼓動

俺の中に殺人衝動が生まれたのは、随分と前の事。それは俺が五歳の時だった気がする。思い出してみると、何とも残酷で醜く狂っている。だが、今の俺にはとてもその純粋さが美しく見える。どうしても、綺麗なんだ。あの頃の俺は……。俺に関わった全ての人間を殺めた俺にはそう思える。あの頃の俺は綺麗だと。




「ねぇ、お母さん?」


と俺は母親である目の前の人を呼ぶ。とても美しくて、どんな女性よりも俺を魅了する。そんな完璧な母が俺は……。


「どうしたの?」


母は俺の呼びかけに不思議そうな顔をして、その美しくも汚れ多き瞳で俺を写す。それは俺の中の何か酔わせるんだ。でも母はそれには気づいていないだろうな。


「どうしてこの世に生きている人間は必ず死ぬの?」


子供の問いにしては大人びている。でもやっぱりこんな問いを投げかけるのは子供だから出来ることなんだと思う。あの頃の俺は知らない事が多すぎた。でもそれはしょうがない事。この世に生を受けてからたった5年しか経っていないのだから。


「難しい事を考えるのね。やっぱり私達の子ね。頭がいいわ」


母がそう言ったのは今でも心の奥に残っている。今思えば、母は俺自身の事に全く興味がなかったような気がする。母が俺を通して見ていたのは、きっとこの天才と呼ばれる頭脳と誰をも魅了する完璧な容姿くらいだっただろう。母は俺に愛情というものを注いではいなかった。それだけははっきりしている。


「お母さん。そんな事どうでもいいよ。どうしてか教えてよ、お母さん」


そう俺はしつこく母に再度問いかけた。その時、俺を写している瞳は鬱陶しそうに俺を睨みつけていた。俺はそんな小さな事に気づいてた。そして母が俺を不倫相手の男と出会うための道具に使っていたのも、俺は気づいていた。


「そうね、分かったわ。生きてたらいけないからじゃないの。生きていたら、苦しい思いも悲しい思いも全て自分の中に刻みつけられる。そんな事がずっと続いていたら壊れちゃうわ。だから人間は死ぬのよ。それにいつまでもその人ばかりに頼ってちゃいけないしね」


母は確かにそう言った。そんな母の瞳は珍しく俺を写していなくて、とても悲しそうに見えた。何故、そんな表情をしていたのか、今では永遠に分からなくなってしまったけど。でも今の俺には解る気がする。そして俺はそんな母の状態を知っても尚、自らの手で母を殺めてしまったことに後悔はない。そう言い切れるのはきっと、知っても尚、俺は母が……。


「んー難しいね。でもそんなに苦しいなら、僕が救ってあげるよ!そーだ!僕、みんなを救うヒーローになる。そして、お母さんを救ってあげる!」


そう俺は無邪気に答えた。胸はトクンッと音を立てた。この時から始まったんだ。俺の中にある殺人衝動が宿ったのは。早すぎると誰もが言うだろう。でも子供は無邪気だから。それに俺は普通じゃないから。だから俺が言った言葉の本当の意味は残酷なんだ。それに母は気づいていないから、だからこの後俺に微笑んで言うんだ。


「本当に、本当に救ってくれるの?」


半信半疑。俺から見たらそう見える。でも、必死に言う母はどこかすがっているように見えた。それほど母の心は壊れていたのかもしれない。こんなにも小さく無力な子供に母は頼むのだから。母はやっぱり弱い人だ。


「うん、みんなみんな、救うよ。僕が正義だ」


僕は口を三日月に歪め、瞳は細く何かを憐れむように開けながら、奇妙に笑った。


「ありがとう。……」


母は初めてこの時、俺自身を見たのかもしれない。母の完璧で華麗なる微笑みは本当の微笑みに僕は見えたから。それに久しぶりにもう忘れてしまった俺の本当の名前を言ったから。そんな美しい母が俺はこの時初めて誇らしく思えた。でもやっぱり気づいてほしかったのかもしれない。俺の言っている意味を。俺の中の心を。もうすでに壊れかけていたということに。


これが俺の心に宿った瞬間だっだんだ。もしもあの時、母が本当の意味に気づいていたら。もしもあの時、母が俺自身を見なかったら。何かが変わっていたのかも知れない。それほど俺の中でなった鼓動は俺の人生を大きく変えた。でも、俺は今だからこそ思う。母がどうであろうと、俺は自分の中に宿る殺人衝動は必ず宿っていただろう。

あの忘れる事の出来ない快楽がそうさせていた。きっと……。

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