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哀れな殺人鬼  作者: ノア
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快楽の末に

ここはスラム街。世間で言う無法地帯区。そんな真夜中の出来事。



「やめてくれ!頼むから……金なら払うから!一生かけても払うから…殺さないでくれ!」


この街に響く男の叫び声。男の顔は恐怖に歪み、絶望に飲み込まれている。それでも生きる道を諦めようとしない。だから俺は壊したくなるんだ。俺の中にある殺人衝動が止まらなくなるんだ。この男は俺に快楽を与えるんだ。


「今更無理だ、おじさん。おじさんの運命はこの街に辿り着いた時点で俺に殺されることは決まっていたんだ。だから、さ?おじさん。諦めろよ。どんなに騒いだところで俺の意志は変わらないし、誰も助けない。この街カーナリンの人達は自分の事しか考えていないのだから。諦めな、おじさん。それに俺はお金なんていらないしな」


男は更なる絶望へと堕ちていく。でもこの街は狂っているからしょうがない。誰にそう言っても結果は同じだろう。殺したい奴は遠慮なく殺す。殺されてくなかったら好んでこの街に来ないさ。この街は国から捨てられた街だから、そういった事は日常下で普通に行われている。それを知って来る奴は俺のような奴だけさ。


「っひ……殺さないで」


声にもならない声で男は小さく言った。もう潮時だな。男の顔はもう光なんてない。殺されることを受け入れられなくれも、もう光なんてない。この男は死ぬだけだ。死を待つだけ。


「おじさん…さようなら。俺は甘くないから苦しんで死ね」


俺は口を三日月型に歪め、瞳は哀れな男を映しながら快楽の末に朽ちる。


「やめてくれぇぇぇぇぇえええええ!うぐっ」


俺は腹にナイフを刺した。これくらいじゃ人間はすぐには死なない。急所を外しているから余計に死なない。俺は簡単には死なせない。楽しみながら、ゆっくりと……。波打つ快楽と抑える事の出来ない殺人衝動を感じながら、人間の恐怖の顔を自分自身の眼に写しながら、殺す。


「いだっ……し、しにだくなぃ!」

「うるさい。俺は甘くないと言っただろう?俺に捕まったんだから、自分の運のなさを恨みな」


もう一度、腹に刺した。次は何度も何度も。何度も刺した。俺の今の表情は人間じゃないだろう。それは正に鬼。残酷な殺人鬼。快楽に溺れた殺人鬼に違いない。止める事の出来ない衝動。それはこんなにも残酷な結果を齎すんだ。でも、止められない。この快楽は忘れることの出来ない。だから今宵も最高の快楽に溺れる。




何分たったのか解らない。何時間かもしれない。快楽に溺れた俺は我に返る。すると、目の前の男はどこにもいなかった。あるのは、道路一面に広がる真っ赤な液体と誰のかもわからない肉塊だけだった。それを確認すると俺の体は小刻みに震える。最高の快感。なんという優越感。今、思い出してもあの男の恐怖に染まった顔は忘れることができない。

さて、帰るか。今日はもう終わりだから。ゾクゾクと感じる体の高鳴りを抑えながら、家へと続く帰路を歩く。


「兄ちゃん!あんた何者だ!?何故、そこまで殺す必要がある?兄ちゃんは異常だぜ?」


そう密接する廃ビルの中から俺に怯えるかの様な震えた声が聞こえてきた。俺が男を殺している所を見ていたのだろう。この状況下で俺に話しかけれるのは大した度胸だ。随分といいものを持っている。俺にはないものを持っている。少し羨ましいのかもしれない。俺にはそんなもの初めからなかったから。あったのは抑えることの出来ない殺人衝動だけだ。


「そうだな、俺は異常だよ。何故、そこまで殺す必要があるかって?それは抑える事の出来ない殺人衝動と忘れる事の出来ない異常な快楽の為だよ。くくくっ、お前も殺してやろうか?今、すげぇ体がゾクゾクしてるんだ。俺の前から消えないのなら最高の苦痛を味わいながら殺してやる」


俺は月下の下でそう言った。今日は綺麗な満月の日。月光に照らされた俺は一体どんな表情をしているのだろうか?おぞましいものか?怪物か?鬼か?何にしろ真っ赤に染まった俺はさぞ恐ろしいだろう。


「解った、消える。兄ちゃん、名前は?」

「俺か?そんなもの忘れた。みんな好きな様に呼んでるさ。あ、そういえば、こないだは十三の殺人鬼って言われてた気がするな」


不吉を表す13か。よく考えたものだ。それほど俺は残酷な殺し方をしているんだ。俺に会いたくない奴は多いんだ。俺は異常な殺し方しかしないから。


「兄ちゃんがあの……。分かった、じゃあな兄ちゃん。いや、十三の殺人鬼さん」


男は消えた。最後は挑発気味だったが、足はガクガクと震えていただろう。だが、その名を聞いて俺に挑発できるのは本当に大したものだ。面白い奴に会った。今度また会えるといい。俺と男の縁は繋がった。この街にいる限り俺とまた出会うだろうがな。くくく、次は殺してやる。抑える事の出来ない殺人衝動と異常な快楽の末に……。

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