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E×I  作者: 鉄箱
第三部 運命を穿つ矢
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十二章 第五話 龍神遺跡 前編




 空の中天から動かない、白光の太陽。

 その熱にじりじりと焦がされながら、千里とナーリャはアルハンブラの隊員たちと向き合っていた。


 ファイスとテトラ、それからテイガ。

 彼らの他に千里たちに同行するのは、二人の女性と一人の少年だった。


 一人は白い肌、青いロングヘアに緑色の瞳の女性。

 一人は褐色の肌、紫のロングヘアを三つ編みにした、紫の瞳の女性。

 一人も褐色の肌、赤い髪を左の一房だけ伸ばしたショートに橙色の目の少年。

 エルフの三人が、新たに参入することになったようだ。


「わ、わたしはカーサっていいます!えと、よろしくお願いしますねっ」


 青い髪の女性――カーサは、そういってはにかんだ。

 千里たちよりも遙かに年上なはずなのに、初々しさがある。


「私はアメリア・メリリア=イレミレア。よろしくね、貴女たち」


 こちらも、優しげな女性だ。

 だが、こちらのアメリアの方が、カーサよりも落ち着いているように感じられた。


「最後は俺かな?俺はリガー。

 隠してもしょうがないから言うけど、そこの“テイガ隊長”の弟だよ。

 それでもって、ファイスの親友ってところかな」

「弟さん、なんだ」


 千里はそう、小さく呟く。

 見てみれば、髪の色だけでなく、目元などよく似ていることが解った。


「さて、自己紹介は済んだか?」


 そう声をかけたのは、フィオナだった。

 彼女を含めて、九人にもなる大所帯。

 龍を相手取るならばこれでも少ないと言われていることに、千里は内心で驚いていた。


「さぁ、乗り込め。出発するぞ!」


 テイガの号令で、カウカウの牽引する車両に乗り込む。

 目指すはルトルイムの果て――“龍の遺跡”であった。














E×I













 砂漠を疾走する、カウカウの馬車。

 砂煙を巻き起こしながら走るその鋼の車両に、砂魚が食らい付く。


「北東に八!やれ、カーサ!」

「はい!【轟け、雷輝!】」


 カーサの放った魔法、稲妻の柱が幾重にも連なり、砂魚を蹴散らす。


「西南に九!テトラとファイスで当たれ!」

「おう!」

「はいっ!」


 車両の上に立つテトラとファイス。

 テトラが矢を放ち、ファイスが影で道を造る。

 その連携は、確実に砂魚たちを減らしていった。


 だが、猛攻は止まるところを知らない。


「数が多い……【天空紅蓮!】」


 フィオナが長剣を振り、発射された炎刃が砂魚を切る。

 もうかれこれ三時間も、こうして戦っていた。


「ねぇフィオナさん、私たちも……」

「チサトとナーリャは、龍と戦うための要だ。ここは、私に任せてくれ」

「“たち”が抜けているぜ、姫さん」

「ははっ、違いない」


 千里とナーリャは、この戦いに参加していない。

 フィオナ達に言われて車両の中で待機しているのだ。

 いや、正確に言うならば“温存”だろう。

 彼女たちは、最強の魔獣――龍と戦わなければ、ならないのだから。


「それに……見えてきたぞ」

「え?」


 車両の上から前を見据えていたフィオナが、小さく呟く。

 それに倣って窓から身を乗り出し、千里とナーリャは“それ”を視界に納めた。


「あれが……」


 台形の建物だった。

 繋ぎ目の見えない石造りの遺跡は、その門を固く閉ざしている。

 まるで全ての存在を拒絶しているかのように。


「巨大な一個の石でできているみたい」

「“みたい”ではなく、それで合っている」

「フィオナ?」


 巨大な石を台形の形に削りだし、その内側を抉り削ったような遺跡。

 それを、フィオナは睨み付けながら見ていた。


「エルリスが自身の従僕である“龍”のために削りだした“住処”」


 それがあの遺跡なのだと、フィオナは続ける。

 過去を司る神、エルリス。

 彼女が自ら作り上げたというのなら――それは、“神域”だ。


「馬車はここまでだ……全体、止まれ!」


 テイガの号令で、動きを止める。

 遺跡の周囲には石畳が敷かれていて、その付近に砂魚は居ない。

 まるでこの場所だけ、不思議な力で守られているかのようだった。


「さて、目前に来た訳だが……ナーリャ、見えるか?」


 テイガは、弓使いとして一番目が良いであろうナーリャに訊ねる。

 指し示す先は、遺跡の門だ。

 遺跡の門は横も縦も非常に大きく、遠目からでもよく見える。

 千里はそれに“凱旋門”のようだと、世界史の教科書を思い出していた。


「えーと……石人形?」


 その門を守るように置かれた、巨大な石の人形。

 四角張った身体と、四角い顔。

 その高さは門より少し低い程度……五階建ての建物程度はあった。


「あれが門の守護者――“グランゴーレム”だ。門に近づけば、動き出す」


 巨大な守護者。

 海の主クラスの的の姿に、千里は大きく口を開けた。

 二体も同時に相手をしなければならないのだから、驚くのも無理はない。


「俺たちは、同行したはいいが、できることは少ない」

「その数少ない“できること”が、アレの相手と言うことだ」


 テイガとフィオナが並び立ち、その後ろにテトラたちが並ぶ。

 誰も彼もが仲間を信頼していて、だからこそ彼らは退かないのだ。


「ナーリャはこっちに。アメリア!ナーリャに中の敵の情報を」

「はい、隊長。さ、ナーリャさん、こちらに」


 ナーリャがアメリアに着いていき、その間にフィオナは千里と向かい合う。

 今からの、単純な“作戦”を伝えるためだ。


「さて、私たちはアレを相手取る。

 だからその間に、チサトとナーリャは遺跡の内部に侵入をしてくれ」

「わかった……信用、する。

 それで、私たちはどうやって侵入すればいいの?」


 フィオナに、千里は一度敗北している。

 それほどまでに近くで戦ったことがある人だから、千里は彼女の実力に信頼をしていた。

 ナーリャを覗けば、この世界では誰よりも近くで戦ってきた“仲間”なのだから。


「なに、難しいことはない。私たちが――ぶち抜く」

「説明を終えました、隊長、姫」

「姫というのは止めてくれ、アメリア」


 アメリアに連れられていたナーリャが戻ってきて、フィオナに合流する。

 険しい表情をしていたが、千里がそれを不安そうに見えると、ナーリャはすぐに笑顔に戻った。


「なんでもないよ、対策を考えてただけだから」

「そっか……それで、どう?」

「僕たちなら、大丈夫!」

「あはは、そっか、うん……それなら、安心だね」


 楽天的な訳ではない。

 二人とも、どちらかといえば気にしすぎる方だ。

 それでもこうして微笑み合っているのは、二人が心の底から信頼し合っているからだろう。


「リガー、カーサ、ファイス。行けるか?」

「何時でも良いよ、兄さん」

「はい!大丈夫です!」

「……こっちも、問題ない」


 三人が並び立つ。

 その光景に、千里は首を傾げた。

 だがその答えも、直ぐに明らかになる。


「ファイス、無茶はするなよ」

「そうだぞファイス、無理だったら言え」

「アンタらは俺の両親か!」

「母“では”ないな」


 一番固くなっていたファイスを、テイガとフィオナが弄って解す。

 その中の言葉を疑問に思った千里は、小さく声を漏らした。


「“では”?」

「うん?……なんだファイス、言ってなかったのか。隠すことでもあるまい」

「忘れてた……んだよ」


 それにフィオナはため息を吐くと、眼を細めてファイスを見た。

 その表情が、時折ファイスがテトラに向けるものとよく似ていて、千里は目を瞠る。


「これの名は“ファイス=フェイルラート”……私の弟だ」

「えぇ!……そういえば、なんか、仕草とか色々似てる!」

「確かに、言われて見ればそうだね」

「ああうるせぇ!さっさとやるぞ、リガー!カーサ!」


 千里とナーリャが揃って感心すると、ファイスは耳を赤くして踵を返した。

 その完全に肩の力が抜けた様子に、リガーとカーサは揃って苦笑した。


「さて、アルハンブラの魔法使い。

 月明かりがないからその全ては発揮できんが、

 そこは太陽に力を借りられるカーサがいるから問題はないだろう」


 テイガがおどけて言うと、カーサはそれに力強く頷いた。

 千里とナーリャは、その様子を、ただ見ていることしかできない。


「さぁ、神の使者の前だ!気を抜くなよ……やれ!」


 テイガの声で、三人は目を閉じる。

 カーサとリガーは手に巨大な杖を持ち、その中央でファイスが剣を振り上げた。


「【涅槃より渡れ、漆黒の影。月夜を隠す闇の使徒よ、暗き鋭きものよ、我に力を】」


 ファイスは目を見開き、そして剣真に闇を纏わり付かせた。


「【深淵より、覗き込みし両者を繋げ、円環の影よ!】」


 剣を、勢いよく振り下ろす。

 闇が固まり、刃となり、形を作る。

 それは遠く離れた門の前まで飛来すると、その場に直径三メートルほどの円環を生み出した。


「【声は響かず、身体は亡くし、ただ悲哀のみを伝えよ……円環の道】」


 返す刃で放たれた影の輪が、今度は彼らから三メートルほど離れた場所に出現した。

 そこへ、獰猛な笑みを浮かべたリガーと、真剣な表情を浮かべたカーサが手を振り上げる。


「【爆ぜよ、爆ぜよ、爆ぜよ、煌めき宿す紅蓮の爆炎よ、我が意の下で爆ぜよ】」

「【雷霆よ、闇を貫き、水を灼き、木々を薙ぎ倒し、風を払う雷霆の輝きよ】」


 そしてその詠唱を重ねて、手を、振り下ろした。


『【今ここに、二色の力を連ねよ!雷霆爆焔衝ッ!!】』


 雷を纏った巨大な焔弾が、影にぶつかる。

 瞬間、それは瞬く間に門の前まで転移する。

 漸く事に気がついたグランゴーレムたちが動こうとするが……遅い。


――ドゴォォォォォンッッッ!!!!


 大きな爆音と共に、門に大穴が空く。

 それによってテイガたちの居場所を掴んだグランゴーレムたちは、ゆっくりとその身体を動かし始めた。


 そう……壊れた門から、離れて。


「今だ……二人とも、影に飛び込め!」

「早くしろ!長くは持たないからな!」


 テイガに言われて、ファイスに急かされて、フィオナの笑顔に押されて。

 千里とナーリャは頷き合うと、影まで走った。

 そしてそのまま、飛び込む。


 映画で見たワープゾーンのような光景はなく、ほんの一瞬のことだった。

 気がつけば全ては過ぎ去っていて、ゴーレムの居なくなった門の前に飛び出す。


「行こう、千里!」

「うん、ナーリャっ!」


 暗い遺跡に、一歩踏み入れる。

 すると、如何なる術なのか、視界がすぐに晴れた。

 誰かが遺跡に入ると、それに反応してヒカリゴケのようなものが煌めくようだ。


 龍の棲まう遺跡。

 その大きさに圧倒されながらも、二人は迷うことなく走り抜けるのであった。











――†――











 手に大剣と斧を持ったグランゴーレムが、大股で歩いてくる。

 そもそものサイズが桁違いだから、馬車で走るよりも速い。


「全員、余力はあるか?」

「誰にものを聞いている」


 テイガが訊ねると、フィオナたちが不敵に笑ってみせる。

 誰一人として、立ち向かうことに恐怖を抱いていない。

 彼らは皆……ルトルイムの、誇り高き戦士なのだから。


「姫さんはファイスとテトラを指示、アメリアもつけてください」

「ああ、了解した」


 テイガはそう言って、シャムシールを構える。

 そして、グランゴーレムを鷹のような瞳で睨み付けた。


「さてそれじゃあ……

 姫さんたちは左のを!俺たちは右をやるぞ、続け!リガー、カーサ!」


 テイガのかけ声と同時に、全員が一斉に走り出した。

 まずはフィオナが、居合いの形を作る。

 彼女は昔、旅の最中で男に剣を教わったことがあった。

 その男に基礎を教えられ、そして自己流に昇華された抜刀術。


 その本当の力は、太陽の下、上質な鞘の下で初めて発揮されるのだ。


「異国の“サムライ”よ、その技術、今一度借り受けるぞ!」


 鞘に剣を収め、腰だめになる。

 テトラが放った矢がグランゴーレムの意識を誘導し、ファイスがそれに追従して影を放つ。この瞬間こそが、最大のチャンスだ。


「【天迅空駆てんじんくうか紅蓮煌ぐれんこうッ!!】」


 居合い術から放たれた、超高速の炎刃。

 その刃は石畳の上を滑るように飛来して、グランゴーレムの真下から突然軌道を変えた。

 下からの超角度強襲という、並大抵の技術では到達できない一撃が、グランゴーレムの左手を落とす。


『―…――……――…………―――ッッ!!』

「しまった!?」


 グランゴーレムはそれに悲鳴を上げると、片手に持っていた剣を投げる。

 咄嗟に避けようとするが、間に合わない。


「【流水よ、悪しきを許せ】」


 緩やかに響いた声が、水の幕を模る。

 それは流れを持ち、滑らすように剣を流した。

 そう……五メートルはくだらない、巨大な剣を流しきったのだ。


「油断は身を滅ぼしますよ、フィオナ」

「アメリア……すまん、助かった!」


 片手と武器をなくしたグランゴーレムに、向き合う。

 体力消耗し、精神も疲労感を訴えている。

 ならばここからが……本当の、戦いだ。











――†――











 シャムシールが煌めき、グランゴーレムの身体を切る。

 縦横無尽に走り回って攻撃を繰り出してはいるが、どれほど保つか解らない。

 だがテイガの役目は、こうしてグランゴーレムの死線で、動き続けることだ。


「【貫け!雷海壊限!】」

「【砕け!炎霆至響!】」


 超高域魔法。

 味方を巻き込んでしまうために普段は使えない魔法が、グランゴーレムの身を削る。

 人間ならば三発撃てば丸一日身動きがとれなくなるであろう大魔法を、リガーとカーサは連射していた。


『――――……!!……――――ッ!』


 グランゴーレムはその連撃に身を削られながら、咆吼する。

 声なき声、音なき音、響きなき響き。

 その全てが大気を震わせて、一番近くにいるテイガを滅ぼそうと、力を揮っていた。


「ハァッ……いい加減、諦めろ!」


 月夜ならば、もうちょっと違った戦いができただろう。

 だが今は永遠の昼間だ。充分に力を使えない。

 それでもグランゴーレムの攻撃を避け続けていられるのは、アルハンブラの隊長というその名を裏付ける実力のためだろう。


「ッ!らぁッ!」


 腕を避け、その腕に乗る。

 真っ直ぐと己の右手を駆け上がるテイガを払おうと、左手を動かす。

 だがテイガはそれに動じないどころか、避けようともしなかった。


「残念だが……俺は囮だ」

「【雷霆よ、穿て】」

「【打ち砕け、爆炎】」


 詠唱が、重なる。

 狙いは……がら空きになった胴体だ。


『【真紅黄金、雷輝焔槍衝!!】』


 紫電を纏う真紅の槍が飛来して、グランゴーレムの胴体を撃ち抜く。

 それはグランゴーレムの内部で煌めくと……爆ぜた。


――ズドォンッ!!

『―――ッ―……!!!』


 胴体と足が分断されて、崩れ落ちる。

 そこからテイガは軽やかに降り立つと、不敵に笑った。


「悪いが俺は、仲間を信頼しているんでね。……姫さんたちを手伝うぞ!」

「はい!」

「了解だよ、兄さん!」


 動かなくなったグランゴーレムを一瞥すると、走り抜ける。

 体力も精神力もそろそろ底を突き、ろくに力は貸せないだろう。

 けれどもテイガは諦めるそぶりすらもみせず、リガー達も同様にそれに付き従うのであった。











――†――











 石と石の間に隙間はない。

 けれど、部屋と部屋の間に隙間はある。

 その隙間から、夥しい量の砂が溢れ出てきた。


「最初の壁は、サンドゴーレム。角を破壊しない限り、何度でも蘇るそうだよ」


 その砂が、足のないゴーレムの姿を象る。

 鉄の一本角が生えた、二メートル弱のゴーレムたちだ。


「うん、わかった……行こう!」


 千里は返事をすると、煌億剣にマガジンをセットする。

 相手は砂漠の熱砂……ならば、一番良いのは蒼炎の魔剣だ。

 千里の手に持つ煌億剣から、蒼い炎が立ち上がる。

 触れた物を凍てつかせる、蒼炎の剣であった。


「【天に在す我らが父よ、其の加護を我らに授けん……Amen】」


 千里が蒼炎剣を振り、サンドゴーレムの動きを止める。

 その間に、青白い光を放った槍が、サンドゴーレムたちの角をへし折っていった。


 石を足の裏で叩き、ただひたすらに疾走する。

 前のめりになりながら、砂を浴びながら、筋肉を軋ませながら。

 痛みに耐え、息苦しさを乗り越え、心に打ち克ち。


「はぁぁっ!」

「先見三手、三射必中!!」


 ただただ、二つの光が通りすぎていった。


「次の部屋はプロナウルフ!焔を纏った狼だ!」

「わかった!なら、このまま!」


 石の扉を打ち破り、疾走したまま狼たちに向き合う。

 一刻も早く、一分一秒でも無駄にせずに走り抜ける。

 それが、外で戦っている仲間達への一番の手助けなのだ。


「壁駆疾閃!」

『ガウッ!?』


 壁を蹴り、強襲し、喉元を斬り裂く。

 炎の熱を感じる間もなく、痛みに沈む暇も与えず、ただ安らぎを施して。


「凍り付け――【蒼炎衝波】」


 気がつけば、周囲一帯に氷像を生み出していた。


「成仏、してね」


 千里は無理に目を伏せ、そして強く前を見据える。

 千里たちが来なければ、ここの魔獣たちは死ぬことがなかった。

 そんな風に考えるのは、命を賭けてきた者達への侮辱だ。


 だから千里は前を向く。

 背中を守る温かな笑顔に、身を委ねて。


「次の部屋はっ?」

「コルカトリスク!サソリの身体と鶏の頭、それに人間の胴体を持っている」

「攻撃は?」

「尾の針は石化の効果があって、手に持つ弓で攻撃してくる。

 情報があるのはここまでだから、その後は僕たちが一番手だよ」

「わかった、ありがとう!それなら、気を引き締めなきゃね!」

「ああ、そうだね……さあ、行こう!」


 手を取り合って、次の部屋へ抜ける。

 横一列に並んだコルカトリスク。

 その群れめがけて、まずはナーリャが弓を射る。


「先見三手、二拍時雨!」


 六本の矢がコルカトリスクたちを足止めし、そこに隙が生まれた。

 それこそが最大のチャンスであり、千里の狙い目だ。


「【断て、光輝!】」


 閃煌剣から放たれた、巨大な光の刃。

 その煌めきたる光刃は、なんの障害もなくコルカトリスクたちを叩ききっていく。

 どんな精鋭を用いても切り抜けることの敵わなかった、龍の遺跡の守護者。

 ルトルイムの総出で打ち破ることのできなかった壁も、何度も強大な敵を打ち破ってきた千里たちの前では紙に等しい。


 彼女たち自身はそのことに気がつかずとも、確かに“神の使者”として周囲を納得させるだけの力を、千里とナーリャは宿していた。


「次の部屋!」


 走り抜けて、扉を潜る。

 その先の大広間は薄暗く、どう歩いて良いかすらわからない。

 だから千里が光を放った道を照らすと、天井に張り付いたなにかの姿が見えた。


「コウモリ?いや、ちょっと違うかも」

「……スィーブ。洞窟に生息する、目が退化した鳥だ。

 触角で音を捉えて、高速飛行で敵を翻弄、そしてその触角で血を吸うんだ」


 ナーリャの言葉に、千里は顔を引きつらせる。

 大広間の天井で、羽を休めるスィーブたち。

 そのスィーブたちが、突然ナーリャ達に襲いかかってきた。


「くっ……【穿て、灼雪!】」


 高熱を宿した雪が、スィーブを焼き払う。

 打ちもらしはナーリャが確実に打ち砕くので、千里は安心して焼き払えていた。


 千里たちはスィーブを焼き払うと、再び走る。

 足を止める来なく、気持ちを前に傾けたまま、ただひたすら駆け抜ける。

 その歩みを止められる存在など、ここにはいないのだ。


 そうしてついに、辿り着く。

 その強大な気配を内包した、扉の前に。


「行こう、千里」

「うん……行こう、ナーリャ!」


 扉を開け放ち、冷たい風を全身で浴びる。

 そこにはただ――暗く沈んだ闇が、音もなく広がっているのであった。






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