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標的艦A

作者: 嬢 遥(はるか)
掲載日:2026/10/07

ようこそ、宇宙の果ての緊張感あふれる世界へ!

決死の演習に挑む『K.h.アトランティス』と、絶体絶命の危機に立ち向かうガロア艦長たちの熱いドラマを、ぜひ最後までのぞいてみてください

 抜き打ちの演習だった。何の通達もない中で始まった演習であった。

 航宙駆逐艦『K.h.アトランティス』は、火星基地に向かっていた。その火星基地で、定期修復の為にドック入りする予定だ。さらにドックにて、空母『アイアンネイル』との邂逅を目指すのだ。そして艦載の最新型センシング・ピケット艇を引き渡さなくてはならなかった。

 侵入経路路に交錯するような軌道を取る艦籍不明の艦をレーダーで捕捉していた。

 乗組員達はすでに配置についていた。

 標的艦は8航宙ノットでゆっくりと慣性低速航行を続けていた。

 その標的艦を敵と見立てて、速(すみ)やかに軌道上から排除しなくてはならなかった。火星基地まで、13時間42分03秒とカウントダウンが始まった。

『これは演習である。だが、実戦である。我艦は、既に邂逅軌道に固定されており、従って今以降回避機動をとることはできない、よって、我艦は、標的を爆散させるしか生き延びる道はないと考える』

 館長のガロア=ブリ=ガロアブルが乗組員を鼓舞して士気を向上させてゆく。

『プローブを軌道上に射出せよ。軌道上の障害物情報を得る』

「第3ハッチ開放。いつでもいけます」

 ガロア艦長は命じた。

『射出』

 艦内に微小な振動が伝わった。

『続いてセンシングピケット艇を射出』

 プローブもセンシングピケット艇も射出した後には回収不可能だ。慣性に従って火星基地への軌道を直進し、やがて自爆装置によって、粉々に粉砕される運命だ。

 光速の0.2%で航行する機体には、たとえ小石ほどの残骸が衝突しても、その威力は凄まじいものとなる。気密が崩壊すれば艦内のすべてのものは宇宙空間へと吸いだされる。だから軌道上のすべての塵は破砕、爆散させなければならないのだった。

 その時である。突然どこか気高さを湛(たた)えた女の声がコックピットに響いたのだ。

「順調のようね。あなたの表情をみればわかるわ」

 ガロア艦長の愛人であり、機関長の任を担っているジャングラファン=スコッチ三等海佐であった。

「順調のようね。あなたの表情をみればわかるわ」

 通信モニターに映るジャングラファン三等海佐の瞳は、過酷な演習の中でも穏やかな光を湛えていた。艦長として冷徹な判断を下し続けなければならないガロアにとって、彼女の存在だけが孤独な心を癒やす唯一の安らぎだった。

 「フン……命懸けの演習だ。油断は禁物だよ、ジャングラファン」

 素っ気なく返しながらも、ガロアの目元はわずかに緩む。二人は公私を分かつプロとして互いを尊重しつつも、心の中では誰よりも深く結ばれていた。

 カウントダウンが進む中、レーダー上の標的艦が突如として不穏な軌道変化を見せた。演習用に配置された無人艦であるはずが、制御システムのアクシデントにより、実弾兵器の自動迎撃モードを起動してしまったのだ。

 「艦長、標的艦から高エネルギー反応! 迎撃ミサイルが本艦へ向かってきます!」

 逃げ場のない回避不能の邂逅軌道。標的艦を破砕しなければ『K.h.アトランティス』は確実に撃沈される。だが、主砲の照準システムが先ほどの振動で同期ズレを起こし、自動着弾補正が機能しなくなっていた。

 「手動で照準を合わせるしかない……しかし、それでは間に合わない!」

 ブリッジに緊張が走る中、機関室からジャングラファンの力強い声が響いた。

「ガロア、機関室の予備出力を直接センシング艇の誘導回路にバイパスさせるわ。私が手動で同期を完了させる。だから——あなたの一撃で、私たちを守って」

 過剰電流を流せば、機関室の端末が爆発するリスクがあった。しかし、彼女の目に迷いはなかった。愛する男が艦長としての責務を果たし、全員で生き残るための、命を懸けた決断だった。

 「頼む、ジャングラファン……!」

 青い閃光がモニターを走り、手動同期完了のサインが点灯する。ガロアは一瞬の躊躇もなく主砲のトリガーを引いた。

 放たれた高エネルギー光線が標的艦を捉え、漆黒の宇宙空間に眩い爆発の華が咲く。迫り来る残骸群も、射出されていたプローブによって見事に砕かれ、『K.h.アトランティス』は無事に火星基地への危険領域を突破した。

 静まり返るブリッジ。ガロアは一転して不安に駆られ、通信機に叫んだ。

 「ジャングラファン! 応答しろ、ジャングラファン!」

 「……相変わらず、大声ね。ガロア」

 煙の上がる機関室のモニターから、少し煤けた顔で笑う彼女の姿が現れた。

 「無事か……!」

「ええ。あなたを一人で火星基地に行かせるわけにはいかないもの。無事にドックに入ったら……二人で約束のカフェに行きましょうね」

 冷徹な艦長としての顔を捨て、ガロアはそっと胸を撫で下ろした。過酷な宇宙の闇の中でも、二人を繋ぐ愛の光が消えることはなかった。


     【了】




短編『標的艦A』をお読みいただき、ありがとうございました!

抜き打ちの演習という緊迫した状況下で繰り広げられる、ガロア艦長と機関長ジャングラファンの危機突破劇。過酷な宇宙空間の闇の中でも互いを信じ合い、命懸けで支え合うふたりの絆を感じていただけていたら嬉しいです。

無事に火星基地のドックへ到着し、約束のカフェでふたりが穏やかな時間を過ごせることを祈りつつ……!

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