2人「は」幸せだったようです
短編、というよりショートショートに近い、かな
2人だけの世界、突き抜ければ幸せかも
わたしの両親は大恋愛の末に結婚しました。
物語にあるような身分差を超えた恋の末の結婚。
今でも2人は仲がいい。
そんな両親はわたしの自慢です。
母はとある国の王族でした。
父はその王家に仕える騎士。
2人は父が母の護衛となったときに知り合いました。
騎士である父は当然もっと以前から母のことを知っていました。けれど、一介の騎士である父は母のことを遠くから見ることしかできませんでした。
成人した母は大人の王族として初公務に赴き、そのとき王宮を出る母のために新しく護衛として着任した騎士の中に父がいました。
2人はお互い一目で恋に落ちたそうです。
娘の私が言うのもなんですが、両親はともに容姿端麗だから2人の出会いシーンはさぞ絵になったことだと思います。
けれど父は騎士であり、貴族出身と言っても子爵家の4男。
王族である母と思いを打ち明け合うわけには行かず、母への想いは胸に秘め、ただ側で母を護ることに努めて何年も過ごしました。
母の方でも父に思いを寄せていても口に出すことは許されず、護衛騎士として側にいた父に人に気付かれぬように熱い視線を投げるしかできませんでした。
身分違いの恋は許されない恋でもあります。
2人は何年も時折視線でのみ心を繋げ合っていました。
そして3年ほど過ぎた頃、とうとう2人が恐れていた事態が起きたのです。
王族である母に縁談が持ち上がりました。
当時関係が悪化していた隣国の王子へ嫁ぐよう父王、つまりわたしの母方の祖父から言われ母は絶望しました。
相手は大国。
母の国は逆らうことができませんでした。
両国の関係を良好にするためにも王女が嫁ぐことは必要なことでした。
王侯貴族の令嬢は家に利益をもたらす相手と婚姻を結ぶのは当然のこと。
王女である母もそのことは良く分かっていました。
そうするべき、と分かっていても人の気持ちは時に道理より自由を求めることがあります。
父も母も必死で耐えていました。
耐えて自分たちの責務に忠実たろうとしました。
そして運命の日が訪れました。
隣国の何番目かの王子が婚姻のために国を訪れました。
結婚式をそれぞれの国で執り行うことになっていたのです。
これは隣国なりの配慮だったのかもしれません。
何番目かの王子には既に4人の妻がありました。
訪れた何番目かの王子はその妻たちを伴ってはおりませんでしたが、彼に嫁ぎ、彼の国元に帰れば母は5番目の妻ということになります。
王侯貴族なら妻が複数人いたり、愛妾がいることも珍しくはありませんが、若い母にとって5番目というのは悲しい現実でした。
母は内心で嘆きましたがどうしようもありません。
何番目かの王子との顔合わせも済ませ、式の準備は着々と進んで行きます。
式が中止にならないだろうか。このまま時間が止まってしまわないだろうか。母は懸命に祈りましたが神は応えてはくれませんでした。
神はいつもそうです。
そこにいて、祈りを求め、貢ぎ物を手にするだけで人を助けてはくれません。
人を助けるのは、いつだって人なのです。
いよいよ式を明日に控えた晩のことです。
母の寝室の窓を叩く者がありました。
それは父でした。
このまま母が何番目かの王子の5番目の妻になるのをどうしても見過ごせなかった父は、騎士としての心と葛藤し、それを乗り越え、国を捨てる覚悟をして母の下を訪れたのです。
劇で言えば一番の見せ場となるシーンでしょう。
王族の身分は捨てることになるが自分とともに行こう、と言う父の手を取るとき、母にはなんの躊躇いもなかったそうです。
思い合っていた2人がついに結ばれるシーンには敵役も必要ということでしょうか。
母の部屋の異変に気付いた護衛騎士たちや、何番目かの王子までがやって来ました。
彼らは2人の道を妨げようとします。
父は止むなく剣を抜き、彼らをただ一剣のみを以て退け、そのまま母を連れて国を出ました。
このとき、何番目かの王子とも一対一で刃を交え、見事相手に手傷を負わせて勝利したそうです。
当然追っ手がかかり、何度も何度もかつての同僚たちと斬り結ぶことになりましたが父は負けませんでした。
そして国境を越え、別の国に渡った父と母は小さな街の外れに小さな家を買い、子宝にも恵まれて長く幸せに暮らしました。
両親の母国はもうありません。
両親が国を出た一年ほど後に戦によって滅ぼされ、別の国の領土となってしまったからです。
それでも、わたしは一度行ってみたいと思っています。
両親が生まれ育ち、出会った場所へ。
※
「成る程、それで君はこのかつて王都だった街にやって来たんだね?」
「はい」
衛兵隊を率いるリロイの問いに若い女性は力なく答えた。
女性はおどおどとして、小動物のように震えている。
周囲に気を配り、些細な物音にも過敏に反応していた。
それも仕方のないことで、彼女は観光で訪れた街で地元住民に取り囲まれ、口々に罵られた後で暴行を受けた。
「どうして、わたしがこんな目に」
初めて訪れた土地で地元住民から向けられた憎悪の言葉と眼差し、若い女性はすっかり怯えてしまっていた。
街の治安を預かる衛兵たちが駆け付けるのが遅ければ最悪の事態もあり得た。
それほどに民衆は熱くなっていた。
「どうして、か。それが分からないのが問題じゃないかな」
「?」
リロイの言葉に彼女は首を傾げる。
が、リロイは説明をしなかった。
「君はお母さんにそっくりだと言われない?」
「はい、まるで双子の姉妹のようだと言われることがあります。でもちゃんと母の方が老けてるんですよ」
「だろうね。
この街はね、いい街なんだ。今から18年前までは別の国の王都だった。隣国の怒りを買って侵略されてしまって焼け野原になった。領土としては現在の国の一部になったけれど、住人たちは頑張って復興した。
沢山の血が流れてね。君を襲っていた連中もそのときの戦争で身内を亡くした者ばかりだよ。
家を焼かれ、家族を殺され、それでもみんな頑張った。
国名が変わっても住人は生きて行かなきゃいけないからね」
「話には聞いています。王家は、母の身内もみんな殺されたって」
うん、そうだね、とリロイは頷く。
「それでも、君のご両親の知り合いもまだ多くいるんだ。私もその1人でね。
それで、君のご両親は今どちらにお住まいかな? 是非、ご挨拶したいのだけど」
にこりと微笑んだ衛兵隊長リロイ。
愛想の良い笑みのはずなのに娘は何故か背筋に冷たいものを感じた。
結婚式を直前で台無しにする
友好のための婚姻をぶち壊す
他国の王子に怪我を負わせる
トリプル役満ですね
そりゃ滅ぼされますわ




