【序章18話】知性と知性の決戦
都市の中心部、最も人目につき、報道カメラが集まる大交差点。
夜のネオンが、アダム・リードが率いる高性能追跡ドローン群と、彼自身の乗る無人追跡車両を不気味に照らしていた。
アダムの顔は、冷たい興奮で引きつっていた。
彼は、ヒロが流した「知性自爆」の偽情報が真実であるはずがないと確信していた。ヒロの行動は、自分に対する究極の知的な挑戦であり、その裏には必ず究極の罠が潜んでいると読んでいた。
アダム:(罠は承知の上だ、ヒロ。この交差点は、お前が私を欺くために選んだ場所だ。だが、お前がどんな策略を仕掛けようとも、その演算の核は、私の技術の前に晒される。お前の知性を、この場で完全に解析し、私のものとする!)
彼は、ドローン群に『デウス・エクス・マキナ』を再起動させ、交差点周辺に強力な電磁波ノイズを放出し始めた。これは、ヒロたちの思考通信を再び麻痺させるための準備であり、同時に、ヒロの最後の瞬間の演算を逃さず記録するための最終解析システムの起動だった。
アダムの思案通り、ヒロとシャドウは、交差点の地下にある古い電話回線の中継施設に潜んでいた。バルドは、ナナの回復を優先するため、地下廃線区画に留まっている。
ヒロは、アダムが「ヒロの知性が自滅するはずがない」という傲慢な前提で動いていることを完全に利用した。
ヒロ(念話・シャドウへ):『アダムは、私達がこの場で「最後の抵抗」あるいは「最後の策略」を仕掛けると予測している。彼は、私の知性の動き、その演算の波長を解析しようとしている。』
ヒロの作戦は「知性の動きそのものを欺く」ことだった。
「シャドウ。君の情報撹乱能力を最大限に集中しろ。私達は、存在しない、壮大で非論理的な策略の情報を、アダムの解析システムへ向けて一斉に流し込む!」
シャドウは、ヒロの演算を理解し、その冷たい目で応じた。
シャドウ(念話):『(了解。偽の叡智を流し込む。アダムの解析システムを、無限の虚構で満たす。)』
ヒロの指示により、シャドウは、アダムが構築した解析ドローンネットワークに向けて、大量の偽情報を一斉に放出し始めた。それは、ヒロが演算した「存在しない、あまりに壮大で非論理的な作戦」の断片だった。
* 偽情報1: 東京湾海底ケーブルを経由し、世界中の銀行システムを掌握する。
* 偽情報2: 軌道上の軍事衛星をハッキングし、アダムの研究施設へ誘導する。
* 偽情報3: バルコの統率波を超増幅し、都市の全人類を強制的な恭順状態にする。
これらの情報は、すべてが技術的にはわずかに可能でありながら、論理的には完全に破綻しているものだった。
アダムの解析システムは、これらの情報を受け取り、「ヒロの真の目的」を解明しようと、演算を最大化させた。アダムの思考は、ヒロの偽の叡智と、彼自身の「ヒロは自分より劣らない」という傲慢な前提によって、無限のループに陥った。
アダム:(どれが真実だ!?衛星か?銀行か?バルドの超増幅統率波か!?なぜ、こんなに非論理的な結論が導かれる!?演算、限界を超える!)
彼の解析システムは、ヒロの知性を解析しようとするあまり、その非論理的な情報に飲まれ、最終的に過負荷を起こした。
交差点上空で、アダムの追跡ドローン群は、一斉に制御を失い、沈黙した。
ドローンが放っていた電磁波ノイズも停止した。
車両の中で、アダムは激しい頭痛に襲われながら、ディスプレイに映る「ERROR: LOGIC SYSTEM COLLAPSE(論理システム崩壊)」の文字を見つめた。
「馬鹿な……。私は、お前の知性の本質を解析しようとした。なのに、お前は……何もしなかった!?」
ヒロは、アダムの「知性は論理的であるべき」という絶対的な信念を利用し、「非論理的であること」によって勝利したのだ。ヒロの知性は、技術や力ではなく、「相手の思考の前提そのもの」を破壊することで、アダムの知性を打ち砕いた。
ヒロは、交差点の地下深くから、沈黙したドローン群と、狂気に囚われたアダム・リードに向けて、最後の念波を放った。
ヒロ(念話・アダムへ):『アダム・リード。あなた方は、私達の知性を解体しようとした。私は、あなたの知性を過負荷によって破壊した。私達の叡智は、技術よりも、生命と心に根差している。』
アダムは、ヒロの念波を認識した瞬間、己の絶対的な敗北を悟り、そのまま車両の中で意識を失った。




