【序章11話】人類の反撃と交渉
ヒロたちのメッセージ拡散から一夜明け、政府と軍部は極度の緊張状態にあった。
首都圏防衛省の地下深くにある危機対策本部では、研究所所長と防衛技術局長が、捕獲作戦の最終確認を行っていた。
「テロリストが『共存』を主張しているなど、受け入れられるはずがない。彼らは脅威だ。特に、統率ハスキー・バルドの能力を最優先で無力化せよ!」
スクリーンには、バルドの体から発せられる低周波の統率波の解析データが表示されていた。
「音響兵器の開発は最終段階に入った。バルドの念波周波数を解析し、それを相殺する逆位相の超音波シールドを都市の主要区画に緊急配備する。群れの連携はこれで断つ。さらに、対念話用ドローンを投入。高出力の電磁波ジャミングを都市全域で展開し、マウスの思考通信を完全に遮断する!」
人類は、ヒロたちを単なる動物ではなく、「テクノロジーで対抗すべき超常的な存在」と見なし、莫大な資源を投入し始めていた。
彼らの作戦は、シホが提供した情報と完全に一致していた。
その中で、危機対策本部はシホ教授の行方不明を公にした。彼女は「テロリストに思想的に同調した裏切り者」として、既に最重要指名手配犯となっていた。
バルドの群れは、夜明けを避けて都市のさらに奥、広大な旧地下鉄の廃線区画へと移動していた。
高層ビル群の地下深くに広がるこの空間は、鉄筋コンクリートと岩盤に守られ、地上の音響兵器や電磁波の直接的な影響を受けにくい、ヒロの計算による次の戦略的要衝だった。
バルドは群れのハスキーたちを、廃線の換気口やトンネルの出入り口に配置し、厳重な警戒網を敷いていた。彼の精神は、地上で展開される人類のテクノロジーによる圧迫感を感じ取り、張り詰めていた。
ヒロ(念話・バルドへ):『バルド。人類は、君の能力を破壊するために、音響と電磁波のシールドを配備し始めた。君の統率力が封じられることは、群れの瓦解を意味する。』
バルドは、その脅威を理解していたが、ナナの存在が彼の心を支えていた。
ナナ(念話・バルドへ):『バルド、大丈夫。あなたの心は安定している。ヒロの叡智と、私の波動調整があれば、人類の音響兵器を無力化できるはずよ。』
ナナの提案は、ヒロの脳内で瞬時に演算された。ナナの共感能力は、他者の感情波動だけでなく、物理的な音響波動にも作用し、その周波数のズレを微調整する応用が可能であるとヒロは結論付けた。
ヒロ(念話・ナナへ):『可能だ。ナナ。君の力が、私達の新しい防壁となる。人類の兵器は、君の心の力によって、鎮静の音色に変わる。』
シホは、シャドウとの通信を通じて、人類側の極秘作戦計画の詳細をヒロに送り続けていた。
シホ(通信テキスト):「彼らの最終目的は破壊ではない。生きたまま捕獲し、あなた方の叡智を解析することです。このまま逃げ続けても、あなた方はやがて追い詰められる。この流れを止める唯一の手段は、「対話」です。私は、公開交渉を提案します。」
廃線の暗闇の中、ヒロはナナとバルド、そして情報を提供するシャドウに、シホの提案を伝えた。
ヒロ(念話・ナナとバルドへ):『シホは、私達が自ら姿を晒す公開交渉を提案している。罠の可能性は極めて高い。しかし、暴力なしに人類社会の意識を変えるには、この道しかない。』
バルドは、シホの信念の波動を遠くから感じ取りながら、ヒロに力強いイメージを送信した。
バルド(イメージ)『(恭順、実行。私達の主張を貫く。シホ様を守る。)』
ナナは、恐怖を押し殺し、ヒロへ強い共感の波動を送る。
ナナ(念話):『ヒロ。私は、シホさんの心に嘘がないことを保証できる。彼女の信念は、人類が持つ最高の可能性よ。賭けましょう。』
ヒロは、仲間たちの強い意志、そしてシホの自己犠牲の覚悟を計算に入れ、人類との対話という最も危険な道を選択した。
ヒロ(念話・シホへ):『シホ。交渉場所、時刻、そして、交渉に参加する人類側のメンバーを指定しろ。私達の交渉は、対等な地位で行われる。もし、一発でも銃弾が発射されれば、私達の革命は平和的手段を放棄する。』
シホは、ヒロからの返答に震え、人類と動物、双方の運命が自身の双肩にかかったことを悟った。
彼女は、すぐに国際社会と世論を味方につけるための、緻密な交渉計画を練り始めた。




