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5話「初依頼、不満タラタラキノコ狩り」

ギルドでの手続きも無事終わり、俺たちはついに冒険者としての第一歩を踏み出した。……とはいえ、与えられた依頼はとんでもなく地味なものだった。


「なぁリディア、なんで俺たちの初依頼が“キノコ採取”なんだ?」

「それは……冒険者はみんな最初は雑用から始めるものなんです。仕方ありません」

「いやいや! 俺は剣と魔法の世界に転生してきたんだぞ? よりによってキノコ狩りだなんて……」


俺はぶつぶつと不満を漏らす。森の入口に立つ俺の手には、錆びついた短剣。冒険者らしい装備とは言えず、まるでゴミ拾いに行く気分だ。


「レンさん、そんなに嫌そうにしないでください」

横からミナが小首を傾げて言う。赤いサイドテールがふわりと揺れる。彼女の琥珀と緑のオッドアイが、妙に楽しげに輝いているのが癪だ。

「私は、なんだかワクワクします。だって……レンさんたちと冒険できるんですもの」


……ああ、そういうキラキラした目で見られると、なんだか居心地が悪い。俺はゲーム廃人で、こっちの世界では駆け出し冒険者。そんな大層なもんじゃないのに。


「と、とにかく。今日は森で“夜光キノコ”を十本。見つけたら採取して、ギルドに持って帰れば報酬です」

リディアが真面目な顔で説明する。青髪が朝日に照らされてきらめくのが少し眩しい。

「ふん、簡単な仕事だな」


――そう、簡単なはずだった。



森の奥はしっとりとした空気に包まれていた。足元には苔が生え、木々の間から射す光はどこか幻想的だ。夜光キノコは薄暗いところに群生しているらしい。


「ほら、ありました!」

ミナがしゃがみこんで指差す。確かに、木の根元に小さな青白い光が集まっていた。

「おお、意外ときれいだな」

「ふふっ、ちゃんと採取してくださいね、レンさん」


……俺は渋々しゃがみ込み、短剣でキノコを根本から切り取って袋に入れる。俺の転生人生、華々しい冒険の第一歩がキノコ採取だなんて。笑えない。


「む、気配がします」


そのとき、リディアがぴくりと耳を動かした。次の瞬間、茂みからガサガサと音が響く。


「ゴ、ゴブリン……!?」

ミナが小さく悲鳴を上げた。


茂みから現れたのは緑色の小鬼たち。粗末な棍棒を握り、よだれを垂らしている。三体。俺たちを獲物とでも思ったのか、ぎらりと目を光らせている。


「ふふん、ここは私の出番ですね!」

リディアが胸を張る。青髪を揺らして、剣を抜き放つ姿は――一瞬だけ勇ましく見えた。

「ミナ、下がっていてください。私が華麗に仕留めて――」


……が、その直後。


「きゃあっ!」


足を滑らせて派手に転倒。泥の上に倒れ込み、剣を落としてしまった。


(……お約束すぎるだろ)


俺はため息をついた。立ち上がろうとするリディアの横を、ゴブリンが棍棒を振りかざして迫る。


「リディア、しゃがんでろ!」


俺は地を蹴った。錆びた短剣を逆手に構え、ゴブリンの懐へ飛び込む。次の瞬間――。


「ッ!」


ゴブリンの喉に短剣を突き立てる。

血が噴き、ゴブリンは泡を吐いて崩れ落ちた。


「なっ……!」


リディアが目を丸くする。その隙を突こうと、二体目のゴブリンが背後から迫った。俺は半歩だけ体を回転させ、棍棒を紙一重で避ける。その勢いのまま、短剣を横薙ぎに振るう。


「ぐぎゃっ!」


喉を裂かれ、二体目も倒れる。最後の一体は怯えたように後ずさった。俺は距離を詰め、胸を狙って一突き。鈍い音を立ててゴブリンが崩れ落ちる。


……ほんの十数秒の出来事だった。


「……」

「……」


静まり返る森の中で、リディアは泥だらけのまま呆然と俺を見上げている。


「お、お見事です……レンさん」


最初に声を上げたのはミナだった。オッドアイを輝かせて、両手を胸の前で握りしめている。

「すごい……! 本当に、すごかったです! 一瞬で三体のゴブリンを……!」


……やめろ。そんなキラキラした目で見るな。俺はただ、ゲームで何千回と繰り返してきた動きを再現しただけだ。身体に染みついた反射が出ただけ。


「ふ、ふん……これくらい、大したことありません」

立ち上がったリディアが、必死に強がるように言う。しかし頬は真っ赤で、声もわずかに震えていた。

「べ、別に……レンが倒してくれたのは助かったけど……そ、それだけです!」


その言葉に、俺は肩をすくめるしかなかった。



「よし、これで十本達成。帰ろうぜ」


森を出た俺たちは、袋いっぱいの夜光キノコを抱えてギルドに戻った。受付嬢に渡すと、依頼はあっさりと達成扱いとなり、少額の報酬を受け取る。


「ふぅ……冒険者って、こういう地味な仕事も多いんですね」

ミナが笑みを浮かべる。

「でも、レンさんの戦い……本当に格好よかったです」


「……ああ」俺は頭をかいた。「でも、俺はキノコハンターじゃねぇんだがな」


苦笑混じりの俺の言葉に、リディアとミナが顔を見合わせて、くすりと笑った。


……こうして俺たちの冒険は、少しずつ始まっていくのだった。

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