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4話「ギルド登録…意外な事実」

商業都市アルメリアの中央広場に面した石造りの建物――それが冒険者ギルドだった。

 人の出入りは絶えず、武装した男たちやローブを纏った魔術師風の人間が次々と出入りしていく。

 扉を開けると、木の香りと酒場のようなざわめきが押し寄せてきた。

 掲示板に張り付く冒険者たち。カウンターで依頼を受ける者。奥の酒場で騒ぎ立てる酔っ払い。まさに冒険の拠点といった空気だ。


「……すごい、ですね」

 青い髪を揺らしながら、リディアが感嘆の声をもらす。瞳が真剣に光っている。

 一方、俺の隣でそわそわしているのは赤髪の少女――ミナだ。

 人ごみが苦手なのか、彼女は俺の袖をぎゅっとつまんで離さない。


 俺たちはまだ正式な冒険者じゃない。依頼を勝手にこなして報酬を受け取ったり、野良同然で活動していた。

 でも、これからは違う。ちゃんと「冒険者」として登録する。

 そのためにここへ来た。



「登録をご希望ですね? では、こちらの用紙にご記入ください」

 受付嬢が微笑みながら差し出してきたのは、羊皮紙に書かれた申請書だった。

 名前、年齢、出身地、得意分野……記入欄はいくつかある。


 俺は迷いなく筆を走らせた。

【レン 十七歳 ――】

 そこで、少しだけペンを止める。出身地、か。


 この世界に来る前、俺はただのゲーマーでしかなかった。出身地なんて正直に「日本です」なんて書いたら、頭のおかしい奴だと思われるに決まっている。

 けど、誤魔化し方が分からない。俺が逡巡している間に、リディアがさらさらと記入して提出した。


「リディア・アークライト、十六歳。出身地は――アルディナ村です」


 なるほど、リディアは素直に書けるわけだ。貴族の出でもあるし、地元も健在。

 俺が感心していると、横でミナが筆を止めて硬直していた。


「……っ」

 赤髪の横顔が引きつっている。琥珀色と緑柱石のオッドアイがわずかに揺れ、明らかに動揺していた。


「どうした、ミナ?」

 声をかけると、彼女はビクリと肩を震わせる。


「い、いえ……その……」

 しどろもどろで視線を落とす。まるで何かを隠すように。


 ……トラウマか。

 彼女の出身地に関しては、なにか事情があると直感した。


 だったら。


「全員、アルディナ村出身でいいだろ」

 俺はさらっとそう言った。


「えっ……」

 リディアが目を瞬かせる。だがすぐに、小さく笑って頷いた。

「……そうですね。それが一番良いと思います」


 ミナの顔に安堵の色が広がる。彼女は小さく「……レン様……」と呟いた。

 心底ほっとしたような声音だった。



「では、年齢の確認も必要ですので、失礼ながらお一人ずつお聞きします」

 受付嬢が穏やかに告げた。


「俺は十七」

「私は十六です」

 俺とリディアが即答すると、受付嬢は「なるほど」と頷く。


 そして、視線がミナへ。


「わ、私は……じゅ、十八歳です……」

 赤くなりながら小さな声で答えた。


 ……一瞬、頭が真っ白になった。


「え、ミナって……俺より年上なのか?」

「……わ、私が一番年上なんです……すみません」

 申し訳なさそうに項垂れる。


「いや、別に謝ることじゃないだろ」

 俺が苦笑すると、リディアが目を丸くしていた。

「驚きました……てっきり私より下だと思っていました」


 ミナはますます赤面し、俺を見上げて――。

「……でも……れ、レン様の方が、ずっと大人に見えます……」


 ……やめろ。そんな潤んだ瞳で言うんじゃない。

 俺は不意打ちを食らって言葉を失った。


 けれど次の瞬間、俺は何気なく言ってしまった。


「ま、俺がみんなを守るから安心しろよ。リディアもな」


「えっ……」

 リディアがぽかんと俺を見る。頬が一瞬で朱に染まった。

 その横で、ミナが小さく「……っ」って唇を噛んだのを見逃さなかった。


 ……あ、やっちまったか?



 最終的に、俺たちは無事に登録を終えた。

 名前の横には【アルディナ村出身】と書かれている。

 それは小さな嘘。でも、三人で共有した秘密。


 カウンターを離れると、リディアが静かに言った。

「……これで、私たちは正式にパーティですね」


「ああ」

 俺は頷いた。

「これからは堂々と冒険者だ。依頼も受けられるし、情報も手に入る」


 リディアは満足そうに微笑み、ミナは少しだけ寂しそうに、それでも嬉しげに俺を見ていた。

 ギルドのざわめきの中、俺たちは小さな一歩を踏み出したのだ。

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