2話「青き聖騎士との出会い」
石畳の街道を歩く。昨日の混乱した召喚式を思えば、今の穏やかさは拍子抜けするほどだ。
転生者のほとんどは未だに呆然としているか、あるいは武器ガチャの結果に一喜一憂している。
俺はといえば——もう切り替えていた。
ゲームだと思えば全て腑に落ちる。
勝ち残るのは百人のうち一人。勇者の座はただ一つ。
だったら、やることは決まってる。効率的に進める。それだけだ。
「……おっと?」
街門の前、人だかりができている。
何事かと覗いてみると、中央に立つ一人の少女に視線が集まっていた。
青い。
鮮やかな青髪が陽光を浴びて宝石のようにきらめく。
銀の鎧に身を包み、背には聖剣らしき長剣。背筋を伸ばして佇むその姿は、絵に描いたような“勇者候補”だ。
「私はリディア・フォン・アルトリース。アルトリース辺境伯家の嫡女にして、騎士の誉れを背負う者!」
澄んだ声が人々に響き渡る。
おおーっと歓声が上がった。
さすがは貴族様。自己紹介からして格が違う。
実際、オーラも剣気も堂々たるものだ。
「……強そうだな」
思わず漏らす俺。隣の通りすがりの転生者が「うわ、主人公感やば……」と呟いているのが聞こえた。
——だが。
「お嬢さん、お嬢さん! そこの模造聖剣、どうやら魔力封印がされてますな。
しかし運が良い! この聖なる護符を一枚貼るだけで、たちまち本来の力を発揮するのですよ!」
すかさず近寄る胡散臭い商人。
薄汚れたマントに、いかにも怪しい笑顔。
こりゃ完全に詐欺フラグじゃねえか。
「な、なんですって? 本当なのですか?」
「ええもちろん! 通常五万ゴールドのところを、お嬢さんに限り特別に一万で……!」
「そ、それは……!」
おいおい。
さっきまであれだけ勇ましかったくせに、食いついてんじゃねえよ。
聖騎士の名が泣くぞ。
俺は溜め息をつきながら一歩踏み出した。
「はいカットカット。典型的な初期街の詐欺イベントじゃねーか」
「な、なに?」
「ゲームやってりゃ誰でもわかる。お守りとか護符とか言って武器強化を謳う連中は全部詐欺。買った瞬間に消えるか、最悪呪われる。お前もだ、さっさと失せろ」
商人の目が泳ぐ。
俺が睨むと、舌打ちしながら人混みに紛れて逃げていった。
残されたのはリディアだけ。
青髪の聖騎士はポカンと口を開けたまま固まっていた。
「た、助かった……のかしら?」
「助かったんだよ。ていうか、あんたほんとに騎士か? お人好しすぎんだろ」
「わ、私は……決してポンコツなどでは……!」
耳まで真っ赤にして否定する彼女。
図星を突かれた顔ほど分かりやすいものはない。
周囲の人間もクスクスと笑っている。
彼女は恥ずかしそうに胸を張り直し、必死に威厳を取り戻そうとする。
「こほん! ……貴様、名は?」
「俺は蓮。ただのゲーマーだ」
「れ、蓮……。ふん、先ほどの件、礼を言っておこう。しかし勘違いするな。私は強い。決して——ポンコツではない!」
「はいはい」
やばい。
こいつ、戦闘じゃ無双するタイプだろうに、生活面は致命的にダメそうだ。
むしろ放っといたら危険すぎる。
「ま、しばらく一緒に行動するか。どうせこの試練、ぼっちよりパーティ組んだほうが効率的だしな」
「なっ……勝手に決めるな!」
「嫌ならさっきみたいにまた詐欺られてから後悔すれば?」
「ぐぬぬ……」
結局、青き聖騎士リディアは顔を真っ赤にしたまま俺の隣を歩き出した。
プライドは高いくせに、放っておけないポンコツ。
こうして俺のパーティに、最初の仲間が加わった。