1話「錆びた短剣と転生ゲーマー」
気がついたら、知らない場所にいた。
白い大理石の床。どこまでも続く空間。天井も壁もないのに、なぜか明るい。
――ああ、死んだんだな。
最後の記憶は、深夜のゲーム配信だ。
世界大会優勝の余韻に浸りながら、三日三晩、食事も睡眠もろくに取らずに攻略配信をして……そのまま意識が飛んだ。
まあ、ある意味ゲーマーらしい最期だろ。
周囲を見渡せば、人が百人ほど並んでいた。
男女も年齢もバラバラ。学生っぽいのからおっさんまでいる。
だけど、その全員から俺と同じ匂いがする。
――ゲーマー特有の、夜更かしと不健康と妙なプライドが染みついた雰囲気。
「え、なにこれ夢?」
「おいおい待てよ、さっきまでゲームしてたはずだぞ!」
「俺……事故で……いや、まさか死んだ?」
あちこちで動揺の声が上がる。
まあ普通はそうなるよな。
突然死んで、知らん場所に百人も集められたら、俺だって混乱する……はずなんだが。
俺はむしろ、不思議なほど冷静だった。
頭のどこかで、すでに「異世界転生モノのテンプレ」を思い浮かべていたからだ。
……やっぱり俺、ちょっとイカれてんのかもしれん。
その時、頭に直接響く声があった。
> 「これより勇者選定試練を始める。我らが世界を救う勇者は、汝ら百人の中から一人のみ」
うん、ほら来た。やっぱりラノベ展開だ。
「な、なんだって!?」
「勇者? 世界を救う? 意味わからん!」
「帰らせろ! 俺はこんなの望んでねえ!」
周囲のゲーマーたちは叫び声を上げる。中には半泣きの奴もいる。
無理もない。ゲーマーだからって全員がハードコアな思考してるわけじゃない。
ただのエンジョイ勢もいれば、ヌルゲーマーだっている。
突然「お前らで殺し合って勇者決めます」と言われて、冷静でいられる方がおかしい。
でも――俺は違った。
むしろ、心臓がドキドキして仕方がなかった。
「……面白え」
ここまで来ると、もはやゲームの続きみたいなもんだ。
どうせ死んだ身だ。今さら現実に未練なんてない。
なら、この世界を“攻略”するしかないだろう。
> 「各人には一つ、武器を授ける。それこそが汝らの運命を決める」
声がそう告げると、頭上から光が降り注ぎ、次々と武器が現れ始めた。
「よっしゃ、大剣だ!」
「魔杖だ、やった!」
「弓か……まあ悪くはないな」
あちこちで歓声が上がる。なるほど、ランダムガチャ式ってわけか。
強武器を引いた奴は勝ち組。弱武器を引いた奴は……
カラン、と俺の前に落ちてきたのは――ボロボロに錆びた短剣だった。
【錆びた短剣】
攻撃力:極小
特殊効果:なし
備考:まともな戦闘には向かない
……はい、最弱確定。
「ぷっ、マジかよ錆びた短剣とか」
「即脱落枠だな」
「合掌」
周囲から笑いが漏れる。
そりゃそうだ。こんなの持って勝てるわけがない。
でも――俺は、笑った。
「ははっ……いいねぇ。ハズレ武器こそ最高だ」
俺はかつて、誰も使わない産廃キャラで世界大会を制した。
産廃? ハズレ? そう言われると燃えるんだよな。
弱武器で強者を喰う――それがゲーマーの真骨頂だ。
周囲が困惑と恐怖に沈む中、俺だけが心からワクワクしていた。
この試練――絶対に楽しませてもらう