悪役令嬢 ローズ編5
「あのさ、俺、ローズのことが……っ」
ガチャ
レイ様が言い切る前に部屋の扉が勢いよく開く。
入ってきた人物を見て、私もレイ様も驚いて口を開けた。
「ルイ」
「兄さん」
入ってきたのは、怒りと悲しみと憂いさを混ぜた顔をした、ルイだったから。
「なんで、ローズとお前が一緒にいるわけ?」
ルイは、入ってきてレイ様に詰め寄る。
その顔は今にも人を殴るんじゃないかと思うほど怒りに満ちていた。
「聞いてないんだけど」
レイ様もルイの血相を変えた顔に驚いて、言葉も出ずに口を開けている。
「ルイ」
きっと、私とレイ様が密会をしていたと思っているであろうルイに私は静かに言う。
「私とレイ様は話していただけよ?あと、ルイが私を置いてっちゃうから、私は探してたのに」
レイ様は何も悪くない、そう言うように私が言うとルイは少し焦ったようにレイ様から離れる。
「だって……ローズが俺じゃない男といたと思うと……」
少し泣きそうに彼は私を見る。
……うっ。
好みすぎる顔でそう言ったルイ。今すぐ抱きしめてあげたいのを我慢して私は淡々と言った。
「私に真実の飴食べさせて急にどっか行っちゃたのはルイじゃない。そんな事言うなら、私から離れないでよ」
最後の方は少し恥ずかしくなって横を向いて言うと、視界の端でルイが明るくなったように見えた。
「ごめん、ローズ。離れないから許してっ」
少し恥ずかしそうにそう言って彼は私に飛びついてくる。
あまりにも急だったので私はバランスを崩して転びそうになった。
「もうっ、危ないわっ」
「ごめん」
私が少し笑うとルイも少しほっとしたように笑う。
そしてレイ様の方を見た。
「って、事だから。レイごめんね。ローズは連れて帰るよ」
「聞いてくれてありがとう、レイ様」
私たちがレイ様にそう言うと彼はいつもの愛想の良い笑みを浮かべて手を仰いだ。
「またね、ローズ。兄さんも……分かってもらえて良かったよ」
少しため息をついているレイ様に苦笑いし、部屋を去った。
♡♡♡
「本当に……なんで真実の飴なんか食べさせたの?」
城の廊下を歩いている最中、私が言うとルイは少し困ったように微笑んだ。
「ちょっとあの時情緒不安定でさ」
「それ理由になってないわ。ちゃんと言って。婚約者でしょ?」
私がルイの瞳を見つめると、彼は少し目を細めた。
「ローズは俺が婚約者で良かったのかなって、思っちゃって。年齢的にはレイの方が同じ歳だし、俺が好きなのか不安で……ローズが食べたら本当に思っていることが分かると思って」
彼は本当に不安そうに言う。
もしかしたら、ずっと不安に思っていたのかもしれない。苦しめていたのかもしれない。
ーー婚約者という言葉に。
「あのね、ルイ」
私はルイの瞳に語りかける。
「私が“婚約者″という言葉を使うのは、ルイが大好きだからだよ。未来の旦那様だと思ってるからだよ」
真剣にそう言うと彼の瞳から大粒の涙が溢れた。
「そう、だったんだ……良かった」
そして大好きな彼の笑顔が溢れた。
きっと、正直に伝えることが、不安にさせないくらい愛を伝えることが私には必要だったのかもしれない。
「俺も大好きだよっ」
だって、彼はこんなにも私を大事にしてくれているから。
「やっぱりローズは、俺だけを見ててくれれば良いの」
ちょっとヤンデレな感じはするけど。あはは。
これからも、生涯を共にする人だから。
私にとって特別大事な人だから。
ーーもう、間違えたりはしない。
(「ローズ……婚約が破棄されることになった」)
あの悪夢のようなことは二度と。
♡♡♡
「ローズ……ローズ、ローズ……」
金色の髪を揺らし、ある男は紫の瞳を揺らがせる。
「俺の……大事な人……」
一人寂しげな部屋で男は呟く。
そしてグラスに入った飲み物を口に流し入れた。
「兄さん、ごめんね」
少し悲しそうに言った彼の手には、紫色に輝く宝石の指輪が握られていた。
♡♡♡
きっと、そのヒロインはまだ知らない。
この世界は、少しづつ本来と違う形になっているということを。




