悪役令嬢 ローズ編4
「レイ様っ」
「やあ、ローズ。今日もかわいいね」
廊下の角でぶつかった彼は、ちょうど探していたレイ様だった。
「そんなに急いでどうかしたの?」
ルイと少し似た、でも甘い声を響かせてレイ様はそう言う。
「ちょうどレイ様を探してたの」
私がそう言うとドレスの裾を払いながらそう言うと、レイ様は綺麗な紫の瞳を揺らがせて微笑んだ。
「そっか、嬉しいな。僕もローズを探してたんだ」
「私を?」
「ああ、さっきリリア嬢との一件の後、兄さんと広間を出て行っただろう」
あ、見られてたんだ。
「だけど、さっき広間から見える廊下を兄さんが通り過ぎて行ったのに、ローズがいなかったからさ、何かあったのかと思って」
レイ様が少し後ろを振り返る。
振り返った先には、まだ賑やかなパーティが広間で行われていた。
「いろいろ噂になってたよ、第一王子はローズ嬢を溺愛してるとか、将来王家は安定だとか、いろいろね」
「そ、そっか」
ーーちょっと、恥ずかしいけど、嬉しいかも。
私が一人赤くなっていると、レイ様が少し冷たい表情をしていた。
私がそれに気づいた時、慌ててレイ様はいつもの微笑みに戻っていたけど。
まずい。ちょっと惚気すぎたのかしら。
って、今はそのルイの事で悩んでいるのだけれど。
「ちょっと久しぶりにゆっくり話さない?ここだと誰か来るかもだし、別室で」
「そうね」
ルイについてもゆっくり聞きたいし。
私はうなづいて、レイ様について行った。
「なんで、レイとローズが一緒にいるわけ?」
その様子をルイに見られているとも知らずに。
「俺の愛が足りなかったのかな?」
苦しそうにルイが言っているとも知らずに。
ーーそれが、彼を支配するとも知らずに。
♡♡♡
「わあっ。マカロンじゃない!」
レイ様について行った部屋のテーブルには私の大好きなマカロンが置いてあった。
「うん、ちょうど専門店から届いたんだ。食べていいよ」
「ありがとう。ん〜!おいひいわね」
私が幸せに浸っていると、レイ様が私の顔を覗く。
「本当にローズが悪女だなんて噂、誰が広めたんだろうね?こんなにかわいいのに」
私は口元をナプキンで拭って彼を見る。
「かわいい……は置いといて、確かに誰が広めたんでしょうね?まあ、リリア嬢みたいにルイに好意を抱いている令嬢とかな気がするけど」
紅茶に入ったティーカップに口付け、私がそう言うとレイ様は苦笑する。
「まあ、それも一理あるね。兄さんの事が好きな奴は大抵ロクなやつしかいないから」
「それ、私にも言ってる?」
「ローズは別かな」
「そう、ならいいわ」
少し沈黙の時間が訪れる。
私は静かに紅茶を飲んでいたが、レイ様は私に何か言いたいことがあるのか、少し落ち着かない様子で窓の外を見ている。
ルイは時期王として私という婚約者が存在しているが、第二王子であるレイ様は婚約者がいない。
その代わり、大人の女性達と戯れているのをよく見かけるけれど。
いつも大抵余裕そうで軽薄な感じだから、こんな姿は普段あまり見ない。
私は兄の婚約者で同い年、よく出会ってるからこんな感じなのかもだけど。
私は気づかれないようにチラリと彼の方を見る。
どことなく少し寂しそうな雰囲気で、何か悩んでいるようだ。
私が話しかけても良いんだろうけど。
聞かれたくない事かもだしな……。
私がそう悩んでいた時。
「ねえ、ローズ」
お、口を開いた。
「あの……さ……」
少しまつ毛を伏せて少し言いにくそうに彼は言う。
「兄さんの事、やっぱり好き?」
???
それが聞きたかったの?
そんなに聞きにくそうにしなくても普通に聞いてくれれば良いのに。
私は少し驚いてそう思う。
「好きだけど、なんで?」
そう言うとレイ様は少し顔を暗くした。
「いや、そっか。そうだよね」
そう言ったが、また黙り込む彼。
でも意を決したように私をまっすぐ見つめて口を開いた。
「あのさ、俺、ローズのことが……っ」
ガチャ
レイ様が言い切る前に部屋の扉が開く。
入ってきた人物を見て、私もレイ様も驚いて口を開けた。
「ルイ」
「兄さん」
入ってきたのは、怒りと悲しみと憂いさを混ぜた顔をした、ルイだったから。




