悪役令嬢 ローズ編3
「ーー本当のローズを教えて」
本当の、私?
そう思っていると飴は消えたはずなのに甘い味が口一杯に広がった。
今食べさせられた飴のようなものを私は知っている。
「真実の飴」というものだろう。希少なものだから食べるのは初めてだが。
噂によると食べさせた相手が真実を言っているか嘘をついているか分かるらしい。
……そんな物食べさせなくても、私はルイに嘘なんてつかないのに。
何より、私はルイのこと好きだから。
「私はルイの婚約者なので……」
ルイしか愛してませんよーーそう言おうとした時。
「やっぱり、そう言うよね……」
彼の顔がくしゃりと少し悲しそうに歪んだ。
少し目が光っているように見える。
ーー泣くのを堪えてる?
「ごめん、今日は帰る。勝手に食べさせて……ごめん」
ルイはそう言って立ち上がり、扉へ向かう。
「待って!」
私が不思議に思い、立ち上がってルイの手首を掴むと、ルイは振り返って悲しげに私を見る。
どうして、そんな顔するの?
私、何かいけない事しちゃった?
「ごめんね、俺が悪いだけだから」
ルイは呆然としている私の頭をそっと撫で、手首を掴んでいた私の手を離して、また、笑った。
「しばらくそっとしといて」
そう言い、部屋を出て行った。
部屋に残された私は、ルイが悲しそうな顔をしていることに、何を考えていたのかも分からなかったことに不安で、その場にうずくまる。
“やっぱり、そう言うよね……″
どういう事?婚約者って言ったのがいけなかった?
でも、本当のことだよね。
あんなルイの顔、初めて見た。
ーーいや、二度目か。
私は記憶の中からある出来事を引きずり出す。
あれは、婚約者になる前だった。
♡♡♡
お父様と王様の定期会議の日で、その日は私も王城に行かされた。
「レイ様の兄、第一王子のルイ様だよ」
「こんにちは、ローズ嬢」
当時まだ7歳だった私は王立ミルムーン学園の同級生レイ王子とは面識があったがルイと会うのは初めてだった。
ルイは8歳で、時期王として身なりもマナーも完璧だった。
「こんにちは、ルイ様」
私は、少し緊張しながらもドレスを持ち上げてそう言うとルイは優しく微笑んだ。
その微笑みは“王子様”というに相応しい微笑みだった。
「君のお父さんと会議してくるから、君たち城を自由に使っていいから待っててくれるかい?」
王様がルイと似た微笑みを私とルイに向けてそう言った。
「はい、王様」
「はい、父上」
そうして、私とルイを残してお父様たちは、部屋を出て行った。
「あ、あの」
私は、ルイに話しかけると優しく彼は微笑んだ。
「そんなに硬くならなくていいよ、1歳しか変わらないし。少し遠い親戚だしさ」
「う、うん」
その後、ルイに連れられてスイーツをご馳走してもらったり、階段の手すりで滑り台をしたりと、度々メイドさんたちに少し怒られながらも楽しいことをたくさんした。
「ルイ様って、結構やんちゃなのね」
「そうかなあ」
結構私が失礼なことを言いながらも、ルイは面白そうに笑った。
その微笑みは“王子様″というより、一人の少年だった。
「そっちのが、好き」
気づけばそう私がつぶやいていて、ルイは驚いた顔をした。
「どういうこと?」
「ルイ様、普段の微笑みより楽しい時の笑顔の方がルイ様っぽい。自然な感じがする」
そりゃあそうだろと今の私はそう思うが、まだまだ未熟な少女だった私の言葉を聞いてルイ様は目を見開いた。
「そんな事、言われたの初めてだよ」
そう言い、ルイ様は微笑む。
その微笑みも自然な微笑みだった。
「ローズ、ありがとう」
「う、うん」
急に恥ずかしくなった私はその微笑みから目を離した。
きっと、あれが初恋の始まりだったんだろうなあ。
今の私は無言でうなづく。
「これからは、ルイって呼んで。ローズ」
「分かった、ルイ」
一日で仲良くなったルイに帰る前にそう言われて私はうなづいた。
その様子を見てた王様とお父様、笑ってたなあ。
その後、帰る前にちょうどレイ様と出会って、少しお話ししたっけ。
「レイ様のお兄様、とても面白い方ね」
「そう?」
「ええ、楽しかったわ。じゃあ、また学園で」
「またね、ローズ」
本当に楽しかったから嬉しくなってレイ様にそう言った。
その時ちょうど、ルイが私が忘れていた帽子を届けてくれたんだけど……。
「ルイ、ありがとう」
「うん」
そう言った時のルイの表情も、少し悲しそうな、頑張って作ったような微笑みだった。
♡♡♡
これが一度だけ見た、今回と同じような微笑み。
次に出会った時である婚約が決まった時には、全然普通だったのだけど。
なんで、あの時もあんな表情だったんだろう。
私は首を傾げる。
あ、レイ様に聞いたらわかるかも。弟だし。
最近、クラスが離れたから話す機会があまりなかったけれど。
思いついた私は立ち上がり、扉へ向かう。
第二王子だし舞踏会に来ているはずだから、広間へ行こう。
私は扉を開けて広間へ向かっていると、廊下の角で誰かとぶつかった。
「あっ」
「ごめんなさいっ」
慌てて謝ると、私は誰かの腕の中にいた。
……まずい。誰かに見られていたら噂されちゃう。
誰かの腕からすり抜け、謝りながら顔を上げる。
「大丈夫だよ。君の方が大丈夫?」
聞き覚えのある甘い声に驚いて“誰か”の顔をよく見る。
「レイ様っ」
「やあ、ローズ。今日もかわいいね」
探していた、レイ様だった。




