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供養作品集

追放聖女と裏切りの聖職者

作者: 月乃宮 夜見

冷たい月光が森を照らす。その中を静かに移動する男が一人。彼はレオン・ガルド。大神聖教団の処刑人として、数多の「罪人」を裁いてきた彼にとって、今回の任務はいつもと同じはずだった。標的は「魔女」と呼ばれた元聖女エリス・ルミエール。かつて民を癒し、教団の希望と讃えられた彼女は、突如「魔を操る者」とされ、辺境のルナリス森に追放された。


追放された彼女の居場所が分かった、と言うことで秘密裏に裁くことになったのだ。


「エリス・ルミエール。教団の名の下に、貴女を裁く」


レオンは黒いローブに身を包み、短剣を握りしめ呟いた。森の奥、小さな小屋の灯りが揺れている。彼は音もなく窓に近づき、小屋の内部を確認しようとのぞき込んだ。だが、予想外の光景が目に入る。エリスが村の子供たちに囲まれ、傷ついた子どもの手を光で癒していた。その光は、教団で見た聖女の奇跡そのものだった。


「魔女が……民を癒している?」


レオンの心に疑念が芽生える。彼は数日間、エリスを監視した。彼女は村人に薬草を分け与え、病を癒し、笑顔を絶やさない。教団への恨みすら口にしないその姿は、「魔女」とは程遠かった。

ある夜、レオンは意を決して小屋の扉を叩いた。エリスは驚きつつも彼を招き入れ、温かいスープを振る舞った。


「あなた、教団の者ね。……私を殺しに来たの?」


エリスの声は穏やかで、運命を受け入れたようだった。レオンは言葉に詰まり、初めて使命に疑問を抱いた。


「なぜ……追放されても民を助ける? 教団を恨まないのか?」


エリスは微笑み、答えた。


「私の力は人を救うためにある。教団が何と言おうと、それは変わらないわ」


その言葉はレオンの心を揺さぶった。彼はエリスと対話を重ね、教団の真実を知る。指導者たちはエリスの聖なる力を恐れ、彼女が民に愛されることで自分たちの権威が揺らぐのを防ぐため、偽りの「魔女」として追放したのだ。レオンは決意した。彼女を殺すのではなく、守ることを。


×


レオンは教団に戻り、「魔女は死んだ」と報告した。だが、教団の最高司祭ガルティスは冷たく笑う。


「レオン、貴様の目が嘘をついている。エリスは生きているな?」


レオンの心臓が跳ねる。教団はすでにエリスの生存を知っていたのだ。ガルティスは告げた。


「裏切り者は浄化される。貴様も魔女と同罪だ」


レオンは追放され、処刑場に引きずり出された。広場には教団の信徒たちが集まり、彼を「裏切り者」と罵る。かつての仲間、処刑人のリナが剣を構え、レオンの首を狙う。絶望が彼を包んだその瞬間、光が広場を照らした。


「やめなさい!」


エリスの声が響く。彼女は聖なる光を放ち、リナの剣を弾き飛ばした。群衆は驚き、ざわめく。エリスはレオンの鎖を光で断ち切り、彼を支えた。


「なぜ……助けに来た?」


「あなたが私を信じてくれたから。次は私があなたを信じる番よ」


エリスはレオンを連れ、森へと逃げ帰った。教団は追手を差し向けるが、エリスの聖なる結界とレオンの暗殺者としての技術で撃退。村人たちはエリスを「本物の聖女」と呼び、彼女とレオンを匿った。


×


ルナリス森の村で、レオンとエリスは新たな生活を始めた。レオンは暗殺者としての過去を捨て、村の護衛として働く。エリスは村人たちを癒し続け、子供たちに読み書きを教えた。二人は互いに支え合い、信頼を深めていく。

ある日、エリスはレオンに自分の過去を語った。彼女は貧しい村の生まれで、聖女の力に目覚めたことで教団に引き取られた。だが、指導者たちの腐敗を知り、民のために力を尽くそうとした。そのことが追放の原因だった。


「教団は民の信仰を金と権力に変えた。私はそれに逆らっただけ」


レオンもまた、自分の過去を明かした。彼は孤児として教団に育てられ、盲信の中で処刑人として生きてきた。エリスの純粋さに触れ、初めて「自分の正義」を考え始めたのだ。

村人たちはレオンとエリスを家族のように受け入れ、彼らの絆は村全体に広がった。だが、平穏は長く続かなかった。教団が大規模な討伐隊を送り込んできたのだ。ガルティス自らが率いる軍勢は、村を焼き払い、エリスとレオンを抹殺しようとする。


×


討伐隊が村に迫る中、レオンは村人たちを避難させ、エリスと共に立ち向かう準備をした。エリスは言った。


「レオン、私の力は戦うためじゃない。でも、守るためなら……全てを賭けるわ」


レオンは頷き、暗殺者としての技術を最大限に活かす。夜の森で、討伐隊の斥候を次々と無力化し、敵の動きを乱す。一方、エリスは村の中心で巨大な聖なる結界を展開。討伐隊の攻撃を防ぎ、村人たちを守った。

ガルティスは怒り狂い、エリスに叫ぶ。「魔女め! 貴様の力は教団のものだ!」

エリスは静かに答えた。


「この力は民のためのもの。あなたたちの欲望のために使わせない」


決戦の瞬間、レオンの短剣がガルティスの急所を狙うが、ガルティスは禁断の魔術を使い、レオンを圧倒。絶体絶命の時、エリスの光がレオンを包む。彼女の力はレオンの傷を癒し、彼の動きを強化した。レオンは一瞬の隙をつき、ガルティスを倒す。

討伐隊は指導者を失い、混乱の中で撤退。村は救われた。だが、エリスは力を使いすぎ、倒れてしまう。レオンは彼女を抱きかかえ、必死に呼びかける。


「エリス、目を覚ましてくれ! 俺には…お前が必要なんだ!」


×


エリスは村人たちの祈りに支えられ、意識を取り戻した。彼女は微笑み、レオンに囁く。


「あなたがいてくれてよかった」


その後、レオンとエリスはルナリス村を「新たな聖域」として再建。教団の腐敗は民に知れ渡り、多くの信徒が教団を離れ、ルナリスに集まった。エリスは聖女として、癒しと希望を与え続け、レオンは彼女の守護者として剣を振るう。


ある日、かつてレオンを処刑しようとしたリナが村を訪れた。彼女は教団の嘘に気づき、赦しを求めた。エリスは微笑み、彼女を受け入れる。レオンもまた、過去を水に流し、新たな仲間と共に歩むことを決意した。

教団は力を失い、ルナリスは希望の光として大陸に知られるようになった。レオンはエリスの隣で、初めて心からの笑顔を見せた。


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