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1番のアイドル

唯斗「みんな今日は来てくれてありがとう!

 楽しい1日にしようね」

私「うわぁ」

私は初めてライブに行った

好きになったばかりのアイドルのライブ

みんなキラキラしてこんなに楽しい時間は

初めてだった

 

ファン1「今日も凄かったね」

ファン2「アイドルくんの歌好きだな」

帰り道みんなの話し声を聞きながら帰った

こんなに笑って楽しそうな人を見るのは

久しぶりだった

そして、何よりも好きな人が出来た!

 

初めての推し

初めてのライブ

全部が初めてで今日は楽しい1日だった

家に帰ってもあの景色が頭から離れない

それくらい私は衝撃を受けた

 

私の親は完璧主義でアイドルも俳優も

全然興味を持たない人

ゲームはしてはいけない

テレビもニュースかクイズ番組だけ

厳しい人だった

 

でも、私は友達が話してるのを見て

羨ましくて、気になっていた

だから、こっそりライブに来た

部屋でグッズを眺めてると

お母さんの声がした

私は急いでグッズを隠して

勉強している振りをした

 

お母さん「あら、呼んでも反応しないと

 思ったら勉強してたのね」

私「うん、ごめんなんの用?」

お母さん「明日夜外食しましょって話してて」

私「いいね…」

お母さん「なら、お父さんにあなたも賛成だって

 伝えておくね」

私「うん、お願い」

お母さん「はーい」

 

外食に行っても楽しくない

話す内容は家にいる時と変わらない

仕事の話か、勉強の話

笑うこともないし

話が無くなればもくもくと食べるだけ

だから、私は家族と外食に行くのが嫌い

 

今日も同じ朝が来た

朝ごはんを食べてる時も

家を出る時も

家族とは一言も話さない

私は、家にいることが嫌になっていた

私の居場所なんてない

 

学校で友達の話を聞くといつも思う

友達の家族はみんなで話しながらご飯を食べて

一緒に買い物したり、映画を見たり

時には喧嘩をして

仲直りして、また仲良くなって

そんなふうに、家族全員で一緒に過ごす

それが、本当の家族

 

私の家は、違う

みんなでひとつじゃない

1人1人、個人が集まっただけの場所

喧嘩もしない

喧嘩するような出来事がないから

話さないから

だから、何が好きなのかも分からない

好きな食べ物も、飲み物も

甘党なのか、辛党なのかも

私の家は、暗い、静か

そんな、家に帰りたくない

毎日思っていた

学校にいる時だけ、外にいる時だけ

家族と離れている時だけが

私が、私らしく過ごしいている気がする

でも、唯斗くんに出会ってから

私は、家にいることが少しだけ多くなった

まぁ、自分の部屋だけど

それでも、私の人生を変えてくれた

きっとこんな私だから

人生だったから、私は唯斗くんに

彼に惹かれたんだろう

すぐに、そうわかった

そのうえ、家族にバレないように

推し活をすることが楽しかった

私は、ふざけることやハラハラするようなことが

大好きだった

今日も、夜に唯斗くんの配信を見る

唯斗くんはいつも仕事が

終わってから配信をするから

この時間は、いつも心配せずに見ている

少し、ハラハラ感がないが

それよりも、アイドルくんのことを

しっかり見れるから良しとしている

親が入ってきて面倒なことになるよりマシ


それから、私はこっそりバイトも始めた

最初は両親から何か言われるかと思ったけど

そんなことはなかった

そりゃそうだよね、両親は私に興味無いから

今の私ではなく将来いい会社に入った

私に興味があるから

でも、そのことを知っているから

親がどんな行動をしようと傷つくことはなかった

いや違う、私が親に期待をしていないから

同じように私も親に興味が無いから

それが理由だ


さすがに、夜から出かけるのは

何か言われそうだったから

学校終わりにバイトをしたり

土日の昼にしていた

そうすれば、学校が終わって

そのままどこかに出かけていると親は思うだろう

私は、そう考えていた

そして、その考えは的中し

バイトから帰っても言われることは無かった

そして、ご飯もなかった

私のお母さんは、ご飯の時にいる

人数分しか作らない

それが、この家の暗黙の了解

私も文句を言うことはない

そのうち夜ご飯を買って帰ることが日課になった


そんなある時お母さんが私に

隠し事をしていないか聞いてきた

私は、少し焦ったが

一応、私もお母さんの子ども

頭は良かったからすぐに誤魔化した

 

私「最近、いい図書館を見つけて

 勉強してたんだ」

お母さん「あら、そうだったの

 だから、最近帰りが遅かったのね」

私「そうなんだよね。もっと、早い方がいい?」

お母さん「いいえ、そういうことならいいわ」

私「わかった」


まさか、最近遅いと思っていたとは

なにも言わないから大丈夫だと思っていた

身体中に冷や汗が出ている

あの時の、お母さんの目

あれは、完全に何かを察知していた

お母さんは、人よりも勘が良かった

きっと、私が誤魔化したことも気づいている


でも、そんなのはどうでもよかった

もうすぐで私は専門学校を卒業する

卒業したらすぐに一人暮らしをしたい

元々、専門学生になったらするつもりだったけど

お母さんがそれを許さなかった

勉強しなくなるからと


私は、デザイナーになりたい

昔から絵を描いたり

服のデザインを考えるのが好きだった

高校3年の時、進路を考えていると

デザインの専門学校があることを知った

私は、すぐにここに行きたいと思った

そしたら、私の夢が叶う


お母さんに専門学校に行きたいと言ったら

反対された

お父さんは、東大とか早稲田に行けと言った

お母さんも頷いていた

私は、どうしても諦められなくて

何度も説得し入学することができた

お母さんとお父さんは嫌々だったけど

それでも、私は嬉しかった


そんな、学校を1週間後に卒業する

こっそりと、ひとつの会社から内定も貰っている

そこに就職するつもりでいる

でも、このことは言わない

言ったらまた、何か言われるか

勝手に取り消される

やっと、上手く行きそうな時にそんなことは嫌だ


私は、何も言わずに卒業したら家を出る

そう計画をし、準備も進めている

そんな時、最悪なことが起こった

私が家を出る支度をしているのを

弟にバレた

私は、どうなるのか様子を見ていたら


「家、出ていくの?」と一言だけ呟いた

私は、少し考えたあと頷いた

弟は、少しの間黙り込んでから

口を開いた


「家、出るなら早朝の方がいいよ」

突然の言葉に戸惑ったが

会話を続けた


私「どうして?深夜の方がいいんじゃ」

弟「深夜は、玄関のところのカメラが動いている」

私「え?」

弟「防犯のためにつけたけど

 次第に僕たちの監視用にもなった」

私「なんで、そんなこと知ってるの?」

弟「僕、昔深夜に家出たらすぐバレた」

私「そういえば、1回だけ

 お母さんが弟にすごく怒っていた」

弟「あの時、夜に家出たから」


その時、私は思い出した

最近、弟の行動がおかしかったことに

早朝に目が覚めて、トイレに行くと

弟が家を出ていくのを見た

私は、寝ぼけていたから

何も気にしていなかったけど

 

今、わかった

弟は、朝早くに家を出て

外でやりたいことをやって

学校が終わったら

すぐに帰ってきていた

弟は、高校2年生

きっと、友達と集まっていたんだろう

勉強は家でいつでも出来る

でも、友達と会うのは学校の時間か

その前かくらい

弟もこんな生活嫌だと思っているようだ

 

弟「カメラは、タイマーによって

 稼働する時間が決まっている」

私「そうなんだ」

弟「うん、夜の9時から朝の4時まで」

私「なんで、そんなこと知ってるの?」

弟「父さんの部屋のパソコンに

 カメラのデータがあった」

私「お父さんの部屋に入ったの!?」

弟「うん」

私「どうやって?」

弟「母さんに父さんの部屋に入っていいって

 お願いした。参考資料欲しいからって」


私は、一度もお父さんの部屋に

入ったことがなかった

確かに、考えてみれば

両親は弟に少し甘かった

私と比べてだけど


私「そんなことできるなんてすごい」

弟「僕は、今までいい子を演じてたから

 ちゃんと勉強して、いい高校に行ったから」

私「あ、そっか……でも、カメラはどうやったの?

 時間を知るには何度も確かめないと」

弟「父さんのパソコンのデータを消してた」

私「毎回?」

弟「うん」

私「すごいね」

弟「だから、お姉ちゃんがアイドル

 好きなのも知ってる」

私「え?」

弟「だって、部屋にカメラあるもん」

私「全然、気づかなかった」

弟「母さんたちにバレたらやばいと思って

 毎回加工してたんだよ」

私「あ、ありがとう」


この時初めて、自分の弟だけど怖いと思った

その上、自分の部屋にまでカメラがあることを知り

本当にこの家族はダメなんだとわかった

アイドルくんと出会っていなかったら

デザインの専門学校に行ってなかったら

弟に引越しの準備がバレなかったら


私は、きっと

このまま、この家に、家族に

束縛されたまま過ごしていた


偶然が重なっただけ

でも、私にとっては奇跡

私自身を変えることかできたから

このままじゃダメだと確信をもてたから


それから、引越しの準備を進め

弟に手伝って貰いながら

家を出る時を待った


今日は卒業式だ

何事もなく終わらせ

家に帰ってきたから

最後の確認をした


そして、家を出る日が来た


弟「今は、3時50分だね」

私「あと、10分でカメラが止まる」

弟「やっと、この家族から解放されるね

 お姉ちゃん幸せになってね」

私「うん、そういえば聞きたいんだけど」

弟「何?」

私「なんで、私だけお姉ちゃんなの?

 母さんと父さんって呼んでるのに」

弟「お姉ちゃんだけは、信用できるし

 それに、たった1人の大好きな家族だから」

私「そ、そう」

弟「あれ?照れてるの?」

私「そんなわけないでしょ!」

弟「あはは、面白い」


その時、初めて弟のちゃんと笑った顔を見た

きっと、友達同士ではいつもこうなのだろう


私「あんたは、どうするの?」

弟「僕も、高校卒業したら家出るよ」

私「そうなんだ」

弟「早く、この家とさよならしたい」

私「そうだよね、私もそうだったから」

弟「ねぇ、もし、またどこかで会えたら

 その時は、ご飯食べよ一緒に楽しく」

私「うん、食べよう楽しく」

弟「あ、4時だ」

私「それじゃ、行くね」

弟「行ってらっしゃい!お姉ちゃん」


それから、数年後

私は、家を出て内定を貰っていた

デザイン会社に就職した

今では、後輩の教育係を任されるほど

活躍できている


最近は、ふと家族のとこを思い出す

家を出てすぐの頃は

毎日電話がかかってきた

でも、次第にそれもなくなった

今とはなっては、一切電話は来ない


でも、気になるのは弟だった

もう、弟も高校を卒業している

家を出ることは出来たのか

ちゃんと幸せに暮らせてるのか

それが、心配だった


そんなある時、いつものように

スマホで動画を見ていると

唯斗くんの動画が出てきた


その時、昔はあんなに唯斗くんのこと

ばかり考えていたのに

今では、動画を見ることも考えることもなかった

それほど、忙しくて充実した日々を

過ごしていたということだろう


私は、自分の生活に集中するため

唯斗くんのファンを辞めた

寂しい気持ちはあった

私を変えてくれた

人だったから

会えなくても話せなくても

配信を見ているだけで

それだけで、良かった


寂しい気持ちはあるけど

会えなくなるわけじゃない

動画はいつでも見れる

私は、そう思い

動画を閉じた


その後すぐに、スマホがなり

LINEが来た

見てみると、弟からだった

私は、慌てて見ると


「久しぶり!家を出て今は、楽しく過ごしてるよ

 お姉ちゃんはどう?ねぇ、今度ご飯行こ」


その文を見た瞬間私は

泣いてしまった

弟も幸せに暮らせている

そう思うと、安心できた

私は、返事をした


その時も、ずっと過去を思い返していた

毎日、親の監視の元

笑うことの無い

暗い日々を過ごして

家に居場所がなくて

学校だけが笑っていられる

自分でいられる場所だった


そんな、生活が今も続いていたら

そう思うと、今でも怖い

逃げ出せてよかった

それは、弟も同じだろう

 

でも、もし逃げ出せなかったら?

失敗したら?

そんなことを考えたけど

今の私には関係ない

私は、もう1人で生きていく

誰にも束縛されない

自分で考えて行動する

好きなことをして生きていく


私は、私だから

誰でもない、誰のものでもない

1人の人間だから


前を向き、もう一度深呼吸をしてから

気持ちを整え、仕事に向かった


やっぱり、唯斗くんと私の弟は

私にとっては一番のアイドルだ!

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