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Cycle of life ~ 生命を紡ぐ円環の惑星 ~  作者: 彩灯 哲
第1章 異世界生活開始
8/21

第7話 初陣は悲しみと共に




「ごめんなさい…ごめんなさい…私……とんでもないことを……」


 ルルさんは震えながら泣いている。


「大丈夫…ルルさんは……悪くない…。俺…が…油断…しただけ…だから」


 体が上手く動かない。ドラゴニュートは変身したり空を飛んだりするのに魔力を使って制御している。体を動かすのにも無意識にほんの少しずつ魔力を消費していて、魔力の流れが狂うとそれも狂って上手く動かせないようだ。

 情けない。英雄ともてはやされてこのザマか。


「大丈夫か!?アユーユくん、ルルさん!」


 異変に気付いてゴーさんが来てくれた。この後ゴーさんが治療室まで連れていってくれた。治療室には応援の医療部隊としてピアが来ていた。


「状況は聞いてるからすぐ見せて」


 ピアは手首のリングを中心に身体の各所を診察していく。


「今から詳細なデータを撮影する。皆少し離れて」


 皆が距離を取ると詠唱を始める。


「術式、磁場放射線遮断空間生成、範囲、診察台中アユーユ・アフート以外、術式発動、磁場放射線遮断空間魔導マリクトコルター


 魔導が発動すると診察台が淡い光に包まれる。


「続けて、術式、磁気共鳴断層撮影、範囲、アユーユ・アフート、部位、全身、出力、ピア・クローム・データベース、術式発動、磁気共鳴断層撮影魔導マリクト


 今度は俺だけが再び淡い光に包まれた。その後手首のリングをじっと確認して、


「ん〜やっぱり思った通りか。外傷としては手首のリングが刺さってる部分だけで、その他の内部は全体的に動きが悪くなってる。具体的には血流だったり臓器全体の筋肉の動きとかだね。魔力によって身体を変化させることのできる種族は、魔力と身体との親和性が高いから、魔力低下によってそれが出来なくなることはよくあるんだよね。今回は手首から魔力が吸い取られて、そこを補おうと全身から魔力を集めて、その結果全身の不調を招いてる感じかな。多分吸い取った魔力を使って手首に針が刺さる仕組みだろうね。しかもこれ、一定以上の魔力吸い上げたら爆発する魔導術式書いてあるよ」


 やっぱりそうか。手首から力が抜ける感覚はあったからそうじゃないかと思ってた。にしても爆弾つきとはエグいことしてくれるな。


「この魔導機は魔力を吸い取って刺さってるから、魔力供給を止められれば解除可能だけど、その為には仮死状態にするか、手首を切断かが必要になるね。どちらにせよすぐにやらないといずれ爆弾が爆発して拠点ごと吹っ飛ぶよ」


「そんな…」


 ルルさんはまた泣き崩れてしまった。


「仮死状態だと復帰した後もしばらく起きれないから戦場に出られないけど、起きたときには魔力も回復しているからいつも通りに動ける。手首切断は私が手術して再建手術もすぐすれば元通りになるけど失った魔力はそのまま。アユーユは魔力の質が桁違いに高いから市販の魔力補給薬では何個使っても全然足りない。変身出来ないし動きの精度も落ちる上に、魔力消費の多い魔導を使えば枯渇して意識失うかもしれない。どうする、アユーユ?」


「そんなの…1択…ぶった切って…くれ」


 姐さんもまだ目覚めてないし、今俺が出なければ今度は確実に負ける。


「だよね、君はそういう奴だ。医者としては行かせられないし、友人としても行かせたくない。でも君が出なければ士気もガタ落ち、戦力もガタ落ちで戦っている兵士やハンターは全滅、勝てる見込みはない。ここにいる皆も殺されるだろう。それを君は知っている」


 みんな沈痛な表情をしている。


「そんな…顔しないで…くれよ…みんな」


 俺は体を起こしながら話した。


「大丈夫…俺が…みんなを…守るから」


 ピアは背中を向けてすぐに手術の手配を始めた。なんだかんだ言いながらも、俺の事を分かってくれてる。頼むぜ、いつも通り完璧に治してくれよな。


「ルルさん、僕らも持ち場に戻ろう。今やれる事をやるんだ」


「…はい。アユーユさん…必ず生きて帰ってきて下さいね」


 俺は親指を立てて笑顔でルルさん達を見送った。



 少しすると手術の準備が出来たようだ。


「アユーユ、戦場に出るから麻酔は局所麻酔にして魔導ですぐ抜けるようにする。切断時に痛みは感じるかもしれないが耐えろ」


 俺は手術室に運ばれ、約30分かけて切断・再建手術をした。魔導を使う事で手術にかかる時間は転生前の世界と比べてかなり短くて、技術レベルも物凄く高い。壊れたり失ったりした細胞も魔導で生成して、治癒速度も細胞の動きを活発にさせる事で物凄く早くできるし、神経の接合も1つずつやるのではなく、魔導である程度の数は1度に接合できるから格段に早く、精度も高くできた。痛みはあったけど思ってた程じゃなかった。


「術式終了。麻酔も抜いたからもう動くはずだよ。ちゃんと動かせる?」


 動かしてみるとちゃんと動いた。でも魔力が少ないせいか違和感は感じる。


「魔力不足から違和感はあるだろうけど機能的には問題ないはずだよ」


「切断時に痛み感じるかもとか脅しときながら全然痛くなかったじゃんか」


「ま、アタシ超一流だからね!」


「ありがとな、ピア」


「礼はこの戦いに勝ってからたらふく酒を貰うよ。早く行きな。さっさと終わらせて帰って来い!」


 俺は急いで手術室を出た。装備は治療室に置いてあるので取りに行き、先ずは指令室へ向かった。







警報が鳴り響く。


魔人族がまた攻めてきて、規模も昼のと同じ位だって。ならまた戦力差が大きいってことだ。次は本当に戦場に出ることになる。初めての戦争…俺の初陣だ。


「待機部隊の諸君!放送の通り、魔人族軍が再び攻めて来ている!総員戦闘準備!ノースポール大隊、トリフィダス大隊は直ちに出撃し、既に防衛線を張っているペルシカ大隊、ランシフォリウム大隊と合流!以降は準備が整い次第大隊単位で出撃する!なんとしてもにこの拠点を死守せよ!」


 俺達は初戦の後、部隊の再編があってノースポール大隊に配属されていた。パーティーメンバーもクフカップさんが抜けて、2人増えて4人パーティーになった。増えたのはブラックリストハンター試験で一緒だったルディさんとクシューさんだ。帰りのバスから降りて急いで応援に駆けつけてくれたんだって。見習いハンターはパーティーを組んだことのある人で編成されるみたいだってクシューさんが言ってた。


「いよいよ戦場だな。このヒリついた感覚は軍にいた頃を思い出すぜ」


 クシューさんは元々亜人界のガーディアンナイツっていう軍の精鋭部隊にいた人だから、一緒にいてすごく頼もしい。


「私は戦地に出向く事はあっても直接戦うのは初めてだわ。しかも対人戦が殆どで、モンスターを統率した軍隊なんて相手した事ないから、少し緊張するわね」


「僕は戦争自体初めてで大分緊張…というか、正直言うと怖いです」


 俺は素直に恐怖を口に出した。きっとこの後はそんな事言ってられないだろうけど。


「ユートくんはなんで志願したんだ?」


「大切な仲間を守りたいと思ったからです」


「なら常にそいつらの事を思い出せ。それが必ず自分を奮い立たせる力になる。俺達は勝つ為に戦いに行くんじゃない。大切なものを守る為に戦いに行くんだ」


 流石元軍人、言葉の重みが違う。きっと多くの死線を乗り越えて来たんだろうな。俺もそうならなきゃ。


「お前なら大丈夫さ。あの英雄アユーユに稽古つけてもらった弟子なんだから」


 そうだ、ウォークタの言う通りだ。俺はあの英雄の弟子。こんな事でビビってたらアユーユさんに顔向けできない。


「そうだね…皆ありがとう!」


 そんな話をしているうちに門が開き部隊が動き出す。

 基本的には途中までは全体で足並み揃えて進軍して、最前線が接敵したら順次前進して敵を掃討していく。あとは大隊長や中隊長、小隊長の指示に合わせて動いていく感じだ。

 前回の戦いで分かったのは、モンストルライダーは別として、敵の大半はモンスター中心で、モンスターは完全に使役してるわけじゃないらしい。恐らく何かのアイテムで襲われないだけじゃないかって言われてる。

 今回の戦いでは、大隊は3つの中隊で、中隊は4つの小隊で、小隊は10のパーティーで構成されている。小隊は6つが正規軍、4つがハンターのパーティーで、それぞれが一定の距離で並んでいて、戦況によって前に出たり下がったりするらしい。


 できれば俺はモンスターの相手がいいなぁ…。何も考えずに倒せそうだから。人と戦うって事は命を奪うことになるってことだもんな。戦争だから仕方ないのかもしれないけど、できれば避けたいのが本心。


 動き出した俺らの部隊は戦闘用大型収容車に乗り込み、最前線へ移動し始めた。最前線は西部拠点から20km位の辺りだ。恐らく俺達が到着する頃には戦いは始まっている。到着と同時に戦闘に入ると思う。


 最前線の大隊が2つ、今出撃した俺らの部隊が2つで合計約2000人。順次残りの部隊も到着する予定だけど、敵の数よりも圧倒的に少ないからかなり厳しい戦いになると思う。

 敵は前回と同じだとすると、戦闘データでは足の早いモンスターより鈍重のパワー系が多かったので、進軍速度はそこまで早くなさそう。変わりに1度に一気に攻め込んでくるから突破力がありそうだった。


「戦う時は必ずパーティーの陣形を崩さず戦うように気をつけろ。数で負けてるから孤立するとすぐやられる。苦戦してるパーティーには素早く応援に向かい、必ず多数で応戦するように。陣形に穴が空けばそこからどんどん数で押される。そうするとあっという間に数の波にのまれるぞ」


 俺達は戦場へ向かう最中に、クシューさんを中心に他の見習いハンター(ハンター試験受験者)達と戦場での動きを確認していた。元軍人だけあって短く纏まって説得力がある説明だった。クシューさんは小隊長に任命されて、うちの隊は見習いハンターを纏める隊になっている。


「小隊長!ランシフォリウム大隊より敵戦力の最新データ届きました!」


 届いたデータは戦闘開始直前の敵部隊の映像と、センサーによる全体の配置などだった。


「すみません!ちょっといいですか!」


「どうした?」


「はい、私はウルシ・T・スターチスと申しまして、モンストルハンターで生物学の、特にモンスターの生態について研究しているのですが、幾つか気が付いたことがあるので、お話させて頂いてもよろしいでしょうか」 


 この女の人は現役ハンターなのか。確かに服装は戦いに行くっていうより現地で観察とかする人が着てるような服装だ。目がクリっとして耳と尻尾がある。多分リス系の獣人かな。でも現役ハンターなのになんで見習い部隊にいるんだろう?


「言ってくれ」


「はい、このデータを見て気が付いたことは3つ。1つ目はモンスターの数が余りにも多過ぎること。2つ目は昼の戦闘時に大魔導で数千の魔物が消し飛んだのに、たった数時間で失った魔物と同じ数の魔物が補充されていること。3つ目は明らかに自然界で存在しない魔物がいた事です」


「詳しく教えてくれ」


「まず1つ目についてですが、魔物は大きく2種類あって理性のある星獣ミナトと、理性を失った凶星魔獣ジャミナがあります。一般的にモンスターと呼ばれているのは凶星魔獣ジャミナ」なのですが、彼らが自然発生する場合は大量の魔力に晒されたときであって、ここまで1度に大量に出現する事はありえないんです。では星獣ミナトというと、理性があるのでもし一緒に率いて戦うのであれば連携を取って戦闘するはずなんです」


「確かにそうだな。攻撃を味方に加えていないだけで連携しているとは言い難いというのは先の戦闘データでもあった。続けてくれ」


「次に先程の事を踏まえると、ただでさえ自然発生は1度にこれだけの多数では起こりにくいのに、この短時間で数千の魔物の補充は明らかに異常なんです。続けて3つ目ですが、今届いたデータに映っているこの大型の魔物、こんな魔物は見たことがありません。ただ私が知らないだけという可能性もありますが、15年以上全世界を股にかけてフィールドワークを続けてきた私でも見たことがないのは、かなり特殊な個体で間違いはないと思います。その特殊個体がざっと見ただけでも数百体以上確認できたので、幾らなんでもこれはあり得ないんです」


「つまり、敵さんはモンスターを捕まえたり飼育しているのではなく、生み出している可能性が高いと」


「その通りです。この補充速度から推測すると、恐らく数十万から数百万はいる可能性が高いと思います。生成の過程で何か特定の印やアイテムなどがある者は襲わないという情報を遺伝子に組み込んでいるのだとすれば、連携は取らずに一緒に進軍する辻褄は合います。敵の兵士を捕縛出来れば攻撃されない理由が掴めるかもしれません」


「よく気が付いた。すぐに各大隊に連絡、拠点本部にもだ」


「攻撃されない状態が解除出来れば、兵士はそのまま進軍する事ができず、統率も取れず、数の優位を活かせなくなる。勝機が見えてきたわね」


 すごい!全く先が見えない戦いに道筋ができた!やっぱり一流の人達は違うな。クシューさんなんて同じ見習いハンターでもすごく差を感じる。


「小隊長!ノースポール大隊長より通信です!」


「繋いでくれ」


「申しわけない、もうすぐ戦闘が始まるから手短に伝える。敵軍優位性の看破、見事だった。その分析力を活かし、アコニット小隊は引き続き敵魔人族兵の捕縛と魔獣コントロールの方法を解明してくれ」


「承知致しました」


 新たに追加されたこの任務は、戦局を大きく変える大事な任務だ。さらに気を引き締めないと。


「各員聞いての通りだ!俺達の任務に敵の進軍阻止だけでなく、敵兵の捕縛と魔獣コントロールの解明が足された。全員とは言わないが、兵士は殺さず捕縛してこの車両まで連行してくれ。ウルシ隊長は車両内で引き続き分析と解析を頼む」


「前線部隊より入電!戦闘を開始したそうです!我々もあと1分で到着します」


「総員戦闘準備!」


 モンスターや敵兵の声が大きくなり始めた。遂に始まる…戦争での初陣だ。


「総員戦闘開始!皆、死ぬなよ!」


 車両が停止すると、皆勢いよく戦場へ出ていてく。


「俺達も出るぞ!俺達とウルシ隊はこの車両の護衛だ。近づく敵を一掃するぞ」


 俺達も車両から降りて戦場へ出た。車両の前に出て辺りを見渡すと既に大勢のハンターや兵士、モンスターが戦っている。


 すると合間をすり抜けて狼型のモンスターが数匹この車両に近づいて来た。

 ウォークタがすぐさま反応して矢を放ち1匹を仕留める。


「バレットウルフだ!」


 2匹がさらに接近して飛びかかってきた。1匹はクシューさんが大盾斧ラージウォールアックスの盾側で弾き飛ばした。もう1匹はルディさんが蹴り飛ばした。

 吹き飛んだ2匹はすぐに起き上がって再び攻撃態勢に入った。

 俺は抜剣してバレットウルフに振りかざし言葉を放つ。


「ツヴァイフライグ!」


 すると、剣の根本で枝分かれしている小さな剣が2つ分離して飛んでいき、バレットウルフの顔に突き刺さった。


「グッジョブ!さすが相棒!」


「ケーアツリック」


 そう言うと分離した剣は戻って1つになった。

 この剣は西部拠点の武器庫にあった物で、戦時下は無料で借りられるようになっていた。製作者不明で魔力を込めると分離して攻撃できたり、戻って来て合体したりできる。受付の人が言うには、分離攻撃のイメージが掴みにくくて扱いが難しく、使い手がいなかったみたい。俺は少し練習したら楽しくなって、そのまま使うことにした。武器の名前は分割魔導剣ディビジョン。良い響きの名前だ。


 バレットウルフを倒すと、また次のモンスターが抜けて来た。今度はアリ型のモンスター5匹で体長が2m位ある。

 再びウォークタが弓矢で遠距離から先制攻撃。間髪入れずルディさんが無詠唱で氷魔導を放って3匹の足を止める。クシューさんが大盾斧ラージウォールアックスの刃で横薙ぎ一閃。3匹の頭が上下に裂かれた。俺は残りの2匹を重力魔導で仕留めよう。


「母なる星の力に縛られ大地にひれ伏せ。引重圧魔導グラヴィタスドゥルック!」


 2匹がぎりぎり入る範囲に通常の3倍の重力フィールドを展開した。その重さですぐに潰れると思ったら地面にへばりついているだけで潰れていない。


 そもそも物理法則的には、蟻がそのまま巨大化しても自重すら支えられないはずなのに、生命として成立してるって事は何かしらの魔力要素が絡んでるから簡単に倒せない事は想定の範囲内。俺はさらにそこから魔導を変化させた。


「我望む一点に母なる星の力を集約し幾重にも敵を押し潰せ!多重中心重圧魔導クァイ・マディヤドゥルック!」


 地面に向いていた力が突如向きを変え2匹の間に向く。一瞬で2匹はぶつかり合う。そしてさっきよりも強い力で中心点に向かって互いがぶつかり合い、やがて潰れてぐちゃぐちゃになった。


「うわぁ…エグいなこれ…。グロスアントがぐちゃぐちゃだぜ…重力魔導ってこんな事ができるのか」


 クシューさんがそう言いながら傍に来た。


「僕も潰れる様子はあまり見たくはないですけど、強力な魔導ですよね。クシューさんも試験の時から武器変えたんですね」


「おう!現役兵士の時に使ってたタイプが武器庫にあったから借りてきた。やっぱこっちの方がしっくりくるぜ」


 大盾斧ラージウォールアックスは直径1メートル位の円盾に斧の刃と柄がついてる攻防一体の武器で、重さは30キロ位はあると思うけどクシューさん片手でぶん回してるのやべー。


「皆見て!前方から大型のモンスターと兵士が来るわよ!」


 前方に見えたのはさっき資料で見たばかりのモンスターだった。ベースの体は象っぽいんだけど、顔は象にカバを足したような大きな口があって、牙と長い鼻もあってその先にはサイみたいな角もある。尻尾はワニのをもっと大きくしたみたいので長さもある。そして全体のサイズ感は象の2倍以上はありそう。


「もしかしてアレは動物を使った合成魔獣キメラ?しかも近くに何体かいますよ!近場の数把握します!空間測設定、半径1キロ、電磁波、光波、重力波、複合測定、空間測定魔導スペメジャ!」


 俺を中心に一瞬光が放たれる。


「半径1キロ圏内に30体はいます。えぇっと…既に戦闘している部隊もあって、突破されている部隊もあります!」


「全部で数百体はいるから早いとこ止めないと陣形が崩れて押し潰される。魔人族兵もいるからソッコーで捕まえて情報取るぞ!」


「具体的な作戦はあるの?」


「近くの3部隊で当たる!リオ隊、ダイアン隊に連携連絡!リオ隊はヘイト集め、ダイアン隊は足を狙って転倒させろ!俺達は双方の援護と兵士を相手する!ユートは連絡後にダイアン隊の援護、ウォークタはリオ隊の援護、ルディは俺と兵士を捕縛だ!」


「「「了解!」」」


 パーティー全員が返事と共に動き出す。


 俺は通信で連絡だ。


「リオ隊、ダイアン隊に小隊長より伝令です。前方、敵大型モンスターにクシュー隊と共に3隊で連携して対応して下さい。リオ隊は敵の注意を引いて、ダイアン隊はその隙に脚部を攻撃して転倒させて下さい。小隊長とルディ隊員は魔人族兵の捕縛を、残りのクシュー隊は2部隊のサポートに回ります!」


「了解した。リオ隊は近・中距離で視線を下げさせないよう頭部に攻撃を集中させる」


「こっちも了解っす!そしたら足場を砂に変えて転ばすんで指定ポイントに誘導頼みます!」


 俺は伝令後に低空飛行しながら前方にいるダイアン隊に合流する。ダイアン隊はアタッカーの魔導師、タンク役の重戦士、回復役の治癒魔導師、その治癒魔導師から治療を受けてる剣士の4人だった。剣士は右脚に深い傷を受けたようで身動きが取れないようだ。

 モンスターはさっき俺達も戦ったグロスアント2匹で、タンクがなんとか受けきって持っているけど、攻撃魔導師だけじゃ攻め手が足りず、決め手を欠いているみたいだ。幸いにもグロスアントはまだ俺に気付いてなさそうなので遠巻きから真上に移動し、タイミングを見計らって魔導を放つ。


「剛炎の連なる火球で敵を燃やせ!連続火球魔導フラメスフェーラ・ラガーター


 幾つもの火球がグロスアントにめがけて降り注ぐ。蟻系モンスターは熱に弱いので効果は抜群だ。グロスアントは全弾命中して黒焦げになった。


「クシュー隊から応援に来ましたユートです。怪我は大丈夫ですか?」


「応援助かりました!僕が隊長のダイアンサス・ラインヴァイスです。長いんでダイアンでいいっすよ。アタッカーのコレオが負傷したので僕以外の3人は一旦ウルシ隊の辺りまで後退させます。なので作戦に参加出来るのは僕だけになりますが、砂に変える魔導は僕が使うので問題ないです」


 ダイアン隊長はドワーフみたいで小柄だけど、結構ガタイはよくぽっちゃりとガッチリの間くらい。優しそうな顔であまり戦場が合わなそうな感じ。


「了解です。皆さんの代わりに僕がダイアン隊長をお守りします」


「面目ないダイアン。もう少し回復したらすぐに駆けつけるからそれまで死ぬんじゃねぇぞ。すまねぇがウチのリーダーを頼むぜあんた」


「もちろんです!コレオさんもしっかり治してください」


 ダイアン隊のメンバーは後退し、ダイアン隊長と俺は予定ポイントに急いだ。敵のキメラはもうポイント近くまで来ていて、ウォークタとリオ隊が足止めしてた。


「凍れる天使の慈悲を知れ!天使エンジェリック慈悲メルシーレイン!」


 矢じりだけが氷魔導で強化された1本の矢の回りに、さらに数十本の氷で出来た矢が囲んでいて、雨のようにキメラの顔面に降り注ぐ。マンガを見て考案したウォークタの必殺技だ。

 氷の矢は合成魔獣キメラに命中しているが大した傷はついていない。


「顔が思ったより硬い!」


 ウォークタの攻撃に続いて女剣士が前に出る。


「我が刃よ!猛る紅蓮の炎を纏え!」


 跳躍と共に剣を横に振りかぶると剣に炎が宿る。


「その身に刻み込め!紅蓮十字剣カマラ・クロイツ!」


 炎剣の斬撃は十字に合成魔獣キメラの背中に刻まれるが傷は浅い。


「くっ、中々ダメージが入らないな」


 2人が敵との距離を取った段階で俺は通信を入れる。


「こちらクシュー隊ユート、ダイアン隊と共にポイントに到着しました」


「僕の隊で1名が負傷してしまい、回復のため他の隊員と共にウルシ隊の所まで後退していますが、作戦は僕がいれば遂行可能です。出来れば引き続きユート隊員に僕の護衛をお願いしたいです」


「うちの隊も余力はない。すまないが護衛はユート隊員、頼めるか?」


「了解です!」


「ではこれよりポイントに誘導する。ウォークタは移動しつつ曲射で上空から顔と背中を狙え、私が合成魔獣キメラの前方で誘導する。残りの隊員は前方に先回りして進路近くの味方や敵の雑魚を合成魔獣キメラから引き離せ」


「「「「了解!」」」」


 リオ隊長が囮になるのか。危険なポジションだか隊長くらいの実力者じゃないと難しいんだろうな。


 リオ隊長は大きく跳躍して合成魔獣キメラの額に飛びつく。


「汝、その心滾らせ激昂の果てに全てを忘れよ。憤怒操作魔導ツォーンカリーヤ


 詠唱が終わると手の触れている部分が、やや赤みがかった光を放つ。そしてすぐ飛び退いて距離を取った。

 それと同時に合成魔獣キメラは雄叫びをあげて激しく顔を振り始めた。


「よし、怒り狂って私を狙って突っ込んでくるぞ。各員よろしく頼む!」


 リオ隊長はポイントの方向へ飛び退きながら誘導する。

 すると合成魔獣キメラはリオ隊長めがけて突進し始めた。徐々にスピードが上がり始めていく。

 リオ隊長は走りつつ距離を調整して付かず離れずを保つ。そしてポイントに到着してそのまま隊長は通過していく。


「母なる広き大地よ、輪廻のもとに螺旋の砂に帰れ。中範囲流砂変換魔導トレブザントムトゥー・ミトラー!」


 ダイアン隊長が詠唱を終えるとポイント地点が流砂に変わる。

 キメラはそのまま直進し、流砂に足を取られ勢いよく顔から地面に突っ込んだ。半分程埋まったものの、ぎりぎり鼻を砂から出して呼吸をしているようでまだ死んではいない。

 しかし、この隙を見逃す程リオ隊長は甘くなかった。


「我が熱き魂を宿し燃え上がれ!」


 詠唱を終えると激しく剣が燃え上がり、やがて炎は凝縮していき超高温の熱を帯びた剣となった。


「必殺の一撃を受けてみよ!灼熱一閃フェルムフュルグ


 そう言い放つと同時に渾身の横薙ぎで出ていた鼻先を切断する。


追撃剣ジオーク


 横薙ぎの後、背中に剣を突き刺し熱エネルギーを解放する。解放された熱エネルギーは放射状に爆発を起こし、キメラの体は大半が爆発で燃え尽きていた。


「なんとか倒せましたね」


 リオ隊長の所にダイアン隊長と一緒に集まる。


「こちらリオ隊、キメラ討伐に成功した。ウルシ隊長はこちらへ検証にお願いします」


「了解しました。すぐに向かいます」


「こちらクシュー。こちらも魔人族兵を捕縛した。一旦キメラ討伐地点で合流し、ダイアン隊長、ウルシ隊長と情報を整理する。リオ隊はその間近くに来る敵を迎撃してくれ」


「「「「了解」」」」


 5分程するとクシューさん達とウルシ隊、それとウルシ隊と一緒に後退していたダイアン隊の人達も来た。


「まず初めに捕縛した魔人族兵士から得た情報を共有する。奴らがモンスターに襲われないのは腕に着けてるリングがマーカーの役割をしていて、それを着けている奴は襲わない仕組みになっていた。しかも自身以外が外すと爆発する仕組みになっているらしい。俺は何となく嫌な気がしてルディに魔導を使って兵士本人に外させたから大丈夫だったが、知らずに外していたら危なかった」


「概ねウルシ隊長の読み通りですね。それにしても兵士に爆発物仕掛けるとかヤバい奴らですね」


「ダイアン隊長の言う通り、通常の軍隊ではそんな事はあり得ない。かなり思い切った作戦を立てる奴がいるのは間違いない。それについても情報を引き出せて、指揮を取っているのは魔人六騎将のひとり、『砂塵の渦蛇ディーネ』だ。また、キメラ等のモンスターを送り込んでいるのは同じく六騎将の『狂陰の魔獣師ヴァーンズィン』だそうだ」


 この短い時間で敵兵を捕縛してこれだけの情報を引き出してくるクシューさん達は流石だな。


「そうなると恐らくヴァーンズィンの方がこのリングも作ってそうですね。界隈では有名なマッドサイエンティストですから。前に学会で見かけましたが、同じモンスターを研究する身としてはあまり関わりたくないタイプでしたね」


「なるほど。ヴァーンズィンがやりそうな事で当たりをつけて探るのもありかもな。ウルシ隊長は引き続きキメラの解析と、手に入れたリングの解析も頼む」


「モンスターの件については新たに分かったことがあります。先程ユートさんが送ってくれた空間測定魔導スペメジャのデータでモンスターを解析したら、やはりあれは自然界にはいないもので、合成魔獣キメラで間違いありません。象をベースにそれぞれの動物の特徴を移植して、体内に埋め込まれた魔導石の力で結合させてコントロールできる様になっていると思われます。なので魔導石を破壊できれば合成を維持できなくなり自壊すると思います」


「この短時間でよく調べ上げたな。魔導石はどこに埋め込まれているんだ?」


 ウルシ隊長は話しながら合成魔獣キメラの死骸を見て回る。


「基本的に生き物に何かを合成する場合は、心臓か額に付けるのがセオリーなので、それは合成魔獣キメラでも変わらないはずです。映像ではこの個体は心臓にありそうですね…っと、ありました!ぎりぎり攻撃で吹き飛ばかったみたいですね。かなり大き目の魔導石です。これも解析しますね」


「という事は弱点的にはその魔導石を狙えばいいって事か。巨体で狙うのが難しそうではあるがな。俺は現時点で分かったことを大隊長達に連絡する。ダイアン隊はウルシ隊の護衛、やや下がり気味に間を抜けて来た敵を殲滅しろ。クシュー隊は連絡が終るまでリオ隊のフォローをしろ」


「「「了解」」」


 俺達は間を抜けて来る敵を倒しつつ、リオ隊をフォローをした。少しするとクシューさんから通信が入る。


「クシュー小隊はノースポール大隊長の下に移動する。うちの隊の担当場所は別部隊が担当するから、部隊が着き次第移動を開始する」


 小隊丸ごと移動って、いったい何があったんだろう。

 俺達は最前線から下がりノースポール大隊長の所へ急いだ。到着するとクシューさんとウルシ隊長、そしてなぜか俺も呼ばれた。


「モンクシュード・アコニット、以下小隊員2名、到着致しました」


「さて、早速だけど、アコニット小隊はこれより我が隊の遊撃隊となって戦況に合わせて動いてもらう。アコニット小隊長の戦況判断力、スターチス隊長の分析力、ユート隊員の空間測定魔導スペメジャ、これだけの早さで敵の戦略を解析した君達は、この戦いのキーになると考えている」


「お褒め頂き光栄です」


「動きとしては、君達は戦況の変化に応じて現地部隊と合流して情報の解析を行い、それを全部隊と共有しつつ、状況を打破してもらいたい。現状、我が軍は圧倒的に不利な状況だ。数的不利を打開する為にこれから大型魔導砲を使った殲滅攻撃を行う。なので合成魔獣キメラに魔導砲を破壊される訳にはいかない。そこで君達にはまず魔導砲付近の数十体いる合成魔獣キメラを掃討してきて欲しい。魔導砲の位置などはデータを送るから確認しておいてくれ」


 なんだか凄いことになってきたな。かなり重要な任務任されちゃったよ、うちの隊。


「この作戦中において、アコニット小隊長には大隊長直属の特別部隊として暫定的に準大隊長に昇格。率いてもらう兵士の数は変わらないが、大隊を跨いで指揮が取れるよう手配してある。これで君達は大分動き易くなる筈だ。アコニット殿はミーレス帝国で大隊長の経験があるから問題ないだろう。よろしく頼む」


「承知致しました」


 俺達はノースポール大隊長の陣から少し離れた場所に陣を構えて、合成魔獣キメラ掃討の作戦会議をした。


「さぁ、でけぇ任務を任されたからには気合い入れて行くぞ。魔導砲は大隊に1つで今は3門ある。もう少ししたらトリフィダス大隊も到着して4門になる。それらを中央に集め、放射状に配置して一気に殲滅する作戦だ。中央付近の合成魔獣キメラの数は約50体。今は各部隊で食い止めている。核となる魔導石を砕けば合成を維持できず自壊するが、心臓にあるとなるとそこをピンポイントで狙わなければならないのが厄介だな」


「生半可な攻撃じゃあ魔導石どころか表皮の突破もできないですしね。特に顔は硬いから顔を避けて1点を集中して攻撃とか、超高威力の一撃とかが出来れば…。威力的にはリオ隊長の灼熱一閃フェルムフュルグ位あれば足りるから、魔導で言えば5から6クラスの威力ですかね。全部隊の中でその威力を出せる人がどれくらいいるかデータをチェックしてみます」


 そう言ってウルシ隊長はデータを検索し始めた。

 理想としてはスナイパーライフルみたいに遠距離から狙えて、超高威力な魔導…まだあんまり圧縮系の魔導は練習してないから使ったことはないけど、イメージは固まってるから出来そうな気もする。


「そのクラスの魔導が使えるのはさすがに少ないですね。大隊長を含めても38人しかいません。その中でも特定部位を狙えるようなタイプになると18人。戦線を維持しつつ何名中央に集められるか…」


「対象の人間がいる隊と小隊長、中隊長に作戦参加を打診してみてくれ。あまりに人数が揃わなければ大隊長にも頼むことになる」


「僕は空間測定魔導スペメジャで魔導砲近くにいる合成魔獣キメラの魔導石がある位置を特定すればいい感じですか?」


「その通りだ。魔導砲集結ポイントはノースポール大隊長がいる陣地からすぐ後ろになっていて、集まり次第最前線に移動して射出する形だ」


「わかりました。早速取りかかります。空間測設定、半径1キロ、電磁波、光波、重力波、複合測定、空間測定魔導スペメジャ


 俺は再び空間測定魔導スペメジャを唱えた。俺は取得したデータをクシュー隊長に送るときにある事に気がついた。


「クシューさん!ちょっとこれ見てもらっていいですか?今さっき計測したデータなんですけど、僕らのいる陣地の下に何本もトンネルみたいな空洞があります!これってもしかして敵の部隊が地下を進んで進軍してるんじゃないですか?」


「なんだって!?確かにこれは…いや、これはただ進軍してるだけじゃないかもしれない。半径1キロ圏内にこの数のトンネルを掘って進軍するのは労力がかかり過ぎる。むしろ敵の狙いはトンネルを沢山掘ることで地盤沈下を誘発させ、崩落で一気に殲滅することの可能性が高い」


 マジか!?そんなこと出来るの!?でも確かにかなりの本数あるからいつ地盤沈下起きても不思議じゃなさそう。


「これは緊急事態だ!ユートはもう一度空間測定魔導スペメジャを使って、測れる最大値で構わないから崩落の可能性があるエリアを特定してくれ」


「了解です!」


 俺は慌てて最大範囲の半径5キロ圏内で空間測定魔導スペメジャを使った。さすがに連続して使うと魔力を使い過ぎてふらついて来たけどそうも言ってられない。


「トンネルがあるのはここを起点にしておおよそ3キロ程度です。見事に魔導砲のあるエリアを狙ってます。今データ送りますね」


「これはこちらの作戦はバレてるな。内通者がいるのかわからんが。とにかくすぐに各大隊長に知らせて範囲外に逃げないとまずい」


 クシューさんはすぐに各大隊長に連絡をすると、すぐに退避するよう命令が来た。


「各員に告ぐ!敵の罠により我々の足元にトンネルが掘られており、大規模地盤沈下の可能性がある。ノースポール大隊を中心に左右に分かれて退避しつつ、間を抜ける敵軍へ攻撃を続けろ!倒せなかった敵は後発隊が迎え撃つ。少しでも数を減らせ!」


 ノースポール大隊長の通信後、各部隊は速やかに左右へ退避し始めた。





「あらあら、敵さんこっちの作戦に気づいちゃったみたいね。仕方ないわね、効果は薄れるけどもう落としましょう。ディーネちゃんよろしく」


「わかったけど、あんたに『ちゃん』づけで呼ばれると寒気がするからやめてちょうだい」


「あら寂しいこと言うわね。昔はあんなに可愛がってくれたのに」


「魔王様のお気に入りだからって図に乗るなよ。下民のくせに」


「ふふ、いってらっしゃい。さぁて、私もお仕事しに行かないと」





 退避し始めて少しすると、突然大きな揺れを感じ皆立ち止まった。まずい、これは地盤沈下の予兆かもしれない。俺は慌てて魔導を唱える。


「我が周囲の重力を解き放て!無重力発生魔導ヌル・ゲーホーナー!」


 俺の周囲5メートル程が無重力になりふわっと浮かんだ。その直後に激しい揺れと共に地面が崩れ落ちた。


 直前に察知して飛行魔導で回避した人もいるが、敵も味方も殆どが崩落に巻き込まれていた。

 崩落が落ちついたタイミングでゆっくりと重力を戻しつつ効果範囲を下へずらしていき着地する。

 大体深さ10メートル位は崩れ落ちたと思う。あちらこちらにモンスターの体や人の体が埋まっているのが見える。


「そんな…こんな事って…」


 ルディさんが呟く。皆も同じ様に愕然としている。俺が魔導で助けられたのは一緒に行動していたクシュー隊の皆と、ウルシ隊、ダイアン隊の人だけ。


「ユート、助かった。咄嗟に魔導唱えてくれなかったら俺達も全滅だった」


 クシューさんが声をかけてくれたけど、俺は声が出せなかった。こんな惨状を見るのは始めてだ。


「無事なのは俺の隊とウルシ隊、ダイアン隊か。皆は生存しているモンスターに注意しつつ、生きている人を探してくれ。俺は大隊長に連絡をしてみる」


「ユートくん、気をしっかり持って。あなたのお陰で私達は生きてる。それにまだ誰かを助けられるかもしれない」


 愕然として立ち尽くす俺を、ルディさんは優しく抱き締めながら話してくれた。


 俺は魔力の使い過ぎで捜索に空間測定魔導スペメジャが使えず、脱力も凄かったのでルディさんからもらった魔力回復薬を飲んだ。飲むと大分楽になり、なんとか気持ちを奮い立たせて皆と一緒に生存者を探した。俺達以外にも咄嗟に防御魔導や飛行魔導を使った人達が何人かいて合流できた。リオ隊長も飛行魔導で難を逃れたみたいで合流出来た。

 でも道中で崩れた岩に挟まる人や、身体の部位だけが落ちているのを何人も見た。


 10分程するとクシューさんが皆を集めた。


「生存者が何名か見つかって良かった。大隊長と連絡が取れた。大隊長で戦死されたのはトリフィダス大隊長だけで、他の大隊長は全員無事だったそうだ。だが全軍の約9割は壊滅したそうだ。全軍一旦崩落エリア外まで後退し援軍と合流する。俺達も援軍部隊まで後退するぞ。まだ戦いは終わっていない。敵は崩落エリア外にまだまだいるから気を引き締めて行くぞ」


 俺達は崩れた地面を気をつけながら後退を続け、30分程で崩落エリアから抜け出した。道中で生き残ったモンスターとの戦闘もあったけど、大した被害は出なかった。

 崩落エリアから抜けると援軍部隊が到着していて陣地を敷き直していた。救護隊もあり怪我人の治療や魔力の回復などを行えた。俺達も少し休み、体力と魔力を回復させた。


 ある程度回復出来たタイミングで生き残り部隊の隊長格が呼び出された。そこにクシュー隊の面々も呼ばれたので同席した。


「敵の地盤沈下作戦からよく生き延びてくれた。私達がもう少し早く気づけていれば回避出来たかもしれない。本当に申し訳なかった」


 そう言ってノースポール大隊長が頭を下げた。まさかこんな大規模な地盤沈下を狙って来るなんて想像出来ないよ。大隊長達は悪くない。


「だがまだ諦めるには早い。増援も順次到着しているし、敵もまだ大勢いる。私達の戦いはまだ終わっていない」


「思っていたよりも残ってるわね~。やっぱり当初の予定より早く落としたから増援部隊まで巻き込めなかったわね」


 突如として空中に女性が現れた。切れ目で耳がやや尖っていて、体型は細身だが筋肉質で露出の多い服を着ている。


「誰だ貴様は!その姿は魔人族だな!」


「お決まりのセリフをありがとう、大隊長さん。作戦が概ね順調で気分がいいから自己紹介してあげるわ。私は魔王様直属の特務部隊、『死神モルテファルクス』がひとり、カルミアよ。私の完璧なプランニングをほんの少し狂わせた貴方達が気になってちょっと見に来たのよ」


 この声どっかで聞いたことある気がするな…。


「そしたら見慣れた顔があったから驚いちゃった。まさかこんな所で会うとは思っていなかったわよ。ユートくん、ウォークタくん」


「なぜ俺達の名前を知ってるんだ!」


「待て、ウォークタ。この声聞き覚えあるなと思ったら、まさかクフカップさんですか?」


「さすがユートくん。女を見る目があるわね。御名答、私はクフカップとして5年も転移・転生管理課に潜入していたの。長期間変身しながらの潜入は大変だったわ~」


 そんな...。転移・転生管理課の皆は楽しそうで、仲間同士すごく良い関係が築けてそうで羨ましと思ってたのに...。


「5年は長かったけど、お陰でアユーユを無力化出来たわ。今頃は生きてるか死んでるかどっちかな〜」


「アユーユさんに何をした!?」


「ユートくん焦らないで。それは帰ってからのお・た・の・し・み♪まぁ無事に帰れたらだけどね。そろそろお腹も空いたからお話も終わりにしましょう」


 そう言うとカルミアは詠唱を始めた。


「死せる生命は我が糧となり、大いなる力は我へと流れる」


「させるか!」


 ウォークタが矢を放つが軽々と避けられ距離を取られる。


「我焦がれるは灼熱の愛情、いざなうは煉獄の狂宴、汝らには寵愛を、全てを灰燼に帰す地獄の劫火、憤怒と慈愛に満ちた炎帝の抱擁」


 詠唱が終わるとカルミアの前に上半身だけの炎の巨人が姿を現した。その大きさは上半身だけで15メートル位ある。


炎帝イフリート抱擁エンブレイス


 魔導名を言い終えると、その巨人が両腕を広げて突っ込んできた。


「母なる大地より重石ちょうせきを取り出し頑強なる防壁を築き広大な我等を護れ!広域アンプロ硬重石ウォルフラム防壁魔導テイクス


「猛き旋風よ、逆巻く広大な盾となり我が前に現出せよ。広域竜巻障壁魔導アンプロバヴァンダールカバト


「熾烈なる烈風よ、逆巻く狂飈きょうひょうとなりて我等を護る幾重もの広き障壁となれ!多重中範囲逆風障壁魔導クァイ・ヴォンドゥブールカバト・ミトラー


 大隊長2人とルディさんは範囲防御魔導を唱えたが、3人がかりでも炎の腕に包まれ徐々に熱波が近づいてくる。ルディさんは左端にいたので右腕に1番近く威力も高い。


「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 限界まで出力を上げたルディさんの防御魔導はぎりぎりの所で攻撃を押し留めきることができた。しかし、ルディさんの両腕は魔導の出力に耐えきれなかったのと、イフリートの右腕から来る熱波で焼け落ちてなくなっていた。

 大隊長達もかなり強力な防壁を展開したのでなんとか耐えきったけど消耗も激しそうだ。


 ルディさんが後ろに倒れかけた所を俺は受け止めた。


「良かった…ユートくん、無事だね…」


 今にも消え入りそうな声だ…


「守れて…良かった……。お姉さん…ユートくん…の…こと…心配…で……」


 こんな状態でも俺の心配をするなんて…


「もっと…一緒に……冒険…してみたかった…な……」


「そんな死ぬみたいなこと言わないでください!」


「ごめん…ね…。ユート…くん……い…きて………」 


 受け止めていた体から力がなくなっていく。


「ルディさん!ルディさん!ルディ…さん…」


 涙が止まらない


「なんで…そんな…ルディさん……」


 優しくて、強くて、しっかりしてて、皆の間を取り持ってくれてた


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 俺のく声が戦場に響く



 初めて大切な仲間の死を経験した



 俺の戦争は悲しみが始まりだった

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