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Cycle of life ~ 生命を紡ぐ円環の惑星 ~  作者: 彩灯 哲
第1章 異世界生活開始
7/21

第6話 英雄封じ



「あとコレとコレもよろしくね!アユーユ!」


「依頼の素材、特殊な物多くね?また変な実験すんでしょ」


「え?バレた?ちょっとユートくんに協力してもらって超重力下での金属特性の変化を確認したいのと、特殊錬成の実験したくてさ!現存する金属の配向性がどのように変化するかを知ることで新たな特性を持った金属が生成出来ないかなと思ったんだよね!特にアダマニウムやオリハルコンみたいな最強クラスの金属を更に性質向上出来ないかと思ってさ!あわよくばアゴイステン合金も欲しいなぁ〜。ディアーゴにも頼んでみるかな〜」


 ピアに採集クエストを頼みたいと言われて、今日は朝から病院に来ている。彼女は俺よりも大分歳上なのだが全くそんな感じがせず、長い付き合いでもあり気がつけば敬語がどこかにすっとんでしまった。


「まったく何種類集めさせる気だよ。こう見えて忙しいのよ俺も。一応無垢人界を救った英雄のひとりなんだけどなー」


 そんな些細な不満を口に出していると、緊急の通信が入った。


「はい、こちらアユーユ、どうしたルルさん?」


「アユーユさん大変です!国境付近に大量のモンスターと魔人族軍が集結しています!ハンター協会西部拠点が防衛拠点に変わる為、施設にいる非戦闘員を避難させます。西部拠点のハンター試験会場には多くの受験者がいるので、緊急で大型バスを手配しました!一緒に西部拠点へ向かうのですぐにワノイエに来て下さい!」


「ついにこの時が来たか…、了解した、すぐに向かう」


 3ヶ月前に突如として魔人界から全世界に対して国際チャンネルで宣戦布告がされた。


「我々魔人族は、この私、ガムオン・Z・クアノウを新たな王とし、この魔人界を貶める元凶である先代の王、コランバイン・A・トイフェルを処刑し、同様に我々を貶める全世界に宣戦布告する!」


 そう言い放つと、ガムオンは魔力で左手に大きな炎の鎌を創り出し、コランバイン前国王をその場で斬首した。そして前国王は燃え上がり灰と化した。


「貴様らもこうなりたくなければ、大人しく降伏し我々の指示に従え。さもなくば一人の例外もなく燃やし尽くしてくれよう。良き返答を期待せずに待っておく」


 この放送の後、魔人界との貿易は全て停止し、魔人界と行き来する公共機関も全線閉鎖、魔人界に取り残された各国の人々は人質となり、交渉の材料とされるようになった。反対に各国の魔人族は帰国を拒否され、交渉の材料にしようにもガムオンから用済みと告知され、自国から完全に見放される結果となった。また、取り残された魔人族は民衆から報復の的となり、各国で暴動に繋がり死者も出ていた。

 しかし、そういった暴動や政治的な取引きなどはあっても、魔人界から直接的な侵略行為はされていなかった。


 俺はピアにもこの件を伝えた。


「ちょうど今私にも別口から連絡来たよ。いよいよ本格的に戦争状態に突入ね。病院も忙しくなりそう。アユーユは前線へ?」


「あぁ、転生管理課の人達と一緒に非戦闘員を避難させたらそのまま前線に出る」


「気をつけてね。英雄の君が西部地区を拠点にしているのは向こうも知ってるはずだから、きっと何か仕掛けてくるよ」


 俺は黙って頷き、部屋の窓から飛び出しそのまま翼を出してワノイエまで飛んでいった。


 ワノイエに着くと、そこには既に何台もバスが到着していた。正面玄関から中に入るとルルさんやゴーさんが慌ただしく動いていた。


「アユーユくん、こっちいい?」


 ゴーさんに呼ばれてそっちに向かうと、そこには武装したクフカップさんがいた。


「私もハンターライセンスあるんで前線に出ることになりました」


「アユーユくん宛に大統領直々に指令が来てるよ。『可及的速やかにハンター協会西部拠点へ向かい、到着次第、拠点長指揮下に入り、部隊を率いて出撃せよ。魔導クラス全解放も許可する。拠点を何としても守り抜き、国民の安全を死守せよ』との事だ」


 大統領直々の指令とは…それに魔導クラス全解放まで許可…事態はそれ程までに深刻って事だな。気を引き締めないと。


「アユーユさん!」


 ルルさんが慌ててこっちに来た。


「もう間もなく準備が整います。アユーユさんは先頭車両に乗って私達と現地に向かいます。道中で情報を整理しつつ、ハンター協会西部拠点長と共に部隊の編成と作戦の検討を行います」


「了解」


「あ、アユーユさん先に乗ってて下さい。ルルちゃんちょっといい?」


 クフカップさんはルルさんに用事があるみたいなので、俺は先にバスに乗り込んだ。バスには俺と同様に現地に援軍として向かうハンター達が大勢乗り合わせていた。

 乗り込んで5分程でバスは出発した。ワノイエはバスターミナルの近くにあり、緊急時には応援部隊の拠点としての機能も持つ。宣戦布告があってから、いつでも対応出来るよう準備を進めていたので、緊急事態宣言から僅か20分で応援部隊を集め出発した。


 出発して5分程すると西部拠点から通信が入った。


「ハンター協会西部拠点長のオリーブ・ペンタスだ。迅速な応援に感謝する。英雄アユーユ殿もお久しぶりです」


「英雄はやめてください。いつも通りにして下さいよ。お久しぶりです、オリーブさん。拠点移動の際にご挨拶に伺って以来ですね」


「もう5年前になるか…月日が経つのは早いものだな。さて、思い出話に花を咲かせたいところだが、早速本題に入ろう。本日14時、国境付近に大型モンスターが集結していると警備隊より報告があった。さらに30分後、魔人族軍が国境付近に集結、各方面に緊急事態宣言を発令、5分後に警備隊による警告放送、その10分後に再度警告放送、そして先程3回目の警告放送を行った」


「境界線を越えてくるのも時間の問題ですね」


「そうだな。こちらも越境してくる事を想定として、既に500人規模で先遣隊を向かわせている」


「緊急事態宣言から15 分でそれだけの人数が出れるとは…流石ですね。敵戦力はどれくらいですか?」


「敵戦力は国境付近だけで3万程の生体反応を検知している。そしてモンスターの数が圧倒的に多い。その中でも、ワイバーンやロックバードなど飛行能力持ちが数千いる事が確認されている」


「モンスター数が圧倒的に多いっていうのが気になりますね…。従えるにしては多過ぎて統率が難しいはずです。それと、飛行モンスターが多く、空中を制圧されると厄介ですね…。ちなみに現状で戦力差はどれくらいですか?」


「我が軍は援軍を含めても敵戦力の半分がいいとこだ。軍の兵士は常駐部隊が約5千、援軍で約1万、有志のハンターや受験者が約3千で、現状では約1万8千だ」


 単純な数では劣っているが、モンスター群の統率はそんな簡単じゃない。同士討ちや意図せぬ動きもするだろう。実際には数字ほどの差はないと思うが…それでも数の上ではかなり劣勢か…


「大型魔導砲などの武装は使えますか?」


「西側の防壁に10と移動式の10で20あるが、撃てる弾数の備蓄があまりない。戦時下なので人員も含めて追加を頼んだんだがまだ到着していなくてな…」


 宣戦布告されているのに国境に兵力をすぐ回さないって何考えてるんだ本部は。


「そうしたら、飛行能力があるモンスターが多いので、一先ず僕が相手をしましょう。他に空中戦が可能な方はどれくらいいますか?」


「飛行魔導が使える者はせいぜい300といった所か。戦闘用飛行魔導機フライトボード戦闘用翼型魔導機フライトウイングもあるが、合わせて500程度だ」


 こっちの空中戦力は敵の半分から3分の1程度か…。予め空中戦を多く想定しているわけじゃないから仕方ないが…圧倒的に数が足りない。総戦力でも差があるのに空中を制圧できないとなると、正直厳しい戦いになるだろう。


「わかりました。そうであれば、部隊編成は、最小単位はフォーマンセル、下級の兵士やEランク以下のハンターは魔導砲の防衛と、その場で直接魔力を供給する供給員として配置、中級兵士、D級以上のハンターで敵歩兵戦力の掃討、空中部隊の編成は上位兵士とC級以上のハンターで。空中を制圧されれば数であっという間に押し切られる。なので出来るだけ精鋭を揃えましょう。それぞれ敵を魔導砲の射撃範囲内に誘導し、一気に殲滅という形でいかがでしょう」


「うむ、それが妥当だろう。すぐに取り掛かる。君も到着次第前線へ頼む」


「承知致しました」


 話もまとまり一旦会議は終わった。

しかし、数分してすぐにオリーブさんから緊急回線が開く。


「先程境界線を越えたと連絡が入った。警告射撃もしたがそのまま戦闘に入ったそうだ」


「言ったそばから越えてきましたね」


「そうだな、先遣隊はまだ到着できていない。なんとか持ちこたえてもらいたいが…」


 すると通信先で警報の音が聞こえた。


「拠点長!境界警備隊から緊急通信です!」


「どうした、何事だ!?」


「モンストルライダー部隊により警備隊全滅!拠点…壊滅です!」


「な…もう壊滅しただと!?」


 な!?そんな数分で壊滅するなんて…。


「すまない、取り乱した。聞こえたと思うが境界警備拠点が壊滅したそうだ。空からの急襲でモンストルライダー部隊に太刀打ち出来ず一瞬の出来事だったと」


「飛行モンスター騎乗のモンストルライダー…結構厄介ですね。モンスターの種類とライダーの総数はどれくらいですか?」


 俺もかつて相棒の翼竜に乗って戦っていたので、モンストルライダーの強さは知っている。通常戦うモンスターとは比較にならない強さを引き出せるので、優先的に処理をしなければならない。


「最後の通信データから、ライダーは5騎で、ワイバーン種が2、怪鳥種が2、キマイラが1だったそうだ。恐らくキマイラに乗っているのがリーダーだろう」


「キマイラを従えるとは中々凄腕ですね。そいつには僕が戦いましょう。空中部隊の最上位兵士とAランクハンターでその他のライダーを抑えましょう」


「わかった。お互い気を引き締めてかかるぞ」


「承知致しました」


 通信が終わる頃には既にバスは出発して市街地を抜けていた。バスも普通のバスではなく護送用のバスなので通常の物よりスペックが高い。ここからは速度を通常以上に上げて行くので、西部拠点までは20分かからずに着くだろう。

 そういえば、今日ハンター試験のアユーユくん達は大丈夫だろうか。連絡しとこう。


 ユートくんが電話に出なかったのでウォークタに連絡して東門で待機するよう伝えた。電話を終えると、


「ごめんね、アユーユ君、今回も君を頼りにしてしまって」


「何言ってるんですかゴーさん。皆を守りたい気持ちは僕も一緒です。それに力ある者には責任が伴うのは当然ですよ。転生して得たこの力、僕は皆を守る為に使うって決めたんです。それがこの世界で僕を産んで育ててくれた両親の願いでもありますから」


「誰かを守る為に力を…アユーユさんのご両親は優しい方だったんですね」


「『力ある者は力なき者を守れ、力なき者は子を守れ、子は守る者の背中を見よ、そしていつか強くなれ』。父さんがよく言ってた言葉さ。無垢人なのに半竜人ハーフドラゴニュートの俺を純竜人ドラゴニュートの迫害からずっと守ってくれていた。何度も重傷を負いながらも一歩も引かずにね」


 俺は無垢人の父さんと竜人ドラゴニュートの母さんから産まれた半竜人ハーフドラゴニュート。力こそ全てという考えが主流の竜人界では、純粋な戦闘力としては弱い無垢人への迫害が横行していて、ハーフの俺もその迫害の対象だった。

 そんな俺をずっと守ってくれた両親には感謝しかない。最終的には亜人界に避難して保護して貰ったんだけど、父さんは竜人界に住んでいた頃の怪我が原因で死んでしまった。


 俺にとっての英雄は父さんだった。転生の事を話した時も全て受け入れてくれた。この世界で腐らずに生きて来れたのは間違いなく今の両親の力が大きい。俺はそんな両親を心から尊敬している。


「だから俺は強くなって守ると誓ったんだ。今、俺が生きているこの世界を」


「私も…強くはないですけど、子どもたちの未来を守りたいです」


「戦う場所は違うかもしれないけど、私達も想いは同じだよ」


 俺達は決意を新たに戦地へと向かった。



 西部拠点東門に到着すると、門前は人で溢れていた。非戦闘員が避難して集まっていたのだ。そこにはユート君や、戦友であるカコミィの弟、ウォークタもいた。


「お待たせしました。皆さん、順次バスに乗り込んで下さい!バスはまだこれからも来ます!慌てず、落ち着いて乗り込んで下さい!」


 ルルさんとゴーさんは避難者の誘導を始めている。俺とクフカップさんはユート君達の元へ向かった。


「間に合って良かった。皆、怪我はない?」


「大丈夫です。試験を終えて食堂で話していたところだったので。ルビアス先生は既に前線へ向かいました」


 そういえば、ルビアスのあねさんが近々ハンターライセンス更新するって前に姐さんの家に遊びに行った時に聞いたな。


「ルビアスの姐さんがいたのか!それは心強い。前にそろそろハンター資格更新するから試験官によろしくって言われたけど、今回の試験で受けてたんだな」


「皆さんはバスに乗って避難して下さい。アユーユさんと私は前線に出て応戦します」


「僕も行きます!まだ試験結果はわかりませんが、ハンターはこういった時こそ率先して動かないと!それにこのまま逃げ出したらカコミィ姉さんにシバかれるので」


 ウォークタは魔導のセンスもいいし、頭の回転も早い。ハンターでなくても戦力としては十分に足りているから来てくれると助かる。

 ユート君は桁違いの魔力保有量と稀有な重力魔導使い。そして実戦的な剣術も身についていて戦力としては申し分ない。でも彼は転移してまだ半年。まだまだこの世界に慣れていないし、『戦争』の経験がない。俺も転生前はそうだったけど、日本にいると戦争はニュースや過去の出来事で、自分自身が当事者になっていないからどこか別の世界の出来事と感じてしまい易い。

 実際の『戦争』を体験したときに果たしてどれだけ冷静さを保てるか…。出来るなら平和に生きてきた彼は戦争とは離れた場所で過ごさせてあげたい。わざわざ危険で危ない思いをせずにいて欲しい。


「…僕も…行きます」


「無理しなくてもいいんだよ、ユートくん」


「いえ、大丈夫です。僕も皆を守りたい!」


 彼は優しいし責任感が強い。きっとそう言うだろうなと思ってた。心配ではある。でも彼も勇気を出して言葉を発したのだろう。そんな彼を信じてあげたい。


「お前ならそう言ってくれると思ってたよ、ユート。それでこそ俺の相棒だ。行こう!俺達の街を守りに!」


 ウォークタは信頼できる子だからユートくんと友達になってくれて良かった。この半年2人を見て思う。良いコンビになってきたって。きっと2人なら大丈夫。

 


 そしてその時は来た。


「前線部隊接敵!戦闘開始!」


 サイレンがさらに大きく鳴り始めた。俺も急いで前線へ向かわねば。


「ゴーさん!避難誘導は任せます!僕達は前線へ出ます!」


「了解!気をつけて!」


「俺はクフカップさんを、ユートはウォークタを連れて飛んで向かう。ユートいけるね?」


「はい!」


 俺達は前線へ向かって飛び立った。俺は道中でユート達に指示を出した。


「ユート達は歩兵部隊に加わってもらう。一旦部隊長に話をしてフォーマンセルを組んできてくれ。その後の指示は部隊長に従うように」


「了解です。アユーユさんは直接前線ですか?」


「あぁ、俺は空中戦へ、クフカップさんは2人を部隊長の所まで頼みます」


「はい、わかりました」


 西側防壁の前に来ると大勢の兵士やハンターが戦場へ向かって進んでいた。その後方にある編成待ちの人が集まる場所へクフカップさんとユート達を降ろした。


「皆、気をつけて!作戦は『いのちだいじに』だぞ!」


「アユーユさんも気をつけて!」


 俺はユートに向かってぐっと親指を立てて合図した。

 そして全速力で最前線へ向かった。


 


《相棒、今回は流石に俺の出番かな?》


 頭の中に直接響く声が聞こえる。


「ああ、負ける訳には行かないからな。一緒に頼むぜ、相棒!」


 俺は声の主にそう答える。


《さぁ、呼んでくれ、俺の名を!》


「来い!黒紅竜鎧槍ノークァー!」


 そう呼ぶとアユーユの隣に光が集まり、額に十字の角があり、体が金属で出来ていて紅をベースに黒の模様が入っている翼竜が現れた。そして俺はその翼竜の背に乗った。


《久々だな、こうして一緒に空を翔ぶのは》


「1ヶ月前の海竜討伐のクエストだったっけ?」


《違う違う!半年前のユートくん拾った時だよ!》


「ユートを落とし物みたいに言うなし!」


《似たようなもんでしょ》


 この調子のいいこいつは俺の相棒、ノークァーだ。厄災魔獣との初戦で命を落とした相棒の翼竜。後に金属生命体として蘇って今でも俺の相棒として一緒に戦ってくれている。


「って、ふざけてる場合じゃないんだ。マジでやんないとヤバそうだから呼んだんだよ」


《空中戦力が少ないんでしょ?わかってるよ。どうする?分かれて戦う?》


「とりあえず一旦分かれて戦おう。でもキマイラのライダーは強敵そうだからもしかしたら呼ぶかもしれん」


《オッケー!とりま、呼ばれるまでは派手に暴れとくよ!》


「可能なら歩兵部隊もフォローよろしく!」


 少しするとすぐに戦闘空域が近づいてきたので通信を入れる。


「こちらアユーユ・アフート、応援に来ました。先遣隊、応答出来ますか?」


「こちら先遣隊隊長、クフェア・ノースポール、まさか真紅クリムゾン竜騎士ドラグナイトも来ていただけるとは。応援感謝します」


 ん?真紅クリムゾン竜騎士ドラグナイト()って言ったよな。


「他にも応援が来たんですか?」


「はい、魔導を(トライフォース)極めし者(マスター)のルビアス様も来て下さってます」


 ルビアスの姐さんもうこっち来てたのか。それはありがたい。姐さんいるだけで空中戦力は跳ね上がる。


「ルビアス様は敵モンストルハンターと5騎と交戦中、流石に苦戦しています。歩兵部隊は大丈夫ですのでアユーユ様はそちらへ!」


 流石に姐さんでも復帰したばかりで5騎はキツイよな。


「了解しました。相棒の翼竜をそちらに向かわせます。空中の敵はそいつに任せて下さい」


「ありがとうございます!ご武運を!」


「ノークァー、聞いてたな。先遣隊の歩兵部隊は空中戦力が乏しい。お前が行って蹴散らして来い!」


《オッケー!お任せあれ!》


 通信が終わる頃には目視で捉えられる所まで近づいていた。俺達は二手に分かれて戦闘を開始した。


 俺はルビアス姐さんが相手をしている5騎の方へ。先ずは初撃で1体を倒したい。


「集いし光よ、新たに輝く閃光となりて我が敵を穿つ一撃となれ!」


 詠唱すると掌に光が集束していく。


穿孔集束光魔導パーフォレーションレイ!」


 魔導名を言うと同時に掌をライダーが駆るワイバーンに向けると、一筋の光がワイバーンを貫いた。ワイバーンは一撃で絶命し、ライダーも道連れに落ちていった。

 そのままもう1騎のワイバーンライダーをすれ違いざまに抜刀して攻撃。鎧ごと上下真っ二つになり2騎目も撃墜。ワイバーンもバランスを崩して落ちていった。


 俺は高速飛行のまま今度はロックバードライダーの方へ行き、仲間が落とされ動揺している隙をついて一撃で右手とロックバードの翼を斬り落とした。

 3騎が落とされたことで、敵も一旦立て直そうと距離を取った。


「大丈夫?ルビアス姐さん」


「ありがと!お早い到着だね。アユーユ来る前に1騎は倒せるかなって思ってたけど、思ったより苦戦しちゃったよ」


「5対1だし仕方ないでしょ。ま、もうあと2騎しかいないけどね」


 残るはロックバードライダーとキマイラライダーのみ。ルビアス姐さんは苦戦したと言いつつ被弾もしてないし、そこまで疲労してる様子もない。ブランクがあっても流石だ。


「しょうがないからキマイラの方は譲ってあげるよ。全盛期なら楽勝だっただろうけど、今の私じゃ少し長引きそうだから」


「5対1でも被弾してないくせによく言うよ。まぁ姐さんには遊撃部隊として苦戦してる部隊を救援して欲しいから、キマイラは引き受けるけどな」


「悪いね〜ロックバードライダーはきっちり仕留めてから行くから安心してね!」


「そもそも心配してないよ。ノークァーが飛行モンスター相手にしてるから見かけたら連携よろしく」


 どうやら敵も打ち合わせが終わったようでゆっくりと近づいて来る。


「まさかこうも早く英雄殿に相見えるとは。一瞬で3騎墜とすとは見事な腕前ですな」


 このキマイラライダー、なんかすごい武人っぽい奴だな。


「戦場でお喋りとは随分余裕そうね」


「貴殿の事も存じていますよ。まさか引退したはずの魔導を(トライフォース)極めし者(マスター)がいるとは思いませんでしたよ。お陰でこちらの計画は大きく狂いました。本当ならもう既に防衛拠点まで到達してるはずだったのに」


 まぁ確かにそれは誤算だな。こちらにとってはとても嬉しい誤算だけど。ぶっちゃけ姐さん1人で数千人分の戦力だもんな。


「お褒めに預かり光栄だわ。なにも出してはあげられないけど」


「さて、時間も惜しいからそろそろ第2ラウンド始めようか。今度は俺がアンタの相手だ」


「お喋りでの遅延もさせてもらえませんね。貴方がたがここに留まるだけでも大きな意味がある。もう暫くは付き合っていただきますよ。我は魔王軍第1空戦部隊隊長、リンドー・マム。以後お見知り置きを」


 そう言ってリンドーは武器を構えた。相手の武器は戦斧バトルアックス。騎乗しながら戦うには長柄武器の方が都合がいいのでライダーの多くは槍か戦斧バトルアックスを好む傾向がある。

 そしてキマイラは炎のブレス、尻尾の毒蛇による毒のブレスと噛みつき、爪や牙の近接攻撃と遠近バランスの良い攻撃が可能な強敵だ。


「奴さんはあぁ言ってるけどどうする姐さん?」


「ならお言葉に甘えてもう5分だけ遊ぼうかしら」


 そう言うと姐さんも構える。

 俺も1度納刀して抜刀の構えをする。


「オッケー5分ね。良かったな、もう少し姐さん遊んでくれるってよ」


「5分と言わずもう少し遊んでいただきますよ!」


 そう言うと同時にキマイラが大火球を吐いてきた。

 姐さんは左へ回避、俺は翼を強く羽ばたかせ風を起こして火球をかき消すと同時に大きく後退し詠唱も始める。


「集いし光よ、新たに輝く二筋の閃光となりて、我が敵を穿つ連撃となれ」


 かき消した大火球の後ろからキマイラが突進し、さらに斜め上からリンドーが戦斧を振りかざしていた。ライダーの基本戦術の1つである目隠しからの同時攻撃だ。

 しかし、それは俺の読み通りで、後退しながら火球をかき消したので同時攻撃の地点がややズレて双方の位置が丸見えだ。


穿孔集束双光魔導パーフォレーションツインレイ!」


 右掌を前に出すと集束した光が二筋の閃光になり双方めがけて放たれた。キマイラは顔面を貫いたが、リンドーの方は戦斧の側面で軌道をズラして防御していた。リンドーはそのまま攻撃を仕掛けてくる。


「せいやぁぁぁ!」


 かけ声と共に突き出した戦斧を俺は身を翻して回避し、同時に翼を羽ばたかせ反撃態勢に入る。抜刀して一撃を加えたが、リンドーもすぐ防御姿勢に入り戦斧で受ける。しかし、俺の剣戟の威力を殺せず、反動で勢いよく地面に叩きつけられた。

 俺は追撃を加える為、無詠唱で放てる中で最も威力の高い魔導を放った。


連続爆裂光魔導エクリクシィリヒト・ラガーター!」


 左手から無数の光がリンドーに放たれ、光が当たった瞬間に連続して爆発が起こった。至近距離での爆発は、それぞれが車を吹き飛ばす程度の威力になるはずだからこれでトドメは刺せたか…。


そう思った矢先に煙の中で何かが動くのが見えた。


「さすが英雄アユーユ…凄まじい連撃ですね…」


 あの爆発を喰らってよく動けるものだが、動くのがやっとの重傷だ。


「なんですか…あの魔導は…初めて見ましたよ」


「勉強不足じゃないのか?俺が最も得意とするのは光魔導だぞ。さっきのは可燃性ガスを敵の周囲に発生させ、光の熱で爆発させる魔導だ。魔導登録もされてるからデータベース見ればちゃんと載ってるぜ」


「アユーユ〜!終わった〜?」


 姐さんがゆっくりと近づいて来る。


「今終わるところだ。姐さんはもう終わったのか?」


「うん、一撃で黒焦げになっちゃったよ。2人とも5分も持たなかったね〜」


 こっちは一応やり取りあった戦いだけど、姐さんの方は瞬殺だったのね。


「くふはははは、誠に不甲斐ない!英雄相手とはいえ5分も持たないとは。でも仕方ありませんね、今回は撤退させていただきます」


「あらあら、逃げられると思ってるの?」


 中々の重傷だし、そうでなくても俺と姐さんの前から逃げられる奴なんて殆どいないと思う。


「5分は持ちませんでしたが、注意をこちらに向けることは出来たので大丈夫ですよ。こちらも切り札の1つを切っていたんですよ」


 このタイミングでノースポール隊長から通信が入った。


「アユーユさん!大型の魔導兵器が突如として現れました!検知魔力量が物凄い数値を示しています!至急対応をお願いします!」


 なっ!これだけの戦力を展開して尚そんな兵器まで持ち込んでいたのか。


「くそ!いつの間にそんな物を!」


「ではまたいつか再戦を」


 そう言うと、ワイバーンライダーが高速で接触してリンドーを運び去っていく。


 こちらの通信の間に撤退の段取りを通信していたようで、ワイバーンが墜落して一緒に落ちたライダーと、ライダーの方がやられたワイバーンがペアを組んでリンドーを回収しに来ていたのだ。


「引き際も見事だな。してやられたぜ。どうする姐さん」


「ノースポール隊長、魔導兵器との距離はどれくらい?」


「約1キロ程です。位置情報送ります」


 目標までは1キロだが、既に魔力チャージが始まっているのか魔力数値が物凄いことになっている。


「もういつ撃たれるかわからないからここから迎撃するわよ!ノースポール隊長、全部隊に通達、これより大魔導による敵魔導兵器の迎撃に移る。総員衝撃、爆風に備えて!」


「マジか!?先遣隊の皆は俺らより後方だよな、よし!」


 俺は耐衝撃、耐爆風用に防御魔導を準備する。


「猛き旋風よ、逆巻く盾となり我等が前に現出せよ!広域竜巻障壁魔導アンプロ・バヴァンダールカバト


 俺と姐さんの間に幾つもの竜巻が並んで現れた。これで爆風を相殺させるつもりだが、姐さんはどの大魔導で行くのだろうか。爆風だけで流石にこの竜巻障壁魔導バヴァンダールカバトを破れるとは思わないけど…。


「大いなる力は万物の中に、大いなる力は流れの中に、大いなる力は流転する…」


 姐さんの両手の間に光が集まり、幾つもの光の環がトンネルの様に直線に並んでいく。さらに姐さんの体が光り輝いていき、その光が徐々に環に還元されていく。


「雄々しくも美しき光の源、輪廻の環より解き放ち、光の速さで敵を撃て!荷電粒子魔導砲ゲラデネティルヒェンカノン!!」


 光の環の中から凄まじい勢いで高エネルギーの光が放たれた。いわゆる荷電粒子砲、ビームだ。放たれたビームは大型魔導砲に直撃し、さらに直線上にいたモンスターや魔人族軍を文字通り消滅させていった。

 大型魔導砲は大爆発を起こしたが、爆風は俺の魔導で防ぐことができた。


 ってか、ビーム兵器ってロボットアニメとかで出るやつだよね?人が撃つもんじゃないよ?そんな魔導いつの間に作ったの?


「おー!吹き飛んだわね〜!バッチシバッチシ!後でピアに結果教えてあげよーっと!」


 出た、やっぱピアの差し金か!


「姐さんいつの間にこんな魔導作ったの?」


「ピアがユートくんのマンガで出てるのを見てて、『荷電粒子を魔力の力によって亜高速まで加速するのは出来そうだね、地磁気の影響を受けても尚高威力を出すには膨大な魔力を使って放たなければならないから、魔力をどうやってやりくりするかだね〜』って、言ってたから、大気や大地、植物なんかから少しずつ集めらんないのか聞いたら、『周囲から集める!それいいね!魔導を使用して霧散した魔力を集めればいけるかもよ!戦場では大勢の兵士が魔導使うから!』と、なりまして現在に至る」


 ん?実験や検証の過程はどこへ?


「ぶっつけ本番?」


「ぶっつけ本番!」


 失敗してたらどうするつもりだったんだこの人…


「ぜぇ〜ったい成功するって自信あったし、結果成功してるでしょ〜万事オッケーオッケー!」


 頭痛くなってきた…これだから天才は…


「どうやら今ので敵さんも撤退を始めたようね」


「あれ見せられたらたまったもんじゃねーよ」


 そんなやり取りをしているとノースポール隊長から通信が入った。


「敵軍が撤退していきます。お疲れ様でした。残存兵をまとめてこちらも撤収しましょう」


「あ〜!さすがに疲れたわ〜……」


 姐さんがよろけて空中から落ち始めた。俺は慌てて抱きかかえると、


「思ったより限界だったみたいだわ。帰りはお姫様抱っこで運んでくれない?」


「恥ずかしいからおんぶで我慢してくれ」


「仕方ないなぁ…」


 そう言って姐さんは意識を失った。魔力の使い過ぎだろう。とりあえず西部拠点まで運ぼう。


 俺達は無事西部拠点の防衛に成功した。兵士達の損害も少なく、なんか圧勝ムードだけど、実際は姐さんの大魔導がなかったら形勢はひっくり返っててもおかしくなかった。こんなんで次は防衛出来るのだろうか…。


 西部拠点に戻ってすぐに治療室へ姐さんを連れて行った。診てもらうとやはり魔力の使い過ぎらしい。休めば起きるだろうって言われたのでひと安心。


 治療室を後にして、俺はユート達の元へ向かった。


「アユーユさーん!」


 ユート達は壁内の待機場にいた。話を聞くと結局前線には出ずに壁内で待機だったみたい。出ずに済むならそれに越したことはない。ただ、まだいつ攻めてくるかわからないから、準備を怠ってはいけない。


「皆はこの後はどういう予定?」


「とりあえず一旦解散して、再度招集があるまで拠点内で待機だそうです。僕はカコミィ姉さんに状況連絡してきます」


「私は転生管理課の所へ一旦戻って状況報告してきます」


「なら俺達も戻ろうか、皆心配してるだろうし。ユートもそれでいいかい?」


「はい、大丈夫です」


 俺達は東門の前に移動した。バスはあの後も行き来してるみたいで、物資の搬入やら応援の人員で賑わっていた。

 その中でハンター達に支給品を配っていたゴーさんとルルさんがいるのを見つけた。

 俺が近づくと、


「見ろ!英雄アユーユの凱旋だ!」


「アユーユ様ありがとうございます!」


 あっという間に人集りになってしまった。俺が戦いに出ていたのは皆知っているようだ。


「ルビアス様は大丈夫なんですか?」


 姐さんがいるのも知ってるようで、心配する声も上がっていた。


「ルビアスさんは大丈夫です。今は魔力を使い過ぎて眠っていますが、魔力が回復すれば目覚めるでしょう」


 集まった人達は歓声をあげて喜んだ。


「俺達には英雄がついている!」


 なんか凄いことになってきたからなだめて解散させないとだな。


「皆さんもご協力ありがとうございます!またいつ攻めてくるかわからないので、兵士やハンターの皆さんはゆっくり休んで準備を整えて、一般の方は出来るだけ早く安全な都市部へ避難して下さい」


 そう伝えると歓声が上がった後、徐々に人集りは散っていった。

 さっきの人集りで俺達に気づいたらしく、ルルさんが走ってきた。


「アユーユさん、お怪我はありませんか?」


「ありがと!全然大丈夫だよ」


「良かったぁ。さっき大型魔導兵器の話を聞いてすごく心配だったんです」


 どうやら戦場の様子はある程度皆にも伝わっているようだ。


「そかそか、ルビアスの姐さんが吹き飛ばしたから心配いらないよ」


「あ、その…アユーユさんの事が心配だったんです。そんな凄いのと戦って大丈夫だったのかなって」


「心配してくれてありがとう。ルルさん達も無事そうでなによりだよ」


 そう言って頭に軽くポンっと手を置く。

 ルルさんは避難者の誘導で頑張ってくれた。この子も初めての戦争で怖かったろうに。


「アユーユさんとルルさんは付き合ってるんですか?」


 ユートがいきなりぶっ込んできた。


「ち、違うよ違う!ルルさんがこんなおじさんと付き合うはずないじゃない!」


 そう言われて嫌な気分にはならないが、ルルさんは迷惑だろう。干支一回り以上離れてて、どちらかと言えば親に近いくらいなのに。


「アユーユさんも疲れてますよね!専用の休憩室取ってあるので休んで下さい!」


 ルルさんはそう言い残して慌てて持ち場に戻っていった。


「ルルさん…休憩室…どこ?」


 あの後改めてルルさんに部屋の場所を聞いて、少し仮眠を取った。ユート達はルルさんの手伝いをするみたいだ。


 仮眠後は食事を摂ることにした。東門の前の避難者は大体避難出来たようで、東門はハンター達の炊き出し場になっていた。ルルさんやゴーさんは拠点の調理班と一緒に食事を配っていた。


「手伝いましょうか?」


 ゴーさんに声をかけると、


「今は君が皆を支えなくちゃいけない。ゆっくり休んで次の戦いに備えてて」


 そう言われたので、お言葉に甘えて食事を貰って、空いている隅っこの壁際で食べ始めると、


「英雄がこんなとこで食べてたら皆に示しがつきませんよ!ちゃんとテーブル使って下さい」


 と、ルルさんに連れられて、炊き出しの受け取り場所の裏にあるスペースにテーブルを用意してくれた。


「なんか気を使わせちゃってごめんね」


「そんな事ないですよ、コレは私からのオマケです」


 そう言って甘いチョコ菓子をくれた。


「疲れてる時は糖分大事ですから!」


「ありがとう、いただきます」


 食事はカレーと豚汁だった。炊き出しといえばのラインナップだけど、温かくて冷えた体に染み渡る。西部拠点のあるエリアは夜は結構冷えるので、温かいものはありがたい。


「私もご一緒していいですか?」


「もちろん!」


 俺達はお互いに今日の出来事を話した。ルルさんもワノイエと西部拠点を行き来して大変だったみたいだ。


「ごちそうさまでした!」


 食べ終わるとルルさんがポーチから何か出した。


「これをどうぞ」


 出したのは小さめの魔導石だった。


「私の魔力を込めてあるので、回復の時に使って下さい。小さいですけど容量大きいの買ったので、アユーユさんでもある程度回復出来ると思います」


「魔力回復用の魔導石は凄い助かるよ。このサイズで容量大きい物って高いよね、ホントありがとう」


「私に出来るのはこれくらいなので…」

 魔力は戦闘において非常に重要で、枯渇すれば命取りになる。俺も幾つか持ってるけど、小さくて容量大きいのは貴重だ。


「あ、それとクフカップさんからこれも預かってます」


 出てきたのはスマリみたいなリングだった。


「なんか新しく機能が追加した最新式らしいですよ」


 このタイミングでわざわざスマリだなんて。なんの機能が追加されたんたろう。

 不思議に思いつつ、とりあえず今つけているスマリの下に着けてみた。


 着けた瞬間、体内にある魔力の流れが大きく乱れるのを感じた。すぐにリングを外そうとしたが、リングから針が出ていて肉に食い込んで取れない。俺はイスに座ってられず地面に倒れ込んだ。


「アユーユさん!大丈夫ですか!?どうしたんですか!?」


 ルルさんが泣きそうな顔で俺を見ている。これを仕掛けたのはルルさんじゃない。誰がこれを仕組んだんだ?


「あっははははは!英雄アユーユも可愛い女の子の前じゃ油断し過ぎね〜。いいザマだわ!」


 頭がぐわんぐわんする。転生してからは初めて味わう感覚だ。


「この声…は…」


「クフカップさん、これはどういう事なんですか?アユーユさんに新型のスマリ渡しといてって言われたから渡したらこんなことに…」


「ルルちゃんってホント頭お花畑よね。まだ分からないの?それは新型のスマリじゃなくて、魔力の流れを狂わせる魔導機よ」


 クフカップさんは敵のスパイか。くそ!やられた。完全に油断してた。


「もう5年も前から潜入してたんだから大変だったわよ。でもお陰でこんなあっさり英雄アユーユを無力化出来た」


 そう言うと、クフカップさんの身体がどんどん縮んで、恰幅の良かった体格はスレンダーで引き締まった体格に変わり、耳がやや尖り顔の印象も大分変わった。


「あの体型にするのに魔力使うから大変なのよね。これでようやく元の体型で過ごせるわ」


「そんな…クフカップさん…魔人族だったんですか…」


「まぁハーフなんだけどね。お陰で昔は大変だった…。でも、それをガムオン様が救い出してくれたの。たから私はあの方の為ならなんでもするわ」


 まさかそんな繋がりがあったとは…。


「この…計画は…5年も…前から…進めてた…わけか…」


「えぇ、そうよ。ガムオン様が王になるのも、全世界に宣戦布告するのも、アンタを無力化してこの拠点を落とすのも全て計画通りよ」


 クフカップがそう言い放つと拠点内に警報が鳴り響く。


「私の本当の名前はカルミア・K (ク)・ムスカリ。末端だけど、これでも貴族の1人よ。本当はアユーユを殺せたら良かったんだけど、ドラゴニュートは毒も効きにくいし、単純な力量では歯が立たないし、周りには強敵も多いから無力化が限界なのは残念なとこね」


 警報と共に拠点内にアナウンスが入る。


「魔人族軍の進軍を確認!昼間と同程度の数が再び進軍中!各員持ち場につけ!」


「さて、迎えも来たから私はこれで失礼するわ。もう会うこともないと思うから、サヨナラ、英雄アユーユ、お花畑のルルちゃん」


 そう言ってカルミアは飛び去った。




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