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Cycle of life ~ 生命を紡ぐ円環の惑星 ~  作者: 彩灯 哲
第2章 旅立ち

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第20話 旅立ち 後編



食事会の会場を出ると、食堂にはウォークタ達もいた。


「終わったのか?」


「あぁ、色々話せて楽しかったよ」


「良かったね!あと、ついさっきカァヤさんから連絡あって、クローム先生の最終チェックが終わって納車されたから、一旦中央の駐車スペースに集まって欲しいだってさ」


「ユート君の食事会が終わってからで構わないと話していたから、私達もここで食事をしていたんだ」


 マーヤさんとベロニカさんも一緒にご飯食べてたのか。


「待たせてごめんね!それじゃあ行こうか!」


 アユーユさんも一緒に皆で中央の駐車スペースに向かった。駐車スペースまで行くと、そこにはクローム先生が待っていた。


「やっほー!皆元気〜?」


「いやいや、朝一緒にバスで来たでしょ」


「細かいことは気にしない気にしない!」


 そう言ってアユーユさんの背中をバンバン叩いている。


「それじゃあ早速お披露目だね!まぁもう見えてるからわかるだろうけど、これが今回君達と共に旅する飛行車、その名もGISOUぎそう君弐号機だ!」


 なんとも言えないネーミングだな…。

 クローム先生の後ろにあるのは、見た目は4tトラックみたいな感じで、白いボディに銀色のコンテナがくっついてる。確かに見た目は一般的なトラックと大差ないように見える。まぁこの世界の車は基本的に車輪がなくて浮いて移動するのが多いから、俺の知ってるトラックとは違うんだけどね。


「見た目は食料運搬用のトラックに偽装してて、後ろの扉を開けても奥まで荷物が置いてあるように見えるようになってるよ。仕組みとしては手前の荷物を模倣して奥行きがあるように見せる魔導機を使ってるのさ!手前1mは必ず実際に荷物を置いて中身のチェックも躱せるようにしておいてね!」


「へぇ~流石クローム先生。そんな仕組みよく思いつきましたね!」


「たまにあたしの研究室もこれ使って居留守使う事あるからね!簡単に見破られないのは実証済みさ!」


「ほぅ〜なら俺が何度訪ねても居なかったのは、実は居留守を使ってたのかな?」


「あ〜…アユーユの時はきっと本当にいなかったよ、多分」


「絶対いただろ!」


「でもアユーユでさえ気を抜いてたら気づかれないくらい素晴らしい性能なんだよ!街の検問くらいじゃ絶対バレないよ!」


 確かにアユーユさんでも気づかないなら並の人は何も感じないだろうな。


「運転席も内装は若干広めに作ってあるから、そこで寝たりもできるよ!まぁ1人は見張りだろうから寝てらんないかもだけど。飛行車としての機能は、飛行速度は最大200キロ、最大稼働時間は飛行のみで約300時間、車内の魔力使用状況にもよるけど色々フル稼働させても200時間は補給なしで動けるはず。あとボディもコンテナもミスリル製だから耐久性はかなり高いよ。他には敵のスキャン系の魔導対策で、スキャンを感知したら自動で中が荷物のデータになるよう設定してある。それと魔導機で表面のテクスチャーを変更出来るから、潜入時は普通のトラックにしたり、周りの景色と同化させて擬態したりと使い分けてね。更に本体の下部はホバーにも出来て水上も砂上も対応してて、更になんと水中も対応してて深度数百メートル位は余裕で耐えられるよ。内部温度と酸素もオートでコントロールされて常に20度を保つようにしてるから暑さも寒さも問題なし!」


 今のだけでも中々ぶっ飛んだ性能だ。中もきっと凄いんだろうな。


「おわ〜今聞いたのだけでも凄い性能ですね!医療だけじゃなく科学や工学もだなんて凄いです!私は医療系のものだけなのでほんと尊敬です!」


 確かにクローム先生はすごいけど、マーヤさんも治療と薬学に地質とか生物の生態とかも詳しいから十分凄いと思うよ。


「はは、あたしは面白いことが好きなだけだよ。さてさて、まだまだ話すことあるから次は中に入ってみよー!」


 中に入るとトラックの荷台とは思えない内装だった。


「まずは旅で最も重要である睡眠の為のベッドなんだけど、奥に上下段で2つ、入り口側の壁に収納できるタイプが1つ、下が収納になっているタイプが1つ、入り口上のスペースに1つで5つは確保してる。でも実際は見張りで運転席に1人はいないといけないし、荷物もあるから入り口上のスペースは荷物置きにした方がいいかもね。運転席も広く取ってあるから全然寝れるとは思うよ〜。ベッドは全て最新型の体圧感知式マットで、体圧に合わせて柔らかさや形状を変化してくれるよ」


「わぁ〜体圧感知式のベッド自分用に欲しかったんだ〜!でも高くて私の給料じゃ全然足りなくて買えなかったんだよ〜!」


 マーヤさんはもうお父さんの会社で働いてるんだったな。確か医療系の魔導を研究する施設で薬剤師として働いてて、トレジャーハンターになって採集クエストとかを出来る様になりたいって言ってたな。


「マーヤさんは知ってるの?このベッド」


「このベッドは医療業界でも重宝してて、体圧調整の他にリクライニング機能で車椅子への移乗介助も楽だし、体位交換時もベッド自体が角度を変えたりして負担の少なくできるからほんとに凄いの!父の研究病棟でも導入して患者さんから好評なんだよ!」


「そんなに凄いんだ!ちなみにおいくら?」


「ん〜最新型だと1万ミルくらいだったかな?うちのは少し型落ちしたの買ったから5000ミルで、複数買うからって値引きして4000ミルにしてもらったはず。その日は父が珍しく『今日は良い買い物をした』ってニコニコして家で話してくれたんだ」


 1万ミル…えぇっと、1ミルは約200円だから200万!!ベッドは5つで約1000万円!!!

 前にルルさんにお給料聞いたら教えてくれて、入職したての公務員で月に1500ミル(約30万円)くらいって言ってた。俺にはとても手が出せない金額だ…。


「そ、それは並のお給料じゃ買えないね…」


「そうなの。最新式はボーナス全部使っても足りなくて…。でも寝心地はほんとに凄いよ!病院のベッド空いてる時に何度か試させて貰って感動したの!これが付いてる飛行車は多分他にはないよ!」


 そんなに凄いのをサラッと付けちゃうとか。クローム先生この依頼の予算いくらで引き受けたんだ…。


「入り口正面はシャワートイレ。シャワーもトイレもそれぞれ市販されてる物に手を加えてモードを切り替えられるようにしたよ。シャワーモードだと便座は壁に収納されて、温水とボディソープで全身を自動洗浄してくれる。あ、自分で洗うモードあるから安心してね。使用後もすぐに乾燥して数分でまた使えるようになるよ。トイレモードは、排泄物をその場ですぐ魔力原料として分解する仕組みで、排泄物が底につく前に魔力として吸収するからとっても衛生的だよ!もちろん洗浄、乾燥も自動!旅のトイレ問題は重要だからね〜!」


 確かそのトイレは家電量販店で見たぞ。これも6000ミル位したはずだ。シャワーはワノイエにも似たのはあったな。


「これは女性でも安心して使えますね。軍ではそういった事が気になっても中々言えませんでしたので、こういった心遣いは嬉しいですね」


 ベロニカさんは軍人だもんな。命をかけて戦場に出る事もあるし、そういったのを中々言えない状況も多いかもしれない。


「次はキッチンだけど、シンクの水は魔導で生成してるから必ず清潔なものが流れて、排水はトイレと同じ仕組みになってる。左上は冷蔵庫、右上は収納になってて保存食をしまってあるよ。ストッパーもついてるから車が揺れても落ちてくることはないから安心してね。コンロは2口だけど本格的な厨房でも使う高火力が出せるものにしてある。そしてコンロの上の換気魔導機は煙と臭いを正常な空気に変換して外部に出さずに済む仕組みだよ。シンクの下は食器棚、調理台の下は冷凍庫で、コンロの下はオーブンレンジになってる」


「オーブンレンジでスチームオーブンもついてるタイプなんて初めて見ました!素敵なキッチンで作りがいがありますね!」


 マーヤさんは料理も得意だって言ってたな。医療スキルあって介抱してくれて、料理も得意で、人にめっちゃ優しいなんてもう天使だよな。


「俺はスチームオーブンとか使いこなせる自信ないなぁ〜。ウォークタはどれくらい料理できる?」


「多分お前とそんなに変わんないよ。一人暮らしに困らない程度さ。ベロニカさんとカァヤさんはどう?」


「私は任務で潜入するのに様々なスキルが必要で、調理師の免許も取っているから並の調理師位には料理できるかな」


「ベロニカさんは調理師の資格も持っているんだね。私は趣味でお菓子作りはよくやるけど、料理は作れるものが限られてるかな。せっかくだからこの機会に少し勉強したいな」


「なら私が教えましょう。移動時間も長いので料理サイトなどを見ながら勉強しつつ、カァヤさんの番では私も一緒に作りましょう」


「いいの!?ぜひお願いします!」


「私も一緒に聞きたい!いずれ調理師も取ろうかなと思っているので!」


「ならしばらくは私達で作ろう。続けて作る方が覚えるし、皆の士気や結束力を高めるのに共同作業はとてもいい」


「団結した女性陣は少し怖い気もするけどな」


「怯える必要があるのはお前だけだよ、ウォークタ」


 女性陣の手料理は正直とても楽しみだ。


「皆が喜んでくれてあたしも嬉しいわ。でもまだもう少し続きあるから聞いてね〜!」


 俺達は改めてクローム先生の方に注目する。


「食事の時のテーブルとイスは床に収納してあって、スイッチで出てくるようになってるよ。どうしてもスペース不足でイスは人数分ないから、折り畳みのイスを使うか、ベッドをイスにして食べてね。あと、使用する魔力は一括してタンク魔導石から使うから、ある程度減ったら自分達の魔力で補充したり、予備魔力用の魔導石も1つは用意したから上手く使ってね。仕様書はデータであるからちゃんと読み込んでね〜」


「5人が寝泊まりするには決して広いとは言えない空間だが、ハンター達が長距離移動で一般的に使うハンティングカーとは比較にならない性能だ。本当にこんな飛行車を作れるなんて驚きですね」


「食料輸送車に偽装しつつも、王女様もご一緒ですので快適な遠征をご所望かと思いまして。この狭い面積という条件にどう詰め込むかを考えるのは大変だったけど燃えたね〜」


「本当に素晴らしいものをご用意いただきありがとうございます」


「いえいえ、喜んでもらえてるようで良かったです。必要な食料物資や備品は積んであるから後は個人の荷物だけ乗せてね」


 俺達は早速個人の荷物を積み、それぞれ仕様書を読んでその後は皆で色々機能を試したりして過ごした。そして気がつけばもう夕飯の時間が近づいていた。


「もうこんな時間!機能が凄くてつい色々試しちゃったね」


「それに仕様書も沢山あるから読むのもひと苦労だぜ」


「でも大分仕様は分かったね。これで明日からの任務も安心だ」


 これだけ凄い飛行車でも使いこなせなければ意味がないから、今のうちにしっかり覚えないとだからな。


「せっかくだし、今夜の夕飯は試しにここのキッチンを使って私が作ろう。調理場から食材を貰ってくる」


「ベロニカさん、私も手伝う!」


「俺達も荷物持ちで行こう」


「ここに残っても暇だしな〜」


「私も行きたい所だけど、この後まだ伯父様に引き継がないといけない事があるからまた後でね。あ!食事はこっちで食べるから残しといてね!」


 そう言ってカァヤさんは会議室へ、俺達は調理場へ向かった。

 調理場ではベロニカさんが交渉して色々な食材を分けてもらえた。その中でも気になるのはドラゴンみたいな顔をした魚だ。どう調理するんだろう。


「思ったより沢山分けてもらえたな。どれも鮮度が良い」


「こんな立派な魚も捌けるなんてベロニカさんすごーい!」


「私の故郷はモーリェ・ファヴォーレといって、無垢人界で最も西にある都市で、近くの海は流れの森も近いことから種類も豊富で質も高い魚介類が取れることで有名なんだ。家では魚を使う事が多かったから自然とできるようになってたんだ」


 俺達がいたクローミアからは海が遠いからどうしても海の食材は数が少ない。ここも海からは遠い筈だけどよく手に入ったな。


「このドラゴンサーモンはサーモンという名の通り鮭と一緒で川を上る魚なんだ。その時に飛ぶ姿がドラゴンの様だからこの名前になっているんだ。恐らく流れの森にある川を上って来たんだろうな。内陸で手に入るのは貴重だから余す所なくいただこう」


 俺達は飛行車に戻ると、ベロニカさんはテーブルを出してドラゴンサーモンを捌き始めた。


「基本的には普通のサーモンと同じなんだが、顔から胸びれにかけてはかなり硬いから、普段より気持ち右側から包丁を入れると切りやすい。胸ビレの内側は筋肉が発達してて魚なのに鶏の手羽みたいな食感がして美味しいんだ」


 その後も手際良く捌いていき、数分で捌き終わってしまった。


「ドラゴンサーモンは名物で煮て良し焼いて良しの万能食材として重宝されていてな。お腹側は肉質が柔らかい上にメスなら卵もあって、卵は普通のイクラよりかなりサイズが大きく、ビー玉位の大きさで味も濃厚だ。背ビレ側は程良い脂で味はサーロインの様にジューシーな味わいだ。顔や胸ビレも出汁を取るのに使うから本当にどの部位も美味しいんだ」


「想像しただけでヨダレ出るな」


 俺もウォークタも既にお腹は空いていてすぐにでも食べたい気分だ。


「それでこのドラゴンサーモンを使って何を作るんですか?」


「新鮮だからお腹側は刺身で、胸びれ横は唐揚げ、背中側はステーキにして食べよう。こいつはオスだから卵はないけど、旨味が身に浸透してるからアクアパッツァにしても美味しそうだな」


「うわぁ〜聞いてるだけでお腹空いてくる〜」


 マーヤさんも頭を抱えて悶えている。悶えてる姿なんか可愛いな。


「せっかく鮮度が良いから手早く作るよ。マーヤさんも手伝いよろしくね」


「もちろんです!美味しくドラゴンサーモンをいただきましょう!」


 早速2人は調理に取りかかった。俺達男性陣は一旦外で時間を潰すことに。


「さてどうするか」


「暇だし少し体動かさないか?」


「お!いいねぇ!久々に模擬戦でもやるか!」


「ウォークタと模擬戦するのは意外と久々だな。試験前は毎日の様にやってたのにな」


 俺達は練武場を借りて1時間ほど模擬戦や軽いトレーニングをして汗を流した。シャワーを浴びてさっぱりした後、飛行車に戻ると唐揚げの美味しそうな香りや、アクアパッツァの良い香りが漂ってくる。


「めっちゃくちゃいい匂い漂ってるな〜」


「ユート、早く中入ろうぜ!」


 俺達が中に入るとテーブルには幾つもの料理が並んでいた。彩りも鮮やかでどれも美味しそうだ!


「2人ともお帰り!狙って戻って来たみたいなタイミングだね」


「ちょうど出来たところ?」


「うん!ちょうど呼ぼうかと思ってたところ!」


「うわぁ〜これは美味そうだな〜!ベロニカさんすごいっすね!」


 確かにこれだけ立派な食事は俺やウォークタじゃ作れないな。


「マーヤさんも手伝ってくれたからな。1人で作るより大分作り易かったよ」


「いえいえ、ベロニカさん指示出しが上手くて、少し切ったり洗ったりして手伝っただけで、あっという間に出来ちゃった感じ」


「マーヤさんの下拵えも完璧だったから。これならすぐにでも調理師の免許取れると思うよ」


 どうやら共同作業で2人のチームワークも高まったみたいだな。


「あ!カァヤさん呼ばなきゃ!」


「通信は会議中だとまずいから、ユート君様子を見てきてくれないか?」


「わかりました!」


 俺は小走りで会議室へ向かった。

 会議室に着くと廊下でアユーユさんと話しているカァヤさんがいた。


「カァヤさん、もう会議は終わりました?」


「はい、先程終わってアユーユさんと少し話してました。もしかして夕飯出来た?」


「はい、ちょうど出来た所です」


「ユートさんも敬語〜。会議中は敬語でもいいけど、外に出たら敬語はダメだよ〜」


「まさかカァヤさんに言われるとは。ウォークタのイジワルが伝染ったんじゃないか〜?」


「2人はもう大分仲が良さそうだね。オジサンは退散するから続きをどうぞ〜」


「な、そんなんじゃないですって!」


「そんなんじゃないの?」


 そう言いながらカァヤさんが腕を組んでくる。あれ、意外と胸があるな…。


「ちょ、カァヤさんまで!」


「あ〜羨ましい!オジサンは独り身悲しいわぁ〜」


「師匠!都合のいい時だけオジサン感出さないでください!!」


 アユーユさんはニヤニヤしながらその場を去っていった。


「さ!夕飯食べよ!」


 そう言って腕を組んだままカァヤさんは俺を引っ張っていった。


「お、来た来た…って、カァヤさんと腕組みながらとかズルいな〜ユート」


 キサマ余計な事を言うんじゃぁない!


「いいご身分だね!ユートくん!姫様をはべらすなんて!」


 マーヤさんが分かり易くプンスカ怒ってる。


「はべらすなんて人聞きの悪い!勘弁してくれよ〜」


「うふふ、良かったらマーヤさんもどうです?」


 なんてことを言うのカァヤさん!


「むむむ!なら私も失礼します!」


 そう言いながらマーヤさんも空いている腕側に抱きついてきた。

 なんでそーなる!?あ、でもマーヤさんのもかなり立派だなぁ。


「流石に私は遠慮しておくよ。君の腕も2本しかないからな」


「ベロニカさんまでふざけてないで!ほら!皆ご飯食べるぞぉー!」


「解せぬ!なぜこの展開でユートは殴られたりしないのだ!」


 この後、皆でドラゴンサーモンを堪能した。


「まずはお刺身から…。美味い!脂が乗って口の中でスッと溶けるように消えていく!そして見ての通りの、いや、見た目以上に旨味が詰まってる!」


 なんだこれは!!今まで食べたどのサーモンより美味しい!!


「アクアパッツァもヤバいぞ!これぞまさに海の宝石箱や〜!!」


「ウォークタその表現どこで聞いたの?」


「知らないのか?テレビ番組で流行ってたコメンテーターのマーロウ・ヒーコって人だよ」


「私も知ってるー!独特の表現で有名だよね!」


 元の世界にも全く同じのいた気がする…。ぐ、偶然だよな?


「唐揚げも鶏肉みたいな食感なのに味はしっかり魚の味でなんだか不思議。魔人界でもドラゴンサーモンは取れるけど、焼いたり姿煮にしたりが多いから唐揚げは初めて食べた」


「胸ビレの内側を使うのは故郷では一般的だが、世界的にはあまり唐揚げでは食べないかもな。姿煮にしてほぐして食べても美味しいし」


 やっぱり国によって食べ方とかは違うんだな。


「背中の部分もヤベーぞ。サーロインステーキみたいに肉々しい!これほんとに魚か!?」


 見た目からもうステーキに近い。中がレアで周りにはしっかりと焼目があり芳ばしい香りがする。早速ひと口食べてみた。


「な、なんじゃこりゃ!!食感はほとんどお肉みたい!柔らかくて身の脂が溶けると魚の旨味が広がってくる!しかもこのソースとの相性が抜群!このソースってなんのソースなんだろう?」


「そのソースは、マイウーキアという50cm程の貝型モンスターの煮汁を煮詰めた物に、茸型のモンスターのコジュウ菌を加えて発酵させた故郷の特産品のマイウーじょうに、酒とみりん、砂糖、を加えて煮詰めたものだ。魚介の旨味と甘さが凝縮されて特に魚料理との相性が抜群なんだ」


 元の世界の魚醤みたいなものなのか。これはすごい。このソースのお陰で元々の魚の旨味が何倍にもなって感じる!


「こんな美味いのが道中で食べれると思うと、この任務の楽しみが増えるね。まぁ楽しんでる場合じゃないかもだけど」


「使命に燃えることも大切だけど、生きる楽しみは大事だよ。私も早く戦争を終わらせなきゃって想いに押しつぶされそうになる時もあるけど、こうやってユートと…皆でいるとなんとかなるって思えて安心するんだ。それにこういった時間を国の皆にも早く作らなきゃって、改めて力が湧いてくる」


「そうだね、明日からの任務を頑張って、早く平和な時間を取り戻そう!」


 俺達は決意を新たにし、皆で美味しいご飯を食べた。この食事で改めて一致団結できた気がする。


 その後の話で、飛行車での生活に早く慣れるよう、もう今日から寝泊まりをここでしようとなった。食事の後は片付けをして、余った食材を冷凍してストックした。またこの美味いのが食べられると思うとついニヤニヤしてしまう。


 女性陣は順番に飛行車のシャワーを使い、その間は各々自由に過ごした。皆が入り終わった後は明日朝の予定を再確認し、朝早いので寝床につくことにした。寝る場所は公平にジャンケンで決めると、俺は運転席になってしまった。まぁ運転席でも足伸ばせる位広いからいいか。


 運転席へ移動して、助手席の座席も一緒に倒してみると、案外広くてベッドと同じ位広くスペースを取れた。薄手の毛布をかけて寝ようとしたけど、すぐには寝付けなかった。

 30分位しても寝付けなくて俺は一旦体を起こした。温かい飲み物でも飲んでリラックスしようと思い、運転席と助手席の間にある小型冷蔵庫から牛乳を出した。コップもすぐ上の収納ボックスにあり、俺は自分の魔導で牛乳を温めた。温めていると窓をコンコンと叩く音がして、振り向くとそこにはカァヤさんがいた。


「なんだか寝付けなくて。少し散歩しようかなって外に出たら明かりが見えたから。ユートも寝れないの?」


「うん、俺もなんだか寝付けなくて。ホットミルク作ってた。飲む?」


「じゃあ貰おうかな」


 そう言ってカァヤさんは助手席に座った。


「コップ1つしかないからどうぞ」


「ふたりで一緒の飲むのでいいよ」


「そう?ならハチミツ入れたいんだけどいい?」


「むしろ入れたやつの方が飲みたいな」


 実は眠れなかったときのために色々持ってきていたんだよね。


「ほい、お先にどうぞ」


「ありがと。ん〜甘い香り」


 そう言ってカァヤさんはホットミルクを飲む。


「甘過ぎず良いね。流石ユート」


「何が流石なのかはわかんないけどありがとう」


 カァヤさんはもうひと口飲み、少し沈黙が流れた。


 もうひと口飲んだ後、カァヤさんが口を開いた。


「明日から魔人界だね…」


「そうだね…。緊張してる?」


「半々かなぁ。緊張半分、嬉しさ半分。魔人界に戻れなかったのは半年位なのに、なんだかもう何年も帰ってないみたいに感じるの」


「そっかぁ…。こっちで頼れる人も少ないし、お父さんの事も…辛かったよね」


「そうだね…。私は…お父さんに何もしてあげられなかった。私だけ国外に避難して…。最後の方はね、もうガムオンが反乱を企ててるって気づいてたの」


「そうなの?ならなんでお父さんも逃げなかったの?」


「この事態を招いたのは自分の人を見る目の無さ、信じたいと思った甘さが招いた事だから、責任を取る必要があるって…」


「そっかぁ…。お父さんは最期のときまで立派な王様だったんだね」


「違うよ…。生真面目で疑うことを知らない…純粋で優し過ぎる人…。多分…王様には全然向いてなかったと思う」


「そうかなぁ?俺は会ったことないし、どんな人かもよくわからないけど、カァヤは俺に優しくしてくれたし、お父さんもきっと優しくて、人々を安心させられる立派な王様なんだろうなって思ったよ」


「優しかったよ…確かに。でも優し過ぎてガムオンなんかに騙されてるから…お父さんは……」


 肩を震わせて泣いている。本当にお父さんが大好きだったんだな…。


「そのお父さんが守ってきた国を、これ以上ガムオンの好きにはさせない。そうだろ?」


「うん、させない!」


「俺達みんな同じ気持ちさ。カァヤにはもうたくさん仲間がいる。これからは皆で一緒に戦おう」


「うん、ありがと」


 そう言ってカァヤはホットミルクを飲んだ。


「あ、ごめん、私ばっかり飲んじゃってた!ユートもどうぞ!」


「別にいいのに」


 俺もホットミルクをひと口飲んだ。


「我ながら美味しい」


「あ!あとユート、私のこと名前で呼んでくれたね」


「ぶぼぉっつ!あっちあちっ!」


 もうひと口飲んだ矢先に言われて思わず吹き出しちゃったよ。


「ご、ごめん、姫様だから『さん』つけないとだよね」


「名前で呼んでくれて嬉しいよ?」


「本当に?」


「だって彼女みたいだし」


 なんて事言うんだこの姫さんは!


「か、からかうのはやめてくれよ〜」


「別にからかってないよ〜」


 その時カァヤの後ろに人の顔があるのに気づいた。


「うぉわぁ〜!」


 そこには暗闇の中、顔をライトで照らしてこっちを見ているマーヤさんがいた。


「2人とも寝ないで何してるんですかぁ〜?」


「ちょっとイチャイチャしてました」


「なな、なに言ってるのカァヤ!何も、何もしてないよ!寝付けないからホットミルク飲んでただけだって!」


「なんでカァヤさんのこと呼び捨てにしてるの〜?」


「あや、それは、別にいいって言うから…」


「彼女みたいで良いねってなったんだよねー」


 あ、この人めっちゃ楽しんでる。実は結構Sっ気あるんだな…。


「彼女?ユート…姫様に手を出したの?」


「んなわけないでしょ!」


「私のこと…遊びだったの…?」


「勘弁してよ〜」


 この2人…結構大変かも…。この先大丈夫かな、俺。


「それじゃあユートは私のことも呼び捨てで呼ぶように!」


「えぇ…なんで?」


「姫様だけ名前じゃ怪しまれるの!いーから呼ぶの!」


「わ、わかりまちた」


 なんで俺こんなに怒られてるの?


「それじゃあユート、おやすみ」


「おやすみ、カァヤ」


「おやすみ、ユート」


「おやすみ、マーヤ」


「うん、よし!」


 何が良しなのさ…。


 俺は2人が車内に戻って、改めて寝ようと思ったとき、背後に気配を感じて振り返ると…。


「たぁのしそうだなぁ…ユートォ…」


「ぐうわぁぁぁぁぁ!!」


 俺は驚いて後ろに後ずさったら、うっかりドアの開閉ボタン押しちゃって、ドアがスライドしてウォークタはゆっくり視界から消えていった…。後から思い出すとかなりシュールな状況だったな。


 こうして俺達は親交を深めつつ眠りについた。


 翌朝は5時には皆起きて各々準備を始めた。6時半には出発する魔人界側の出入り口にアユーユさんやクローム先生、ルルさんにケベックさん、クシューさんにペンタス拠点長、ノースポール副拠点長、ランシフォリウム副拠点長、ブバリア外務大臣、エキノプス殿下も見送りに来てくれた。


「皆様、早い時間にわざわざ来てくださりありがとうございます」


「いえいえ、むしろ王女様の見送りにしては少なく申し訳ございません」


 カァヤとブバリア外務大臣が話をしている。


「ユートさん、気をつけてくださいね。これはケベックさんとアベリアと私から」


 ルルさんがくれたのはコーヒーとハーブティーの詰め合わせだった。


「アベリアと一緒に選んだんだ。疲れていたり、リラックスしたいときに飲んでください」


「僕の好みに合わせて選んでくれたんですね、ありがとうございます」


「ユート、俺からも渡すものがある」


 そう言うとアユーユさんは一振りの長剣を出した。


「魔導剣フェアエンデルング。俺が今の戦い方になる前にメイン武器にしていた長剣だ。古い剣だけど知り合いの鍛冶師に頼んでメンテナンスしてあるから安心して使ってくれ」


 抜いてみると、刃は美しく薄っすら緑色に光っている。重さも丁度良く、俺でも使えそうだ。


「この剣はアゴイステン合金製で、ガードに魔導石を表裏で6つ付けられて、剣先から魔導が発動する。ユートの好きにカスタマイズするといい。当時俺がよく使ってた炎、水、氷、風、電気、土属性の魔導石がついたままになってるけど、それも餞別であげるよ」


「ユート、この剣は世界最高峰の鍛冶集団、アゴイスの当時の棟梁が作った至高の傑作がひとつで、厄災魔獣討伐時にもサブウェポンで使って、厄災魔獣の腕を切った名剣だぞ」


「ウォークタこの剣知ってるの?」


「姉さんも一緒に戦ってたから話だけは聞いてる。当時、パーティー全員に最高の装備をって一族総出で作ったって話だ」


「まぁ…結局その時は負けて撤退したんだけどな。その後、しばらくはメイン武器にしてたんだ。ノークァーが金属生命体で復活して、俺の武具となる戦い方を身につけた後はサブウェポンとして携帯してた形だね」


「そんな大事な剣なのにいいんですか?」


「今はもう使ってないからな。それにユートは双剣でこそ本領発揮できるし、これは俺からの卒業の証として受け取ってくれ」


「卒業…って、もう稽古つけてくれないんですか!?」


「困った時の相談や模擬戦の相手とかはするさ。ただ、ハンターとしての基本は全て教えたし、戦闘面ではもうAクラスに近い実力だ。何のためにその力を振るうのか。これからは自分で考えて、自分で見極めるんだ」


 そう…だよな。いつまでも半人前ではいられない。俺はもうハンターライセンスも貰ったんだ。


「はい、頑張ります!」


 俺は改めてこの剣を握りしめた。さっきよりずっと重く感じた。


「ウォークタ、お前にも渡すものがある」


「え、俺もですか?」


 ウォークタに渡されたのは魔導銃だった。


「ペルフォラーレ。基本射撃は超電磁砲レールガンで、砲身はオリハルコン製で斬撃武器としても使える。魔力弾丸システムを採用していて、魔力と引き換えに弾丸が自動生成されて、炎や氷などの属性を弾丸として撃つことも可能だ」


「アユーユさん、俺が銃の練習してるの知ってたんですか!?」


「前々から興味を持ってはいたよな。西部拠点防衛戦の後から、毎日ワノイエの鍛錬場で練習してるってルルさんから聞いたよ。お前も悔しかったんだよな。モンスターの数に対応しきれず、致命傷を与えられる攻撃もなかったのが。それを自分で分析して弾丸に魔力を込めて撃つことで威力と対応力を両立する戦い方を見つけた。この短期間で凄いよ」


「まだ完全に使いこなせてはいないし、皆を驚かせようと思ってたのにな。でもこんな凄い銃どうしたんですか?」


「前にピアが試作してたものを改造して仕上げてもらったんだ。飛行車の方で忙しかったはずなのに二つ返事で作ってくれたよ」


「クローム先生…ありがとうございます」


「いつもひねくれてるウォークタにお礼言われるなんて、なんだか変な感じだね」


 確かに俺達の間でウォークタが普通にお礼言うのはかなり珍しい。それだけウォークタにとっても西部拠点防衛戦での出来事は思う所があったんだな。


「必ず使いこなせるようになります」


 俺達はこれからの任務の大きな助けになる力を受け取った。身の引き締まる思いだ。


「2人ともあのアユーユさんとクローム先生に見送りに来てもらって凄いね」


「たまたま縁があっただけだよ」


「それでも見送りに来てくれるなんて凄いね!私には誰も…」


 マーヤのお父さんは医療機関の研究所の所長なんだっけ。お母さんはどうなんだろう。他に仲のいい人とかはいないのかな?


 どうやらカァヤ達も話は終わったみたいだ。そろそろ出発の時間だ。


「おーい!」


 声が聞こえる。聞いたことのある声だ。


「なんとか間に合った〜!」


 なんとルビアスさんが上から飛んできた。


「ルビアスさん!」


「やっほ〜」


「どうしてここに?」


「それはもちろん皆を見送りにだよ!それと…」


 ルビアスさんはリュックの中から魔導石を出した。


「マーヤちゃん、これ」


「え…私にですか?」


「あなたのお父さんから頼まれたの。中を見てみて」


 マーヤは魔力を込めてデータを正面に映し出す。


「こ、これは…ものすごい数の治療の指南情報。それも…もの凄く細かい」


「あなたのお父さんが後世の為に残しているものだそうよ。現時点で治療できるものの大半の方法が載っているって。『きっと役に立つだろうから持っていきなさい。マーヤは私の娘だ。お前なら出来る』だそうよ」


「お父さん…」


 マーヤさんは魔導石を胸に抱き締めて涙ぐんでいる。


「いいお父さんね」


「はい…自慢の…父です!」


 マーヤさんは笑顔でそう答えた。


「さて、皆さん。そろそろ出発の時間です」


 皆はそれぞれ車両に乗り込んで、俺だけは運転席に乗った。


「ユート、必ず帰って来るんだよ」


「はい、必ず全員で戻ります!それでは…行ってきます!」


 俺達を乗せた飛行車は、朝日が眩しい森の中をゆっくりと進み出した。


 この戦争を終わりへ導く為に…。




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