第19話 旅立ち 前編
会議から5日後の朝、俺達は再び大使館に集まった。
「皆さん集まりましたね。準備は大丈夫ですか?」
「はい。初めて無垢人界から出るので色んな人に持ち物や過ごし方なんかのアドバイスをもらって準備しました」
「ユートは初めてだもんな。俺はわりと遠出する事もあったから準備にそんな困りはしなかったかな」
「カァヤさんはやっぱり外交で色んなとこ行ったの?」
「そうですね。無垢人界と亜人界は国交が盛んだったのでよく訪れました。でも今回のように潜入ではないので、心持ちは全然違います」
「私が責任を持ってカァヤ様をお守りしますのでご安心下さい」
「ベロニカさん、また話し方が固くなってますよ」
「はっ!し、失礼し、あ、違う、えぇっと…」
「うふふ、ベロニカさんはもう少し気軽に話す練習が必要そうですね」
「あまり酷いと正体もバレやすくなりますからね〜」
「ウォークタさんは意外とイジワルなんですね」
「カァヤさんも気をつけて下さいね。あいつは結構誰にでもこうですから」
「私もウォークタくんにイジワルされないよう気をつけないと!」
「ユート俺のイメージ悪くするのやめれ」
ムラファまでは俺達だけじゃなくブバリアさんとアユーユさん、それとクローム先生も見送りに来てくれるそうで、一緒にバスに乗り込んだ。ルルさんとケベックさんは、今日もそれぞれムラファと西部拠点でハンターや兵士達のサポートをしているみたい。ルルさんはムラファらしいから出る前に挨拶出来るかもな。
1時間ほど走ると流れの森の中に入った。森の道路もムラファへの物流をスムーズにする為に前より大分整備されてる。
更に20分ほど森を進むと大きな建物が見えた。たった1週間でこんな大きな建物が出来るなんてめちゃくちゃ凄いな。
建物の門が開き中に入ると、そこは検問所になっていた。今は機能しないけど、将来的には検問所としての役割を担うので車が何台も止められる程のスペースがあった。先にはまた門があったから本来はそこで検問するんだろうな。
俺達がバスを降りるとそこには見知った顔があった。
「クシューさん!」
「よう!もうすっかり大丈夫みたいだな」
「クシューさんも元気そうでよかったです。でもどうしてここに?」
「この前の戦闘でノースポール大隊長からスカウトを受けてな。ハンターライセンスも貰えたから、初任務として部隊の再編と戦闘訓練を任されたんだ。それでユートが魔人界の姫さんと潜入調査するって聞いてな。この情報もまだ大隊長クラスまでにしか知らされてないんだが、俺は立場的に大隊長と同格として扱われるらしい」
クシューさんは亜人界の元軍人で大隊長クラスだったからな。そりゃあ目に止まっちゃうよな。戦闘でもすごく頼りになった。いつかまた一緒に冒険したいな。
「さすがクシュー隊長。初仕事ですごい任務を任されましたね」
「ウォークタも相変わらず元気そうだな。お前も重要な任務じゃないか。その年で大したもんだ」
「初めまして。私がこのパーティーの責任者のカァヤ・A・トイフェル7世と申します」
「姫様より先に話しかけてしまい申し訳ございません。私が今回ムラファを案内するモンクシュード・アコニットです」
「お気になさらずに。先の戦闘ではユートさんと部隊を組まれていたのですね」
「はい、戦闘はもちろん、様々な気付きで部隊に貢献した優秀な男です。私が生きているのは彼のお陰なんですから」
「そうなんですね。ユートさんは今回、私の想いを実現する為に自ら参加してくださった心強い御方なんです」
「人の為に動くユートらしいですね。困難な任務でも彼がいればきっと大丈夫でしょう」
「2人ともやめてください!めっちゃプレッシャーですって」
「ユートばっかり褒められてうらやまー」
「お前は余計な事言わなくていーの!クシューさん、早く案内してくださーい!」
自分で納得してない事褒められても喜びにくいんだよなぁ〜。
「すまんすまん!では姫様、どうぞこちらへ」
その後は一通り建物の中を見て回った。めちゃくちゃ広い拠点だ。西部拠点と同じ位広いぞこれ。こんなのを1週間で作るってどうやったんだろう。1時間位見て回ったけど、まだ全部じゃないらしい。
「広いので見るだけでもお疲れでしょう。この後は会議室へ行って小休止して、明日からの予定を最終確認しましょう」
確かにこれだけ広いと見るだけでも大変だった。これでもまだ見きれてないんだもんな。
会議室に入ると冷たいお茶も用意されていたので、それぞれ席に座って一休みした。
「さて、ここからはノースポール副拠点長が同席するので呼んで参ります」
「クシューさんは同席するんですか?」
「すまんな、俺はこの後は元の任務に戻る。明日の出発には立ち会うから」
そう言ってクシューさんは部屋を出ていった。少ししてノースポール副拠点長がやってきた。
「カァヤ様、お待たせして申し訳ございません」
「お気になさらなくて大丈夫です。お忙しい中、案内までしていただきありがとうございます」
「いえいえ、これからの任務でしはらくここをホームとして使うのですから、ご覧になっておいた方がいいでしょう。貴方が今まで外交で平和の為に活動してきたことは多くの無垢人が知っています。我々もカァヤ様のお力になりたいのです」
「本当にありがとうございます」
カァヤさんは平和の為に、魔人界の王女として外交をずっと頑張って来てたんだな。
「では皆さん、早速ですがこれからの大まかなスケジュールについて確認しましょう」
そう言うとノースポール副拠点長はスクリーンを出し、そこに資料が映し出された。
「まずは目的の確認です。最終目的はカァヤ様の王位継承と、王命による戦争の終結です。そして、その為にはガムオンを王位から排斥する必要があります。ガムオンを排斥するにあたり、今回実行する作戦は2つ。1つは『民衆を味方につけること』。もう1つは『敵戦力の無力化、又は大幅な弱体化』になります」
王位を継承するだけならガムオンを倒せばそれで終わる。でも、そうなると飢えをしのぐ為に戦争に協力する人達はどうなる。また飢えに苦しむ事になり、結局また飢えから反乱が起きたり、第2第3のガムオンが現れればそちらになびいたりするかもしれない。
「この戦争が起きてしまった根本の問題は、土地が痩せて作物が育たなくなってしまった事です。そのせいで家畜も育たず、食べ物がどんどん少なくなっています。ですので、まず土地が痩せていく原因の究明とその解決策が必要です。それと同時に他国から食料物資を輸入し、現在の食料不足を解決する必要があります」
「食料物資の輸入に関しては、先日既に亜人界と無垢人界の共同で、一定量は寄付という形で無償で提供する事が決まりました。しかし、ガムオンが魔王である間は送る事も出来ませんし、受け取りもしないでしょう」
「食料寄付の件、本当にありがとうございます。ですので、ガムオンを排斥するのが第1条件になり、その為には戦力を減らして戦争する力を削ぐことが最優先になります。そして、ガムオンの戦力でポイントとなるのは、モンスターを大量に戦場へ送り出せるということです」
この前の戦闘データから、短期間で数千から数万のモンスターを生成できるのはほぼ間違いない。あれだけの数は野生で捕まえてこれる数じゃない。生成していると考えるのが妥当だと思う。それに合成魔獣もそれなりにいたから、かなり大がかりな研究・生産施設があるのは間違いない。
「理想を言えば施設を完全に破壊したいですが、最低でも生産能力の減少はさせたいですね。どちらにせよ、まずはその施設を発見する所からになります。大規模な施設で、戦地に迅速に配給できる場所となればそう多くはないので、ある程度範囲を絞っての捜索は可能だと思っています」
「ですので、皆さんが行なう任務としては、生産施設の捜索を行いつつ各地の地質調査を行い、土地が痩せる原因の究明を行なう。生産施設を発見した場合、現状の戦力で可能なら破壊を、不可能であれば1度ムラファに戻って必要戦力を揃えて侵攻する流れになります」
「すみません、質問しても大丈夫ですか?」
「はい、どうぞウォークタさん」
「ガムオンの暗殺は難しいのでしょうか?土地の調査は必要だと思いますが、ガムオンを暗殺してしまえば寄付も受け取れるようになるし、調査もその後じっくり行うことができるのではないでしょうか」
まぁ確かにそれはそうだな。でもディーネみたいな魔人六騎将や魔王直属部隊『死神の鎌』のカルミアが傍にいるとなるとかなり難しい気がする。
「確かに可能ならその方が早いですが、残念ながら難しいですね。ガムオンが戦地に来ることは基本的にないですし、潜入して暗殺するにも王都は国の最北端にありその間に検問所も複数箇所あります。王都内部へ潜入ができたとしても、王都には魔王直属部隊『死神の鎌』がいます。どれだけの人数がいるのかもわからず、もし全員がカルミアと同格かそれ以上だった場合、暗殺するのはほぼ不可能でしょう。まぁアユーユさんクラスの英雄が何人もいれば話は別ですが、そのクラスの方々は有名過ぎてそもそも潜入には不向きですからね」
まぁそうなるよね。
「すみません、私も聞きたいことがあります」
「はい、マーヤさんどうぞ」
「地質調査についてですが、精霊界側の都市近郊の地質調査はどうなりましたか?」
「精霊界側の都市は無垢人界側からだと距離が遠く、首都近郊を通過するのでリスクが高いという話でしたね」
「はい、魔人界は横に広い地形ですので移動するだけでも大変ですし、首都近郊を通過しなければならないので物資の補給などもかなりリスクが伴うかと思います。精霊界側から行く方がリスクが少ないと思うのですが…」
前の会議で要検討事項になってたやつだよな。
「その件に関しては、今回我々の作戦にミーレス女王陛下も協力して下さると仰って下さり、勇者部隊を精霊界側の地質調査に派遣して下さるとの事です」
勇者部隊が行ってくれるなら凄く助かるな。飛行船艦を持ってるから精霊界の移動も早いだろうし、俺達が行くより早く作戦を実行出来そうだ。
「ですので私達が調査を行う場所は、フュレカルポスとウンルーイヒの2箇所になります。防衛都市のシュベールトとシュッツシルトは軍の駐屯地となっているので今回は除外します」
フュレカルポスは魔人界の端で、戦争が始まってからは流通も少ないだろうから大丈夫だろうけど、ウンルーイヒは首都への中継点になる都市で物資も集まる流通拠点だから、見つからないよう気をつけて調査しないとな。
「ちなみにここの流れの森の地質調査をもう行ったのですが、魔力濃度は大きく変わらず、特別な物質等も検出されませんでした。ですので、まずはフュレカルポス近郊でどれくらい変化があるかを確認します」
「わかりました、ありがとうございます」
「その他に、検討事項になっていた移動手段についてですが、中々条件に合う乗り物が見つからなかったのですが、クローム魔導科学研究所に必要な機能を伝えた所、『面白そうだから作りましょう!』と言っていただけたので、急ピッチで作って頂いています。予定では今日納車予定なので、夕方にはお見せ出来るかと思います」
クローム先生なら言いそ〜。
「本当に出来るんですか?通常の飛行車機能に加えてステルス機能に索敵センサー、更に耐衝撃、耐熱、耐冷気等の環境適応機能を備える軍の装甲車みたいな能力を持った一般車両なんて」
ベロニカさんの心配はもっともだ。魔人界の一般市民に偽装して潜入するから、車の外観は一般車両と同じでないとならない。更に、車の中で寝泊まりもするからある程度の空間も必要になる。装甲車とキャンピングカーの中間みたいなイメージだけど、そんなの普通はないよな。
でもあのクローム先生なら絶対想像の斜め上な機能つけてくるはずだ。
「それについてはクローム先生を信じる他ありませんね。私も何度かお会いしていますが、とても変わった方でしたがその知性は間違いなく超一流です」
それな。ヤバい人だけど仕事は期待以上のものをしてくる。採集したものを納品しに行くと、度々その現場に出くわして相手が驚いてるのをよく見かけたな。
「カァヤ様がそこまで仰るなら信じましょう」
「あ、ベロニカさん敬語〜」
「はうっ!」
ウォークタはこういうの見逃さないのな。
「うふふ、ウォークタくんは面白いね」
「性格が悪いの間違いでは?」
「カァヤさんユートがイジメてきまーす」
「それはイジメではなくユートさんの愛ですね」
「んな!マーヤさん、マーヤさん、カァヤさんユートに甘くない?ひいきしてない?」
「そう?ユートくんは優しい人だよ?」
「ベロニカさ〜ん助けて〜」
「あぁ?」
ベロニカさんの鋭い眼光がウォークタを突き刺す。
「どうやら俺の味方はいないらしい…」
そもそも自分がツッコんだのに助けてもらえるわけないだろう。
「さて、日程についてですが、予定通りの車両があるならフュレカルポスまで慎重に進んでも約3時間半で到着します。街に潜入して情報収集に数日、その間に地質調査も並行して行い、備品の補充を含めて遅くても1週間以内には次の目的地であるウンルーイヒに出発したいと思います」
「カァヤさん、前の会議では街への潜入方法は協力者からの情報を待ってからになってたけどどうなった?」
「潜入方法については私から説明しよう。実は戦争が始まる前から魔人界の状況を掴むために、無垢人界と亜人界から既に軍やハンターのスパイが潜入していてな。フュレカルポス担当の者からの定期通信を待っていたんだ」
ベロニカさんは元々はこういった潜入任務みたいな単独任務のエキスパートだったってアユーユさんが言ってたな。それこそ1人で敵の本拠地潰したり1対多数の戦いは得意だって言ってた。
魔人界は元々怪しい動きがあったみたいだし、情報収集は大事だからスパイも派遣してたんだな。
「この1週間でフュレカルポスはかなり動きがあったようで、西部拠点防衛戦前はモンスターやら兵士やらに田畑や農場なんかが踏み荒らされたり、食料やアイテムも戦争の為にって根こそぎ奪われたり、戦力増強の為に若い男性を中心に徴兵されるなどかなり酷い有様だったようだ」
前の世界でも話には聞いた事あるけど、戦争になるとそういう事が日常的に行われる事も多いんだよな。
「それが戦いに敗戦してからは、街で態勢を立て直すのかと思われたが、そのまま兵士達は内陸方向へ撤退していったんだ。そのお陰で街は少しずつ復興し始めていて、少ないが徴兵された兵士も戻って来てるようだ。この街の民衆はガムオン体制にかなり反発していて、各大使館に閉じ込められていた他国の国民も解放している。検問所も解放されていて、むしろ他国に助けを求めている感じだそうだ」
街が解放されたのは良かったけど、なんでそんなすぐ撤退したんだろう。何か裏がありそうな感じだな。
「なので、潜入自体は問題ないのですが、住民の安全と食料確保等の支援が必要になりました。ただ、これが罠の可能性もあるので、街の内部を調査して問題がなければ改めて支援物資等を送る形にしたいと思います。また、安全が確保出来た時点で私達の手持ちから少し物資を配りたいと思います。荷物もそのつもりで大分余分に準備してあります」
復興支援には大賛成だけど、しっかりと安全の確保出来るかが重要だな。もしかしたら街に爆弾とか仕掛けておいて、支援に来た人ごと消すなんてことも有り得る。
「ユートの空間測定魔導があれば危険物系の物なら1発で見破れるから大丈夫でしょ!」
「街の大きさは約40k㎡みたいだから8回くらい移動して調べないとだけどな。安全確保が出来るまでは車もあまり街中へは入れないから自力で移動しないとだな」
「それらを踏まえて情報収集に数日取っている形ですね」
なるほど。俺も結構重要な役割だな。頑張らないと!
「次の街、ウンルーイヒまでは直線距離でも600km程あり、厄災魔獣の住む湿地草原を迂回して行くので、恐らく数日は車中泊になると思います。ウンルーイヒでも基本的には同じ流れで、協力者との情報共有後に空間測定魔導で安全確保を行い、安全なルートでの潜入を試みます。潜入後も安全確保を行いつつ、地質調査と研究施設の情報収集も並行して行います。調査終了後は速やかに街から撤退しムラファへ帰還します。予定ではおおよそ約20日程度の日程となります。もしガムオンの研究施設の情報等があり、近くにあるようならこの日程は代わりますのでよろしくお願いします」
この世界では魔導や科学が発達しているのに大きな街から街の間にほとんど集落がなく、人が住む場所が限定されている。それには理由があって、1つはモンスターの存在。この世界のモンスターは俺の世界で言うと野生の動物くらいの感覚で、本来は共存して生きていける存在である。動物とモンスターの違いはその成り立ちにあって、動物は繁殖で増えるけど、モンスターは星の魔力によって生命あるものとして無から出現するらしい。だからどんなに倒しても時間が経てば自然とまた現れる。なのでお互いに共存出来るよう不用意に住処を侵略しない方が合理的みたい。
もう1つは厄災魔獣の存在。500年に1度現れる特異なモンスターで、1体で国を滅ぼせる程の力を持つ存在。現在までに9体の厄災魔獣が現れたけど、その内5体は討伐されている。残りの4体は未だに討伐されておらず、4体の中で居場所が確認出来ているのは3体。竜人界を支配下に置いている『厄災冥竜ルヴェーザ』、精霊界に封印されているらしい『厄災決闘エルード』、そしてフュレカルポスとウンルーイヒの間にある湿地草原を住処とする『厄災爬虫アルバプチュ』。そして残りの1体である『厄災侵触アヴォンジェ』は魔人界に出現したあと消息不明になっているらしい。これらの知識はこの世界の歴史で必ず学ぶ事なので俺も講義で教わった。
「食料や生活に使う備品はもう準備してあるので、各自装備や持ち物を確認してください。準備に問題なければ納車されるまで自由行動とします。食事も各自食べておいて下さい」
ミーティングが終わり、俺は言われた通り荷物の点検をした。装備はこの前の戦闘と同じだし、荷物も多くはない。歯ブラシとかタオルとかの衛生用品、下着等の着替え位だ。回復薬や食料、その他サポート魔導機も国からの支援で準備してもらえるみたいだから安心だ。
「お、いたいた。ユート、そろそろいいか?」
アユーユさんだ。実はこの後、勇者部隊と食事会をする事になっている。勇者部隊の人達も転移者の日本人で、ぜひ俺と話してみたいとのことで急遽食事会がセッティングされた。俺も気にはなってたからありがたい。
「はい、大丈夫です」
俺達は拠点内の食堂に隣接している食事会場に向かった。
扉をノックして
「失礼しまーす」
中に入るとなんか楽しそうにワチャついていた。
「よ!アユーユ」
「おう、おう?なにやってんのお前?」
「おしおきヘッドロック!」
「パワハラで訴えられるなよ」
ヘッドロックを外すと大柄な男性はスルスルと崩れていく。
「彼が転移者の?」
「越智優仁です。よろしくお願いします」
「おぉ〜ホントに日本人だ!」
「あら引き締まった体の中々のイケメンくんじゃない」
「とりあえず座るか。ユートは奥行きな」
俺達は勇者部隊の人達と向かい合う形で座った。
「今回は急な要望に応えてもらってありがとう。それぞれ転移前が日本にいたって事で、お互いに興味はあったのかなって思うけど、こうして話す時間が取れてとても嬉しく思います。まずはお互いに自己紹介をしましょう。僕はアユーユ・アフート。半竜人でこの世界での年齢は36歳。実は転生者で転生前は羽藤優也って名前でした。職業はハンターで主にモンストルハンターをやってます。よろしくお願いします」
この後はそれぞれ自己紹介をした。大体皆さん歳上だけど、とても気さくに話してくれて良い人達っぽい。俺は1人でこの世界に来たからこういった仲間は羨ましいな。
でも気になるな…ユーシさんの苗字…羽咋かぁ…。
「さて、自己紹介も終わったし、飯にしよう!アユーユのリクエストで元の世界にもあったカレーを作って来ました!」
「カレーワッショイ!!ミーペスに移ってからは食べてなかったから嬉しいぜ!」
「辛さは中辛だけど、辛くしたいなら後入れ用のスパイスも用意してる。逆に甘くしたい人はヨーグルトソースあるから入れてみてくれ。具材は元の世界にもある物で牛肉、人参、玉ねぎ、じゃがいも、シメジだ。牛肉は良いのが仕入れてあったから使わせてもらった。肩ロースとすね肉を使ってるから食べ応えもあるぞ」
「スパイスも自作のブレンドだろ?お前ホント料理好きだね〜」
「あったりめぇよ!うまいもん食いてぇじゃん!遠征の時は必ず現地の物を調達して作るのが醍醐味よ!今回はクローミアまで来たから野菜も畜産も質がいい!スパイスも幅広く揃ってて、さすが無垢人界の台所と呼ばれるだけあるぜ」
前に食べたのは西部拠点での戦いの前に炊き出しで食べたやつだな…。あの時はまだルディさんいたんだよな…。
カレーはディアーゴさんとアユーユさんが皆の所に配膳してくれた。俺もユーシさん達も手伝おうとしたら、今回は転移者の交流会だから座ってていいと言われてしまった。
「米で食うかナンで食うかも選べるからな!サラダもあるからしっかり食えよ!飲み物もラッシー作ったからよかったら飲んでな!」
「ナンって食べたことないから俺はナンで食べよっと!」
「僕もナン初めて!ユーシくんは食べたことある?」
「俺はあるよ。どっちの組み合わせも気になるから、ここは贅沢に両方食べようかな」
「ユート君はどうするの?」
「僕もせっかくだし両方食べようかな」
全員取り終わり、乾杯の挨拶をアユーユさんがして食事が始まった。
「やっぱディアーゴさんの飯はうんまいっす!ハンター辞めたら絶対料理人がいいっすよ!」
「ありがとうよ。まぁまだ当分辞めるつもりはないけどな」
「カレーを食べると俺はよく元の世界を思い出すよ。母親の味もそうだし、妻と息子に俺のカレーを食べさせてたからさ」
「アユーユさんの奥さんと息子さんはどんな人なんですか?」
「妻は歳下で7つ離れてるんだけど、すごくしっかり者で会社でデイサービスの管理者やってたよ。家ではおっちょこちょいな所もあって、そのギャップも可愛くてね。息子はまだ3歳でようやく会話が成り立ってきた位かな。ちょっと感性は独特だけどすごく可愛いんだ」
アユーユさんの家族の話は少し聞いた事あるけど、あんまり話さないから俺からは聞きにくいんだよね。
「素敵な家族ですね。優しい感じが伝わってきます。僕もそんな風に素敵な家庭を作れるといいな」
「ほら、ユーシ!言われてるよ!」
「お、おう!もちろん!」
俺は大学3年で別れて以来、彼女いないんだよな〜。この世界に来た後は生活するだけでいっぱいいっぱいでそれどころじゃなかったからなぁ…。なんか羨ましいな。
「お二人は付き合って長いんですか?」
「前の世界でだと3ヶ月で、こっちも合わせると1年と3ヶ月になるかな。付き合ってる期間は短いけど幼馴染みで近所に住んでて、実際は15年位一緒にいるからもう家族みたいなもんかな」
「だから一緒にいても自然体なんですね。なんか羨ましいです。仲良さそうなのを見ると僕も早く彼女欲しくなります」
家族…かぁ…。父さんも母さんも元気かな。
「あたしで良かったら付き合っちゃう?結構いい体してると思うんだけど」
そう言ってコトミさんが近寄ってきて胸が当たっている。や、柔らかい…。
「えぇっ、えっと…」
「いきなりナンパすな!ユート君困ってるだろ!」
「あ、いえ、可愛い方だなとは思いますよ」
とても柔らかくて素敵だとは流石に言えない。
「ほら聞いた!?可愛いって!よし!今度デートしよっ♪」
「今度っていつだよ。俺達は今日ここを出て一旦ミーペスに戻るんでしょうが」
「え〜なら連絡先だけでも交換しよっ!」
「連絡先は全然大丈夫ですよ。もしよかったら皆さんもお願いします。僕も同じ日本の人と繋がれると嬉しいですし、話もし易いですから」
「オッケーオッケー!何か困った事があったらお兄さん達に相談したまえ!」
「珍しく先輩風吹かせてるムラトモウケる」
「いーじゃんよ、たまには吹かせさせてくれよ〜」
なんか部活の先輩といるみたいで楽しいな。今度はウォークタ達も一緒に会えるともっと楽しそうだな。
こうして俺達は楽しく食事を食べ、あっという間にユーシさん達の出発時間になってしまった。久々の同郷との話は楽しくてとても居心地が良かった。
「今日は出発前にわざわざありがとうございました」
もう終わりかぁ…。もっともっと色々話したかったな。
あと…どうしても…気になるんだよな…。
「あと、そういえば気になる事があって…ユーシさんの苗字って羽咋ですよね。実は僕の母の旧姓が羽咋なんです。珍しい苗字だし、もしかして親族なのかなって思ったんですけど、思い当たることってないですか?」
ユーシさんも驚いた顔してる。もしかして本当に親族だったりするのかな。
「旧姓だと羽咋裕美子って言うんですけど…」
「え…ちょっと待って。それって俺の母さんの名前と同じだ…」
お、同じ!?さすがにこの苗字でたまたま同姓同名は可能性かなり低いよな…。なら…母さんの隠し子か!?
「本当か!?実は…俺の元の世界の母さんも旧姓が同じ名前だ…」
「なっ!えっ!?」
アユーユさんのお母さんとも同じ!?アユーユさんの転生前…前に少し話してくれた時に死んだのは40歳のときって言ってたような…。ならそのお母さんだと流石に高齢だから別人か?でも同姓同名になるような名前じゃないと思うんだけどなぁ…。
「なんかこれは偶然ってだけでは片付けられないよな。もっと色々情報をすり合わせないとだな。でも今日はもうディアーゴ達は出なきゃならないから、とりあえずこの件は保留で。ユートもこの後重要な任務だから、この事は深く考え過ぎないようにな」
「そうですね。流石にただの偶然ではないでしょう。それぞれまだ重要な任務がありますから、この件は戦争を終わらせるまでは胸にしまっておきましょう。ユート君もそれで大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。今日はありがとうございました」
こうして俺達は謎を抱えたまま、ひとまず食事会は終了した。
偶然…にしては出来過ぎている。きっと何か意味があるんだろうとは思う。でも今は自分の事よりカァヤさんを王にして戦争を終わらせる事が大事だ。ユーシさんの言う通り、胸の中にしまっておこう。




