第18話 決意
第18話 決意
ー 西部拠点防衛戦 翌日 ー
「うぅ〜ん…」
俺は太陽の眩しさで目が覚めた。
「ここは…」
そこは見覚えがある病室だった。窓から見える景色でここがクローム先生の病院だと分かった。
「気を失ってたのか」
そうだ…思い出してきた。俺は魔力切れだったから西部拠点に戻る車中で気を失ったんだ。でもなんでクローム先生の病院にいるんだろう。
そう考えていると、ベッドのすぐ横の椅子で寝ているマーヤさんがいた。
「もしかして看病してくれてたのかな?」
そういえば体はどこも痛くないし、魔力も枯渇してる感じはなくかなり回復している。
「ありがとう。マーヤさ…」
寝顔を見ていたらフラッシュバックで蘇ってきた。ルディさんの最期の姿…両腕を失い、弱々しい呼吸が徐々に小さくなり、生命の消える瞬間が。
「あぁ…あぁ…あ゛ぁ……」
俺の嗚咽を聞いてマーヤさんが目を覚ました。
「ユートさん!?」
俺は悲しみから涙と震えが止まらず、呼吸も早くなっていく。
「大丈夫だから!」
マーヤさんが俺の頭を強く抱きしめる。
「もう大丈夫だから。敵はいないよ」
「ルディ…さん…が……っ、死んっ…じゃっ…た。おれ…っ、の、せいで…」
「そっかぁ…辛いね…苦しいね…。今は休もう。ユートさんはよく頑張ったよ」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。その優しさが嬉しくもあり、苦しくもあった。
ルディさんを守れなかった自分が、怒りに任せて攻撃して皆を危険に曝した俺が、そんな優しさを受ける資格なんてない。
「きっと自分を責めちゃうんだよね。ユートさんは優しい人だから」
違うよ。俺は優しくなんかない。弱いだけなんだ。
「彼の者に心地よき眠りと癒しを与えたまえ。安穏睡眠魔導」
マーヤさんの魔導で俺は再び眠りについた。
次に起きた時にはマーヤさんはいなくて、書き置きが置いてあった。
『診療の手伝いをしに行ってきます。お腹空いてると思うので良かったら冷蔵庫のもの食べて下さい。 マーヤ』
時計を見ると正午を過ぎていてもうすぐ14時になる。冷蔵庫を見るとサンドイッチとコーヒー牛乳が置いてあった。ご飯まで用意してくれて本当に優しい子だなって思った。
卵サンドとハムサンド。素朴だけど丁寧に作られていてとても美味しい。食べていたら涙が止まらなくなった。
「悲しくてもお腹は減るんだな…。すごく…美味しい」
食べたら少し元気は出たけど、今は誰とも会いたくないな…。
俺は書き置きだけ残して、窓から空を飛んで病室を抜け出した。
とにかく人気のない所を目指して、病院裏手の公園の更にその奥の方へと進んでいった。公園の奥の方はどんどん人気がなくなってきて、大きな門を越えるとまた公園みたいになってて、大きな噴水にベンチがあったのでそこに座った。天気も良く風が心地よい。桜の花の様なピンク色の花びらがそよ風に流れてくる。
「もっと色んな話したり、一緒に色んな所行ったり、冒険…したかったな…」
俺はまた悲しくなり独り涙を流していた。
「何か悲しい事あった?」
話しかけてきたのはダークブラウンのロングヘアーに整った綺麗な顔立ちの女性だった。泣いていて近づくのに全然気づかなかった。
「あ…いえ…だい…丈夫です…」
「これ使っていいよ」
フリルのついた可愛らしいハンカチだった。
「…僕なんかの涙で汚すのは申し訳ないので大丈夫です…」
「どうして僕なんかなの?」
「大切な仲間も守れず死なせて…怒りに任せて皆を危険に曝したどうしようもないダメな奴なんで…」
「そっか、キミは皆を守りたかったんだね。キミは優しい人だね」
「なんで皆そう言うんだ!会ったばかりの君まで!俺は優しくなんかない!何も…何も出来ない…弱い人間なんだよ!なのに!なんで皆そんな優しくするんだ!」
「そっか…キミは罰を受けたいんだね。自分のせいで守れなかったから」
「そうだよ!俺が悪いんだ!だから…誰か俺を責めてくれよ…」
「逃げちゃダメだよ」
両肩を掴まれそう言われた。
「その悲しみも、辛さも、苦しさも、優しさも…全部キミのものだ」
彼女は真っ直ぐで綺麗な目をしていた。
「誰かに責められても...それが贖罪にはならないよ。自分の感情から逃げちゃダメだよ」
彼女も泣いていた。
「泣いていいんだよ。その気持ちこそ、キミの本当の強さなんだから」
「弱さじゃ…ないの…?」
優しく抱き締められた。
「本当に強い人はね…泣かない人じゃない。泣いた後に立ち上がれる人なんだよ」
「俺は…立ち上がれないかもしれない…」
「なら私が肩を貸すよ。2人ならきっと立てるよ」
真っ直ぐ俺のことを見ている。
「私の名前はカァヤ。カァヤ・A・トイフェル7世だよ。キミは?」
「ユート…越智優仁だよ」
「ユート…優しい名前だね」
彼女は後ろを向いて歩き出した。その先には綺麗な建物が見える。
「そろそろ戻らないと心配されちゃう。私はこの先の大使館に住んでるから…」
カァヤさんは振り返りながらそう言った。風で揺れる蒼いワンピースの彼女はとても綺麗だった。
「もういっちゃうの?」
「またすぐに会えるよ。私はユートのこともっと知りたい」
カァヤさんはふわっと浮かんだ。
「次会うときはユートの笑顔もみたいな」
そう言って微笑むと建物の方へ飛んでいった。
「ありがとう…カァヤさん」
カァヤさんが見えなくなった後、ベンチから立ち上がるとベンチにカァヤさんのハンカチが落ちていた。思い切り泣いて目も赤いし、服も病院の服のままだし、流石にこのまま会うのは恥ずかしいので明日渡しに行こう。
俺はハンカチを握りしめた。
「ルディさん…俺…また戦うよ。そして…」
空を見上げて俺は誓った。
「戦争を終わらせる」
そう誓って、俺は勢いよく空へ飛び出した。
病室へ戻るとそこにはウォークタとマーヤさんがいた。
「た、ただいま〜」
恐る恐る入るとマーヤさんがすぐ駆け寄って来た。
やばい、勝手に抜け出したから流石に怒られるよな…。俺は罵倒とビンタの一撃は覚悟したけど予想は外れて思い切り抱き締められた。
「なんで勝手に外出ちゃうんですか!自殺しに行ったのかもとか、事故に遭ったらとか考えちゃって…」
泣きながら何度も胸を叩かれた。
「心配したんですよ…」
「あーあ、ユートが女の子泣かした〜」
「うぇ~、ご、ごめん!」
マーヤさんが俺の方を見上げて、
「スイーツ食べ放題!」
「ほぇ?」
「ユートさんの奢りでスイーツ食べ放題!」
「わ、わかったわかった!一緒に食べに行こうね」
「約束だからね!」
「やったぜー!」
「誰がお前の分も払うと言った。ウォークタは自腹だよ!」
俺達は皆で笑い出した。
「ありがとう、2人とも。もう大丈夫」
「アユーユさんにも連絡入れろよ。お前が抜け出したの聞いて仕事放ったらかしてまで探しに出てくれてんだから」
アユーユさん、自分も魔力切れ寸前で大変だったのにまだ動いてたのか。それなのに俺のことまで探してくれてたなんて。本当に申し訳ない。
「そうだね、すぐに連絡するよ」
その場でアユーユさんに連絡すると数分で病室まで駆け付けた。
「無事で良かった。どこも調子の悪い所はない?」
「はい、ご心配をおかけしました」
「まったくだ。こっちがどれだけ心配したと思ってるんだよ。その表情を見るに、もう気持ちの方も大丈夫なんだな」
「大丈夫…かどうかは分からないですけど、元気は出てきました」
「それなら俺からの小言も聞いてもらえるかな?」
俺はこの後こっぴどく叱られた。病室からの無断外出、通信機の無断オフ、飛行禁止区域での飛行魔導の使用など、軍属ではないから罰則はないけど、飛行魔導使用の件は現行犯だと法律で罰せられる可能性があるから気を付けるようにと厳重注意を受けた。
「まったく、やれやれだ。まぁ普段優等生で叱ることなんてないからな。たまには師匠としてこうやって叱らせてくれ」
「あい、すみませんでした」
「ところでどこに行ってたんだ?街の中探したけど全然見つからないし、外まで出たのかと外壁の外まで探しに行ったんだよ」
「独りになりたかったんで、何も考えずに人気のない方へと移動していたら、大きな噴水のある公園みたいな場所があって、ベンチがあったのでそこに座ってました」
「ん?それってこの病院の裏手から外壁の方に向かっていった所の噴水か?」
「普段通らない大通りと逆の方に向かったので見たことない景色でしたけど、多分方角的にはそうだと思います。それがどうかしたんですか?」
帰りはスマリの通信機能とか位置情報をオンにしてナビで帰って来たんだよな。病院裏手の公園奥って行ったことなかったけど、公園が2つ繋がってるっぽかったんだよな。
「まじかぁ...そこは魔人界の大使館で、関係者以外立ち入り禁止だし、大使館への不法侵入は重罪で本来なら国際問題だよ。今は魔人界と戦争状態だから国際問題にはならないだろうけど、誰かに見られてたら間違いなく捕まるところだよ」
「すみません...そこで女の人に声掛けられて少し話をしました。奥の建物にいるって話してて、その人にハンカチを貸してもらったので明日返しに行こうかと思ってました...」
皆が絶句している。やっちまったよ。こりゃあ大問題だ。いくらアユーユさんの弟子とはいえ許されないかもしれん。
「すぐに転移・転生管理課に連絡して、そこから外務省の魔人局に連絡して不法侵入の謝罪をしよう!」
すぐにアユーユさんがルルさんに連絡してこの件について経緯を説明をしてくれた。外務省魔人局への謝罪をしたい旨はすぐに受け入れられて、逆に食事会に招待されていると聞かされた。先方は既に不法侵入の事実を知っていて、その上で食事会を提案してきたとのこと。戦争状態の今だからこそ、魔人族全体が戦争したいわけではなく、平和を望んでいるものもいる事を知って欲しいと話していたそうだ。
「俺達に拒否権はない。もう一度直接謝罪して失礼のないように食事会を終えよう」
「了解です」
ちょっと独りになるだけのつもりがなんだか大変な事になっちゃったな。
翌日、俺とアユーユさん、それと転移・転生課のケベックさん、外務大臣兼魔人局の所長のブバリアさんって人の4人で会食に参加した。
改めて正門から入るとそこにはとても立派で美しい洋館みたいな建物があった。そう、俺が入ったのはこの洋館の裏手にある庭だったみたいで、俺は飛んでたから裏門に気付かず直接噴水の場所へ入ったみたい。
建物の中に入るとスーツ姿の男性が数名いて、中央に初老くらいの気品のある男性と、裏庭で出会った蒼いワンピースの女性、カァヤさんがいた。昨日と同じ蒼色だけど今日はシックなドレスを着ている。
「本日はお越しいただき誠にありがとうございます。私は先代国王のコランバイン・A・トイフェルの弟にあたるエキノプス・A・トイフェルと申します。この度は私共トイフェラージャ王国が戦争を引き起こしてしまい誠に申し訳ございません」
いきなり謝られて驚いていたら、外務大臣のブバリアさんが返答した。
「いえいえ、そんな、貴殿らが引き起こした訳ではございませんし、今回は我が国の国民が不法侵入をしてしまった事への謝罪の為に参りましたので、どうか顔をお上げ下さい」
「ありがとうございます。皆様もわざわざお越こしいただきありがとうございます。それでは早速食事会に致しましょう」
そう言って奥の大きなダイニングルームに案内された。そこには綺麗に整った食器や装飾の花などが飾られていた。
それぞれ席に案内され、奥からブバリアさん、ケベックさん、アユーユさんで、俺は入口近くの1番端に座った。向かいの席にはエキノプスさんとカァヤさんが席に着いた。
「ご紹介が遅くなりましたが、私の隣にいるのは先代国王の長女、カァヤ・A・トイフェル7世と申します」
「カァヤ・A・トイフェル7世と申します。本日は皆様にお会い出来て大変嬉しく思います。どうぞごゆるりとお楽しみください」
トイフェルのファミリーネームだったからまさかと思ったら本当に王族の人だった。あんなみっともなく泣いてわめいてしちゃったのはかなーりまずかったんじゃないか…。
その後、食事会は進んで超高級料理のフルコースが出たはずなんだけど、緊張し過ぎて何も覚えてない…。
「この後はお茶菓子もご用意しておりますが、天気も良いので良かったらテラスでいかがですか?」
そう言われたので俺達はテラスに移動した。ブバリアさんとケベックさん、アユーユさんはエキノプスさんと話してる。俺は少し離れたテーブルでカァヤさんと席に着いた。
「ようやく2人でお話しできますね」
「ま、まさか、王族のお方だったとは知らず大変失礼を…」
と、話しかけたとこで俺の唇を人差し指で止められた。
「そんな堅苦しい敬語は禁止。2人で話すときは、前みたいに自然に話して大丈夫だよ」
「ごめん、ありがとう」
「こちらこそちゃんと話さなくてごめんなさい。実はユートくんのことは前から知っていたの。大使館でも数年ぶりに転移者が新たに来たって話題になってたんだよ。だからあの後で伯父様に言って食事会を提案してたの」
え、俺ってそんなに有名なの?マジで滅多なこと出来ないな。
「どんな人か話してみたいなって思ってたけど、戦争になっちゃって…。私達はこの大使館にいて助かったけど、先代国王派として国から追放されたわ。もし本国にいたら私も殺されていたと思うし、今後もいつ襲われるか…」
カァヤさん、そんな辛い状況だったのか…。それなのに初めて会ったこんな俺の事を励ましてくれてたのか…。
「ありがとう。カァヤさんの言葉で俺は立ち上がれたよ。あと、ハンカチもありがとう」
「言った通り2人なら立ち上がれたでしょ?でも良かった。元気そうな顔が見れて」
「でもカァヤさんはなんで初対面の俺を励ましてくれたの?」
「ん〜一目惚れ?」
「え!?」
「っていうのは冗談で、ユートくんが私に似てたからかな。前ね、私も落ち込んでたんだ。父を失って、故郷に帰れなくなって、どうしたらいいか分からない日々だった」
前国王が殺されたのは3ヶ月前だったな。父親を失って、国にも帰れず、いつ襲われるか分からない中で敵国で過ごすのは不安だし辛かっただろうな…。
「そんな時、入国の義務になってる定期健診で病院に行ったら偶然ユートくんを見かけたの。アユーユ様と訓練に出た帰りだったのかな?異世界から来て、見知らぬ土地で、帰れるかどうかもわからず不安なはずなのに、訓練で傷だらけでも笑顔で前向きなキミを見たんだ。不思議とユートくんを見ていたら勇気が出てきた」
その時のこと全然覚えてない…。クローム先生の病院はワノイエの近くだったし、色んな実験や任務でもょっちゅう行ってたしなぁ…。
「覚えてないって顔してるけど、ユートくんにとってはただの日常だし、私のことも知らないんだから当然だよ」
覚えてないのバレてた。俺ってそんなに顔に出てるのかな。
「ユートくんが先に私に勇気をくれたの。だから泣いてるのを見てほっとけなかったんだ。だからおあいこだね」
「そうだったのか…。俺なんかでも勇気を与えられててよかった」
「『俺なんか』も禁止!キミが思ってるよりずっと皆に勇気を与えてるよ。街の人と話すとキミの事をよく聞くんだよ。皆が口を揃えて言ってる。『あの子はいつも頑張ってるし、誰に対しても優しく接してくれる。自分も頑張らなくちゃ』って」
そうなのか…。俺は何も考えずにやらなきゃいけない事をやってただけのつもりだったけど…。俺が思っているより、この街の人は俺の事を気にかけてくれてたんだなぁ…。
「わかった。言わないよう頑張ってみる」
「うん、偉い偉い!私が肩を貸すんだから、へこんでなんかいられないよ!」
「ありがとう」
「うん」
カァヤさんの笑顔はとても眩しかった。
「よし!ユートくんと話したら私も決心がついたわ!」
カァヤさんが席を立った。
「なんの決心?」
俺がそう聞くとニコッと笑ってアユーユさん達のテーブルとこのテーブルの間に立った。
「伯父様、私…カァヤ・A・トイフェル7世は、魔人界の王となります」
な!
「いいのかい?王位継承順位は私の方が上だから無理しなくてもいいんだよ?」
「伯父様は大変お優しい方です。王になるには優し過ぎます。だから王になれば心を痛めることが多過ぎて病気のお身体に障るでしょう。伯父様には今の元気で優しい伯父様のままでいて欲しいのです。ですので、私が父の後を継ぎ、王になります。伯父様には私の傍でお力添えをしていただきたいと思います」
「すまないね…私の心身が弱いばかりに」
「伯父様がいなければこの様に隣国に避難することも出来ませんでした。本当に感謝しております」
いったいどういう事なんだ?
「つまり、カァヤ様が現魔王を排斥して新たに女王となるということですね?」
「その通りです。我が父を謀略により捕らえ、その命も奪ったガムオンから王位を奪還します!彼の者を盲信するものも多いですが、それ以上に多くの国民は戦争を望んではいません。食糧危機を乗り越える為に戦争をするなど愚かな行為です。本来、各国と手を取り合い、食糧危機から脱する為の方法を模索せねばならないはずです」
「王位継承、よくぞ決意して下さりました。本来は食糧の輸入交渉が我が国への訪問理由でしたからね。これより本格的に魔人界の食糧危機を解決する方法を共に考えましょう。貴方が王位を継承した際には、全力で応援せよと大統領からも仰せつかっています。大統領も貴方には期待をしていますよ」
「ハナナ様にもご助力をしていただけて感謝しております。よろしくお伝えください」
話がよくわからないけど、カァヤさんが前国王の意志を継いで、ガムオン倒して女王になるって事いいんだよね?
「かしこまりました。具体的にどのように事を進めていくかはお決まりですか?」
「はい。まずはガムオンの地盤を弱めます。ガムオンを支持しているのは一部の研究者集団と、ガムオンの口車に乗ってしまっている貧民街の方々です。戦争以外で新たに食糧危機を回避する方法を提示できれば、貧民街の方々でこちらに流れてくる者も多いでしょう」
「食糧危機を回避する方法の方は我々も模索しますが、カァヤ様はいかがお考えですか?」
「正直な所、まだ案はなにもありません。色々な場所へ訪れ、私自身の目で見て、触れて、新たな技術を見いだしていく他ないかと考えております。その為にもまずは本土で大地の成分などを詳細に検査したデータが欲しいと考えています」
「カァヤ様はデータをお持ちではないのですか?」
「データ自体はガムオン派の研究員が持っています。今の私では手に入れるのは難しいと思いますので、直接現地で調査した方が早いでしょう」
でも今は戦争状態だし、カァヤさんは追放されてる身だからそれは難しいんじゃないか?
「なるほど。謝罪の連絡をした際に、招かれる名前に私の名が予めあったと聞きましたがこれが理由ですね。魔人界の領土内に侵入して土の採取が必要で、その為にはそれなりの実力者が必要だった。そしてその役割を私に依頼するつもりだったんですね」
「その通りです。無垢人界にいらっしゃると聞いて、もしアユーユ様にご助力いただければきっと大丈夫だと思いました。しかし、仮にご助力をいただけなくても単身でも行く覚悟は出来ています」
「個人的な気持ちとしてはお供したいですが、今は戦時中なので私も国家戦力として軍と同様の扱いになります。ですので協力には大統領の許可が必要なんです」
「それについてはアユーユ殿と同等の戦力を用意できていますのでご安心を。戦力だけでなく身の回りのサポートなども必要でしょうから他にも何名かつけられないか提案してみます」
カァヤさんは危険を承知で国に戻るのか。本気で国王になって戦争を止めさせるつもりなんだな…。
「あのっ!僕もカァヤさんの護衛として行かせてください!」
「急にどうしたんだいユート?」
「昨日からずっと考えてたんです。自分には何が出来るんだろうって。戦場に出て、仲間を失って、魔人族が憎くて仕方がありませんでした。たから仇を取って戦争を終わらせようって思いました。でもカァヤさんに出会って、カァヤさんもお父さんをガムオンに殺されていて、魔人族の人も全員が戦争をしたがってるわけじゃないんだって知りました。それで初めて本当の意味で、こんな戦争は止めなきゃって思いました」
「ユートくん…」
「カァヤさんが国王になって、こんな戦争を終わらせられるなら、僕はカァヤさんの力になりたい。なにが出来るかはわからないけど、弾除け位にはなれるかなって」
「ユートくん、君の気持ちはわかった。だがまず訂正しておく所があります」
え、なんかまずいこと言ったのかな。
「君は先日の戦闘で敵部隊の数や配置等を正確に捉えて報告し、敵モンスターが攻撃されない仕組みの解明に貢献した。地盤沈下時にも作戦を看破して部隊全体の生存者数を増やせた。更には魔王直属部隊の1人を撃退、魔人六騎将の1人である砂塵の渦蛇ディーネを負傷させ撃退にも貢献している。これだけの戦果を出していて弾よけ位とは、自分を低く見過ぎていますよ」
それでも大勢の人を助けられなかったし、カルミアもディーネも倒せなかった。全然力不足だ。
「先の戦闘で貢献したハンター試験の受験生には、特例で戦果に応じてハンター資格を与えています。君もDランクハンターとしてハンター資格を与えられていますよ。戦力だけを見ればAかBランクのハンターと同等という評価でしたので、護衛の戦力としては合格ラインです」
「え…そう…なんですか?」
「あぁ、起きてすぐユートがいなくなってしまったから伝えそびれていたけど、全てのハンター職でDランクハンターの資格が発行されているよ。もちろんウォークタ達も。生き残ったハンター志望部隊のメンバーは皆ランクは違うがライセンス自体は発行されているよ」
「戦闘の様子や報告は各大臣にはほぼリアルタイムで共有されていました。君の活躍は既に知る人は知っていますよ。ですので君が一緒に行って下さるのならむしろ好都合です。身元もアユーユ殿により保証されておりますし、既にカァヤ様と打ち解けていらっしゃるご様子ですしね」
「ユート、これからよろしくね」
この世界に来て漠然とハンターを目指して過ごしていたけど、俺にも明確な目的が出来た。
『戦争を終わらせる』と『カァヤさんを魔人界の王にする』。この2つが俺の目的だ。
「うん、よろしく!」
「他のメンバーに関しても連携が取りやすいメンバーを集めましょう。ただ、アユーユ殿は重要な国家戦力なので行かせられませんが、代わりにアユーユ殿と同じ虹彩の騎士が1人、蒼海の波騎士ベロニカをつけましょう。今回大隊長としては戦果を出せませんでしたが、彼女は団体の指揮より小規模の隊の方が真価を発揮しますからね」
「ベロニカはあまり口数は多くないが、戦闘力は間違いなく最強クラスだ。ただ人付き合いは不器用で、指示を出すのもあまり得意ではないかな。前にパーティー組んだ時は俺とは話してくれたけど、他のメンバーとはほぼ話さなかったな」
え、そんな人とパーティー組んで上手くやれるのかな。
「あら、逆に気になります。どんな方なんでしょうね。今から楽しみです」
まぁ心配してもしょうがないか。カァヤさんもいるし、なんとかなるか。
「さて、これから忙しくなりますよ。直ちに関係各所に連絡をして迅速に準備を進めなくては。時間をかければ次またいつ戦火が切られるかわかりません。残りのパーティーメンバーは追って連絡致します」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
こうして食事会は終わった。追加のメンバーは当日中に決まり、出発に向けての顔合わせと、大まかなスケジュールや情報共有をする為の会議が明日行われる事になった。場所は今日と同じ大使館。
俺は病院に戻って身支度をして、退院手続きをして数日ぶりにワノイエに帰ってきた。ワノイエは戦闘の応援に来たハンター達の仮宿舎にもなっていていつもよりもかなり賑わっていた。ケベックさんから戦闘終了後の様子を聞くと、ワノイエは西部拠点へ物資を送るターミナルになっていて、ルルさんは西部拠点とワノイエを行き来してハンター達のサポートをしてるそうだ。
「明日は俺とゴーさんは呼ばれてないからよろしくね、ユート」
明日は実際にパーティーを組むメンバーとブバリアさん、エキノプス殿下で会議を行う。
「色々決まったらメールでいいから俺にも連絡してくれ」
「はい、今日はありがとうございました」
俺はアユーユさん達と別れて自宅に戻った。数日しか経っていないのになんだかすごく久々に感じる。シャワーを浴びてベッドに横になると、すぐに眠気が襲ってきてすぐに眠りについた。
翌日の朝は少しゆっくりすることが出来た。会議は11時からなので今日は食堂で朝ご飯を食べる事にした。食堂はハンター達で既に賑わっていた。厨房のアベリアさんは忙しそうに鍋を振っている。
俺は食券を買ってカウンターに並んだ。食券を渡すとさすがに気づいてくれた。
「フレンチトーストセットね!ってユートくん!?もう体は大丈夫なの?」
「はい、もうすっかり魔力も戻ってケガも治りました」
「それはよかった!大分大変だったみたいだね。快気祝いにフルーツおまけしてあげる!」
「ありがとうございます!」
忙しそうに手を動かしながらも声をかけてくれて嬉しい。出来上がるまでに席を探していると、窓側の方でウォークタが手を上げて呼んでいた。
「昨日の夜はゆっくり休めたか?」
「うん、よく寝れたよ。荷物とか運んどいてくれてありがとな」
「まぁ言う程の荷物もなかったけどな。あと、今日の外務大臣と会議は俺も呼ばれたから一緒に行こうぜ」
「マジで?ウォークタ呼ばれたの?内容は聞いてる?」
「ハンターとして重要な任務を依頼したいっていうのと、パーティーにはユートと魔人界の姫様がいるってこと位だな。受けるか受けないかはちゃんと内容聞いてから返事ってしてるけど、お前いるなら受けようとは思ってた」
連携取りやすいメンバーって言ってたからな。間違いなく俺と1番連携取れる奴だ。
「魔人界の姫様がいる時点でかなり重要度は高そうだとは思うけど、お前と一緒なら大丈夫だろ」
「そう言われるとなんか照れるな」
「この前の戦闘ではかなり活躍してたしな。俺もお前もDランクスタートだってな。破格のスタートだよ」
俺は一旦フレンチトーストを取りに行った。フレンチトーストには生クリームとフルーツがたっぷり添えてある。
「うわぁ…朝からよくこんなの食えるな」
「そうか?我が家ではフレンチトーストの朝ご飯は定番だよ?」
「朝からこんな甘いの食べたら胃がもたれそう」
「これが意外とさっぱりした味でさ!生クリームは柑橘系の果汁も入ってて後味が爽やかで、フレンチトーストも卵液がしみしみでめっちゃ美味いんだよね〜!」
俺はこのフレンチトーストにハマって2日に1度は注文してる。
俺達は食事を終えるとそれぞれ部屋に戻って支度をした。10時15分に再度入口で集まり、ウォークタがケベックさんから公用車を借りてたから車で大使館まで向かった。20分前には大使館に着いて、中に入るとそこにはマーヤさんがいた。
「ユートくーん!ウォークタくーん!」
大きく手を振って迎えてくれたけど、マーヤさんもメンバーなのか。
「もしかしてマーヤさんもメンバーで呼ばれたの?」
「うん。私は医学と薬学、地質や歴史の知識もあるからって呼ばれたの」
マーヤさんは既にお父さんの会社で色々経験も積んでるし、確か学校も首席で卒業したって言ってたな。カァヤさんは地質調査をするって言ってたから、戦闘面も考慮して回復も出来る彼女が選ばれたのかな。
「おや、皆さんお早いですね。私達が最後になってしまいましたか」
そう言って来たのはブバリア外務大臣とベロニカ・ペルシカ元大隊長だ。ペルシカさんは遠目で見ただけだけど、女性なのにかなり大きい大剣を軽々と背負っていたから印象に残ってる。
「皆様お揃いのようですね。どうぞ奥の部屋へ」
昨日と同じ部屋だけどテーブルは円卓になっていた。俺達はそれぞれ名前の書いてある所へ座った。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。初めて会う方もいらっしゃるのでまずは自己紹介を致します。私はトイフェラージャ王国の前国王の娘、カァヤ・A・トイフェル7世と申します。この度は私の想いに協力していただきありがとうございます。では、早速ですが本題に入りたいと思います」
そう言うと俺達に資料が配られた。
「まずは皆様に集まっていただいた目的をお伝え致します。現在、我が父、先代国王コランバインから王位を簒奪し、ガムオンが王位に就いておりますが、その王位を取り返し、私が王位を継承することで戦争を終結させる事が最終目的です。現在国内は貧民を中心としたガムオン派と、中位層から富裕層が中心のコランバイン派に分かれていますが、ガムオンの私兵が武力でコランバイン派を制圧している状況です」
構図だけ見ると困っている貧民の為に王位を簒奪したように見えるけど、実際はそうじゃないんだよな。
「この私兵はガムオンが所属していた研究施設に所属している者で構成されており、相当な戦力を有しています。また、モンスターを多少ですがコントロールする術を編みだし、兵士と共に戦場に送ることで全世界を相手出来るほどの戦力となっています」
カラクリ自体はこの前見破っているけど、だからといってモンスターが戦場に送り込まれるのは変わらないし、モンスターだけでも相当な数がいたからな。
「これから話す作戦は大きく2つあります。1つ目はこちら側に貧民の支持を集めること、2つ目はガムオンの戦力を削ることです。1つ目に関しては、食糧不足の問題を解決することで、戦争で他国から奪わずに済む状態になり、ガムオンを支持する理由がなくなるのでこちら側に流れるという作戦です。2つ目は、コントロール用の魔導石を生産する施設か、モンスターの生成をしている大規模魔導工房の破壊、もしくはその両方を達成することで、モンスターを戦力として運用出来なくさせるという作戦です。魔人界に潜入してその2つの任務を実行する為に、今回皆様に集まっていただきました」
「ユート君、ウォークタ君はハンターとしては新人ではあるが、単純な戦闘力としてはAランクに匹敵する程のものだ。経験が少ない分はベロニカに補って欲しい」
「僭越ながら、私の様な者が隊を率いるのは無謀かと思います。私は大隊を丸々失ってしまう程無能な指揮官です。この様な重要な任務を担うには荷が勝ちすぎています」
「ベロニカの言いたいことは分かります。貴方は皆に危険が及ぶのを嫌い大抵の事は自力で解決してしまうでしょう。それに自分でやった方が早いとも考えているのでは?ですが、ここにいる彼等は能力としては貴方に匹敵するもの、場合によっては上回るものを持っています。正しく教えていけば貴方が動くよりも大きな事が出来るはずです。貴方には彼等をより高みへ連れていって欲しい。そういった意図もあって貴方を選んでいます」
「私に出来るでしょうか…」
「大丈夫。貴方は優しく周りをよく見ています。きっと彼等を導けますよ」
「そこまでおっしゃるのであれば、このベロニカ、全身全霊を持って任務にあたります」
「どうぞよろしくお願いします。ペルシカさん」
「ベロニカで結構です。こちらこそよろしくお願い致します」
ブバリアさんはそこまで考えてくれているのか。外務大臣って色々な事を考えているんだな。
「さて、残りのメンバーの役割を話しておきましょう。ユート君とウォークタ君は戦闘面を中心にお願いしたいと思っています。戦闘はユート君を攻撃の起点として考え、連携の取り易さも考えてウォークタ君を選びました。ユート君はメインアタッカーとして先頭に立っていただき、ウォークタ君は弓や魔導で中・遠距離からサポートをお願いします。ベロニカもユート君も接近戦がメインになるので、バランス良く立ち回ってもらえればと思います。マーヤさんは戦闘では回復とサポート、他にはカァヤ様の地質調査等を専門的部分でサポートしていただきたいと思っています」
「ブバリア様、私も戦闘に加わります。私も魔導には心得があります。決して足手まといにはなりません。それに、皆様に守られているだけでは国民にも示しがつきません。危険を顧みず、前に出て道を示さねば、国民も私を指導者として認めないでしょう」
「…そうですね、わかりました。その点に関してはベロニカを中心にメンバー内で立ち回りを検討して下さい。メンバーについては問題ありませんか?」
「大丈夫です。ご配慮いただきありがとうございます」
「ではカァヤ様、出発予定が決まり次第ご連絡下さい。また、必要な物などがあればご申付ください。私はこれで失礼しますが、皆さんはこの後も打ち合わせを続けて下さい」
「はい、ありがとうございました。詳細が決まりましたらまたご連絡致します」
ブバリアさんが退室した後は、カァヤさんから改めて戦闘時の立ち回りや、今後の予定等の話をした。
出発は5日後。新たに出来る国境防衛拠点ムラファをホームとして、数ヶ月かけて魔人界へ潜入調査をする。調査は各地方で数カ所ずつ土の採取が必要で、地方によってどれくらい変化があるかも調べるらしい。また、モンスターから襲われなくなるアイテムの生産工場と大規模魔導工房についても調査し、可能であれば破壊までする。戦闘面では、カァヤさんは魔導が得意で使える魔導は攻撃、防御、回復など多岐に渡るそうだ。なのでウォークタと一緒で中・遠距離からの攻撃とサポートを担う事になった。色々話していたら話は食事を挟んで夜までかかった。
「今日は遅くまでありがとうございました。皆様、これからよろしくお願い致します」
「とんでもございません。夕食までご馳走になってしまいありがとうございました」
「次に皆さんに会うのは5日後ですね」
「朝は9時にここに集まってムラファへ向かい、その日はムラファの内部を見学して、その後に出発前の最終確認。その日はそのままムラファに泊まって翌日の朝7時に出発。しっかり覚えてます!」
「寝坊するなよユート」
「どの口が言う?」
「姫様の前だよ!2人とも」
「気にしないで大丈夫ですよ。これから共に旅をする仲間です。かしこまった敬語も使わなくて大丈夫なので、皆さんよろしくお願いします」
「承知致しました」
「ベロニカさん、いきなり敬語ですよ」
「あっ…」
皆クスッと笑った。
「敬語使う度に数えていったら楽しそうだな」
「くっ、申し訳ない。これから頑張ります」
「ウォークタと違って真面目なんたからベロニカさんをイジメないであげて」
「失礼な。まるで俺が不真面目みたいな言い方じゃないか」
「ウォークタくんって真面目だったの?パーティー組んだ時には真面目というよりお笑い担当なのかなって思ったよ」
「マーヤさんが言うとガチっぽくてヘコむから勘弁してくれ」
マーヤさんは多分、『っぽく』じゃなくて『ガチ』で言ってる気がする。
俺達は解散してそれぞれ帰路についた。
カァヤさんを魔人界の王にして戦争を終わりにする。それが俺の戦う理由。
ルディさんの死を無意味にはしない。絶対に。




