第17話 重なる運命
俺達ヴィーラ隊は戦闘区域に入るとすぐにアユーユさんと合流できた。そこには敵の指揮官もいて、アユーユさんとディアーゴさんが指揮官を、俺達は大型モンスターの撃退にも成功して、前線部隊の生き残りの人達を守る事ができた。
その後は国境までの安全確保をする為に、残存する敵の掃討にかかった。
「なんだこの戦場は…大地震でも起こったのか?かなりの広範囲が崩落してる…」
大地震のニュースでもここまで崩落してるのは見たことない。一体何が起きたんだろう。
「前線部隊はほぼ壊滅じゃないか。ユート君たちよく無事だったな」
「ディアーゴさん、崩落の外側からモンスターがまだ進軍してます!」
崩落の外側両サイドからモンスターが前進している。数もまだまだ多そうだ。
「ユーシ達は右側から、俺は左側から蹴散らしていく。もう少しすれば援軍も追いついてくるからあまり無理せず暴れてこい!」
「まだまだ暴れ足りなかったんでちょうどいいっすね!んじゃ、ユーシおっ先〜!」
「ムラトモ、勝手に突っ込むな!」
「あたしもおっ先〜」
「コトミまで!ったくも〜!」
ムラトモとコトミは先行して敵のモンスター群の先頭に降り立った。俺とユアはその後を追う。
「さてさて、久々に全力で暴れちゃおっかな。ヘビド、準備はいいか?」
《もちろんです。久々のカーニバルといきましょう》
「オラオラオラオラァァァ!ディアーゴ様のお通りだぁー!」
ディアーゴさんがヘビドさん使って派手に魔導連射銃を乱射し始めた。ヘビドさんはムラトモの盾と同じで魔導石に魔力を注ぐと弾丸を生成して撃ち出す仕組みを搭載してる。それも魔力量がムラトモよりもさらに上だからもう無限の弾丸と言っても過言ではない。それを上空から一方的に撃ちまくっている。モンスター相手だから容赦が無い。
「俺も隊長に見習って行きますか!ドラァラァラァララァラァー!」
ムラトモは盾に仕込んである銃を抜いて撃ち始めた。単発式の銃だからそこまで派手さはないけど弾はリロードも必要ないからかなり連射ができる。
「連射でいく感じね!ならあたしも!」
コトミは両手を前に構えると両手のヴァイゼアームにある魔導石が光り輝く。
「炎、氷、水、属性矢魔導三重奏・再演!」
コトミの両手から炎、氷、水の3属性の矢が同時に何発も撃ち出される。ヴァイゼアームの魔導石にある術式を使い、単体では無詠唱で撃てる様になったものをアレンジして3属性を同時に発動させる技。属性魔導を同時に使うのは魔導石を使ってもイメージが難しい。ルビアス先生直伝の技だ。
放たれた弾丸と属性魔導の矢はどんどんモンスターをぶち抜いていく。
モンスターは狼系、トレント系がやや多いか。それ以外にもスライム系、牙獣系、爬虫類系、昆虫系と幅広くいる。ぶち抜かれた後も次々と進軍して来るのできりがない。
《こちらヘリオ、援軍到着まであと5分だそうです》
ヘリオからの通信だ。俺達はフリューゲルで先に来たから一緒に集まった援軍より少し早く着いていた。
「援軍が到着するまでに出来るだけ数を減らしたい。俺とコトミとムラトモで大魔導を連続で放って一気に数を減らす。ユアは2人の後ろで防御魔導を唱えて待機。大魔導の詠唱中を守ってくれ」
「うん、わかった!」
俺は思念伝達魔導で突っ込んでいった2人に作戦を伝える。
《2人とも聞いてくれ。敵の数が思ったより多い。ムラトモ、俺、コトミの順で大魔導使って一気に敵の数を減らす。1人撃った後はすぐに前進して、戦線を一気に前に出す。防御魔導はユアを後ろに待機させたから、ムラトモは撃った後ユアを担いで一緒に前進して、次の大魔導の準備してくれ。ムラトモの2発目まで撃って、その後は援軍と合流する》
《オッケー!じゃあムラトモが撃つまではあたしが時間稼いどくね!》
《了解!大魔導は直線系のを放射状に撃つ感じか?》
《理想はそうだな。でも沢山敵を減らせるなら無理に放射状じゃなくてもいい》
《1発目は放射状でいけるけど2発目は1箇所爆撃型になるからよろしく》
《了解》
俺はユアを2人の後ろに降ろすと、1番手のムラトモが前に出る。
「おっしゃ!俺の秘密兵器!大魔導石の力をお見せしよう!」
そう言うとムラトモは盾を前に構えて拡張シールドを展開した。
「俺に詠唱はいらねぇ!くらえ!超熱放射魔導!」
突き出した盾の中央から数十メートルはあろう炎が一直線に放射されている。ムラトモはそれを放射状にずらしていき範囲内のモンスターは一瞬で黒焦げになっていく。
「だっはっは!見たか!この威力!!」
「はいはい、凄いのは分かったから早くユアちゃん連れて前出るよ!」
ムラトモは盾を受け皿にしてユアを座らせて、背中のバーニアで一気に加速する。
俺は詠唱と同時に右手を挙げ、皆より先に前に出て大魔導を放つ。
「死に逝く星の生んだ炎が最期の夢に灼かれゆく。崩れ落ちゆく過ちの果て、汝は最期の夢を見るだろう」
詠唱を唱え終わると同時に数百メートル上空に直径数メートル程の炎塊が無数に出現する。
「流星群魔導!」
魔導名を言うと現れた炎塊が敵の群れに対して超高速で広範囲に降り注ぐ。着弾と共に大きな爆発を起こし地形がみるみる変わっていく。
ユア達はユアが唱えた強めの風系防御魔導で爆風を防いでいる。
「うわぁ…えげつねぇ威力だな…」
「僕達も防御魔導してなかったら爆風で吹き飛んでるね」
「ってかこれ次にあたし撃つ必要ある?」
全ての炎塊が撃ち終わると数キロ位先まで地形がでこぼこになっていた。
この大魔導はオリジナルで、練習では控えめにイメージして使ったけど、今回は最大値のイメージで放ったから自分でもあまりの威力に驚いている。
「前線で右側にいた敵はほとんど倒せたかな?」
「ユーシー!次あたし撃たなくていーよねー?」
「そうだな!これくらい減らせば後は援軍と合流してからで大丈夫でしょ!」
俺も地上に降りて一旦合流した。するとディアーゴさんも反対側から移動して来て合流した。
「随分とド派手にやったな!」
「ほとんどユーシの大魔導で木っ端微塵っすよ」
「ディアーゴさんも流石ですね。1人で僕達4人で相手したのと同じ位の数相手にして、先に終わらせてこっち側で合流だなんて」
「1対多数の戦闘は得意でね!魔力続く限りミサイルやらガトリングガンぶっ放して適当に暴れてたら敵減るから楽なもんよ!」
《私も清々しい気分です。久々に弾丸で地表を埋め尽くせました》
数千匹はいるモンスター群をたった1人で壊滅させるのは流石Sランクハンター。そしてヘビドさんもご満悦でなにより。
「ところでお前らの方で魔人族見たか?」
「いえ、全てモンスターだったと思います」
「やっぱりか。多分モンスターで足止めだなこりゃ。本隊の魔人族軍はディーネが撤退した時点で引き上げてるだろうな」
「この感じだとそうでしょうね。この数のモンスターを切り捨てて使えるって事は、相当大規模な魔導工房があって、そこで大量に生産している気がします」
多分このモンスター群が魔人族が今回戦争に踏み切った理由の1つだと思う。これだけの戦力を安定して供給されたら長引けば長引くほど戦況は不利になっていく。
「一先ずお前達はヘリオのとこまで戻って作戦本部へ現状を連絡してくれ。俺は上空から国境まで行って、状況を確認してから戻る」
「わかりました」
そう言うとディアーゴさんはヘビドさんに乗って爆速で国境まで飛んでいった。俺達は指示通り一旦ヘリオの所まで戻って西部拠点へ連絡をした。その間に援軍も到着したので、各大隊長達にも状況を報告。報告を終える頃にはディアーゴさんも帰還し、敵本隊は既に国境を越えて魔人界側の流れの森を抜けていたので一旦追跡は断念し帰還したそうだ。
援軍部隊の出る幕はなかったけど、今回の件で、無垢人界は国境防衛拠点を早急に、より強固で防衛能力の高い拠点に作り直す事になったらしい。その間の物資の移動や建築に無垢人界の援軍部隊を使う事になり、俺達と一緒に来た亜人界の援軍部隊はその護衛として駐留する事になった。期間は2週間程で、暇な時は俺達も建築を手伝った。
ムラトモのミスリル生成はここでも大活躍で、防壁の大半をムラトモが生成して、鍛冶師のフィファも一緒に迎撃用の兵器製造も手伝った。
なので本来なら物資の移動もある中で2週間の工期は相当早いんだけど、それをさらに半分の1週間で終わらせてしまった。うちの技術職はホント凄い。
新たな防衛拠点は、ムラトモとフィファが建築に大きく貢献したことから、ムラファ国境防衛拠点と名付けられた。ムラファにはハンター協会西部拠点長のオリーブ・ペンタスさんが拠点長として任命され、国からは先の戦いで前線部隊の指揮をし、ぎりぎりで危機を回避して部隊の全滅を防いだクフェア・ノースポール大隊長と、敵の弱点を看破して敵前衛部隊を攻略したリリウム・ランシフォリウム大隊長が副拠点長として配置される事となった。
もう1人の大隊長、ベロニカ・ペルシカ大隊長は自部隊を自分を除いて全滅させてしまった責任を取り大隊長を降格。新たに別の任務を受けたらしい。
あ、あとアユーユさんと会ったとき、ディアーゴさん俺達の事ミーレス様が見いだしたって言ってたけど、もしかして予言の話は聞かされてないのかな?一応国家機密っぽい気はしてたけど、ディアーゴさんにも話してなかったんだな。それにカコミィ師匠から教わってたのも知らなかったみたいだけど、飲み会の時に言ってたはずなんだよなー。まぁあの3人が飲み会で揃うと大変なのがよくわかったから、今後は飲み会での出来事は無かったこととして考えよう。
俺達はムラファが完成した後は、一旦帰国して次の作戦に備えよとの命令だった。初めての外国はあっという間に終わってしまった気がする。
それと出発の2日前に連絡があったんだけど、俺達がムラファを出発する日、どうやら魔人界の姫様がムラファに来るらしい。どういう経緯でそうなったのかはよく知らないけど、元々は外交で来てたのにガムオンと対立している派閥だから国に戻れなくなったって話はちらっと耳にした。魔人界も一枚岩って訳ではないんだな。
それで、アユーユさんと戦場にいた青年…ディアーゴさんに聞いたらどうやら転移者らしくて、初めて自分達以外に転移者と会ったから少し話してみたいって思ってたら、その青年も来るらしい。何か特殊な任務でもあるんだろうか。
アユーユさんとその青年が来るのを知って、ディアーゴさんがせっかくだから話す時間を設けられないか聞いてくれて、1時間位ならなんとか取れそうとのこと。
俺達は出発を少し遅らせて、昼食を一緒に摂ってから出発することになった。
当日、俺達は出発の準備を終わらせ、一足先に食事会場に入った。こちらはディアーゴさん含めて5人。フィファ君とマーシュちゃんとヘリオ君はフリューゲルの発進準備と装備の点検があるから先に昼食を済ませたそうだ。
「初めて俺達以外の転移者に会うな!」
「歳下って聞いたけどどんな子なのかな?イケメンだといいなぁ〜」
「イケメンだとしてどうするつもりだよ」
「え〜彼氏候補?」
「コト姉は顔で選ぶの〜?僕はユーシくんがいるから、楽しいお話ができればいいな!」
「ユアを狙う奴は俺が許さん!」
「まだ狙うと決まった訳でもないだろうよ。まぁ初めての同郷ならテンションも上がっちまうか」
そう、その青年はユート君といって、なんと日本人らしい。それを聞いたら俺達はなんだか嬉しくなってそこからテンションがおかしくなっている。
「でもケガとか大丈夫かな?あの戦いで生き残るだけでもすごいけど、僕達が到着した時はすごく辛そうな顔してた」
「確かにな。大地震後みたいな戦場でよく生きてたよ。しかも俺達が来る前に敵将を1人撃退してるんだろ?めちゃくちゃ強ぇじゃんか」
「彼も一緒に来れたら良いのにな。その方が彼も過ごし易いんじゃないかな?」
「でも仲間内にポツンと1人入るのも勇気いるよね〜」
「確かに!コトミはイケメンがいれば気にしなさそうだけどな」
「ムラトモこそ可愛い女の子いれば気にしないでしょ」
「はいはい、もうすぐ時間だから静かにしよーなお前達。ディアーゴおにいさん怒っちゃうよ?」
「え、オジサンの間違いじゃないんですか?」
「オメェよぉ〜、どの口が言うんだオイッ!オイッ!」
最期のムラトモの余計な一言にディアーゴさんのヘッドロックが決まる。
「ノォー!ノォ〜!誰か助けて〜」
皆知らんぷりで助ける者は誰一人としていなかった。サヨウナラ、ムラトモ。
「ノォー!ノぁぁ…」
ムラトモが白目をむき出したのでさすがにユアが止めに入った。まぁ自業自得だが。
そんなおふざけをしていると扉をノックする音が聞こえた。
「失礼しまーす」
扉から入ってきたのは赤髪短髪でがっちりした体格の男性と、黒髪のソフトモヒみたいな感じで、かなり引き締まった筋肉質な体の青年だ。
「よ!アユーユ」
「おう、おう?なにやってんのお前?」
「おしおきヘッドロック!」
「パワハラで訴えられるなよ」
ヘッドロックを外すとムラトモはスルスルと崩れていく。
「彼が転移者の?」
「越智優仁です。よろしくお願いします」
「おぉ〜ホントに日本人だ!」
「あら引き締まった体の中々のイケメンくんじゃない」
「とりあえず座るか。ユートは奥行きな」
俺達と向かい合う形で2人は座った。
「今回は急な要望に応えてもらってありがとう。それぞれ転移前が日本にいたって事で、お互いに興味はあったのかなって思うけど、こうして話す時間が取れてとても嬉しく思います。まずはお互いに自己紹介をしましょう。僕はアユーユ・アフート。半竜人でこの世界での年齢は36歳。実は転生者で転生前は羽藤優也って名前でした。職業はハンターで主にモンストルハンターをやってます。よろしくお願いします」
「マジっすか!転生者だって!転生ってホントにあるんすね!」
アユーユさんって転生者だったのか。見た目も名前も日本人っぽくなかったからこの世界の人だと思ってた。
「次は僕でいいんですかね?えっと、越智優仁です。22歳の大学4年です。この世界へは半年程前に来ました。神奈川に住んでて、夏休みに就職先の内定者研修で日光へ行って、その最中に滝に落ちてしまって、気がついたらこの世界にいました。この世界ではこの前ハンター資格を取れたのでハンターとしてやっていくつもりです。よろしくお願いします」
転移者は水に関わる場所から来るっていうのは本当なんだな。半年前に来たってことは俺達が勇者としてミーペスで活動し始めたくらいの時か。そういえばアユーユさんが飲み会に急遽来れなくなった日あったからその日がそうなのかな。
「俺は転生者じゃないけど一応自己紹介するか。俺はディアーゴ・アゴイステン。アユーユとは同い年の幼なじみで亜人界を中心にハンターをやってます。ランクはアユーユと同じSランクで、今は亜人界独立勇者部隊の隊長になって戦争の終結に向けて活動してます。じゃあ次は隣のムラトモから順番にいこうか」
となると俺はトリか。なんか嫌だな〜こういうのはムラの方が得意だからあいつ最後にして欲しかったな。
「ういっす、俺の名前は邑繁智平!こいつらからはムラトモって呼ばれてるから、呼ぶ時はムラトモでおっけーっす!25歳で証券会社で働いてるエリートサラリーマンです!この世界ではミスリルマスターのスキルを活かしてアイテム職人的なこともやってます!戦闘ではタンクっす!絶賛彼女募集中です!よろしくおなしゃす!」
「自分でエリートとか言っちゃうあたりは流石ムラトモって感じだね。次は私ね!私は青澤琴水24歳、皆からは名前で呼ばれる事が多いから呼ぶ時はコトミで大丈夫です。仕事はアパレル関係のお店で副店長をやってます。この世界では大魔導師目指して頑張ってます。絶賛彼氏募集中です♪よろしくお願いします。次はユアちゃんね!」
「僕の名前は一水唯愛って言います。医師を目指している大学生で、歳は20歳です。僕も名前の方が慣れてるから名前で大丈夫です。この世界でも医師を目指していて、使える魔導も治療魔導が中心です。彼氏は…ユーシくんなので募集してません。よろしくお願いします」
「ほら、お前達が変な流れ作るからユアが別に言わなくてもいいのにつられてるじゃないか!」
「え…?言わなくてもよかったの……?」
ユアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ごめんごめん!そんなつもりはなかったんだよ〜。ほら、ムラトモも謝れし!」
「ご、ごめんね、ユアちゃん」
「やれやれだな…じゃあ次は僕ですね。僕の名前は羽咋優獅。皆からはユーシで呼ばれてます。歳はムラトモと同い年で25歳。仕事は学生時代に空手でよくお世話になった事もあって整体師をやってます。この世界では勇者って事らしいです。本当はもう1人幼馴染みで2つ歳上の和島英雄っていうのがいるんですけど、怪我のリハビリで今はアゴイスにいます。僕達は海でバーベキューしてたら大地震が起きて、その後の津波に流されてこの世界に来ました。ユート君よりも半年くらい早く来てるから、困った事とか気になる事とかあったら相談してね」
「ありがとうございます。僕と半年しか違わないのにあんな大魔導使えるなんて凄いですね」
「たまたま勇者の素質があったからだよ。あ!あと、言い忘れてたけどユアは俺の彼女だからそこんとこよろしくね!」
コレ大事だからね!ユアが言っちゃったけど言わなかったらどっちみち言うつもりだったし。
「は、はい…」
「さて、自己紹介も終わったし、飯にしよう!アユーユのリクエストで元の世界にもあったカレーを作って来ました!」
「カレーワッショイ!!ミーペスに移ってからは食べてなかったから嬉しいぜ!」
朝から見当たらなかったのはこれが理由か。ディアーゴさんこういうの凝るからな〜。
「辛さは中辛だけど、辛くしたいなら後入れ用のスパイスも用意してる。逆に甘くしたい人はヨーグルトソースあるから入れてみてくれ。具材は元の世界にもある物で牛肉、人参、玉ねぎ、じゃがいも、シメジだ。牛肉は良いのが仕入れてあったから使わせてもらった。肩ロースとすね肉を使ってるから食べ応えもあるぞ」
「スパイスも自作のブレンドだろ?お前ホント料理好きだね〜」
「あったりめぇよ!うまいもん食いてぇじゃん!遠征の時は必ず現地の物を調達して作るのが醍醐味よ!今回はクローミアまで来たから野菜も畜産も質がいい!スパイスも幅広く揃ってて、さすが無垢人界の台所と呼ばれるだけあるぜ」
そういえばクローミアは迷いの森の魔力によって農作物が育ちやすく、農業や畜産業が発展しているってルビアス先生の講義で習ったな。
カレーはディアーゴさんとアユーユさんが俺達の所に配膳してくれた。手伝おうとしたら、今回は転移者の交流会だから座ってていいと言われてしまった。
「米で食うかナンで食うかも選べるからな!サラダもあるからしっかり食えよ!飲み物もラッシー作ったからよかったら飲んでな!」
「ナンって食べたことないから俺はナンで食べよっと!」
「僕もナン初めて!ユーシくんは食べたことある?」
「俺はあるよ。どっちの組み合わせも気になるから、ここは贅沢に両方食べようかな」
「ユート君はどうするの?」
「僕もせっかくだし両方食べようかな」
全員取り終わり、乾杯の挨拶をアユーユさんがして食事が始まった。
「やっぱディアーゴさんの飯はうんまいっす!ハンター辞めたら絶対料理人がいいっすよ!」
「ありがとうよ。まぁまだ当分辞めるつもりはないけどな」
「カレーを食べると俺はよく元の世界を思い出すよ。母親の味もそうだし、妻と息子に俺のカレーを食べさせてたからさ」
「アユーユさんの奥さんと息子さんはどんな人なんですか?」
お、珍しくユアから質問をしてる。
「妻は歳下で7つ離れてるんだけど、すごくしっかり者で会社でデイサービスの管理者やってたよ。家ではおっちょこちょいな所もあって、そのギャップも可愛くてね。息子はまだ3歳でようやく会話が成り立ってきた位かな。ちょっと感性は独特だけどすごく可愛いんだ」
「素敵な家族ですね。優しい感じが伝わってきます。僕もそんな風に素敵な家庭を作れるといいな」
「ほら、ユーシ!言われてるよ!」
「お、おう!もちろん!」
心の準備してなくてなんも出てこなかった。
「お二人は付き合って長いんですか?」
「前の世界でだと3ヶ月で、こっちも合わせると1年と3ヶ月になるかな。付き合ってる期間は短いけど幼馴染みで近所に住んでて、実際は15年位一緒にいるからもう家族みたいなもんかな」
「だから一緒にいても自然体なんですね。なんか羨ましいです。仲良さそうなのを見ると僕も早く彼女欲しくなります」
「あたしで良かったら付き合っちゃう?結構いい体してると思うんだけど」
そう言ってコトミが胸を寄せて可愛い女の子アピールをしている。
「えぇっ、えっと…」
「いきなりナンパすな!ユート君困ってるだろ!」
「あ、いえ、可愛い方だなとは思いますよ」
「ほら聞いた!?可愛いって!よし!今度デートしよっ♪」
「今度っていつだよ。俺達は今日ここを出て一旦ミーペスに戻るんでしょうが」
「え〜なら連絡先だけでも交換しよっ!」
やれやれ、こいつどんだけ男に飢えてんだか。
「連絡先は全然大丈夫ですよ。もしよかったら皆さんもお願いします。僕も同じ日本の人と繋がれると嬉しいですし、話もし易いですから」
「オッケーオッケー!何か困った事があったらお兄さん達に相談したまえ!」
「珍しく先輩風吹かせてるムラトモウケる」
「いーじゃんよ、たまには吹かせさせてくれよ〜」
ユート君は俺達と違って独りでこの世界に来たんだもんな。きっと今まで大変だっただろうし、寂しかった事もあるだろう。これからは俺達もいるから安心してもらえたら嬉しいな。
こうして俺達は楽しく食事を食べ、あっという間に出発の時間になってしまった。
「今日は出発前にわざわざありがとうございました」
ユート君はとても良い子だな。礼儀正しいし、気配りもできる。
「あと、そういえば気になる事があって、ユーシさんの苗字って羽咋ですよね。実は僕の母の旧姓が羽咋なんです。珍しい苗字だし、もしかして親族なのかなって思ったんですけど、思い当たることってないですか?」
マジ!?羽咋ってめっちゃレアな苗字だから俺も今まで親族以外会ったことない!
「旧姓だと羽咋裕美子って言うんですけど…」
「え…ちょっと待って。それって俺の母さんの名前と同じだ…」
そんな事って有り得るのか!?え、隠し子!?どういう事!?
「本当か!?実は…俺の元の世界の母さんも旧姓が同じ名前だ…」
「なっ!えっ!?」
アユーユさんのお母さんとも同じ!?アユーユさんの元の年齢って幾つだ?なんか頭こんがらがって来た。
「なんかこれは偶然ってだけでは片付けられないよな。もっと色々情報をすり合わせないとだな。でも今日はもうディアーゴ達は出なきゃならないから、とりあえずこの件は保留で。ユートもこの後重要な任務だから、この事は深く考え過ぎないようにな」
「そうですね。流石にただの偶然ではないでしょう。それぞれまだ重要な任務がありますから、この件は戦争を終わらせるまでは胸にしまっておきましょう。ユート君もそれで大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。今日はありがとうございました」
こうして俺達は謎を抱えたまま、ひとまずそれぞれの任務に戻った。俺達は亜人界の勇者として、初の海外任務を終わらせて帰路についた。
この出会いは偶然ではない。そんな気がしてならない。何か大きな歯車が動いているんじゃないか。そんな疑念をもちつつ、首都ミーペスへ戻った。




