優秀な探索者
「うちでまとめてる探索者って、ほかのギルドに比べて死傷者少ないですよね。優秀な探索者がいるんですか?」
とあるダンジョンのそばにある探索者ギルドで受付をしている新人ギルド員が、先輩の職員に話しかける。先輩は手が空いて暇なのか椅子に大きく体を預けて背を反らして天井を見上げながら退屈そうに「そうだね」と言った。
「優秀な探索者と言えば、うちには"逃げ足"がいるからね」
「"逃げ足"?」
とても優秀とは思えないその名前に新人が首を傾げると、先輩はそうだよと言うと、暇だから教えようかと言ってその"逃げ足"に関して語り始めた。
その探索者は、探索者としてはかなり劣等と言わざるを得ない人物だった。
ダンジョン内の鉱物や植物を見分けることが出来ないだけならまだ良いが、いざ魔物と戦おうとすれば体が震えてまともに動けず、それどころか魔物の痕跡を見つけるだけで直ぐに逃げようとしてしまうのだ。
普通の魔物ならば普通に逃げる、というよりはその場を離れるだけであるが、恐ろしい魔物やその痕跡を見つけてしまうと、一気にパニックを起こしてその場から走り出してしまうのだ。
しかもこの"逃げ足"は、臆病者だからなのか、安全な場所や道順をだいたい覚えているらしい。
だからこそ、このダンジョンに探索に行くものは最初にこう教わるのだ。
"逃げ足"が走っているということは近くに危ない魔物が潜んでいる。
だから、腕に覚えがあるもの以外は"逃げ足"と一緒にその場から逃げろ、と。
その話を聞いた新人は微妙な表情をすると、それは探索者としてどうなのだろうと疑問を口にする。
しかし先輩は呆れたような口調になって言った。
「探索者で重要な能力は探索することなんかじゃなくて生き残ることと、ほかを生き残らせること。生き残れなきゃどれだけ重要な発見をしても意味ないから」
そう言い捨てると「ほらほらボンヤリしてないで。人が来たからシャキッとしなさい」と新人の背を叩いた。
今日もダンジョンでは"逃げ足"が元気に駆け回っている。
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