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ほっこり


「あ、良ければこれも使って大丈夫なので」


「ありがとうございます……ってもしかしてこれ、モラモラ草ですか!?」


 ほとんど手つかずの原生林であるこの森では、人間にとって価値のある野草やキノコなんかがたくさん採れる。

 その中には、香辛料として使えるものも多い。

 塩だけではすぐに味に飽きが来てしまうと思い、森に来てからは積極的に採集するようにしていた。


 その内の一つで僕が一番気に入っているのが、今差し出したモラモラ草だ。

 これ一つ入れただけで東方料理のカレーにも似た、スパイシーな香気や辛みをつけることができる。

 グルメな貴族や彼らを相手にした料理人が根こそぎ採ってしまっているため、価格はひとつかみで金貨一枚ほどにもなる。


「こんな高価なものを……」


「何個か群生地があったので、じゃんじゃん使ってもらっても平気ですよ」


 このバナール大森林には稀少な野草の群生地が沢山ある。

 モラモラ草以外にも、本来であれば高価な薬草類なんかもあった。

 多分だけどここでがっつり素材を集めて人里に戻れば、一生遊んで暮らせるくらいには稼げると思う。


 感涙した様子でウィチタさんが料理を作り始める。

 どうやら味をダイレクトに味わうために、香草焼きとスープを作ったようだ。


 シェフにはその間に、食事用の長テーブルを作ってもらう。

 木を吸収してから板材にして吐き出してもらい、それを組み合わせる。

 そこに同じくシェフに作ってもらった魔物の牙製の釘を打ち付ければ、あっという間に完成だ。


「「「いただきます!」」」


 皆、ものすごい勢いでガツガツと食事を食べ始めた。


 器の中身を平らげてしまった子が、こちらを伺うように見上げてくる。

 さっきマックスにお礼を言っていたおしゃまな女の子だ。


「僕はアレス、君の名前は?」


「マレーナ……」


「マレーナちゃん、もしまだお腹が減ってるなら、遠慮なくおかわりしていいんだからね」


「――わかった! アレスさん、おかわり!」


 うん、やっぱり子供はこれくらい元気な方がいい。


 手渡された器におかわりのスープを盛ろうとすると、ウィチタさんがスッと流れるように僕の手から器を取っていった。

 恐ろしいほどに早く、そして滑らかな動き……目で追いつくのがやっとだった。


「そんなことしていただかなくとも大丈夫です、炊事は私達に任せてください!」


 ウィチタさんと彼女があっという間におかわりをよそい、子供達は口の周りを汚しながら元気に食べ始める。

 その様子にほっこりしているうちに、あっという間に鍋が空になってしまった。


「うーん……」


 舟を漕ぎ始めた子供達を寝かしつけてから、ウィチタさん達が後片付けを始める。

 改めて一度話し合いをすることにしよう。


「何から何までありがとうございます、アレスさん」


「いえいえ、皆さんの苦労を思えばこれくらいのことなんてことありませんから」


 あらあらと頬に手を当てながら笑うのは、イリアさん。

 服越しにも豊満さを隠しきれていないダイナマイトボディーと泣きぼくろが特徴的な女性だ。


 既にウィチタさんから聞いて僕をさんづけしていることからもわかる通りにしっかりと気配りのできる女性で、先ほど食事中もさりげなく子供達のフォローに回っていた。


 ちなみにその優しそうな見た目と裏腹に、一番力が強いという。


「夜番はジル達がやってくれるので、今日はぐっすりと眠ってもらって大丈夫です」


「ホントですか、やったー! アレスさん大好き!」


「ちょっとエイラ、はしたないわよ」


「……感謝」


 元気っ娘のエイラちゃんに、生真面目そうなオリヴィアさん。

 そしていつも黙っていて、何を考えているかよくわからないカーリャさん。


 ここに武人肌のウィチタさんを入れた五名に、マレーナちゃん達獣人の子供十五人を足した合計二十人が、マーナルムのグループということになる。


「でも聖獣様に野番をしてもらうのは……」


「ジル達には睡眠が必要ありませんからね。適材適所というやつですよ」


 魔物は普通の生物とは色々と身体の構造が違う。

 彼らはほとんど睡眠を必要としない。

 そのため『ラスティソード』では夜番はいつも僕の持ち回りだったっけ。


「もし気が引けるというのであれば、その分明日皆にありがとうの気持ちを伝えてあげてください。礼を言うのでも、何かプレゼントをあげるのでも、なんでも大丈夫だと思いますから」


 きっとその方が、ジル達も喜ぶと思うからね。

 僕の言葉に、五人とも頷いてくれた。


「えっと……詳しいお話は明日聞かせてもらえたらと思いますので、今日は皆さんゆっくり休んでください」


 見れば子供達ほどではないとはいえ、ウィチタさん達の顔にも疲れが見えていた。

 そんな状態で無理をさせるわけにはいかないものね。


 ウィチタさん達と別れ、一人自宅に戻る。

 止まり木にいるビリーとマリーと軽く遊んでから、毛皮で作った布団を被った。


「ふぅ……zzz……」


 ここ最近は、森にやって来る前の嫌な思い出を、毎日夢に見ていた。

 けれど色々と心境の変化があったおかげか、今日の僕は夢を見ないほどにぐっすりと、よく眠ることができたのだった――。

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