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聖獣と安住の地


 バナール大森林での生活は、僕が思っていたよりはるかに上手くいっていた。

 たしかに森の中には強力な魔物もいたけれど、皆で力を合わせれば問題なく倒すことができた。

 おかげで僕らは森の中で魔物を狩りながら、開拓を進めることができている。


「家もできたし、開墾も進んだ……とりあえず森の中で生きていくことはできるようになったぞ」


 森の開拓には、アースワームのマックスが大活躍だった。

 マックスは土を軟らかくして樹を引っこ抜き、固かった地面を掘り起こし耕作ができるように土壌を改良し、更には土魔法を使ってレンガまで造ってくれた。


 現在彼が作ってくれた畑には、事前に持ってきていた植物の種を植えている。

 しばらくすれば収穫できるだろうから、自給自足の生活にまた一歩近付くことができた。


 森を切り開くのに一番の問題は木々の伐採や根っこの掘り出しが大変だというのはよく聞く話だけど、スライムのシェフがいれば樹の処理もあっという間に終わってしまった。


 何度も取り込んでもらううちにわかったんだけど……シェフの吸収の能力は思っていたよりずっと応用が利いたのだ。


 ――なんと全部を取り込むんじゃなくて、一部分だけを残しておくことも可能だとわかったのだ!


 おかげで樹をまるごと吸収してもらってから、木材として使える部分だけを吐き出してもらう、なんてこともできるようになった。


 何度もやって学習したのか、今では角材の形で上手いこと吐き出してもらうことまでできるようになった。

 うちのスライムは賢くてかわいい。


 マックスのレンガとシェフの木材を使って、既に家も建築済み。

 建材にはまだまだ余裕があったので、今は従魔の皆用の家を作っている最中だ。


「バウッ!」


「チュチュンッ!」


「おお、お帰り」


 食料調達のために動いてもらっていたジルとマリーが帰ってきた。

 ジルが口で引っ張っているそりには、倒した大泥猪(グレートマッドボア)が乗っている。


「今日は大物だね」


「わふっ」


 これだけ大きければ、何日分かになるだろう。

 木材には余裕があるから、燻製にするのもいいかもしれない。


 褒めてほしそうにしているジルの頭を撫でてやると、くぅんと犬のようなかわいい声を出された。

 かわいいやつめ、今日はいっぱいブラッシングしてあげるからな。


 このバナール大森林での辺境生活は、思っていたよりも僕の気性に合っているらしい。

 従魔の皆の力を借りれば、森の中で快適な居住空間を整えることも簡単だったし。


 ここで一生、皆と楽しく暮らしていくのも悪くないかもしれない。


「ピイッ!」


 そんな風に先のことに思いを馳せていると、ビリーが帰ってくる。

 彼はいつもと違い、どこか焦っている様子だった。


 ビリーにもう一度飛んでもらい、感覚同調を使ってビリーと視界を共有する。

 すると眼下には……ボロボロの服を着ている集団の姿があった。

 彼らの頭には、ぴょこんと獣耳が生えている。


(獣人……方角から考えて、この人達は森の奥から来たのか)


 このバナール大森林の西には、獣人やエルフといった亜人達が暮らす集落があると噂には聞いていた。

 てっきり冗談だと思っていたけど……まさか本当に亜人が来るだなんて。


 ボロボロの彼らを見捨てるのは忍びない。

 僕は従魔の皆と一緒に、彼らと接触を試みることにした。


 最悪戦闘になることすら想定していたんだけど……そこで予想外のことが起きた。


「せ、聖獣様っ!?」


「聖獣様が、五匹も……っ!?」


 なんと獣人の人達は、ジル達従魔を見るなりものすごい勢いで頭を下げたのだ。

 少なくともそこに敵意は欠片もなく。

 彼らは皆、敬意すら感じられるほどにうやうやしい態度を取っている。


 皆の前に立っている、リーダーらしき女の子がこちらにやってくる。


「聖獣様を従えているあなた様は、一体……?」


「えっと……?」


 彼女から話を聞くと、ジル達一風変わった魔物達は、亜人達にとって聖獣と呼ばれる存在らしい。


 普通と違うからとつまはじきにされることが多かったジル達は、獣人達の間では土地の豊饒と安寧が約束する守り神のような存在らしかった。

 獣人達は普通の魔物達とは一線を画す彼らを敬い尊敬し、共に歩んできたのだという。


 彼らの言葉を聞いて……僕は不覚にも、目が潤んでしまった。


 ジルも、ビリーも、マリーだって……僕の従魔は皆、普通と違うからと色んな人達に馬鹿にされてきた。

 そのせいで僕も、何度も悔しい思いをした。


 でも、そうか……今まで知らなかっただけで、皆にはちゃんと、居場所があったのだ。

 獣人達と一緒なら……僕も、僕の従魔達も皆……幸せに暮らしていけるのかもしれない。


 聞けば彼女達は、同じ獣人同士での争いから逃れるため、こちらまでやってきたのだという。

 たしかに見てみると女性と子供が多く、皆一様に若かった。


 彼らは明らかに、庇護を求めていた。

 そして僕には、彼らと共に歩んでいく理由がある。

 それなら迷う理由は、一つもない。


「実は、建材が余っているんです。もしよければ住居を一緒に作りませんか? もちろんそこに住んでくれて構いませんので」


「「「――はいっ、よろしくお願いします!」」」


 僕は自分の人生が大きく動き出すのを、実感せずにはいられなかった。

 役立たずと追放された僕らの居場所は、たしかにここにあったんだ――。

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