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死への羨望、自らへの贖罪

作者: 飛木赤

何故皆は人生をやり直したいと言うのだろうか?


何でわざわざもう一度辛い人生を歩みたいと思うのだろうか?

ラプラスの悪魔の元に自分達は生まれたのだから道を外れることなどできないと言うのに

何故転生したら、もう一度人生をやり直すことができれば幸せになれると思うのだろう。

私たちはラプラスの悪魔の元に生まれたと言うのに、決して逃れることができない呪縛の中に住んでいると言うのに


世界中には数え切れない人数の人が宗教を信じている。

しかしそんな宗教なんてものは所詮私たち人間が生み出したものだし、その宗教が信じる「神」と言う存在さえもまた私たちが人間が苦しみから逃れるために作り上げたただの偶像に過ぎない。

この世に神がいるのならそれは悪魔のはずだ、もしも神が私たちの信じる存在ならこんな苦しい思いをせずに済むはずなのだから

だからやっぱり考えてしまう、この世界はラプラスの悪魔に支配されているのだと


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよう」

「おはよう」

今日もいつもと変わらない定型文での挨拶が交わされる。

こんな捻くれた考えを持っている自分にも幸か不幸か友人と言える存在がいるし、家族との仲も決して悪くない。

けどそんな親しい仲の人たちに自分は本性を見せたことがない気がする。

いつもいつも仮面を被って接している。家族にも友人にも

心理学用語で社交性化面などとも言うらしいがそんなことは知ったことじゃない、この分厚い仮面だけが自分を守ってくれる存在なのだからこそ名前などと言うものはどうでも良いものなのだ。


皆んなは仮面の自分と仲良く接してくれる、けれどこのうちに秘めた汚い本性までをも受け入れてくれる親しき人は現れるのだろうか、こんなにまでも捻くれた考えで構成されている人間にだ。

それでも自分の本性は寂しがりやで捻くれたクソガキ、こんな腐った考えは胸の奥に押し込んで今日も友人に返事をする

「おはよう」

「今日アホみたいに暑ない?、今季節的には冬のはずよな?絶対今夏やで」


特に話題がないからこそ適当に振っただけだと相手は感じるのだろうか?

こんな適当な話題で相手は不愉快に思わないだろうか?

相手から嫌われたくない、嫌われて一人にでもなろうものなら寂しくて死んでしまいそうだ。

まるで大男の皮を被ったウサギのようだ。

これでガタイは良い男子高校生なのだと言うのだから救いようがない。

さらにはこの年齢であれだけの捻くれた考え、尚のこと救えない男だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ラプラスの悪魔って知ってる?」

「何それ、語感がパブロフの犬に似てるってことだけは今知ったけど」

「確かに似てるな、お前の思考回路独特すぎん?」

「今知った?」

「そんなことないけど」

「で、それでそのラプラスの悪魔って何?」

「突然やなお前」

「まぁあのあれや、ラプラスの悪魔っていうのはラプラスの悪魔のパラドックスっていうのにいる架空の悪魔のことや」

「ほーん、それで?」

「もう少し関心持ってくれて良いんやで?、まぁ気にせず続けるけどやな....

それでラプラスの悪魔のパラドックスっていうのはラプラスの悪魔っていう悪魔が全てを司ってるいうパラドックス、例えば自分今朝パン食べたんやけどこれって毎日米食べてるから今日はパンでも良いかなぁっていう考え方からきてるねん。で、これって元を辿ってて行ったらその前にもそうの結果になる理由があったわけやから全ては生まれた瞬間から死ぬまで道は決まってるよねっていう考え方で、それを司ってる存在がラプラスの悪魔っていう感じの筈、知らんけど」

「なるほどね、知らんけどかぁ」

「まぁな、自分の言ってる言葉確実性のあるものではないし」

「それはそう」

「あ、後一つ付け加えるとこのラプラスの悪魔のパラドックスって否定されてるから。」

「何で?まぁまぁ説得力あったけどな」

「なんか量子論がどうとかそんな感じで実際は未来なんて決まってないって科学的に証明されたから」

「そう何や、なんか夢がなくなるな」

「これに夢見出すのお前ぐらいやろ」

「そんなことないやろ、何人かぐらいはおる筈やわ」

「まぁ何人かやろな」

「やかましいわ」


こんな話をする程度には友人もいる、だが彼にさえも自分の本性を見せるのは苦しいものだ。

もしもラプラスの悪魔のパラドックスが否定されていない世界線ならばこんな風に自分がなると設計した神なり悪魔なりは一度消え失せてもらいたいものだが科学的に否定されているとなると文句のつけようもない、強いていうなら量子論を構築した科学者に二、三文句を言えるかどうかと言ったところだろう。

ふざけたことだ

だがそんなことはどうでも良い、自分の中でこのラプラスの悪魔のパラドックスは非常に衝撃的なものであったし、宗教にハマる人がいることを理解できるぐらいには自分もこのパラドックスに助けを求めてしまう。

それほどまでに甘美な存在であるものをただ科学的に否定されたからと言って頭から消し去れるほどお利口な生き物では私はないのだ。

そしてこれが私の転換期とも言えるであろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さてこのラプラスの悪魔のパラドックスを知った自分にとってはこう考えることは自然であった。

「いつ死ぬのかすらも確定しているのであれば、今ここで死のうとすることも又初めから決まっていた設計のうちの一つのはずなのだ」

あまりにも宗教的すぎる考え方だ、これを経験してみれば教祖によって輪廻転生できるからと自らの命を差し出す人たちの考えも幾ばくかばかりは理解できてしまうのだから恐ろしいものだ。

だがそんなことは後になったからこそ理解できるもの、当事者にはそんなことはどうでも良いことであるし、自分のように捻くれた人間からしてみるとそれすらも元から設計された上でのことなのだからと思え、実に甘美な気持ちになれるのである。

何とも恐ろしいものだ


ーーーーーーーーーーーーーーー


元から自殺衝動に駆られることが他人より多い人間にとってこれらの考え方から来る思考というものは実に安直で、そして実行しやすいものだ。

更には元から幸せになることなど出来ぬ、と間違いであるにも関わらず無理やりこじつけて納得できてさえしまえればあとは簡単だ。

周りを客観的に捉えることがより可能になり、更には最近流行りの転生物などに対してさえも冷静にそして冷ややかな目で見てしまえる。

また宗教の輪廻転生などにも特段の興味を示すことも無くなってしまい、何とも面白味のないただの捻くれた人間になってしまったものだと感じるばかりである。

だが当事者からしてみれば全ての苦しみを一挙に押し付けることができる何とも素晴らしいものであるわけだから、これのみにどんどん傾倒していく。

何とも言えないクソッタレた負のスパイラルの完成と言えるだろう。

実にふざけた事であるが当事者はこれで納得しているのだから救いようがない。

さて後はこんな考え方をしている人物がどのような行動をとるかなど想像に難くないだろう。

簡単だ、死期も決まっている筈、こんな苦しい人生を歩むのも決まっている筈、ならどうすれば良いか。

「死」だ、何とも荒唐無稽で筋が通っていないように見えるだろう、だが当事者からしてみればこれ以上に筋の通っているものもないわけだ。

これだから鬱になると言うのは嫌なのだ。


ではこの捻くれた男がした行動とは?

もうお分かりだろう。


ーーーーーーーーーーーーー


「君死にたもう事勿れ」

「何とも綺麗だよなぁ」

「戦争という世界に向かった弟に向けて当時の価値観では決して言ってはなかった内容を弟への想いという一点のみで無視して出したわけだ、実に美しい姉弟愛であり、そして何と美しい家族愛なんだろう」

「自分にはそんな風に助けてくれる人はいなかったな、まぁ助けを求めなかった自分が悪いだけなんだけど」

「はぁ独り言っていうのは落ち着くけど何とも言えないなぁ」

「こんな言葉が自分の最後を飾ることになるなんて」

よくよく考えてみれば特段不自由があったわけでもないし虐められてたとかそういうのでもなかった。

ただ単に自分を許すことができなかった結果がこれで、更には責任を押し付けたのがあの日教えてくれたラプラスの悪魔のパラドックスだ。

何とも死ぬまで人に責任を押し付けるクソッタレなことだろうか。

そして今更になって気づくとは何とも阿呆なことだ。

しかしながらそんなことはもうどうでも良いことだ。

どうせ私が主人公の映画はこれで終わり、今から幕が降りていくのだから。

「最後にここを選んで正解だったかもしれないなぁ、自殺の名所と言われている理由が最後にこの美しい景色を見るためだと言うのも含まれている気がしてならないほどだなぁ」

さぁこれで終わりだ、後は一歩踏み出せば終わり、これで終わりだ。


ーーーーーーーーーーーー


人間とは意外にも汚いものだ、死んだら腐るし生きていても心が汚い。

けど死に場所が海ならば、汚いものも全て我等の母が喰ろうてくれし、それが回り回って私達人類の繁栄にもつながる筈だ。

最後にこんな捻くれたクソッタレ人間でも世の役に立つことができた筈だ。

その筈だ。

これが元から定められていた私の設計図の最後のページであり、定められた運命であった筈なのだからだ。

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