表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

地蔵盆

作者: 勇気 五郎

夏が来ると思い出すことがある。僕が小学生のころである。僕の家の裏側が刑務所でヨーロッパのお城のような赤レンガの立派な通用門が立っていた。映画撮影のロケ隊がヤクザの出所シーンによく撮っていた。門の前の広場の北側に刑務官殉職者碑が建てられていて緑の植え込みで囲われていた。碑の前の右端にある祠にお地蔵さんが祭られていた。結構立派な祠で刑務所の関係者が管理していたと思う。お盆が終わり夏休みも終りに近づいてきて宿題が気になる頃である。地蔵盆でちょちんが祠に飾られ子供が喜ぶお菓子やジュースが所狭しと供えられていた。誰かがお地蔵さんにはお菓子が配られると言った。僕はお地蔵さんには子供心にお菓子を貰えると思って楽しみにしていた。その日は朝から小学校のプールがあったので同じクラスの者と泳いだりし思い切り水遊びを楽しんだ。そしてプールからの帰り道にある三角屋の屋号が付いた本当に三角形の店構えの店で、一本五円のごぼう天の関東炊きの買い食いをした。いつもの楽しみである。母が毎日こずかいを五円しかくれないので二本たべたくても如何することも出来なかった。あまりにも美味しいので大人に成ればお腹いっぱい関東炊きを食べてやろうと心密かに思っていた。午後は宮下くんと一つ年上のあきらくん、僕の三人で誰もいない宮下くんの家でトランプをした。ポーカーに夢中になって夕方まで遊んだ。いつも勝つのは宮下くんで勝負事は強かった。負けるのは僕で、残念ながらいつも負けていた。あきらくんはトントンであまり負けることはなかった。夕刻になりゲームも一段落したころ「さあ、お地蔵さんにいこうか」とあきらくんは言った。「いこう、いこう」と残る二人も口々に言った。お地蔵さんに行くと既に十名近くの子どもが祠の前に集まっていた。ほとんど刑務所の官舎にいるこどもである。顔見知りの刑務所の職員の奥さんがお菓子を配り始めていた。奥さんは誰々ちゃんと名前をあげて紙袋にお菓子やジュースを詰め一人一人渡していた。三人は大人しく順番を待っていたが、いくら待っても一向に呼ばれなかった。あとから来た子供に渡していた。刑務所の職員でない子供も貰っていた。三人だけが貰えなかった。やがて日が暮れ三人は諦めて家に帰った。先月、職員の奥さんの子どもを含む六人で刑務所の屏をキャッチャー代わりにテニスボールを投げバット打つ遊びをしていたところ、奥さんの子どもが溝にはまって怪我をして泣いて帰った事があった。事情も聴かずにやって来た奥さんに怒鳴られたことがあった。前に誘いに行った際「勝手にあだ名をつけたり、君らと遊ぶようになって顔が傷だらけになった」とも言われた事もあった。三人はだいぶ悪ガキのように思われいるらしい。良くは思われていないのは事実だが、だが子供の守り神であるお地蔵さんの前で、もっとも子供が欲しがるお菓子やジュースで差別し仕返しすることは許せないことだと思う。最近子供への虐待事件を耳にする事が多くなった昨今、僕はこの事が忘れられない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ