睨んでいる
2年前の深夜、核戦争が突然始まった。
うちの家族は10年程前に亡くなった爺様が、万が一の為にと造っていた核シェルターに逃げ込んだお陰で難を逃れる。
核シェルターには食料や生活必需品がある程度備蓄されていたけど2年も経つと心許無くなってきたんで、物資の調達に親父に連れられて出かけて来た。
街の郊外にあるスーパーに来たんだけど略奪され尽くして何も残って無い。
そりゃそうだよな、核戦争を乗り越える事ができたのはうちの家族だけじゃ無いんだから。
でも手ぶらで帰る訳にも行かないんで帰り道、核ミサイルが多数着弾した首都圏から脱出してきた人たちの車が列をなして放置されている、高速道路に寄った。
核ミサイルの着弾で、即死したり高放射能に被爆して24時間以内に亡くなった人たち以外は、首都圏から蜘蛛の子を散らすように逃げ出して来たんだけど、24時間以内に死亡した人たちと五十歩百歩で、皆放射能に被爆していたから逃避行の途中で次々と亡くなる。
だから放置されている車も放射能に汚染されている可能性が高いんだけど、2年の間に土砂降りの雨を含め何度か降った雨にさらされているんで、少しは除染されていると思うんだ。
案の定、放置されている車の中には車の中で亡くなった人たちの遺体と共に沢山の物資があった。
これらの物資も放射能で汚染されているかも知れないが、背に腹は代えられない。
それに放射能に汚染されるかも知れないって恐怖より、車の周りに屯している老若男女の霊の方が怖い。
皆、「なんで? 私が、僕たちが、俺が、死ななきゃならないんだ?」と訴えるように、俺や親父を睨んでいるんだよ。