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ビターチョコレートフレンド

作者: 前川 千歳

 土曜日の公園は今日も空いていた。かつて遊具が溢れていたこの場所も今ではその多くが取り払われ、今では物寂しい場所となっている。

 残されていたのは中央に置かれている小さな砂場とその脇にある蛇口だけだった。僕はそこでしゃがみこみ砂をいじっていた。

 少し大きめの緑色のリュックサックを背負い、白い短パンと半袖のTシャツを身についている。そのシャツには鬼と蛸を融合させたような不思議なキャラクターが描かれていたが、そのキャラクターの名前を僕は知らない。母さんが買ってくる服のセンスは不思議なものばかりだ。

 僕の右手には磁石が握られていた。それを砂に擦り付け引き上げると黒い粉が磁石にくっついていた。砂鉄だ。僕はこれを集めていた。やがてこの細かい鉄を集めて刀を作るのが僕の夢なのだ。

 最もそんな途方もくれない作業に身を投じるほど僕は暇を持て余しているという事でもある。本当は誰かと砂場で城を作ったり鬼ごっこしたり、誰かがいないと一緒にできないことをやりたかった。

 そんな事を考えていると背後に生き物の気配を感じた。振り返るとそこには焦げ茶色の猫が座っていた。毛並みはボロボロで痩せた身体からは普段からあまり食事に恵まれていないように見えた。猫はじっと僕の方を見ていた。何か面白い訳でもないのにじっと自分の方を見つめていた。

 ほっておけば何処かに行くだろう。そう思った僕は作業を続けた。だがしばらくすると猫はこちらへと近づいてきた。猫は砂場を囲う塀の上によじ登ると、すやすやと体を丸めて眠り始めた。そんな生き物を僕は少し愛らしく思った。

 今日の砂鉄集めはここら辺で切り上げよう。そう思った僕は蛇口へと向かい手を洗った。再び砂場へと戻ってくるとやはり猫はまだそこにいた。猫が座っている塀の隣へと僕は腰掛ける。流石に逃げ出すかと思ったが、相変わらずそいつはリラックスした様子だった。なんなら大きな欠伸までする始末だ。

 僕はリュックサックからサラミを取り出し、猫に与えてみる事にした。すると猫はカブリと餌に飛びついた。可愛いなと思った僕は試しに猫の頭を撫でてみた。夢中で餌を貪るそいつは特に嫌がる様子も無かった。

「お前、チョコレートみたいな色してるな。」

 と僕は呟く。それに呼応するようにして「ミャー」と猫は鳴いた。こんなに自分に近づいてきてくれる生き物はこれまでいなかったように思えた。心の中を支配していた孤独が薄まっていくのを感じた。

 この子にはチョコと名付けようと、その時僕は決めた。家に連れて帰ってしまいたいと思ったが家はペット禁止なのだ。でも母さんを説得さえすればもしかしたら飼える事になるかも知れない。その為に一旦家に帰ろう。

 そう思った僕は

「また会おうなチョコ。」

 と言って立ち上がり、公園を出ようとした。すると一人の女の子がすれ違いで公園にやってきた。彼女は公園に入るなり、

「あ、チャー助今日もいる!」と言った。

 彼女は猫に近づき顔を撫で回した。猫は慣れているのか気持ちよさそうにゴロゴロと鳴いている。

僕はそんな光景に少しショックを受けた。チョコは僕にだけ懐いていてくれたのだと内心思っていたのだ。しかしそれが恥ずかしい思い違いだった事を僕は理解した。

 やがて彼女は猫が何かを食べている事に気がついた。彼女は僕の方を見る。

「このサラミ、君があげたの?」

「うん。チョコが欲しそうにしてたから。」

「チョコ?あぁ君はこの子をそう呼んでるんだ。可愛いよねこの子。」

「うん...。」

「私今から砂場でお城を作るんだ。君も手伝ってよ。」

 僕は驚いた。いや嬉しかったと言った方がいいかもしれない。

「うん!いいよ。」

 僕は再び砂場へと戻った。

「そういえば君名前は?」

 彼女が尋ねる。

「僕は信也」

「私は神奈子!よろしくね。」

 友達が初めてできた瞬間だった。

「じゃあおじさんはそっちの山を作ってね。」

 その言葉に従い、僕は砂場へと戻った。

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