第7話前篇
1年7組の教室
「前から聞きたかったんだけど御巫さんはどうして三条君の仕事の手伝いをしているの?」
バルバートルさんは私に聞いてくる。遊馬さんは先生に呼ばれていてここにはいない。
「私は昔遊馬さんに助けってもらったんです。その恩返し…といったところでしょうか」
「へぇ、どんなことがあったの?」
バルバートルさんは興味津々といった感じだ。
ガララ
「クソッなんで俺が先生の机の周りの掃除をせにゃならんのだ」
教室のドアを開けて遊馬さんが入ってきた。
「この話はまた今度、遊馬さん昔の話をあまり知られたくないみたいで。照れ屋ですから遊馬さんは」
「照れ屋ねぇ」
遠見さんと話している遊馬さんを見ながら言うバルバートルさん。
「じゃあ週末私の家に来ない?御巫さんとは前からいろいろ話したかったのよね」
「お邪魔でないのなら。私は大丈夫ですよ」
「決まりね」
こうして私はバルバートルさんの家に行くことになった。
「いらっしゃい、御巫さん」
「お邪魔します」
「さぁ、こっちよ」
私はバルバートルさんに案内され彼女の家に入った。彼女の家はなかなか大きくとてもきれいだった。
「ここが私の部屋よ」
「きれいなお部屋ですね」
「ありがとう。今お茶を持ってくるわ」
と言ってバルバートルさんは部屋を出ていく。彼女の部屋はかわいいぬいぐるみや小物などがおかれていて。とてもかわいらしい部屋だ。日々の彼女を見ていると少しイメージと違う。
「おまたせ」
バルバートルさんが戻ってきた。彼女の持っているお盆にはお茶菓子とお茶が入ったコップが二つのっていた。
「さっそくだけどこの前の話の続き聞かせてくれない?」
「わかりました。あれは私が中学1年生のころでした」
〜3年前〜
中学に通い始めてからもう数カ月がたった。梅雨が明けてもう夏がすぐそこまで来ている。私は家の近くの公立高校に通っていた。普通の高校生ならこの時期はテストも終わり、夏休みに思いをはせているころだろう。でも、私にとって夏休みというのはうれしいものではなかった。夏休みに入るという事は学校が休みになるというう事。つまり、否が応でも家にいる時間が増えるということである。私は家が嫌いだ。
「ただいまもどりました」
住宅街の中にあるとても大きな日本の伝統的な屋敷。ここが私の家だ。私の家は古くから続く名家で政財界へもおおきな影響力を持っている。
「おかえりなさいませ、桜お嬢様」
奥から一人のお婆さんが出てきた。この人は私の身の回りの世話をしてくれる中川ヨネさんだ。私が生まれる前からこの屋敷で働いているらしい。
「ただいま、中川さん」
とくに感情を込めずに言い、廊下を歩いていく。つきあたりを曲がったところで和服を着た女性とはち合わせた。
「あらあなた帰ってたの」
女性はまるで汚いものを見るかのような目で私を見る。
「ただいまもどりました、お母さま」
「あなたにお母さまと呼ばれる筋合いはないわ」
そういって去っていく。あの女性は御巫薫。私の父、御巫総司の妻で私の義理の母にあたる。そう私と彼女に血のつながりはない。私は父の妾の子なのだ。私の本当の母は私を生んですぐに亡くなった。だから私は母の顔がわからない。
そして私にはもう一人、血のつながりのない家族がいる。義理の姉、御巫葵である。葵お姉さまはお母さまの子どもで生まれたときから病弱で、私はあまり会う機会がない。
「はぁ…」
座布団に座り机に突っ伏してため息をつく。障子や襖、桐箪笥など私の部屋はまさに日本の和室といった造りだ。年頃の少女が置くような小物などは一切ない。
(なんで私はここにいるんだろう?)
妾の子。それがこの家での私の肩書。どうがんばってもこの肩書が消えることはない。お母さまからしてみれば私は邪魔な存在でしかないだろう。あの中川さんだって私のことをよくは思っていないだろう。この家に私の居場所はどこにもない。私が生きていくにはここにいるしかない。でも…
(私が生きている意味ってあるのかしら…)
そんなある日のこと…。
葵お姉さまが倒れた。