第12話前篇
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本成寺さんが無事?退院し、俺が彼女を特訓するわけになったわけだが、短時間であの男と戦えるレベルに持っていくのは至難の業である。普通のメニューでちんたらやってたら彼女は死ぬだろう。
というわけで、俺達は今時雨町を離れ、ある屋敷を訪れている。メンバーは俺、桜、ユリア、本成寺さんの4人。訪れた屋敷は立派な門と塀でかこまれた大きな蔵も見える。
「ここは?」
「桜もここに来るのは初めてだったな。ここは俺のじいちゃんの家だ」
俺は門を開け中に入る。じいちゃんの家は江戸時代の上級な武士の家、イメージとしてはそんな感じだ。庭が以上に広くサッカーくらい軽くできそうだ。それで裏にある山までじいちゃんの家の土地だってんだから驚きだ。金があるんだったら生活費を送ってほしいもんだが、男なら生活費くらい自分で稼げと言われた。
後ろの3人が門くぐろうとした時、俺の第6感が働いた。
「全体止まれ!」
俺が声を上げると同時に多数の手裏剣が俺に向かって飛んできた。それをかわし飛んできた方を見ると両手に刀を構えた老人が飛びかかってきた。俺も刀を抜き迎え撃つ。二人の刀がぶつかり合い火花を散らす、後ろに飛んで手裏剣を投げる。二人の動きはまるで同じだった。俺はその理由を知っている。なぜなら相手は…
「久しぶりだの、遊馬」
「久しぶりに顔見せたってのにこれはないんじゃないの?じいちゃん」
「ふぉっふぉっ、なに我が弟子の腕が落ちていないか試しただけじゃよ」
そうこれが俺の祖父、三条晋作、俺の父さんの父親だ。佐渡先生がサンタならうちのじいちゃんはさしづめ仙人といったところだ。頭の髪はないが髭が半端なく長い。中国の山奥に居そうだ。
「まったく、70過ぎてんだからあんまり無理しちゃダメだって」
「わしは生涯現役じゃて、大丈夫じゃよ」
この人が言うと冗談に聞こえない。100歳超えても盗んだバイクで走りだしそうだ。
「挨拶も済んだことだし、しばらく世話になるよ」
「ああ」
じいちゃんとの再会の挨拶を終え、俺がふりかえると固まった女子3人がいた。
「どうした、3人とも?」
「いつもこんな感じなの…あなたたち?」
「こんな感じだ」
ユリアの問いにあっさり答える。
「おかしいでしょ!?久しぶりの再会なんでしょ!?どこにあんな挨拶する家があるって言うの!?あるわけないじゃない!」
「おお、ユリアが反語表現を覚えてる。お父さんは嬉しいぞ」
「誰がお父さんよ!」
ユリアはツッコミキャラとして定着したな。ナイスツッコミだ。
「ユリアのツッコミキャラとしての成長を確認できた嬉しさはさておき、本成寺さん、早速特訓を開始します」
「はい、師匠!」
俺とじいちゃんのやり取りを見て刺激されたのかやる気まんまんといった表情をしている。
「師匠?」
「はい師匠です!私のことも結って呼んでください!」
「イヤ、一応そっちの方が年上なわけだし、結さんではダメですか?」
「師匠がそう言うならそれでいいです」
しぶしぶと言った感じだ。
「それと、桜」
「はい、なんですか?」
「いい機会だから、桜も一緒に特訓を受けてくれ。そろそろもう一個上のレベルに上げようと思う」
桜には前からいろいろと教えていたがまだ実戦に出すレベルではなかった。この特訓がうまくいけば桜も俺が相手にするような奴に襲われても大丈夫だろう。
「もう一個上のレベル…わかりました、やらせてください!」
「おっし、じゃあ行こうか」
「まずは基礎体力作り、どんなに技術が合っても体がついてこなければ意味がない。というわけでランニングだ」
「ランニングはいいんですがこれは?」
腰ついている物を指して桜が聞いてくる。腰に着いた物からはコードが伸びており、その先にはトラのおもちゃのような物がついている。結さんの腰にも同じものがついている。
「それはじいちゃんが作ったもので、『追っかけ君』だ」
「『追っかけ君』?」
「そのコードーの先についている物は時間がたつにつれてコードを登ってくる。それが腰にまで来ると体にたぶん死なないくらいの電流が流れるというものだ。それをつけてこの家の敷地の周りを5周してもらう」
「たぶん死なないって、死ぬかもしれないんですか!?」
「5周って、1周でも結構ありますよ!?」
俺の説明を聞いて桜と結さんが叫ぶ。
「人間それくらい追い込まれないといけない時だってあるんだよ。はい、スタート!」
「ちょ、ちょっと待って!」
結さんの叫びもむなしく、追っかけ君は動き出した。
「ほれ、さっさと行かないと大変なことになるぞ」
「鬼ぃ!遊馬さんの鬼ぃ!」
「いやぁぁぁ!死にたくないぃぃぃ!」
叫びながら二人は走り出す。その目に涙が見えたのはたぶん気のせいだ。
「ほれ、二人とも休憩は終わりだ。次のメニューに行くぞ」
黒こげになっている二人に声をかける。案の定二人は間に合わなかったのだ。
「ま、まだやるんですか…?」
「何言ってんだ、さっきまでのは準備体操みたいなもんだよ?これからだよ、これから」
「…」
俺の言葉を聞いて愕然とする二人。なぜだろう、こういう表情を見ると楽しくなってくる。
「遊馬、あなたドSなんじゃない?」
俺の心を見透かしたようにユリアが言う。言われてみるとそうかもしれない。
俺たちはじいちゃんの家のある部屋の前にいる。
「はい、次の特訓はここでやるぞ」
「ここはなんですか?」
結さんが俺に聞いてくる。
「それは入ってからのお楽しみってことで」
「…命に関わるようなことはないですよね?」
今度は桜が聞いてくる。
「…」
「どうして何も言わないんですか!?」
桜が俺に叫ぶが俺は無視して、部屋の扉を開ける。中は真っ暗で何も見えない。
ガルルルルル…
キシャァァァ…
「あの…なんか聞こえるんですけど…」
青ざめた顔で結さんが言う。桜も同じ顔をしている。
「気のせいだろ」
「気のせいじゃないでしょ!?この部屋本当に大丈夫なんですか!?」
「この部屋に30分入っていろ、それが今度の特訓だ」
「無視しないでください!」
二人の抗議を無視して、彼女たちを部屋の中に突き飛ばす。
「ちょっ…!」
「キャッ!」
二人が驚いている間にすかさず鍵を閉める。
ガオオオオオ!!
ドガァァァン!ドガァァァン!ドガァァァン!
嫌ぁぁぁぁ!
ズダダダダダダダダ!
バリバリバリバリ!
助けてぇぇぇぇぇ!
5分程たったら静かになった。
「…」
「ふむ、さすがに無理だったか」
俺は部屋に入って二人を助け出した、二人ともボロボロで気を失っている。俺も最初はこんな感じだった。
「さて、次はどうしようかな」
「顔、にやけてるわよ」
特訓はまだまだ続く。