第10話後篇
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匠君と別れ今度は勤め先の片山製薬に向かう事にした。とりあえず俺は情報を集めそこから氏川夫妻を探そうと思っている。しかし、俺と桜の二人だけではきついところがある。なので俺は陽菜、乃愛、心の三人にも協力を求め、町で聞き込みをしてもらっている。しばらくすれば連絡が入るはずだ。
片山製薬は街の中心部にほど近いビル街の一角にあった。さすがは大手の製薬会社ということもあって片山製薬のビルはビル街の中でも大きい部類に入る。なかなかこういう建物に入るのは緊張するものだ。そんなことも言ってられないので俺はビルの中に入った。
ビルの中はまぁすごかった。なんかこう仕事のできる大人しかいませんよ、みたいな雰囲気が出まくってる。俺完全に浮いてるよ。「頑張れ」と自分に言い聞かせて俺は受付まで歩いて行き、受付の女性に話しかける。
「すみません」
「はい、どうなさいました」
女性は不思議そうに俺に聞く。俺のような子供がここを訪れたことがないのだろう。
「経理の氏川和彦さんに会いたいんですけど」
匠君に教えてもらったお父さんの名前を使う。
「少々お待ちください」
案外すんなりと話が通った。大きな会社はチェックが厳しいと思っていたんだけどな。
「すみません、氏川は今日出社していないようです」
期待してはいなかったが、やはりいなかったか。
「そうですか…。お休みの理由はわかりますか?」
「さぁ…そこまでは。無断欠勤のようなので」
「わかりました」
女性にお礼を言って帰ろうとすると、
「君もしかして氏川さんの知り合い?」
一人の若い男性に声をかけられた。
「はい、そうですけど」
「僕は氏川さんの部下の前原。君の名前は?」
「三条遊馬と言います」
「じゃあ遊馬君と呼ばせてもらうよ。遊馬君これからちょっといいかな?」
「はぁ…」
俺は前原さんに社内の休憩所に案内された。
「君も氏川さんたちを探しているのかい?」
手近なテーブルに座って、前原さんが俺に聞いてくる。
「『君も』と言うと前原さんも?」
「ああ、無断で会社を休むような人たちじゃないしね。無断欠勤がこんなに長く続けば何かあったんじゃないかと思うのが普通さ」
「やっぱりこちらにも何も報せがないんですか?」
「あの二人が会社に来なくなってから一度もね」
ため息をつきながら前原さんが答える。
「なにか二人に変わった様子とかありました?」
「いや、そんな様子はなかったと思うが…」
前原さんは何か気になることがありそうだ。
「何か気になることでも?」
俺がそう聞くと少し言いづらそうな顔しながら、
「僕が調べたことなんだが、うちの会社には裏金があってそのことに氏川さんたちが関わっていたみたいなんだ。うちの部長ともそのことで揉めていた」
やはりそうだったか…
「前原さん、ここでそういう話はしない方がいいんじゃないですか?」
「いや君には話したほうが良い気がしたんだ。大丈夫誰も聞いてはいないさ」
確かにこの休憩室には俺たち二人以外には誰もいない。しかし妙にあたる俺の嫌な予感が湧き上がってくるのを感じた・・・。
「前原さん、今日はありがとうございました」
「いや、何かわかったら連絡するよ」
「お願いします」
俺は前原さんに別れを告げ、片山製薬を後にした。
「どうして俺の嫌な予感ってのはこうも当たるもんかね?」
今俺は小刀や拳銃をもった怖いお兄さん達に囲まれている。人数は3人。人通りの少ない道に出た途端これだよ。
「悪いが消えてもらうぜ坊主」
お兄さんの一人が言うと、小刀を持った人が突っ込んできた。俺はそれを交わし鳩尾に蹴りを入れる。突っ込んできた人は小さなうめき声をあげて倒れる。すかさずクナイを投げて拳銃をはじき手刀を入れて気絶させる。
「なっ?!」
最後の一人が驚いとぃる間にクナイを喉元に突き付ける。
「すみませんね、童貞卒業する前に死にたくないんですよ」
にっこりと笑いながらお兄さんに言う。
「さぁ、教えてもらいましょうか。誰があなたたちに指示したんです?もっともだいたい予想はつきますが」
お兄さんがしゃべりだすまで時間はかからなかった。
片山製薬・社長室
社長室の中には男が二人いる。初老の男と若い男だ。
「始末はついたのか?」
初老の男が若い男に話しかける。
「御心配なく、うちのもんがもう手を打っていますよ。それより金の方はよろしく頼みますよ、社長」
「わかっている。まったくどこかのバカのせいでいらぬ手間をかけてしまった、まさか裏金の情報を漏らしてしまうなどとは…。経理の奴にもそれ相応の処分を与えねばならんな」
そう言って視線を窓の外に移す。
「あの情報を外部に漏らすわけにはいかない」
「そのために氏川夫妻を殺害したんですか?片山社長?」
「誰だ!?」
社長が叫ぶと、ドアの向こうから一人の少年が現れた。
「お前は今日会社に来ていた!?どうしてここに!?」
「お兄さん方なら眠ってもらいました。あなた方がしたことすべて教えてくれましたよ」
ニッコリと笑いながら少年が言う。その顔は笑っているのに社長たちは冷や汗が止まらない。
「さぁ、お仕置きの時間の始まりですよ」
「た、助けてくれ」
壁に寄りかかりながら社長は俺にそう言った。若い男は早々と俺が気絶させて床に転がっている。
「俺はね社長さん。あなたの会社に裏金があろうと別にかまわないんですよ」
そう言いながらクナイを投げる。クナイは社長の顔すれすれのところに刺さる。
「ひっ!」
「そのことを知った今も、これを誰かに教えようなんて考えてもいません」
また1本クナイを投げる。今度は脇の下に刺さる。
「ただね社長さん。あなたは匠君が、まだまだ子どものあの子が家族を失ったことを知った時どんな気持ちになるか考えましたか?」
1本また1本とクナイを投げながら社長に問う。
「突然、一人になってしまった時の悲しみがあなたにわかりますか?」
クナイを投げるのをやめる。
「あなたの命を奪おうとは思っていません」
俺は社長に笑いかける。
「助けてくれるのか」
「でも…」
笑顔を無表情に変えて、
「死よりも恐ろしい、恐怖を味わってもらいます」
「ひぃぃぃぃ!」
その後氏川さんたちの遺体は町の近くの山奥で発見された。
「匠君、本当にゴメン…お父さんたちを助けることができなかった…」
俺は頭を下げ匠君に謝る。今日は匠君の両親のお葬式が行われている。俺のほかに桜、陽菜、乃愛、心も制服姿で来ている。俺だけでいいと言ったが一緒に来てくれた。彼女たちも一緒に頭を下げてくれている。
「警察の人から聞いたよ。お父さんたちは僕がお兄ちゃんにお願いした時にはもう死んじゃってたって…」
おそらく知り合いの後藤警部だろう。俺が聞きだした遺体の遺棄した場所も後藤警部を経由して警察に教えた。
「それに…」
匠君は目に涙を溜めながら続ける。
「お兄ちゃんはちゃんとお父さんたちを見つけてくれた…、お兄ちゃんは僕のお願いちゃんとかなえてくれたんだよ?」
「匠君…」
俺も目からも涙がこぼれてくる。
「ありがとう、お兄ちゃん」
涙を流しながら匠君は笑顔を作る。しかしこらえられなくなって声を出して泣き出した。俺は匠君を抱きしめ一緒に泣いた。