第10話前篇
「ん〜、よく寝た」
俺は布団から半身を起こす。ここは俺の家、5畳一間の古いアパートだ。家賃が安いし住んでみるとなかなか居心地がいい。今日は学校も仕事も休みなので家でゆっくり昼寝をしていた。
ピンポ〜ン
俺が布団を片づけているとチャイムが鳴った。
「は〜い」
俺がドアを開けるとそこには誰もいなっかった…と思ったが視線を少し下げると、そこには歩美ちゃんと歩美ちゃんと同じくらいの年の男の子が一人いた。男の子の方は初めて見る顔だ。
「こんにちは、歩美ちゃん。その子友達?」
「うん、同じクラスの氏川匠君だよ」
「は、はじめまして」
歩美ちゃんの後に続いて匠君は少し緊張気味に言う。
「はじめまして匠君。俺は三条遊馬。匠君は歩美ちゃんの彼氏かなんかかな?」
からかうように匠君に言う。
「そ、そんなんじゃないです!」
顔を真っ赤にしてそう答える匠君。これこそ俺が求めていたリアクションだ。
「違うよ。だって歩美はお兄ちゃん一筋だもん」
歩美ちゃん、ちょっとそのリアクションはお兄ちゃん求めてない。それに匠君、なんか落ち込んじゃってるし。
「はは…それで、今日はどうしたの?」
ひきつった笑みを浮かべながら歩美ちゃんに聞く。
「お願いお兄ちゃん、匠君のお父さんとお母さん探してあげて!」
どうやら俺の安らかな休日は終わりを迎えたらしい。
玄関で話していいような内容ではなさそうだったので、俺は二人を家の中に入れた。ちゃぶ台を囲んで俺たちは座っている。
匠君の話をまとめるととこういうことらしい。3日前、会社に出勤した両親が今朝になっても帰って来ないとのことだ。両親から連絡はなく、会社に問い合わせてみるとその日はは出勤していないという。今匠君は祖父母の家に世話になっている。警察にも知らせてあるとのこただが、まだ何も情報がないようだ。
「なるほど。匠君お父さんたち出かける時も何も言ってなかったんだよね?」
確認するように匠君に聞く。
「うん」
匠君が頷く。
「変わった様子とかは?」
「わからないけど、いつも通りだったと思う」
「そっか」
困った全然わからない。もともとこういうこと得意じゃないんだよね。
俺が悩んでる様子を見て歩美ちゃんが、
「お兄ちゃん、お兄ちゃんなら匠君のお父さんたち見つけられるよね?」
俺に期待と不安を込めた目をしながら言ってくる。この時点で俺に「ごめん、出来ないや」なんて言う選択肢は消えてしまった。
「大丈夫だよ、歩美ちゃん。俺に任せて」
歩美ちゃんの頭に手を置きながら言う。
「うん!そうだ匠君」
歩美ちゃんの言葉に頷き、持っていたカバンのを手に取る匠君。歩美ちゃんも同じようにカバンから何か取り出そうとしている。
「あのこれ」
匠君が取り出したのは貯金箱だった。
「これは?」
俺が聞くと、
「依頼料だよ」
歩美ちゃんが手に貯金箱を持ちながら答えた。
「お兄ちゃんなんでも屋さんでしょ?だから歩美のお父さんたちもお兄ちゃんに何か頼む時はお金渡してたんだよね?」
なるほど、そういうことか。確かに歩美ちゃんの両親から依頼料を受け取ったことは何度かある。歩美ちゃんはそれを見ていたんだろう。
「お願いします!」
貯金箱を俺に挿しだしながら匠君は頭を下げる。
「歩美からもお願いお兄ちゃん!」
歩美ちゃんも貯金箱を俺に挿しだす。
俺はしばらく二人を見つめ、そして、
「確かにこの依頼引き受けました」
そう言って貯金箱を受け取る。
「ありがとうございます!」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
二人も顔が一気に笑顔に変わる。この笑顔を裏切るわけにはいけない。
受け取った貯金箱二つの小さな貯金箱、それはとても重く感じられた。
俺は早速桜に連絡を取った。
『はい、何か御用ですか?』
「少し調べてほしいことがあるんだ」
俺はことのいきさつを桜に話し、匠君の両親についての情報を集めてもらうように頼んだ。
『わかりました、後ほどこちらからご連絡します』
「頼む」
俺は携帯を切り、隣にいた匠君に声をかける。
「じゃあ匠君今から君の家に行ってもいいかな?」
「僕の家?」
匠君が聞き返してくる。
「うん、何か手掛かりがあるかもしれないからね」
「わかった」
「歩美ちゃんは家に帰りな、俺についてくると帰り遅くなっちゃうかもしれないし」
「え~、歩美も行きたい」
歩美ちゃんは頬を膨らませながら言う。
「お願い」
俺は手を合わせて言う。
「わかった…またねお兄ちゃん、匠君」
「気をつけて帰るんだよ」
「またね、歩美ちゃん」
歩美ちゃんを見送り、俺は匠君の案内で匠君の家に向かった。
「通帳も印鑑あるか…」
匠君の家を一通り調べ終わってつぶやく。考えたくはなかったが遺書の類も一応探してみたが見つからなかった。ひとまずは安心した。どうやら何か目的があって氏川夫妻はいなくなったわけではないらしい。俺がいろいろ思考を巡らせていると、俺の携帯が鳴った。液晶画面を見ると桜かだった。
「もしもし」
『遊馬さん、頼まれていたこと大方調べ終わりました』
「聞かせてくれ」
『はい』
俺の言葉を聞いて桜が話し始める。話を聞くと氏川夫妻には何か大変な問題があった様子はない。どこかに借金があったわけでもなく。対人関係にも問題はない。勤め先は方山製薬の経理部。職場でも問題はないとのことだ。
「片山製薬っていや、製薬会社の大手だな。やはり金銭的な問題はないみたいだ。二人の行方は?」
『すみません、わかりませんでした』
桜にもわからないか…、こりゃ時間がかかりそうだな。
「わかった、引き続き頼むわ。俺の方でも調べるから」
『はい。あっ遊馬さん、一つ気になることが』
「ん?」
『片山製薬には裏金や脱税などの噂があるようです』
「裏金に脱税か…」
今回のこととは関係ないかな。いやちょっと待てよ。
「桜、氏川さんたちは経理に勤めてたんだよな?」
『はい』
「どうやら、片山製薬をあたってみる必要がありそうだな」
『そのようです』
さすがは桜もうとっくにわかっていたようだ。
「わかったこの件も含めて調べてくれ」
『了解しました』