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ハズレ精霊の加護は『熱血応援!!!』でした

作者: たなか

「熱血……応援……?」



 聞いたこともない加護の名前に戸惑う私。



「ふむ……わしも長いこと神官を務めているが、初めて耳にする加護じゃな。ステータスには戦闘F、補助F、生活Fと記載してあるが……一体何の役に立つ精霊なのか、わしにもサッパリ分からん……」



「そ、そんなあ……」



 周りで既に精霊との契約を終えた子供達は、私と精霊を思いっきり馬鹿にしてクスクスと嗤っている。そして当の精霊本人はというと……



「諦めんなよイザベラ!!! 『熱血応援の精霊』ことマトゥーカが、これからずっと傍についているからな!!! くよくよするな!!! 君は絶対やればできるんだから!!!」



 必死に私を鼓舞激励している……何よそれ!! あんたのせいで馬鹿にされて落ち込んでいるんでしょ!!



 居たたまれなくなった私は、我慢できずに零れる涙もそのままに、踵を返してその場を走り去った。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私達の住む王国では、10歳になると精霊の加護を受けるために召喚契約の儀式を行う。どんな精霊が現れるかは、その時になるまで全く分からない。戦闘に特化した精霊もいれば、契約者の肉体を強化する精霊もいるし、職人としての技術を高めてくれるような生活に役立つ精霊の場合もある。


 この儀式で契約する精霊と加護によって、今後の人生設計が左右されるといっても過言ではないのだ。



 それなのに……



「どうしたんだよイザベラ!!! 無視はよくないぞ!!! 俺達はパートナーなんだから!!! ほら、元気出して一緒に頑張ろうぜ!!!」



 もう三日間、全く口を聞いていないのにも関わらず、相変わらず私に暑苦しい態度で話しかけてくる。



「なあ!!! どうして落ち込んでいるんだよ!!! 理由だけでも教えてくれよ!!!」



 ついに根負けした私。ひとたび口を開くと、抱えていた思いが堰を切ったように溢れ出してしまった。



「……私は!!! 冒険者になりたかったの!!! 小さい頃から憧れていた『白銀の狼』アラン様のような名誉ある冒険者に!!! そしていつか彼の隣に、パートナー兼伴侶として並び立つのが夢だったの!!! それなのに……あんたみたいなハズレ精霊の契約者じゃ、一番下の鉄級冒険者にすらなれっこないわよ!!!」



「自分で限界を決めるなよ!!! 絶対最高の冒険者になれるって!!! イザベラが自分を信じてあげないと何も始まらないだろ!!! 大丈夫だ!!! 俺は、どんなことがあっても、必ず傍で君を応援し続けるから!!!」



「……無理よ……私なんかじゃ……そもそもこんなブスじゃ彼に釣り合う訳ないし……」



「そんなことないって!!! 可能性は無限大なんだよ!!! それに君はとても可愛いぞ!!! 精霊の俺でもつい目を奪われてしまうぐらい魅力的だ!!! 自信を持つだけで人は変われるんだ!!!」



 無責任な励ましを続けるマトゥーカに腹が立った。そして、熱がこもった言葉にまんまと心を動かしかけている自分自身に何より苛立っていた。



 一切戦いの役に立たない精霊と10歳の非力な女子がいくら頑張ったところで、一体何が出来るって言うのよ。そう思っていたはずなのに、私の口からは正反対の言葉が飛び出していた。



「……いいわよ!!! 分かったわ!!! やってやろうじゃない!!! 三日前、私とあんたを嘲笑ったアイツらを絶対に見返して、一流の冒険者になってやる!!!」



「いいぞ!!! その意気だよ、イザベラ!!! 君なら絶対に出来る!!!」



「そうと決まれば出発よ!!!」



「ああ!!! うん??? どこへ行くつもりなんだ、イザベラ???」



「始まりの洞窟に決まっているじゃない!!! 冒険者登録のためには、まずあそこで採取か討伐をして成果を持ち帰らないといけないんだから!!!」



「それは絶対に駄目だ!!!」



「えっ……何でよ!!! あんたが言ったんでしょ、やればできるって!!! 気合と度胸さえあれば何とかなるはずよ!!!」



「そんなわけないだろ!!! 根性でどうにかなるなら誰でも冒険者になれる!!! 無謀と勇気を履き違えちゃいけない!!! まずはしっかり準備をすることから始めるんだ!!! 諦めずに前に進んでさえいれば、たとえ一歩ずつの前進だとしても、いつか必ずゴールに辿り着けるんだから!!!」



 てっきり精神論で押し切るタイプだとばかり思っていたから、マトゥーカの意外な正論に驚いてしまったけど、彼の言うことはもっともだった。


 それから私は冒険者になるための準備を始めた。一通りの武器・防具・探索道具を買い揃え、情報収集をすることにした。


 私とマトゥーカについては、珍しい加護のせいで、あっという間に噂が広まっていたらしく、冒険者になろうとしていることを知ると馬鹿にして笑うか、同情して考え直すよう説得を試みる人達ばかりで、ほとんどまともに取り合ってはくれなかった。


 それでも挫けず、始まりの洞窟に現れるモンスターの特徴や対策を尋ねる私に、親切な数人の冒険者達は詳しい情報を教えてくれた。私は一言一句漏らさずメモして、繰り返し頭に叩き込んだ。


 同時に体力作りも怠らなかった。マトゥーカが戦闘に貢献できない以上は、私が自分の身を守り、モンスターに立ち向かうしかない。トレーニング中もマトゥーカは休まず応援してくれたし、その声を暑苦しいとも思わなくなっていた。気付けば彼は私の大切な相棒になっていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 戦闘タイプの精霊と契約していれば、儀式当日でも攻略可能とされている始まりの洞窟に、私は一年間、入念な準備を重ねて挑んだ。綿密な予習と訓練の甲斐あって、傷一つ負うことなく無事に成果を持ち帰り、私は晴れて鉄級冒険者となった。


 震える手で自分の名前が刻まれたプレートを受け取り、その日は夜遅くまでマトゥーカと泣き笑いしながらご馳走を食べ、二人でお互いを称え合って喜んだ。



 更に通常の冒険者は平均一年で昇級する銅級に上がるまでに、三年の月日を要した。冒険者のなかにはその一年で亡くなるものだっているのだから、慎重になるのは当然だった。時折焦燥感に悩まされることもあったが、マトゥーカに支えられ励まされながら、一歩一歩着実に歩を進めることを意識した。



 次の銀級に上がるまでは二年掛かった。驚くべきことに平均より一年も早い昇級だった。私は既に金級冒険者にも負けない知識と戦闘技術を培っていたからだ。この頃には私を馬鹿にする失礼な輩も自然といなくなっていた。



 そしてついに今日、私は憧れの『白銀の狼』アラン様と共に狩りに出かけることになっている。彼は、私達のような銀級、金級の冒険者を指名して狩りの手解きをして下さることがある。自分の技術の研鑽だけでなく、後進の育成にまで尽力してくださるところが彼の高潔な人格を物語っている。



「なあ、イザベラ!!! くれぐれも気を付けろよ!!!」



「大丈夫だって何度も言ってるじゃないマトゥーカ!!! ……ひょっとしてあなた……アラン様に嫉妬してるの???」



「ば、馬鹿なことを言うな!!! そんな訳ないだろう!!!」



「ふふっ、冗談よ!!!」



 マトゥーカ曰く、昨晩、精霊間のやり取りに使われるテレパシーで、見知らぬ精霊から『アランに会うのを止めろ』という警告が送られてきたらしい。私はアラン様の熱狂的なファンによる単なる嫌がらせではないかと睨んでいるのだけど、マトゥーカは朝から何度も心配して声を掛けてくる。



 6年前とは違って、もうアラン様に対して恋心は抱いていない。勿論、依然として純粋に尊敬はしている。実は、最近恋については別の悩みを抱えて困っているんだけど。



「やあ、待たせたね! では、さっそく出掛けようか!」



「はい!!! よろしくお願いします!!!」



 アラン様は不帰の森のダンジョンへと私を連れて行った。てっきりもう少し難度の高い場所を選ぶかと思っていたので意外だった。



「あまり目立つと変な噂をされかねないからね。有名人は気を遣うことが多くて嫌になるよ」



「本当に大変ですね!!!」



 世間話をしているうちにダンジョンまで辿り着いた。



「よし、いつも通り人気がないみたいで良かった。それにしても、君はすごいね。そんなハズレ精霊(・・・・・)が相棒なのに、銀級まで昇り詰めるなんて……」



 かつて自分も使っていた『ハズレ精霊』という言葉に、どうしようもない嫌悪感を覚えた。マトゥーカのことを知らなければそう思われても仕方ないのだろうけれど、誰にでも分け隔てなく接すると評判だったアラン様の暴言を聞いて幻滅してしまった。



「私も最初はそう思っていましたけど、実際は全くそんなことないんです!!! マトゥーカは、とても頼りになって……」



「一体どんな手を使ったんだい?」



「……はい???」



 私の言葉を遮って放たれたアラン様の言葉を、頭が理解できず聞き返してしまった。



「誤魔化そうとしなくていいんだ。別に君を責めているわけじゃない。むしろ感心しているくらいだよ。冒険者の昇級認定はかなり厳格だからね。そう簡単に欺けるようなものではないんだ」



 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、上から下まで値踏みするように私を眺める姿を見て、彼が本当はどういうタイプの人間なのかは馬鹿な私にも分かった。



「見たところそんなに裕福でもなさそうだし、やっぱり色仕掛けかな? とはいっても、大した美人でもないということは、余程素晴らしい男を悦ばせるテクニック(・・・・・)を持っているんだろう? もし僕を十分に満足させてくれたら、特例としてパートナーにしてあげよう!」



「ちょっと……いい加減に……」



「ふざけるなああ!!! この下衆野郎がああ!!! 一体どれだけイザベラがお前に憧れて!!! 何年間も必死に努力してきたと思ってる!!!」



 一瞬誰の声なのか分からなかった。激励することはあっても、今まで一度たりともマトゥーカが怒ったところなんて見たことがなかったから。それほどまでに、彼の表情も声音も憤怒で満ち溢れていた。



「おいおい、カスが調子に乗るなよ。クズ精霊ごときに話しかけられることさえ不愉快だ……」



 アラン様……いや、あの下衆野郎は宙に浮かぶマトゥーカの首を乱暴に掴み、放り投げた。



「マトゥーカッ!!!」



「さあ、邪魔者はいなくなった。憧れの僕のことを、早く君の体で存分に楽しませてくれよ」



 奴の反吐が出るような言葉は、もう私の耳に届いていなかった。両足で思い切り大地を蹴り、一瞬で間合いを詰めた。アイツは反応すら間に合わないようだったが、隣で終始無表情を貫いて浮いている精霊は、わざと何もしてこなかったように感じた。



 私の固く握り締めた拳が、いけ好かない顔面に触れる直前(・・)、アイツの体は大きく後方に吹っ飛んだ。



「……えっ……何が起きたの???」



「あんなゴミを殴ったら!!! イザベラの拳が汚れる!!!」



「そんな……今のマトゥーカの仕業??? いつからあんなことが出来るようになったの???」



「初めて今日試してみたんだ!!! ずっと密かに筋トレをしていた!!! イザベラが万一危険な目に遭ったら、大切な君のことを、ちゃんとこの手で守れるように!!!」



 ああ……幼い私は本当に見る目が無かったのね。あんなクズに恋をして、こんな最高にカッコ良くて頼りがいのある相棒を、ハズレ精霊だと決めつけていたんだから。



「……それで、君が昨日警告をくれたんだな、ルイズ???」



「……ええ。とはいってもコイツの身を守るためだったんだけどね。私は未来を視る加護持ちだから。まあ、結局一度ぶん殴られて酷い目に遭わないと分からない、どうしようもないクズだし、あなた達には感謝しているわ」



「あなたもハズレ(・・・)契約者に当たって残念ね……あなたぐらい力のある精霊なら、契約を一方的に破棄することも出来るんじゃない???」



「多分可能ね。正直に言うと、今日でコイツとは永遠にさよならするつもりだったわ。でもあなた達二人の姿を見ていたら、もう少し付き合ってみる気になったの。このクズを今まで放置していた私にも責任があるわけだし……これからはスパルタ方式で一から根性を叩きなおしてやるわ!」



 気絶してだらしなく伸びているアイツの脇腹をガシガシと容赦なく蹴りながら、ルイズは楽しそうに微笑んだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「マトゥーカ……本当にごめんなさい……私、あなたと出会った頃、あの最低のクズと同じように、あなたに散々酷い言葉を浴びせてた……」



「気にするなよ!!! いつも言っているだろ!!! 反省はしても、後悔はするなって!!!」



「うん……そうだね!!! ……私、やっぱり諦めない!!!」



「ま、まさか、まだあのクソ冒険者のことが好きなのか???」



「そんなわけないでしょ!!! 私が好きなのはマトゥーカよ!!! ここまで頑張ってこれたのも、ずっとあなたが隣で励ましてくれたからだもの!!!」



 マトゥーカへの想いが溢れて止まらなくなっていく。



「最初は、あのクソ野郎が目標だったけど、ずっと前からあなたの期待に応えたくて、あなたに相応しい相棒になるために努力してきた!!! だから、絶対将来マトゥーカと結婚するって、今、心に決めたの!!!」



「なっ!!! いや、それは、ちょっと無理があるだろ!!! 人間と精霊で結婚なんて……」



「へえ~??? 熱血応援の精霊なのに、私のこと励ましてくれないんだ~??? ずっと傍についているって言ってくれたのに、あれは嘘だったんだ~???」



「……そんなことは……ないが……」



「……マトゥーカ、私の事、嫌い???」



「それだけは有り得ない!!! 俺はイザベラのことが大好きだ!!!」



「……良かった……じゃあ、二人が結婚できるように一歩ずつ、一緒に頑張っていこう???」



「…………よし、そうだな!!! イザベラと結婚して、夫婦になって、そして、たくさんの可愛い子供達に囲まれた幸せな家庭を築くぞ!!!」



「こ、こここ子供??? それは……まだ私達には、ちょっと気が早いんじゃないかしら??? 確かに私ももう16歳だけど……もっと段階を踏んでというか……」



「勿論一つずつ順番にこなしていこう!!! まずはキスからだ!!!」



「ちょっ!!! マトゥーカ??? ねえ……ちょっと待ってってば!!!」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「それで~??? ママ~??? 続きは~???」



「ええ、そうね……ごほん……それから数年後、この世界初の人間と精霊の夫婦になり、尚且つ、史上初のアダマンタイト級冒険者カップルとなったイザベラとマトゥーカは、幾度も王国の危機を救い、英雄として後世に長く語り継がれることになったのでした!!! めでたし、めでたし!!!」



「パパもママもすご~い!!! ねえ、私も冒険者になれる??? それで、パパみたいに強くてカッコいい人のお嫁さんになって一緒に世界中冒険するの!!!」



「俺も絶対、最強の冒険者になる!!! それで、パパとママより有名人になって!!! 魔王をぼっこぼこにやっつける!!!」



「ふふっ……それじゃあ、今のうちからしっかり準備と訓練をしておかなかきゃいけないわね!!! さあ、いつまでもお昼寝している、ぐうたらなパパに突撃~!!!」



「「いえ~!!!」」



 宙にぷかぷかと浮かび、父親目掛けて突進する二人の子供達を横目で眺めつつ、大きく膨らんできたお腹を撫でながら、私は最高の幸せを噛み締めて微笑んだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「そういえば……結局あなた、あれから素手で魔物を殴り倒せるぐらい強くなったし、二人とも素っ裸で傷一つ負わずダンジョンから帰還できるくらい強力な補助魔法も使えるようにもなって、おまけに国が諸手を挙げて『人間と精霊における婚姻法』の改正に従うほど貴重な豊穣の魔法まで習得しちゃったけど……やっぱりこれも全て愛の力だったのかしらね???」



「……ひょっとしてFailure(落伍者)のFじゃなくてFantastic(素晴らしい)のFだったりしてな!!!」



「「まさか……」」



「「そんな訳ないよな(わよね)!!! ははははは(ふふふふふ)!!!」」

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― 新着の感想 ―
[一言] 脳裏にお米食べろの顔がずっと浮かんで 恋、という単語と結びつけることが中々難しかった、、
[良い点] 読んでいてとても気持ちよかったです!!!! イザベラとマトゥーカのナイス夫婦に幸あれ〜〜!!!!
[一言] スパロボ的には、毎度熱血と応援を付与してくれるなんて、間違いなく神仕様なんだけどな 後は感応と先見で、完全回避絶対命中の与ダメ二倍で獲得経験値倍のチートユニットになるぞ
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