葉織 凜という男
「凜様~! どこですか~! 凜様~!」
赤い髪と目をした女性、吉柳紅羽の声が響き渡る。
ここは東京にあるとある大きな屋敷、暁の本拠地兼葉織家の中。
「凜様~! そろそろ会議を始める時間ですよ~!」
「どうしたの紅羽、騒がしいけど」
紅羽のもとにプラチナブロンドの髪を揺らしながら歩いてきた美少女、アリア・フォートルクスが声をかけた。
「あ、アリアちゃん、凜様がどこにいるか知ってる?」
「マスター? ああ、ミウと一緒に出掛けて行ったわ。会議までには戻るって言ってたね」
「・・・・・その会議がもう始まるんですけどね」
「・・・・・あ~、まあすぐに帰ってくるよ。ウン」
「はあ~、まったく凜様には困ったものだわ・・・」
「そういう割にはいつも世話を焼いてるわよね、紅羽は」
アリアの言葉に少し頬を赤くする紅羽。
「そ、それはその・・・昔からの付き合いだし、適当なとこはあるけどいざというときはカッコイイというか、あれで意外と面倒見もいいし、笑った顔とかもう最高に・・・」
「アハハ、とりあえず落ち着いて。・・・というかそんなに心配なら電話すればいいのに」
少し呼吸を整えた紅羽が答えた。
「ふう・・・。したけれど部屋に携帯置きっぱなしなのよ。もう、どこまでいったのかしら、凜様は」
晴れ渡る空を見上げながら、紅羽は何度目かのため息をついた。
「はっくしゅ!」
「?・・・風邪?」
「いや、大丈夫だよ」
青年、葉織凜が鼻をすすりながら手をつないで歩いている少女、来栖 美雨に答える。
「多分紅羽あたりが俺に対する文句でも言ってるんじゃないかな~」
「・・・それは凜がだらしないのが悪い」
「うぐ、それを言われると痛いな」
わざとらしく胸を抑えながら苦笑いして見せる。
「・・・そういえば、凜はどうして暁のマスターになったの?」
「あれ、言ってなかったけ?」
こくんと頷いて「教えて?」とかわいく首をかしげる。
「ん~、まあ一から全部話すと長くなるから少しだけ」
一拍おいてから再度口を開いた。
「俺がマスター・・・総大将? まあどっちでもいいけど、になったのは10歳のときだった。もともと暁結成前はみんなアライブに所属していたんだが、いろいろあって非公式だけど独立しようってことになって。そんときついてきてくれたのが善治郎と紅羽、それから樹だったんだ」
「・・・凜は小さいころからファントムと戦ってたの?」
「そうだね。7、8歳くらいの頃からかな。・・・・んで、独立して新しい組織になる以上リーダー的存在が必要だよねってことになって、皆俺がふさわしいだろうって意見で一致したから俺がマスターになったってわけ」
「・・・みんな凜のことが好きなんだね」
「はは、ほんとにそうなら幸せもんだねぇ、俺は」
その言葉に美雨がジト目で凜を見る。
「・・・ニブイ」
「ん? なにか言った?」
「・・・なんでもない。それより」
美雨が携帯の時間を見ながら凜に言った。
「・・・そろそろ戻らないと、会議始まる」
「げっ、もうそんな時間か。んじゃ急いで帰るとしますか」
「・・・ん。 凜」
「うん?どした?」
「・・・また今度凜の話、聞かせて」
少しの微笑みを見せてそう言った美雨に少し驚きながらも、「ああ、いいぞ」と笑って応えた。