ファントムの正体
先日のⅩとの接触とそこで得られた情報は他のメンバーやアライブの信たちにも共有した。
そして信はこれを受けて、状況をさらに重く見たほうが良いと意見を述べて、皆はそれに賛成した。
そして、今後の具体的な方針として、Ⅹの目的と、それを実行する手段、これらを重点的に探ることとなった。
だがそれと同時に事態は急変し、一度のファントムの出現数がさらに増したのである。
今日もファントムが出現し、凜・紅羽・茜のチームと、アリア・善治郎・樹・美雨のチームに分かれてこれに対処していた。
「もうっ、何なのよ急に増えだして!」
「茜、文句言う前に手と足を動かして!」
「わかってるって・・・ば!!」
茜は気合を込めて槍を小型ファントムに突き刺し、そのまま振り上げて小型ファントムを投げ飛ばすとそのままの勢いを利用して、後方のファントムを上から切り下す。
少し離れた場所では、紅羽も負けじとファントムに切り掛かる。
「吉柳神槍術・華ノ乱」
槍を両手を使って不規則に、それでいて美しく振り回し、周囲のファントムを縦横無尽に切り捌いていく。赤い血をまき散らしながら散っていく様は、その名の通り華のようだった。
そんな紅羽や茜をよそに、凜は何やら考え事をしているのか、その場を動こうとはしなかった。
「って、凜様! 凜様もまじめにやってください!」
「・・・・・」
「凜様? どうかしました?」
「ん、ああ、いや。で、なんだっけ」
「ですから、まじめにやってくださいと」
「え~、だってなんかやる気でないし~」
「り・ん・さ・ま?」
「・・・は~い、やりま~す」
睨まれた凜は渋々といった様子で、腰に帯びている二本の刀のうち、片方の深紅の刀を抜いた。
眼前には20匹以上いる大小違いのあるファントム。普通に考えればかなりピンチな状況だが。
「そんじゃ行きますか、加具土命」
突然だが、・・・本当に突然だが、俺はアビリティを持っていない。
じゃあどうやってファントムに対抗しているかというと、この二本の刀に秘密がある。
俺の持つこの深紅の刀、名前は加具土命。何十年と昔にとある刀匠が打ったとされる刀なんだとか。
詳しいことは忘れたというか、ぶっちゃけどうでもいいというか。
まあとにかく、もう片方の青い刀、蒼龍御神刀と合わせてかなりの名刀らしい。
小さいころ、今は亡き父が蒼龍御神刀、亡き母が加具土命を使っていたらしいが、俺がアライブに入ると同時にこの二本を授かった。
そしてこの二振りには、アビリティが宿っているのだ。
ゆえに俺はこの刀たちのアビリティを駆使してファントムと戦ってきた。
まあ、正直強すぎるから使用は極力控えてたんだが。
「目覚めよ、加具土命」
アビリティを使用するためのキーとなる言葉を口にした途端、加具土命から深紅の炎が吹き上がり、あっという間に凜の周囲に広がった。そしてさらに吹き上がる炎が、今度は凜の体を包み込み・・・否、凜が炎を纏ったのだ。
「使用者に己の炎を纏わせ、自在に扱えるようにする。これが加具土命のアビリティだ」
そう言って加具土命を右腕で上に掲げると、膨大に広まった炎が加具土命に集束されていく。
「そしてこれが、アビリティと天葉流を合わせた技」
集束が終わった加具土命を今度は両手で左中段に構え、眼前のファントムの群れのわずかにある隙間を見据えて。
「天葉流零の型・焔の月輪」
強く踏み込みその隙間をまさに一瞬で駆け抜けながら刀を横に一閃する。一瞬何をされたかわからなかったファントム。敵がいつの間にか後方にいることに気が付き、一斉に襲い掛かろうとしたとき、群れの中心で炎による巨大な衝撃波が発生し、ファントムたちはその中で炎に焼かれ、衝撃により切り刻まれた。
「「「グォォォォ!!!」」」
ファントムは断末魔を上げながら、炎から逃れられることもなく、ただ焼かれていくしかなかった。
しばらくして炎は消えていき、そこにファントムは一匹も残っていなかった。
「ひゃー、お兄ちゃんの技はほんとエグイねー」
「相変わらずお見事です、凜様」
凜のもとへ紅羽と茜がやってくる。
「ん、二人ともお疲れ、他にファントムはいないようだね」
「はい、周辺に気配はありませんので大丈夫かと」
「それなら速いとこおじさんたちの増援に向かおうよ」
「ああ、そうだな」
そうして三人は善治郎たちの現場へと急行するのだった。
一方、善治郎たちの方はというと。
「だあー、クソ!! 一体どんだけいやがんだ!!」
「・・・確かに、ちょっとこれは異常よね」
ファントムの数は凜達のほうよりも明らかに多く、一同は苦戦を強いられていた。
「ふむ、近頃ファントムの出現数が増えてきているとは聞いていたが」
「・・・一度にこれだけの数は、初めて」
「おいアリア! 大将たちはまだこれねえのか!」
「さっき紅羽から連絡があったわ。向こうは片付いたから今こっちに向かってるって」
「では、それまでの辛抱だな。美雨、辛かったら一度下がって休むといい」
「・・・大丈夫、まだ全然平気」
強がりでもなくただ事実を言っているだけ、そう主張しているかのような美雨に善治郎はフッと笑って、
全員に活を入れた。
「ならば改めて気合を入れろ! 総大将が来るまで何としても持ちこたえるのだ!」
「「「おう!!」」」
移動中、凜は再び考え事をしているのか、ずっと黙り込んでいた。
「あの、凜様、本当に大丈夫ですか?」
「・・・え? 何が?」
「先ほどからずっと難しい顔をしていますので。具合悪いのでしたらお休みになった方が」
「ああ、ごめん、心配かけたね。けど大丈夫だから」
「そう・・・ですか。なら、良いのですけど」
「・・・お兄ちゃん、もしかしてⅩのこと考えてた?」
茜が先日のⅩのことを思い出し、凜に聞いてみた。
「あー、まあそれもなんだけど。・・・二人はさ、Ⅹとファントムって関係性があると思う?」
「Ⅹとファントムに・・・ですか。うーん、どうでしょうか、全く無いとも言い切れない気もしますが」
「お兄ちゃんはどう思ってるの?」
「・・・俺はあると思う。というより、Ⅹこそがファントムの元凶なんじゃないかと」
「っ! どういうことですか?」
「以前、Ⅹは吉田にアビリティを与えたといっていたよね。そしてそのⅩが彗星の持つ力の集合体だとも。・・・さらに5年前の“ファントムレイド”、あの時に出現したファントムはアビリティを使用していた。」
そこで区切ってから言葉を続ける。
「もし、俺の推測が正しいなら、Ⅹが持つアビリティの中には、アビリティを与えるアビリティとは別に・・・・対象をファントムにしてしまうアビリティもあるんじゃないかな」
「「・・・・ッ!!!」」
もし、そんなことが可能ならば、これまで自分たちが倒してきたファントムの中に、元は人間だった存在もいるのではないか。そのことを瞬時に悟った二人は戦慄した。
「そ、そんなこと。いや、でも確かに否定は出来ませんね。恐ろしいことですが」
「でも、それなら、私たち、人を・・・」
「・・・そこは難しい問題だね。ほんとにそうだとして、それでもファントムだからと割り切るのか、
やっぱり人だからと思いとどまるか。」
凜は茜の顔をしっかり見つめながら言った。
「けど、これだけは覚えておいて。殺さなきゃ、殺されるのは俺たちの方だからね」
「・・・うん。わかってる」
理解はしてるが納得は出来ない。そんな様子の茜に対し、しかしこれ以上は今は酷だと判断した凜は、続けて推察する。
「ただ、ファントムに変えるにしても、疑問が残るね。アビリティをかけた対象全てを変えてしまうのか。あるいは特定の存在だけなのか」
「・・・5年前のファントムは、アビリティを使用していました。それがⅩにより与えられたものなのか、それとも元々アビリティ保持者だったのか」
「さらには人のみなのか、動物のみなのか、はたまた両方か」
「まだまだ解らないことばかりですね」
「だねぇ・・・」
「いっそ倒したファントムが元の状態に戻ったなら、確信が持てると思うんだけどな」
次回に続きます。