第1章 暗い道で
誰が見ても恐ろしいと思う程のナイフを持った人相の悪い男に、血濡れの怪しい女が行き交う陽当たりの悪い道路の上を12、13歳くらいの少女が1人歩いていた。
何の武器も持っていない幼い少女を、怪しげな通行者達はじろじろと見つめる。
このおどろおどろしい空間の中、少女は明らかに浮いていた。
「よう嬢ちゃん、親御さんと離れちまったかね?え?そんなら俺達と来るか?」
ガタイの良い男が数人少女に近づいて、少女を囲み始める。
典型的な人さらいの手口を、行き交う人々は口に嫌な笑みを浮かべて見つめる。
「……」
少女は何も言わずに下を見つめている。
華奢な肩が震えているところを、通行人は泣いているのか怯えて震えているのかと想像する。
その刹那、少女の明るい笑い声が道路を通り抜ける。「あはは、あははははは」
人さらいは少女は只者ではないと感じているようでジリジリと後退していく。
「気づくのが遅かったわね、人さらい。このカリナ様に喧嘩を売ったことをあの世で後悔すれば良いわ!」少女は高らかに告げると、一番近くにいた男をぐっと引き寄せ、男に動く余地を与えずにみぞおちを殴る。
その威力は恐ろしい程で、大の男が気を失って道路に打ち付けられる。
少女は気を失った男を殴り続け…全てが終わった時には少女の周りには放射線状に死体が散らばっていた。
「あーあ。死んじゃった。もうちょっと遊びたかったのに。さて、ソノザ商会に行くとしますか。あそこならちょっとは情報が手に入るでしょう。計画に引き込む価値のある人間を探さなきゃいけないからねぇ。ああ、かったるい。あたしは詐欺師じゃなくて殺し屋だっつーの。」
少女は何かを呟きながらその場を去った。