中日・魔球の伝説
前例に従い、サブタイトルに意味はありませんので悪しからず。
何れは「みてみん」経由で写真を数点差し挟みまする。
新幹線を降りると、其処は東京であった。
智恵子は、東京に空が無ぇべや、と言い出した。マジな空が見たい、と。
私は驚いて空を見て言った。
「ホンマや……って、智恵子って、誰!?」
そんな訳で……どんな訳かは永遠の謎ですが、東京です。
「丸の内北口で待ってますから」ってな友人の言葉を頼りに寝ぼけ眼で案内板を見上げる私。
……こっちか。
八重洲南出口方面の階段を降り、改札前で駅員さんに尋ねると案の定、逆でした。
慌てて小走りで正しい改札へと向かう私に立ちはだかる人の群れ。ええい、どけどけ、雀の子そこのけそこのけ、はいからさんが通るぞ!
あ、改札の向こうに標的発見! 撃ち方用意!
やぁやぁ、或未品さん、お久しぶり♪
握手して肩を叩きあいハグしたらお手手繋いで夜道を行けば、昼だし手も繋いでないけれど、カンカン照りの皇居前。
「目的地へのルートは複数あるのですが、このルートだと和気清麻呂が……」
「じゃあそれで」
熟考に熟考を重ねた苦渋の決断で選んだのは皇居外縁をテクテクと右足と左足を交互に動かさねば進めぬルート。
おおあれが、応天門の変(貞観8年=866年)で御馴染みの大手門か!
直ぐ近くには日本三代首塚の筆頭として生首大好き女子、所謂“首女”には聖地の将門塚が!
徳川四代将軍の御世に“ゲバゲバ90分”として恐れられた酒井雅楽頭家の邸宅跡も!
流石は日本の首都だぜ、東京シティ。歴史が迷走しているぜよ!
ほほぅ、これが和気清麻呂像か! まるで『ジャイアントロボ(1967)』のOP冒頭みたいだ。多分明日くらいにはジェットを噴かして出撃するに違いないぜ、違うけど!
因みに何故、東京の皇居前に奈良時代末期の高級官僚の銅像があるのかと言ったら、幕末期の孝明天皇が生前の功績に対し神階正一位と護王大明神の神号を贈った事で、楠木正成公と並ぶ勤皇の忠臣であると明治期に讃えられたからだよ、これは本当。インディアン嘘つかない、私はジャポネーゼだがな。
世界制服を企むBFと戦う為、大作元少年(1997年没)の命を受けて戦う和気清麻呂像の近くには、気の所為かなピンク色の象が見えるぞ庁こと気象庁が。
東京最初の街路樹が配された場所を示す石碑に感心し、北の丸公園内に常駐する警視庁第一機動隊の標識に及び腰となりながら、本日の第一目標に到着。
来たぜ、東京国立近代美術館!!
観るぜ、『高畑勲展 ─日本のアニメーションに遺したもの』!!
高畑勲氏と言えば、可憐な人妻の広瀬すず嬢を孕ませた事で御馴染みのアニメ界の巨匠。『おもひでぽんぽこ』や『ホーホケキョ かぐや姫の墓』などの作品を手がけたと言えば、誰もが首を傾げることだろう。
去年の四月、惜しまれつつも世を去られました。
重い扉を押し開けるように明るい未来を求めて足掻く敗戦後の日本。
何処までも暗い道が続くとて、めげずに歩く市井の人々。
彼らのその先に知らなかった世界を垣間見せたのが、アニメでした。
ああイヤラシイあの子にも伝えねば!
まぁそれはそれとして。
入り口直ぐの、高畑勲氏年表だけにワクワク。一時間は楽しめそうな按配で、私と或未品さんはここだけで少なくとも10分くらいはあーだこーだとウダウダしていました。
中の展示も充実と大満足の計五文字。
『アルプスの少女ハイジ』関連の展示品は、瞠目でした。
さて、その『アルプスの少女』。この作品がなければ、“なろう”の作品の幾つかは存在しないと言っても過言でしょう。いや、過言じゃないかも。
「私の事は“あなた”とか“セバスチャン”とお呼び下さい」
日本人が、執事=セバスチャン、だと認識した記念碑的作品なのだから。
だが、日本人は間違っていた。アーデルハイドも「あなたとかセバスチャン」だと間違えていたが。
『アルプス』におけるセバスチャンは、そこそこ有能なゼーゼマン家の使用人でしかない。原作では執事だが。
尚、『アルプス』でのゼーゼマン家の執事はロッテンマイヤー嬢。原作では家政婦長の女性である。
『アルプス』がなければ、『黒執事』は生まれていない。『アルプス』で勘違いした日本人の認識を強固な常識としたのが『黒執事』だ。
今では“なろう”発の諸作品において“セバスチャン”もしくは“セバス”と記すだけで、誰もが“ああ執事なのだな”と理解する記号化の嚆矢、それが『アルプス』なのである。
更に展示は続くよ何処までも。
丸石自転車のCMで御馴染みの、『赤毛のアン』。
リメイクしたらテツの声は誰だろう、『じゃりン子チエ』。
るぱぁーんさぁーんしぇーの『ルパン三世』。
忘れちゃいけない、『母をたずねて海底三万哩』。
♪母をたずねて三千里、離れて遠きアンデスの、赤い夕日に照らされて、友はアメデオ肩の上♪
因みに。
富野由悠季氏はフリー時代に『未来少年コナン』(『コナン・ザ・グレート』『名探偵コナン』と続くコナン・シリーズの記念すべき一作目)や『母をたずねて白髪三千丈』のお手伝いをされているのは公然の事実だったり。
徳間書店の出資でプロダクションを立ち上げた、宮崎吾朗氏の父親の良き理解者パートナーとして仲良く喧嘩し捲くっていた高畑氏。
その業績を辿る特別展は、昭和の少年だったオッサンには実に感慨深いものでした。
駄菓子下賜。
『富野由悠季の世界』における筑前さんのように、或未品さんには刺激的なものだったようでして、創作への向き合い方に一石を投じる一助となったようです。願わくば投じられた一石が『犬神家の一族』のスケキヨよりも大きなものでありますように。
会場外に設営されたオンジの山小屋セット、其処に置かれたまるでぬいぐるみのようなヨーゼフの剥製……いや恐らくはぬいぐるみだと思われるが、に合掌礼拝した私達は足取りも軽く、東京メトロの竹橋駅へ。
乗り継ぎをしながら行くは、新宿駅。
さぁさぁお待ちかねの昼食だ!
来たぜ、新宿川村屋! 訂正、新宿中村屋!!
朝のテレビ小説『なつぞら』にてヒロイン兄妹に散々迷惑をかけられ続けた上に乗っ取られた老舗のレストランだ。
大正四年に日本へ亡命してきたボース氏直伝の名物カレーと伊府麺と麻婆豆腐と海老クリームコロッケとローストビーフとハンバーグとボルシチとその他諸々が名物だぜ!
さてココでジャンピングチャンス問題です。正解すると海外へ自費で高飛び出来るチャンスが与えられます。では、問題。
Q)新宿中村屋にカレーを直伝したのは、以下の三人の内の誰でしょう?
①「サティエンドラ・ボース」……大学時代にアインシュタインへ「プランクの放射法則と光量子仮説」と題する論文を送り賞賛された物理学者。ボース粒子に名を残す。
②「ジャガディッシュ・チャンドラ・ボース」……1904年に天然の方鉛鉱を使用した鉱石検波器を開発し、鉱石ラジオの普及に寄与したインド無線の父。SF作家でもある。
③スバス・チャンドラ・ボース……インドの独立運動家。インド国民会議派議長、自由インド仮政府国家主席兼インド国民軍最高司令官。1945年に日本で事故死。
④「ラース・ビハーリー・ボース」……インドの独立運動家。過激派として指名手配されるも日本に亡命。新宿中村屋の創業家の婿となりカレーを直伝、“中村屋のボース”と呼ばれる。
何故選択肢が三つなのに四つもあるのか? それが『まさかの時のスペイン宗教裁判』テイストだからですよ、『モンティ・パイソン』万歳!
折角なので贅沢しよう。ちみちみ、ウェイトレス君、コレを一つとコレのソレをアレしてくれたまへ。
では戴こう、頂戴するのじゃ、戴きます。
………………めっちゃ美味い!!
カレーって辛いですやん? その辛さが美味さであったりしますやん? 施やけどね、新宿中村屋のカレーは、辛さの美味さと旨味が別個ですねん。
ハーフ&ハーフで名物カレーともう一つコールマンカレーってのも食べたのですが、これまた絶品。タダ只管に美味いカレーなのです。
海老クリームコロッケも美味かったし、デザートに頼んだチーズタルトも最高!
入店前の待合コーナーもナイスアイディア。私達の少し前におられたお嬢さんの生足も綺麗だったし、百点満点どころかエネルギー充填120%ですよ! ところでこの世に120%なんてパーセンテージが存在するのですかね? %の最大値は100でしょう? ご近所の奥様方も可笑しいとヒソヒソしてますよ。
しかし美味しい物を腹いっぱい食べるって、ホンマに幸いである。其れ故に、ミ・フェラリオが語る次の物語を伝えよう。
だがその前に、訂正をしておかねば。
メニューの正式名称は、「中村屋純印度式カリー」と「コールマンカリー」だ。カレーじゃなくて、カリー。ココが味噌ですよ、皆の衆。味噌じゃなくて、カリー。
新宿を離脱した我々は、合法的な手段で以って池袋に移動する。勿論、入国審査も検疫も受けずにだ。
着いたぜ、池袋サンシャインシティ!
令和生まれの子は知らぬ昭和の時代、此処には巣鴨プリズンがあり戦犯とされた人々が収監されており死刑判決を下された人々が処刑された場所。
それが今ではニンテンドー64だかなんとか60だかがドカンと屹立しているのですよ。
しかも『五等分の花嫁』なる作品のイベントが開催されているとか。
「なぁなぁ、或未品さん」
「何でしょう?」
「『五等分の花嫁』って知ってる?」
「勿論ですよ(ドヤ顔)」
「タイトルから推察するに、うっかりと美少女を殺してしまった主人公が処置に困って死体を五分割して捨てようとしたら何故かバラバラ死体が五人の美少女になってしまったんで仕方ないかと重婚する、って物語やろう?」
「そんなプラナリアみたいな話じゃありません(困惑顔)」
「いや、だって、五分割の……」
「五等分、です!(真顔)」
そんな訳で、どんな訳だか事態は混迷の一途ですが、本日の最終目的地の一つに到着だ!
来たぜ、古代オリエント博物館!
観るぜ、『夏の特別展 ギルガメシュと古代オリエントの英雄たち』!!
ギルガメッシュ、と言えば日本人の多くが……大体1270人位が思い浮かべるのは石ノ森章太郎御大の漫画であろう。1976年から約1年間、少年キングで連載された名作である。
手塚治虫御大と門下生であるアサマ山荘の漫画家達。ひだまり荘で切磋琢磨した彼らに共通するのは宗教・信仰への知見と考察。
一刻館の一員である石ノ森御大もまた「神とは何か?」「神もしくは天に選ばれし者とは?」を問い続けたお一人でありました。
昭和五十年代の初頭だとほとんどの日本人には、ギルガメッシュって何ぞや?だったと思うのですが。多分DAIGO氏の新しい言い回しか?などと思ったに違いない事はあり得ませんね。
それはそれとして古代オリエントリース、略して古オリックスの時代。一言で言えば、仰木彬監督とイチローの時代です。違います。古代オリエントの時代とは、判子とコインと文書の時代です。
判子と言ってもシャチハタではありません、芋版でもありません。印章です。最初はスタンプ式でしたが、やがて円筒印章に変化します。コインも多くの種類が作られました。そして難解な楔形文字。
学校で習ったローリンソンのみならず、グローテフェント、ヒンクス、オッペルト、タルボットといった欧州各国の言語学者の集合知、所謂ローリングストーンズの面々、の並々ならぬ努力の末に解読されたのが、楔形文字だったりします。
彼らの御蔭で私たちは、
「テメェから買うた銅のインゴットの品質、悪過ぎやろうが! いったいどういうこっちゃねんコレ? エエから払うた銭、耳揃えて返さんかい!」
などという気品に満ちた内容を、時空を超えて知る事が出来るようになりました。
他にもギリシャなどの地中海世界との交流の証である文物や、嵐と慈雨とバールのような物を司るバアル神の像など、見所満載の特別展でした。
音声ガイドは『ふぇいと』シリーズでギルガメッシュないと役を演じておられる、関智一氏。『忍ペンまん丸』のツネ次郎や『からくりサーカス』の白銀役で高名ですよね。
尚、古代オリエント博物館の音声ガイドはアプリをDLするタイプなのですが、皆さん御承知の通り、私はガラケーユーザー、ガラパゴス諸島の住人なのです。ロンサム・ジョージと呼ばないで。
だもんで、博物館でスマホを借りました。ところが機器の不具合で音声が全然聞けません。まぁ音声ガイドは博物館や美術館への寄付金のようなものと思う私は聞けようが聞けまいがどうでもエエのですが聞きたいなぁと思い色々と操作していたら、館内見張り役の学芸員の方に見咎められ、無事に聞く事が出来ました。
あのまま下手にいじっていたら、きっとエロサイトに接続してしまい違法請求に騙されて何万円か騙し取られていたでしょう。
自分の財布からの出費じゃないから痛くも痒くもありゃしないけど、ホンの少し体裁が悪いですからね。モーマンタイで良かった良かった。
館内に併設された「自分の名前を楔形文字でスタンプしてみよう」コーナーも楽しめたし。
博物館を出てエレベーターに乗って下って降りた時、その前に階段で下りようとして道に迷いかけましたよ、異邦人。
下のフロアに着くと、或未品さんが若きオタク時代の思い出をアレコレと自動筆記のように語り始めました。詳しくは音声ガイドをお聞き下さいませ。音声ガイドはネット上のどこかにある違法請求サイト経由で聞く事が出来ませんので、悪しからず宜しからず。
イベントスペースでは件の作品のイベントが開催されており、多くのファンがズラリと列を為しておりました。
「へぇ、やっぱ『プラナリア』って、人気あるんやなぁ」
「プラナリアじゃなくて、五・等・分!(真顔)」
誤答文のはな読めを愛する人々の熱気を愛でながら表に出ると、やはり暑い。
あれが乙女ロードです、と『東京だヨおっ母さん』を歌う島倉千代子先生のように指差す或未品さん。ならば、記念の写真を撮らずばなるまい。
ああ総入歯……訂正、そう言えば。
東京ってぇ場所は大阪と違って、人間至る所に洋服の青山あり、みたいに博物館や美術館がある世界有数の文化学術都市なのでして。
戦傷病者とその家族の労苦に関する情報と文物を収集し開示する事で、世に啓発を行い続けている、しょうけい館(=戦傷病者史料館)。
新宿西口地下で開催されていた土木学会主催の展示『土木コレクション(通称、ドボ博)』はチラ見でも面白いと快哉を上げたくなりました。
文化と歴史に理解のある街っていいよなぁ。
大阪は、とある弁護士の地方政党が支配をするようになってから文化行政と教育行政がドンドン悪化中な上に劣化中でして。
それを支持する無定見な有権者と、利権団体に成り下がった関西ローカルマスコミにブラック体質を曝け出した某お笑いプロダクションの御蔭で、年々酷くなっています。
これからの大阪には夢も希望もありませんね、大阪の成長を止めろ!って事ですわ。
カジノとインバウンドでぼろ儲けを目論み、人心と環境と歴史をボロボロにしている現状はホンマに最悪ですよ、もう笑えねぇや、あっはっは!
ああホンマ、東京が羨ましい。例えトップが権力亡者のポンコツでも、組織が大阪よりもマシですから。
まぁ愚痴っても仕方がない。高校の世界史で学んだ衆愚政治を体験するという得難い機会なのだ。そんな機会は捨ててしまえ、と心底思いますけどね?
アシュラマンの好敵手である悪魔超人の首領格の御膝元を後にした我々は、イケフクロウ像を崇めつつ夕張メロンの芳香漂う本屋さんへ。
あ、新刊出てる、買おうかな、いやいや大阪で買えるからエエか、いや待てよ、ここで買わないと旅行中に読む本がなくなるじゃあないか、ではコレとコレをアブダクションしよう、ああそうだ、或未品さんココのメンバーズカード持ってるなら貸してんか、俺持ってへんねん、勝手にポインT加算させてもらうさかいに、はいおおきに借りまっさ、すんませんコレ下さいな、有難う。
首尾良くラノベを二冊購入し、リュックの負担を増やした私。これで、自分は後10年戦える、に違いない。いや、無理だろう。一日保ったらエエとこやな。
そして事態は急転直下、夕食と相成る。
わーい、晩飯だ!
サッパリしたモンを食べたいってリクエストしたら、バッチグーな御店に案内してくれた、有難う或未品さん、先ずはキミの瞳に映った僕に乾杯だ!さて何を食べよう、あ、長芋のフライだ、長いものに巻かれるのは処世術の基本だし頼まねば、おお牛タンがあるじゃないか、舌先三寸を活用するのが賢い生き方だし頼まねば。
揚げ物を食べ、肉を頬張り、レモンサワーで口中をサッパリさせる、ああ美味しいねぇ、幸せだねぇ。
そんな悪魔の飽食に耽溺する私に、或未品さんが悩みを打ち明けられた。結構深刻な内容だったので私も真剣な表情を装って熟考した心算で回答する。
「別にエエんちゃう」
……今、思えば不誠実だったと反省。「別に良いと思う」と標準語で回答すべきであった。
そして二次会は、居酒屋傍のカラオケに。
久々に、少なくとも二年はカラオケしてなかったんで、久々に歌うと声が出ない、音程をキープ出来ない、リズムに合わせられないと、プロ失格の烙印を押されても仕方がない体たらくでしたよ、プロじゃないけれど。
一時間みっちりと御互いの趣味を開陳しあったら、ゲームオーバー。
改めて有難う或未品さん、御蔭様にて楽しい一日でありました。またゆっくりと遊んでね♪
池袋でお別れし、私は山手線で巣鴨駅へ。
御宿はアパッチ砦で御馴染みのホテルなり。勿論、喫煙OKの部屋。コレで敵が襲来しても狼煙を上げられるから安心だ。カスター将軍、御命令をどうぞ!
では皆様、お休みなさい、御機嫌よう。
次回は短めになるかと存じます。