公認
私たちは、結局、月曜の朝まで一緒にいた。
途中、着替えを取りに帰る事はあったが、なんだか離れ難くて、ずっと一緒にいた。
・:*:・:・:・:*:・
1月7日(月) 12時。
今日のお昼は前半組だ。
お弁当を持って、みんなと社員食堂へ向かう。
すると、5階エレベーター前に、ゆうくんがいた。
「ゆうくんも今お昼?」
「ああ。
奏、一緒に大丈夫?」
ゆうくんが私の後ろのパートさん達に視線を移しながら聞いた。
「うん。
いいですよね?」
と私がパートさん達に聞くと、
「もちろん。」
と笑顔で返事をくれた。
社員食堂に着くと、空いた席を見つけて2人で座る。
私がテーブルを拭いている間に、ゆうくんがお茶を汲んできてくれた。
今日はゆうくんもお弁当だ。
今朝、私が自分の分を作るついでに、ゆうくんの分も作っておいた。
一緒に座って同じお弁当を広げる。
「ふふっ。なんだか照れるね。」
と私が言うと、
「いいんだよ。」
とゆうくんは嬉しそうだ。
5分程して、若い男の子が2人近づいてきた。
「課長!
ここ、ご一緒してもいいですか?」
「あぁ、どうぞ。」
どうぞ、とは言ったものの、ゆうくんは、あまり嬉しそうじゃない。
「こんにちは。」
童顔なのか、20歳位に見える男の子が、ニコニコと私に挨拶をしてくれる。
「こんにちは。」
と私も挨拶を返すと、
「綺麗な人ですねー。
ね、課長?」
とゆうくんを見る。
ゆうくんは無言だ。
「どちらの部署の方ですか?
今度、飲みに行きましょうよ。」
とても人なつっこい。
「え? あの… 」
私が返事に詰まっていると、なおも畳み掛ける。
「あ、僕、5階にいます池沢 瑠偉(いけざわ
るい)っていいます。
連絡先、教えてもらえませんか?」
私が、ゆうくんをチラッと見ると、
「池沢ぁ
社食でナンパするな!」
とゆうくんが言った。
「えぇ!?
でも、今、聞かなかったら、次、いつ会えるか
分かんないじゃないですか?」
すると、池沢くんではない方の男の子が、気づいた。
「池沢、諦めろ。」
「なんで!?」
「彼女と課長の弁当、中身一緒だぞ。」
池沢くんは、私たちのお弁当箱を見比べる。
私は自分の顔が赤くなるのが分かった。
でも、ゆうくんはなんだか、とても満足気だ。
「えぇ~!?
もしかして、課長の彼女さんですか?」
割とよく通る彼の声が、周囲の視線を集める。
「そうだよ。」
ゆうくんが認めると、私はいたたまれなくなって、赤い顔のまま、俯いた。
「課長、いいなぁ、こんな綺麗な彼女に愛妻
弁当作ってもらえて。
彼女いるなんて、全然言ってなかったじゃ
ないですか?」
「わざわざ言う必要はないだろ。
それより、お前、うるさい。
メシぐらい静かに食え。」
「はーい。」
ゆうくん、課長さんなんだなぁ。
それにしても、この子、かわいい。
「ふふふ。」
私は、思わず、笑ってしまった。
「名前くらいは聞いてもいいですよね?」
池沢くんが、私の顔を覗き込んでくる。
私はゆうくんの顔をチラッと見てから、
「橘 奏です。
よろしくお願いします。」
と自己紹介した。
「課長、大変ですね。」
と池沢くん。
「何が?」
「だって、こんな綺麗な彼女、いつ他の男に
口説かれるかヒヤヒヤしてないといけない
じゃないですか?」
ゆうくんの顔が一瞬、引きつったように見えた。
「ふん。大丈夫だよ。
お前らには分からない深~い絆で結ばれてる
からな。」
ゆうくんは、私がお弁当箱を片付けるのを確認すると、池沢くんが何か言う前に、
「奏、行くぞ。」
と私の腕を掴んで、立たせた。
背の高いゆうくんは、ただでさえ目立つのに、私の腕を引いて歩く姿は、社員食堂中の注目を集めた。
明日から、お弁当食べにくくなっちゃうじゃん。
あの田崎課長に本命の彼女ができたという噂が、あっという間に本社内を駆け巡ったのは言うまでもない。