4話
遅れて申し訳ないです
「やぁ、こんばんわ。」
背後から唐突にそんな声がして急いで振り向いた。
…気配はしなかった。だがそこには男子生徒。
「驚かせてしまってすまないね。俺は君達に用があって来たんだ。」
その男子生徒はマジシャンが何も無いと見せるように手を表に返した。
「確かお前…S-7の月平だな。何の用だ。」
俺は焦りが出ないようポーカーフェイスで答える。
「俺の名前を知ってる奴がいるとは…さすがは生徒会ですか。」
「全校生徒の顔と名前くらいは把握してる、当然だ。それよりも話を逸らさないでもらいたい。」
「そうですねぇ…単刀直入に言わしてもらうと『俺』という存在をあなた方生徒会に認知してもらいたいのですよ。」
「…というと?」
「簡単な話です。あなた方2人と俺1人でいいので戦ってもらいませんか?」
「何を言っている。こんな状況下でそんなことをしている暇はないだろう。断る。」
「いえ。あなた方は俺と戦わなければなりません。」
「…なぜだ。」
こいつ…なんなんだ。身にまとっている雰囲気と体がチグハグだ。
「ねぇ、生徒会庶務の柔宗太郎。能力は暗黒龍神だったかな?」
「!!?」
なぜ、なぜこいつは俺の能力を知っている!!
「それに後ろにいる同じく庶務の舞妓桔梗。能力は二天一流兵法。宮本武蔵玄信の兵法ですかぁ、羨ましいですねぇ。」
俺の後ろからヒュッと息を呑む音が聞こえた。
「で、俺はあなた方2人と戦い、お二人が勝てばなぜ知っているかをお教えする…ということです。どうです?戦う気にはなりました?」
「…」
俺は少し黙考する。
「大丈夫ですよ。殺しはしません。それだけは確約しましょう。」
雰囲気からは嘘をついていないように見える。
「桔梗さん。俺はやります。あなたはどうします?」
俺はやる。少なくとも俺ひとりではギリギリ勝てるかどうかだ。
「えっと…や、やります。少なくとも二人でやれば勝てますから…。」
「そうですか。ありがとうございます桔梗さん。」
「では、お二人共戦うということで、ルールは戦闘不能になるまで、ということでよろしいですね?」
「ああ、構わない。」
「ええっと、構いません。」
「では、やりましょう。ああ、破壊行為については気にしなくて構いませんよ、この校舎傷つかないみたいなので。」
と、月平は窓ガラスを思いっきり殴ったが、割る気配すらない。
「わかった。心置きなくやらせてもらう。」
「では、試合開始はコイントスで。落ちた瞬間からスタートです。」
と、月平は懐から10円玉を取り出す。
「ではいきますよ。」
キィィンという音とともにコインが打ち上がる。廊下の天井に当たらない高さでコインは地面に向かって落ちてくる。
俺は目を閉じた。全神経を集中させる。能力は初めて使う訳じゃない。だが人との真剣勝負で使うのは初めてだ。緊張する。嫌な緊張じゃない。そう、まるで中学の頃の柔道の試合の様。最近ではなかったこの感覚。刹那が永遠に引き伸ばされるこの感覚。心地いい。さぁ試合開始だ。
キィンと10円玉が落ちるとともに俺は能力の名の通り暗黒のオーラを身に纏い月平に突進を仕掛けた。
だが呆気なく月平はそれをくらい廊下の端まで吹っ飛んだ。だが警戒は怠らない。月平が纏う雰囲気。それはまるで達人が纏うそれと大差なかった。あいつは危険だ。
「腹削ぎ、首狩り、来ませい。」
と、後ろから声がした。桔梗さんの能力だ。
「彼女の能力、二天一流兵法はその名の通り宮本武蔵玄信の兵法。宮本武蔵の二刀が顕現、更には彼の剣才が目覚める…か。強いですねぇ。」
やはりか…月平は無傷で歩いてきた。
「では私も武器には武器で、顕現せよ『聖弓マーキュリー』。」
と、眩い光と共に月平の手に白金の弓が現れた。これがあいつの能力か?なら俺達の能力を知ったのは?音も気配も無く俺達の後ろに現れたのは?
「宗太郎さんどいてください、私がやります。」
素直に俺は後ろに下がる。
「歪二天礼法:八色屍」
と彼女は見えない速度で剣を振り抜く。
月平は弓を体の前で高速で回転させ飛ぶ斬撃を弾いた。
ガガガガガガガガと壁に当たる音。
「驚きました。全部弾くなんて。」
「これくらいはできないと勝負なんて吹っかけませんよ。ではここからが本番ですかね?」
ああ、こっからが本番…いや、正念場だな。
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